やはり世界経済はデカップリングする?2009年6月7日 田中 宇中国やインドなど経済新興諸国(BRICなど)は従来、欧米先進諸国の産業の下請けや加工組立基地として機能してきたので、先進国が不況になったら新興諸国も不況になるのが常だったが、今後はそうではなく、新興諸国は内需主導型経済になり、先進国とは切り離されたかたちで経済成長していく、という「デカップリング(切り離し)論」が再燃している。その簡単な根拠の一つは、ここ3カ月ほど世界的に株価が上昇しているが、上昇率は欧米より中国やインドの方が大きいからというものだ。 (The return of decoupling) これだけの話なら、すぐに反論が出てくる。2007年からの金融危機の中、新興諸国の株価は先進国の株価よりも大きく下落した。だから今、株価が反発し始めたときに、先進国より新興諸国の方が株価上昇幅が大きいのは当然で、これはデカップリングなどではなく、逆に新興諸国が先進国に追随して振り回されているにすぎない、という反論である。 (Short View: Decoupling retold) デカップリング論は07年に欧米のマスコミや経済ウェブログで議論された。だがその後、新興諸国経済の減速によって現実がデカップリングから遠ざかり、議論は終息した。 (ドルは歴史的役目を終える?) しかし、最近またデカップリング論が語られる背景には、株価の話を超えたものがある。たとえば、米国の不況は底打ち感が出ているとして株価が上がったが、実際には、米国の鉄道貨物の輸送量は減り続けている。週ごとの鉄道貨物量は、今年3月初めには前年同期比14%減だったが、4月初めには18%減、5月初めには21・6%減、6月初めには23・5%減と、減少幅が拡大している。 (Freight volumes are still trending lower) 鉄道貨物量は、製造業や建設業の活発さを示す指標とみられており、その減少幅の拡大は、米経済の不況が今も深刻さを増しており、底打ち感など感じられないことを如実に示している。米国では、失業率も25年ぶりの高さだし、住宅市況も悪化の速度を一段と増している。米国では株式市場以外、底打ち感はほとんど見あたらない。米国の著名な経済学者であるポール・クルーグマンは「不況感は、あと5年や10年は続く。経済の回復力は弱く、回復過程になっても不況感はしつこく続く」と予測している。 (Krugman: Economic Slowdown Could Last 5-10 Years) (The Housing Crisis Is Getting Worse) 太平洋東岸の米国での物資輸送は減り続けている一方で、太平洋西岸のオーストラリアや中国では、鉄鉱石や石炭の物資輸送が増加し、石炭と鉄鉱石の積出港のオーストラリアの港と、受入港の中国の港の両方で、積みおろしの順番を待つ貨物船の滞船が増えている。豪州ニューカッスルの石炭積出港では43隻の順番待ち、中国各地の受入港では70-80隻が沖待ちしていると報じられている。 (Shipping index jumps by 11.6%) 貨物船需要の増加を受け、貨物船運賃の国際指標であるバルチック・ドライ指標は6月2日、1日で11・6%も上昇した。同指標は昨年、夏の最高値の12000から、秋には1000以下へと90%以上の暴落をしたが、今では4100まで戻っている。バンコク・ポストの記事は、この再上昇などを理由に「デカップリングは本物だ。これから投資するならアジアだ」「産業革命以来の欧米優位の時代は終わり、アジアの時代が来る」と主張している。 (ASIA MORE RIPE FOR INVESTMENT) ▼欧米中心から非欧米中心に転換する世界経済 私が見るところ、事態はそれほどおめでたくなく、もっと複雑だ。昨年のバルチック・ドライ指標の急落は、昨年9月のリーマン・ブラザーズ倒産による金融危機の激化が原因だ。つまり、もともと実需よりも投機資金によって指標がつり上がっており、それがリーマン倒産を機に起きた資金逃避で急落した。その流れの延長で考えると、最近の指標の再上昇も、世界各国の中央銀行が米国主導の量的緩和策で通貨を増刷して銀行に注入して意識的に資金過剰を引き起こしているため、その資金の一部がバルチック・ドライ市場に流れ込んだだけとも思える。 