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RANDOM DIARY TOUR
鳴海諒一日記 SINCE 6/18.2000
1月31日▼「情熱大陸:フレンチシェフ・三國清三」
1月28日に放送された「情熱大陸:フレンチシェフ・三國清三」(TBS)を見
た。ミクニは東京四谷のレストラン「オテル・ドゥ・ミクニ」のオーナーシェフで、
このレストランは、あのミシュランの三つ星(アジアで唯一)を獲得している。ミクニはスイスのサンモリッツにある五つ星ホテル「ホテル・パラス」に招かれ、
今年1月4日から1週間、同ホテルのレストラン「ル・ルレ」で「ミクニフェア」を
開催した。これはル・ルレの総料理長フランツ・フェ氏がミクニの15年来のファン
であり、彼が強烈に望んで実現したものだ。海外でフェアを行えるシェフは世界でも
20数人ほどに限られている。フェアの料理はどれも非常に魅力的だ。その料理の一部を紹介すると、「ソーモン
のミ・キュイ・ニース風」「赤マグロのカルパッチョ仕立て・三種のマスタード風味」
「手長エビのリゾット仕立て・オリーブ風味・アロマティゼ・ソジャ」「牛ヒレ肉の
ポワレ・十種の温野菜添え・エシャロット風味」「鴨の肝のポワレ・醤油風味・香草
和え」「プラチナとミントのソルベ」である。どの料理も凄くパワフルで繊細。この
上なく美味しそうだ。サンモリッツはイタリアにほど近いため、その辺りを意識した
のかもしれない。1月4日のフェア初日から60人の予約が90人に膨れあがり、厨房は異常な緊張
に包まれた。ミクニは随所に目を光らせ、厨房内をまとめ上げる。さすがに自分のレ
ストランと違って、ビンタや鉄拳は飛んでいなかった。ミクニは言う。「フェアが成
功するかどうかは、コックやシェフの心を掴めるかどうかだ。スタッフの気持ちを掴
めば、もう90%は成功したようなもんだよ」1週間のミクニフェアは大盛況のまま幕を閉じた。「東京と同じ結果を出すことは、
ほとんど不可能」と彼は言う。ではなぜあえて海外へ出てフェアを行うのか。その問
いに「不可能を可能にすることで、自分を確認するため。いろんなエネルギーをコン
トロールすることで、自分の可能性を確かめに来てる」とミクニは笑顔で答えた。僕はミクニのファンでありながら、まだ一度も「オテル・ドゥ・ミクニ」を訪れて
はいない。井上旭シェフの「シェ・イノ」、恵比寿の「タイユヴァン・ロビュション」
と並んで、僕にとって敷居が高いトップ3の1つに位置しているのだ。ミクニの料理を食したこともなくファンなどと言うのは、とても矛盾しているのだ
が、僕はかつてミクニの生き方に圧倒され、彼の偉大さに多大なる敬意を表している。
その気持ちが妙なつっかえ棒となって、四谷になかなか足を向けられない。おかしな
話だ。しかし、この番組を見て気が変わった。ミクニの料理をどうしても味わいたく
て仕方ない。今までの反動で、今度は足繁く通ってしまうかもしれない。僕とはそう
いう男なのだ。食べ飽きるまで食べ続けずにはいられない人間なのだ。いよいよ我が家の財政崩壊の幕開けである。
1月28日▼新人アルバイト採用
先日、新人アルバイト(女性)を採用した。このバイトの志が凄い。履歴書になん
と「この店でお客様に心から感謝する気持ちを学びたい」と達筆で書いてある。嬉し
くなって思わず微笑んでしまった。全くすげ〜22歳だ。感心感心。僕は22歳の頃
にそんなことは考えもしなかったぞ(きっぱり)。彼女は大学時代、全日本のカヌー選手に選ばれて世界大会に出場したことがあるそ
うだ。おもろい。いいキャラだ。とても興味が沸く。言葉遣いも丁寧で笑顔も良い。
このところ採用を立て続けに断ったアホ男たちなど足下にも及ばない。全員断ってお
いてよかった。彼女が働き初めて4日目に、厨房へ呼び出してミーティングを行った。さすが感謝
する気持ちを学びに来ただけのことはあって、現在のところ挨拶や接客に感謝の気持
ちがほとんど表れていない。そこで、呼び出してハッパをかけたのだ。まず君がすべきことはきちんとした挨拶と良い返事。教わったことは家でイメージ
トレーニングをして早く身につける。先輩の仕事をよく見て盗む。他に、サービスを
行う者の心構えをトクトクと説き、少々厳しく教え込んだ。そもそも当店の指導は体育会系のノリでビシビシ鍛える方なので、甘ったれは生き
残れない。バイトでも責任感を持って本気で働いてもらうのだ。だからよほどタフで
ないと通用しない。サービスは常に1回勝負なのだ。失敗は許されない。ゆっくり確実に覚えてくれれ
ばいい、などとは決して考えない。だって仕事中はもう本番なのだから。厨房でサービスの心得を語っていたら、ほどなくして彼女の目から涙が溢れ出た。
あらららら。彼女は「思ったような声も出せないし、動けないし、私、悔しいんです」
と言ってぼろぼろ泣いた。「女性は男の8倍悲しみが深い」ということを何かで読んだ。そうか悲しいか、よ
おし思いっきり泣くがいい。人間はひと泣きごとに強くなるのじゃ。泣いて泣いて、
えっとその後、笑顔で働いてね、とは言えなかったが、これを乗り越えなきゃいいサー
ビスなど夢のまた夢なのである。彼女はこれからいくつもの壁を乗り越えて、素敵なサービスウーマンに成長しなけ
ればならない。そのためにはこれから僕も一層努力するぞ。だからやめんなよ。
1月26日▼『放送禁止歌』上映!
