短信集2010年1月21日 田中 宇
●温暖化誇張コンビに離別の危機!? 英国の気象庁とBBCといえば、地球温暖化問題をを世界で最も煽ってきた2つの組織である。世界の気温情報を歪曲的に解析して「温暖化傾向」をねつ造する裏の仕掛けをハッカー(内部犯との説あり)に暴露される「クライメート・ゲート」を起こした英イーストアングリア大学の気候研究所(CRU)は、英気象庁と関係の深い組織だった。英国を代表するテレビラジオ局であるBBCは、英気象庁とCRUが出した「温暖化」に関する解析を大々的に報じ「温暖化対策」の必要性を世界に報道(宣伝)してきた。しかし最近、温暖化問題の誇張が暴露されつつある中、BBCと英気象庁の長い蜜月が終わるかもしれない事態が起きている。 英サンデータイムス紙が1月17日に報じたところによると、BBCは「英気象庁の天気予報は当たらない」という理由で、天気予報の情報の買い付け先を、英気象庁ではなく、世界の天気予報を発信するニュージーランドのメトラ( Metra )に変えることを検討している。英国では天気予報の情報発信市場が自由化されており、複数の企業が参入し、品質や価格で競争している。 (BBC forecast for Met Office: changeable) BBCは90年前から英気象庁の天気予報を報じてきたが、英気象庁は、このところ予報の大外れが目立っている。英気象庁は昨夏、酷暑を予報したが、実際には雨続きで冷夏だった。今冬は暖冬を予報したが、実際には零下22度まで下がる極寒となった。BBCは、英気象庁との契約が4月に切れる時にメトラへの切り替えを検討しているという。 英気象庁は「地球温暖化」を誇張するあまり、実際より気温を高めに予測し、酷暑や暖冬を予報して、大外れになったのだろう。欧米日のマスコミの中には、多様な気候現象のうち、温暖化をイメージさせるものだけを誇張して報道するやり方で、いまだに温暖化を宣伝しているところが多いか、BBCと英気象庁の離別の可能性に象徴されるように、今後、目立たないように、しだいに姿勢を変えていくのかもしれない。 (地球温暖化めぐる歪曲と暗闘(1)) (BBC considers a change to NZ for weather forecasts) ●深まるインフルエンザ誇張疑惑 次も英国の話。私は最近の記事で、国連機関WHOの顧問団の委員であるオランダの著名な専門家たちが製薬会社から金をもらい、インフルエンザの流行予測を誇張し、WHOに誇張した警報を出させていたスキャンダルがEUで問題になっていることを書いた。これに絡み、英国では、インフルエンザに関する英政府の専門家による諮問機関の委員の半分以上が、製薬会社から金をもらっていたことが明らかになった。 (Swine flu taskforce's links to vaccine giant: More than half the experts fighting the 'pandemic' have ties to drug firms) 英デイリーメール紙が1月14日に報じたところによると、英政府の緊急事態に関する科学顧問団(SAGE)の委員20人のうち、11人が、自分たちの研究機関を通じて製薬会社から金を受け取っていた。資金提供先として最も多かったのは、インフルエンザで最も儲けた英国の製薬会社グラクソ(GlaxoSmithKline)だった。英政府は、顧問団の議論をもとに結局は必要なかったワクチンを買い、10億ポンドの予算を無駄遣いした。顧問団は昨夏、英国で6万5千人がインフルエンザで死ぬと予測したが、実際の死者は251人だった。 「薬品の研究を行う者が、製薬会社から研究費を援助されることは悪いことではない」と思う人も多いかもしれない。だが英政府は、製薬会社から金をもらう研究者が、その製薬会社の薬を使う疫病の拡大予測をすることを利害の衝突とみなし、そのような研究者は政府顧問としての議論に参加できない規則を作っている。インフルエンザに関する政府顧問の半数以上が、この倫理規定に違反していたことになる。 (インフルエンザ騒動の誇張疑惑) 日本のNHKは1月17日、インフルエンザ・ウイルスに関するBS放送の分析番組で、オランダで製薬会社から金をもらってインフルエンザ問題を誇張していた疑いでオランダ議会から調査されているアルバート・オスターハウス教授を、主役の一人として出演させている。 (2010年世界の英知が語る「第二部 未知なる脅威 ウイルス」) EUに取材拠点を持つNHKは、オスターハウスがインフルエンザについて誇張している疑いがあると知っていたはずだが、そんなことにおかまいなく、オスターハウスを世界的権威として出演させた。インフルエンザに関して、NHKは軽信できないプロパガンダ機関と見るべきだろう。 ●ベネズエラ経済崩壊で多極化の逆流? 南米のベネズエラで、インフレがひどくなっている。米金融界では、同国の今年のインフレ率の予測を38%から45%に引き上げ、経済成長率の予測を2%から0・7%に引き下げた。 (Fitch Cuts Venezuela GDP Growth Forecast in Half) ベネズエラは反米主義のウゴ・チャベス大統領が10年以上も選挙に連勝し、独裁的な権力を保持し続けている。反米なので米政府から嫌われて経済基盤への投資が不十分になり、電力網や水道網が機能不全に陥っている。チャベス大統領は、米国から投資を止められた分を経済の国有化で乗り越えようとしたが、失敗色を強めている。 (Venezuela Inflation to Quicken, Morgan Stanley Says) チャベス大統領は、国連など国際社会では、反米感情を強める中南米、中東、アフリカなど発展途上諸国の英雄的なリーダーで、世界の覇権多極化を推進する人物だ。昨年の地球温暖化のコペンハーゲン・サミットでも、チャベスは途上国を率いて欧米によるとりまとめ工作を潰した。彼は、石油輸出で得た収入を、他の貧しい国々に気前良く分けてやっているが、国内からは「外国に金を大盤振る舞いする前に、自国の水道や送電線を直して」と不満を持たれている。 ここ数年の中南米全体の反米感情の高まりの中で、米国に支援されていたベネズエラの野党は人々の支持を失い、チャベスに対抗できる勢力ではなくなっている。国民の不満が強まっても、チャベスがすぐ失脚することはない。ベネズエラ経済が崩壊を続けるとチャベス政権の将来は危ういと、米国の評論家たちは喧伝している。だが「すぐ潰れる説」には、軍産複合体系の誇張が入っている疑いもある。北朝鮮が明日にでも潰れそうだと喧伝されつつなかなか潰れないように、チャベスも以外としぶといかもしれない。 (Venezuela: Go Hugo, Go! ) ベネズエラと同様に、イランや北朝鮮など他の反米諸国も、経済難が深まっている。米英の財政赤字増や金融危機も再燃しそうだが、米英より先にベネズエラやイランが経済崩壊していくと、ここ数年続いた多極化の傾向が逆流し、米英の覇権が延命する可能性もある。 ベネズエラは原油を輸出し、日用品や食品など物資のほとんどを輸入する石油依存経済なので、イスラエルがイランを攻撃して戦争になり、原油が高騰したら、チャベス政権は国庫が再び豊かになり、延命する。イスラエルに攻撃されたら、中東におけるイランの正当性も強まり、多極化に拍車がかかりうる。 日本でも、小沢一郎が権力を失えば、民主党政権による多極化対応策も進まなくなり、官僚機構が戦後60年以上やってきた対米従属の国策が延命するかもしれない。世界は、英米体制延命か、多極化かという、暗闘的なせめぎ合いの中にある。
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