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中東大戦争の開戦前夜

2008年3月1日   田中 宇

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 パレスチナのガザに対するイスラエル軍の地上軍侵攻が始まりそうな感じが高まっている。2月28日、ガザから国境沿いのイスラエル側の町スデロットに大量の短距離ロケット弾が発射され、スデロットにおける今年最初の死者が出た。イスラエルの軍や右派は、スデロットで死者が出たら、報復としてガザに地上軍侵攻すると言っていた。(関連記事

 また同日、これまでロケット弾がほとんど飛んでこなかったガザ国境からやや離れたアシュケロン市にも、ガザからイラン製のロケット弾が飛んでくるようになった。ロケット発射を止めるためガザに地上軍侵攻が不可欠だという認識がイスラエル政府内を席巻している。(関連記事

 エジプトは、イスラエルとガザのハマスとの交渉仲裁のため、エジプトの諜報相がイスラエルを訪問する予定になっていたが、イスラエルがガザを侵攻しそうなので、2月28日に訪問のキャンセルを発表した。アメリカはレバノン沖(イスラエル沖)の地中海に軍艦3隻を派遣すると発表した。レバノン情勢の混乱に対応するためと発表されているが、レバノンより先にガザが開戦しそうで、イスラエルのガザ侵攻を海上から監視するのが真の目的だろう。(関連記事その1その2

 これらの状況から、イスラエル軍のガザ侵攻は数日以内に始まると予測される。イスラエルのバラク国防相は、ガザ侵攻は今や現実策となっていると表明し、国防次官(Matan Vilnai)は「ガザからのミサイル発射が止まない以上、イスラエル軍は全力でガザ侵攻せざるを得ない」「(ガザの人々は)ホロコースト(shoah)を経験することになる」と発言した。これを聞いてハマスは「やはりイスラエルは新しいナチスだったのだ」と反論した。(関連記事その1その2

 イスラエルがガザに大侵攻したら、ほぼ確実にレバノンのヒズボラとも戦争になり、イランやシリアにも戦線が拡大し、イスラエル国家が消滅するまで戦争が続く可能性もある。パレスチナ人だけでなく、イスラエル自身やイランの人々も「ホロコースト」的な大殺戮を経験することになる。(関連記事

 しかし同時にこの中東大戦争はおそらく、アラブ産油国(GCC)のドル離れを招き、ドルは基軸通貨としての地位を失墜し、米軍は最終的に中東から追い出され、アメリカは覇権を失い、中国やロシアが台頭し、世界の多極化につながる。

 オルメルト政権中枢の人々は、自国を潰しかねないガザ大侵攻を避けたいので、戦争前夜の状況下でも、実際には侵攻を先延ばしするかもしれない。しかし今後時間が経つほど、事態はイスラエルに不利になる。たとえばEUは、イスラエルがガザの人権状況を悪化させていることを問題視しており、ガザを統治するハマスに対する従来のテロ組織扱いをやめて、ハマスを正式な政府組織として承認することを検討している。(関連記事

 ハマスが政府組織として扱われるようになると、イスラエル軍のガザ侵攻に対する国際非難は一気に強まる。イスラエルがガザに侵攻するつもりなら、残されている時間は少ない。

▼中東大戦争を誘発したアメリカ

 前回の記事にも書いたが、これから起きる中東大戦争は、米政界をイスラエルに牛耳られている中で、ブッシュ政権などアメリカの多極主義勢力が、イスラエルに対する仕返しとして911事件以来やってきた「やりすぎ戦略」の結果として起きている。(関連記事

 2003年からのイラク侵攻は、中東全域の人々を反米反イスラエルにした。05年夏のイランの大統領選挙以来、アメリカはイラン人の怒りを掻き立て、強硬派のアハマディネジャド大統領が、イスラエル潰しと中東からの米軍追い出しという野心的な戦略を突き進むことを扇動した。(関連記事

 ブッシュ政権は、05年暮れには、強硬派のハマスが圧勝しそうなので延期してほしいとイスラエルとパレスチナ自治政府(穏健派)から強く要請されていたパレスチナでの選挙を「中東民主化だ」と言って無理矢理挙行し、案の定、ハマスを圧勝させた。これ以来ハマスはパレスチナで力をつけ、穏健派からガザを乗っ取り、イランからの軍事援助を受けて、イスラエルと戦争する準備を整えた。(関連記事

 アメリカは昨年11月、窮地に立つイスラエルの要請を受け、パレスチナ和平会議を米アナポリスで開いたが、これも「やるふりだけ」の気の抜けたもので、会議の失敗後、状況は戦争の方に傾き出した。(関連記事

 今年1月下旬、ハマスはガザ南端のエジプトとの国境の壁を破壊し、10日にわたって国境の往来を開放したが、これはハマスにとって、イスラエルと戦争する準備の最終段階だった。それまでハマスは、エジプトとの国境の地下に掘った無数の秘密のトンネルを通じて武器などをガザに搬入していたが、国境の壁が壊れていた10日間に、トンネルを通れない大きな武器類を大量にガザに入れたと推察される。(関連記事

 その後2月12日には、イラン・シリア・ハマス・ヒズボラの軍事担当者が、シリアのダマスカスに集まり、対イスラエル戦争準備の会議を開いた。この直後、ヒズボラ代表として会議に参加していたイマド・ムグニヤが、イスラエルのモサドによって爆殺された。(関連記事

 ムグニヤ暗殺から1週間後の2月20日には、イスラエル政府が閣議で、軍の作ったガザ侵攻案を認可したと報じられた。侵攻案は、最初に空爆によってガザのハマスの拠点を壊し、その後、地上軍を侵攻してハマスの政権を完全に潰し、その後は南北に細長いガザを3分割して軍事占領するもので、米政府の認可を受けた上で開始すると報じられた。(関連記事

 この前後には、すでにガザに対する空爆が始まっていたから、イスラエルのガザ侵攻作戦は、すでに始まっており、間もなく開始されそうな地上軍侵攻は作戦の第2弾ということになる。数日前、東京で、外遊中のオルメルト首相と、別の日程で外遊中の米ライス国務長官が会ったが、この会合はガザ侵攻に関する話し合いだったと思われる。(ライスは来週イスラエルを訪問予定で、緊急の用事がない限り、東京でオルメルトに会う必要はなかった)

【続く】



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