しかも、中国の鉄鉱石など鉱物エネルギー資源の購入は、実需に基づく動きではなく、ドルが崩壊過程に入っているので、中国政府と傘下企業がドルを物資に変えておこうとして、世界各地で鉱業権や鉱物を買い漁っている動きを示しているにすぎないようにも見える。 (Sino-Trojan horse, Chinese firms' foreign investments) とはいえ、中国の工業生産はこのところ3カ月連続で増加しており、中国政府の景気対策の効果が出てきたとされており、実需増の部分もありそうだ(中国の景気対策は効かないという説もあったが、英米の経済専門家の中には英米に都合のいい歪曲的解説をする者もいるので判断が難しい)。 (China's manufacturing continues to expand) 米国の工業生産は16カ月連続で減少しており、米中を比較すると、ここからもデカップリングの気配が立ち上ってくる。中国の輸出先の半分は欧米ではなく他の新興諸国であり、対米輸出への依存はかなり低下しているとの指摘もある。 (Decoupling 2.0, Emerging economies) 欧米日の自動車販売は低迷しているが、インドでは4月の自動車販売が前年比4%増だ。中国の1-3月の小売りの売上総額は前年比15%増だった。一方、米経済の成長はマイナス6%、欧州はマイナス10%、日本はマイナス15%である。米英の銀行は破綻しているが、アジア諸国の銀行は比較的健全さを保っている。97年のアジア通貨危機の前後には、アジア新興諸国の多くは財政赤字が巨額だったが、危機の教訓から今では各国とも赤字は少ない。インドネシアの財政赤字は9年間でGDP比100%から30%へと縮小した。米英の財政赤字は逆に急増している。 (Boom Times Are Back, Outside the U.S.) アジア新興諸国の経済成長の中の幾分かはバブル的なものかもしれないが、バブル的な過熱は自由市場経済が健全に機能している証拠でもある。米国はGMも金融界も国有化の方向で、経済活性化の根幹に位置すべき自由市場経済が不可逆的に潰れた状態になっており、バブルすら起こせない。南米ベネズエラの左翼のウゴ・チャベス大統領は、大企業を国有化していく米国を見て「これは社会主義だよ、オバマ同志。フィデル(キューバのカストロ)が右派に見える」と揶揄した。今の米国には、官民癒着の腐敗による資金の着服的な大盤振る舞いしかない。かつてアジア新興諸国の形容詞だった「腐敗」は、今や米国の形容詞だ(日本のマスコミは報じないが)。 (Chavez Says 'Comrade Obama' More Left-Wing) 世界の自由市場経済システムが再活性化して世界経済が不況から脱するとしたら、それは「社会主義化」する米国や、米英中心の経済システムから離脱する踏ん切りがつかない欧州からではなく、自由市場が生きているアジアなどの新興諸国からになるとも考えられる。デカップリングは起こりうる。もしくは、もう起きている。 英国の経済分析機関(Centre for Economics and Business Research、CEBR)の予測によると、米欧カナダを合計した「欧米経済」の規模は今年、全世界の経済規模の49・4%となり、産業革命以来初めて、欧米経済より、それ以外の非欧米経済の方が大きくなる。CEBRは従来、この転換は2015年に起きると予測していたが、中国の高度成長が主因で6年早まった。これは「アジアの時代が来る」「欧米中心の世界体制が崩れる」「覇権が多極化する」といった傾向を象徴する経済事象である。CEBRは同時に、今年は中国の経済規模が日本を追い抜き、世界第2位の経済大国が日本から中国に代わると予測している。(昨年のGDPは中国が4兆2950億ドル、日本は4兆3480億ドル) (Upstarts ready to rule world's economy) ▼中露主導の通貨のデカップリング 中国が世界から鉱物やエネルギー資源を買い漁る理由が実需でなくドル離れのためだったとしても、それもまたデカップリングにつながる。世界経済成長の牽引役になりつつある中国が、大増発される米国債を買わず、大増刷されるドルを使わなくなると、債券下落で米国の長期金利が上がって米経済は悪化し、米政府の財政赤字増による景気対策も不可能になり、米国は経済破綻の様相を強める。 5月末に人民日報(環球時報)が発表した調査によると、中国の著名な経済専門家23人のうち17人は、中国が巨額の米国債を保有するのは危険だと考え、対策としてドルを使って資源や穀物を買うことが推奨されている。ドルが超インフレになった時に頼れるのは、対米従属色が強い欧日の通貨ではなく(ユーロや円は連動安になりたがる)、金地金や原油、鉄鉱石、穀物などのコモディティになるからだ。 (Chinese economists deem huge holding of US bonds "risky," split on way out) 金融市場では、米国債の下落傾向が続いている。連銀は「なぜ下落するのかわからない」と言っている。連銀は、ドルを刷って売れ残りの米国債を買うことで、米国債の下落を止めているはずだが、それが効いていない。 (Treasury bloodbath soaks top fund managers) 一般には、米国債安の理由は「投資家が米経済の景気回復傾向を察知し、低リスク低利回りの国債を買わず、高リスク高利回りの社債や株式を買っているから」と説明されているが、実際には米経済は景気回復傾向がない。株価上昇は、米大統領府の下落防止チーム(PPT)が、投機筋に頼んで起こしているもので、米国債の下落はそれとは別の、中国など世界の投資家のドル離れを表すものだろう。米欧日の中央銀行はドルを支えるために協調的な量的緩和をしているので、投資家のドル離れと、中央銀行のドル支えが綱引きし、通貨だけでなく原油や金地金、穀物の相場も巻き込んだ乱高下が起きている。 (Federal Reserve puzzled by yield curve steepening) (米国の株高は、米国自身の経済回復ではなく、新興諸国の経済回復を受けて米国の多国籍企業が儲け、それが米国の株価に反映されているという見方もできる。デカップリングではなく「逆カップリング」である。財政難のオバマ政権は、米国企業の海外での儲けへの課税を強化しようとして、企業側から反発を受けている。マイクロソフトの経営者は「米政府が海外での利益への課税を強化するなら、業務の海外移転を加速して対抗するしかない」と表明した。米国の最高法人税率は4割近いが、アイルランドなら2割程度だ) (Ballmer Says Tax Would Move Microsoft Jobs Offshore) ユーロや円の通貨当局がドルを支えて自国通貨を意図的に弱める量的緩和策につきあっているので、ドル安ユーロ高・円高が起こりにくい。この状態で起きうるのは金の高騰だが、金も各国の政府や、中央銀行、IMFによる地金貸し出しを使った価格低下操作があるようだ。最近、カナダ政府の造幣局で、大量の金地金が行方不明になっていることが発覚した。帳簿上あるべき金地金が、貯蔵庫に存在しないことがわかった。同じ状況は、米国でも起きていると以前から指摘されている。アングロサクソン諸国の当局は協調して、金相場の上昇を抑止してドルを防衛する戦略を、政府所有の金塊を使ってやっている可能性がある。 (Mint can't account for missing Gold) 中国やロシアは、ドルが崩壊しても自分たちの貿易決済が滞らないよう、ドル以外の通貨(中露相互の通貨など)で決済する方針を強めている。ロシアのメドベージェフ大統領は、6月中にモスクワで開くBRICサミットで、ドルに代わる国際基軸通貨(IMFのSDRを利用した諸通貨バスケット制)について検討したい(金本位制は採らない)と表明した。中国の中央銀行総裁も、4月から同じことを言っている。 (BRIC May Discuss Moving From Dollar: Kremlin) SDRを使った中露による多極的な新基軸通貨体制の提案は、最近まで欧米マスコミでは「机上の空論」として扱われてきた。基軸通貨の多極化を強く推進し、その一環として人民元とルーブルのスワップ協定を検討しているロシアのメドベージェフですら、新通貨体制については「G20でもあまり話し合われていない」と認めている。 (Medvedev Questions dollar as World Currency, Open to Yuan Swaps) しかし、今後ドルと米国債が潰れていった場合、BRICの通貨体制は、ドルからの避難場所、ドルに代わる「通貨デカップリング」として機能しうる。今はIMFも「いずれドルに代わる備蓄通貨が出てくるかもしれないが、それまだ先の話だ」と言っているが、ドルの方が勝手に崩壊していくと、代わりの通貨体制の構築が急進展するだろう。世界は、実体経済より先に通貨からデカップリングしていくかもしれない。人民元の国際化は、この多極的な新基軸通貨体制の中で実現していきそうだ。 (IMF Says New Reserve Currency to Replace dollar Is Possible) (International Monetary Reform and the Future of the Renminbi) ▼「中央銀行がドルを見放す前にドルを売っておけ」 非米反米的な新興諸国の側ではなく、米国の同盟国の中からも、ドルの崩壊を懸念する声が挙がっている。6月2日、ドイツのメルケル首相は、公開会議の席上で、欧米日の中央銀行が協調して通貨の大増刷(量的緩和策)を続けていることについて「経済危機を沈静化せず、むしろ悪化させるものだ」と強く批判した。ドイツでは中央銀行の自立が尊重され、政府高官が中銀の通貨政策に口出ししない伝統があるが、それを破って口を開いたメルケルは、量的緩和策がドルの国際信用を失墜させかねないので強い危機感を抱いているようだ。 (Merkel mauls central banks) (米英のマスコミは、メルケル発言を「選挙前の政治演技」と軽視しているが、これはむしろ米英自身が抱える危険を見ようとしない自滅的な自己欺瞞である) (Merkel comments reflect concerns) ドイツでは昨年9月、シュタインブリュック財務相が議会で「米国は国際金融システムにおける超大国の地位を失う。世界は、多極化する。アジアと欧州に、いくつかの新たな資本の極が台頭する。世界は二度と元の状態(米覇権体制)には戻らない」と発言している。ドイツの上層部は、米国と通貨政策での連携した金融政策を採りつつも、米国の財政やドルが破綻に向かいつつあることを感じている。欧州でロシアとの連携を最も強く推進しているのはドイツだが、これは地政学的に独露が近いこと以外に、米英中心の覇権体制が崩れ、相対的にロシアの台頭が予測されることへ対策とも思える。 (米経済の崩壊、世界の多極化) 欧州では、東欧ラトビアの国債が売れなくなり、いよいよ東欧から国家破産が始まりそうだ。米国より先に欧州が破綻するという見方もあるが、これらはつまるところ既存の米英中心の世界経済システムの崩壊であり、代わりの多極的な世界体制への移行を意味している。東欧が崩壊しても米英に助ける余力はなく、独露を中心に救うしかない。これは、独仏主導で対米自立するEUとロシアが協調し、多極的な覇権体制の一翼を担うことにつながる。 ドルの崩壊が強まった場合、米以外の各国中央銀行は、ドルを支えるための量的緩和策を放棄し、ドルを見放す方に戦略を大転換し、なだれを打ってドル売りを始めるかもしれない。カリスマ投資家のビル・グロスは「中央銀行がドルを見放す前にドルを売っておけ。いずれ米国債もトリプルA格を失う」と、投資家たちに忠告を発している。 (Gross Says Diversify From Dollar as Deficits Surge) 米経済の悲観論者として有名なニューヨーク大学のルービニ教授も最近「覇権国は、債権国でなければならない。債務国に転じると覇権は終わる。だからドルの下落は時間の問題だ。ユーロも金地金も力不足だから、次の基軸通貨は人民元しかない」と書いている。ドルもユーロも金もダメだから人民元だという話の飛躍は、悲観論者がルービニも、多極主義者の本性をあらわしたようにも見える。 (The Almighty Renminbi? By NOURIEL ROUBINI) ▼米国の中国重視と日本軽視 米政府自身、ドルが危機に瀕していることは知っている。先日、ガイトナー米財務長官は、中国を訪問し、ドルと米国債は安全であると、わざわざ中国側に説いて回った。しかし、中国側の不信感は大して減らなかった。先に書いたように、人民日報の調査では、中国の専門家の大半が、ドルと米国債は危険だと思っている。ガイトナーは北京大学で講演して「(米国に投資した)中国の資産はとても安全な状態だ」と言ったが、学生ら聴衆はこれを冗談だと思い、笑いが返ってきただけだった。 (Chinese students laugh at Geithner's assurances) 米英マスコミは、中国建設銀行会長の「今のところドルに代わる基軸通貨は見あたらない」というコメントを載せるなど、中国はドル離れなどしないという印象を読者に与えようと頑張っている。中国じゅうを回り、ドルは大丈夫だと言ってくれる人を探した感じだ。 (China rules out dollar challenge) 巨額の米国債を保有するアジアの大国は中国だけではない。日本も中国と同規模の米国債を持っている。しかもアジア居住が長いガイトナー財務長官は、中国語だけでなく、日本語もできるはずだ。それなのにガイトナーら米国の高官たちは中国ばかりに目を向け、日本のことは全く言葉の端にも乗らない。 ガイトナーの中国訪問は、米中2極のG2覇権体制を作るためだという見方がある。中国が米国債を売らないでくれたら、米国の覇権を半分あげますというわけだ。この場合、日本も「うちも米国債を売らないから、覇権を3分の1ください」と言い得るが、日本人がほしいのは覇権ではなく「対米従属権」なので、日本は黙っている。 (Geithner's 'G-2' invitation) (中国も先日、温家宝首相が「G2などという覇権的なものは要らない。もっと多極的なのが良い」と言っている。中国の遠慮は上方風の演技かもしれないが、どちらにしてもG2構想は米国による押し売りの観がある) (China says 'no thanks' to G-2) オバマ政権が先日決めた新任の駐日大使ジョン・ルースは、オバマ陣営の選挙資金を最も多く集めた「ご褒美」として、駐日大使という要職を与えられた。ルースは、米シリコンバレーの利益を代弁する弁護士であり、国家より業界や個人の利益を優先して、日本のハイテク産業を攻撃することに精を出すかもしれない。オバマは、日本だけでなく駐英国大使の職位も、よく選挙資金を集めてくれた参謀に与えており、日本や英国という英米中心主義に固執する国々を軽視する態度を醸し出している。 (Pay to Parlez? Obama Names Donors to Swank Ambassador Posts) 中国のドル離れを阻止したいアングロサクソン側は、中国側が鉱物資源買い漁りの一環として進めていた、中国アルミ業(チナルコ)による、オーストラリアの鉱山会社リオティントへの資本参加を、途中で阻止した。このところの世界的な株価上昇を受け、リオティントは株をチナルコに売るのではなく、市場で公募して売ることにした。 (Rio Tinto Scraps Deal With Chinalco) 中国側は、以前にも米国のパイプライン会社ユノカルを買収しようとして、政治的に米国側に阻止されている。このような抑止策を回避するため、中国側(石油開発会社のCNOOC)はシンガポールの石油会社の株の45%を買収して傘下にいれ、シンガポール企業を通じて世界に買収攻勢をかけ直そうとしている。シンガポールは欧米の同盟国なので、中国企業だと敵視される買収でも、シンガポール企業経由なら許されるのではないかという戦略だ。 (Sino-Trojan horse, Chinese firms' foreign investments) 英米側が中国の資源買い漁りを阻止しようとするのは、米英と中国(などBRIC側)との、世界のエネルギーや鉱物資源の利権をめぐる覇権争いでもある。この争いでは、ここ2年ほどの間に、急速に中国側が優勢になっている。FT紙の世界企業ランキング(FT500)では、米国の石油会社であるエクソン・モービルが第1位、中国の石油会社である中国石油天然ガス(ペトロチャイナ)が第2位である。 (Companies' total market value falls 42%) FT500では、昨年まで米英の銀行が上位を占めていたが、金融危機で銀行界の総資産が半減した後、代わって石油会社が上位にのぼり、しかも中国勢は中国商工銀行(4位)、チャイナモバイル(5位)なども上位に入っている。世界の4大銀行のうち3行が中国勢になっていることと合わせ、ランキング的には、デカップリングが進行していてもおかしくない状態になっている。
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