森達也監督からメールが届いた。99年にフジテレビで放送され話題を呼んだ「放
送禁止歌」が、なんと2月3日から1週間、BOX東中野で上映されるのだ。おまけに
日替わりでフォークシンガーが登場し、かつて放送禁止になった“持ち歌”を披露す
るとのこと。これは観に行きたいぞ!昨年夏に解放出版社から出た本「放送禁止歌」はめちゃめちゃ面白かった。この本
はテレビで放送された内容に沿って書かれているようだが、画面では語り尽くせなかっ
た情報がてんこ盛りのようで、とても興味深く読んだ。なんといっても森さんの書く文章は素敵すぎる。以前、オウムを内側から描いた映
画「A」の本「A 撮影日誌」はすこぶる面白かった。思わず食い入るように読んだ記
憶がある。「放送禁止歌」はなんとしても観に行かなければ!
【'70年代フォーク魂がここにある。放送禁止歌ショウ】
メディア界のタブーに挑戦した問題番組『放送禁止歌』(監督:森達也 フジ
テレビ系列にて'99年5月22日深夜放送)をマクラに、放送禁止歌手が唄い、放
送禁止歌コレクターが語る! タブーを生み出していたのは僕たち自身だった!!◆出演
2/3(土) 日本一の放送禁止歌コレクター とうじ魔とうじ(サウンドパフォーマー)
2/4(日) 幻の名盤解放同名 湯浅学(音楽評論家)根本敬(漫画家)船橋英雄
(ライター)
2/5(月) 自分を貫くロックシンガー 朴保〔パクポー〕
2/6(火) 飄々と歌い続ける仙人 高田渡
2/7(水) 伝説の放送禁止歌手 山平和彦
2/8(木) フォーク界の生き字引 なぎら健壱
2/9(金) 復活したアングラ・クィーン 中山ラビ (連夜出演予定)
<かつてフォーク少年だった映画監督 森達也>1970年代、僕は10代後半だった。アメリカはベトナムで泥沼にもがき、ジョ
ン・レノンがヨーコとベッドインして平和を訴え、安田講堂が陥落し、連合赤
軍事件が社会に衝撃を与え、学生たちが投げる火炎瓶と機動隊の放水がキャン
パスと路上を埋めていたこの時代、ラジオの深夜放送からはいつもフォークソ
ングが聞こえていた。さまざまなメッセージや情感に詞を託し、ギターをかき
ならしながら歌うフォークシンガーたちは、当時の僕や僕の世代にとってまさ
しく憧れの存在だった。体制や権威を痛烈に批判する彼らの歌がある日を境にぷっつりと放送され
なくなることがある。これが僕と「放送禁止歌」の最初の出会いだ。「フォー
クの神様」と呼ばれた岡林信康を筆頭に、高田渡に泉谷しげる、三上寛や友部
正人…歌の形をとった彼らの渾身のメッセージを次々に抹殺してゆく巨大な権
威や権力の姿を思い描き、僕は一人で歯ぎしりしていた。
森達也[本『放送禁止歌』(解放出版社)より抜粋]●上映作品解説
『放送禁止歌〜唄っているのは誰?規制するのは誰?』
(フジテレビ系列で'99年5月22日深夜放送)
監督:森達也 制作:フジテレビ グッドカンパニー 1999年/ビデオ/52分かつてシンガーソングライターが花形だった時代、数々のプロテストソング
が"放送禁止歌"の烙印を押され、市場の闇に葬られた。何が問題だったのか。
誰が禁止したのか。その答えは…。オウム真理教の内側に密着したドキュメン
タリー映画『A』の監督・森達也が、'70年代からムニャムニャのままほったら
かしにされてきたメディア界のタブーの核心に迫る。2/3(土)〜9(金) 連夜9:10〜 BOX東中野にてレイトショウ
期日指定・整理番号付き特別鑑賞券¥2000[ワンドリンク付き]
1/17(水)よりチケットぴあ・劇場窓口で発売スタート!!!
当日¥2200均一 [ワンドリンク付き]問合せ先:BOX東中野 tel:03-5389-6780 fax:03-5389-6779
1月25日▼ふかしタバコ
ときどきカウンターでタバコの煙を吸い込まずにふかしているお客がいる。カクテ
ルを作っていると実に濃い煙が鼻を突き、おいおいふかし屋さんがどこかにいるぜ、
と端から順に見渡して探してしまう。今日のふかし屋さんは20代の会社員で、蒸気
機関車よろしく真っ白い煙をまき散らしながら連れとの話しに興じている。ったく吸えないんなら吸うなよ、周りのお客に迷惑じゃないか、だせ〜な、カッコ
わる〜、と思った瞬間、ハタと気がついた。よく考えてみたら、ふかし屋さんは健康
に気を遣う実に賢いお方ではないか! 本当にダサいのは有害成分を漫然と吸い込み
続けている我々喫煙家だ! くくくやしい・・・ ふかし屋にも劣る喫煙者って悲し
すぎるぜ。
1月23日▼セガフレード・ザネッティ
僕がときどき行くカフェ「セガフレード・ザネッティ」は、日本に上陸したイタリ
ア最大手のコーヒーチェーンである。エスプレッソやパニーニがけっこうイケるので
(真っ当な店には負けるが)、それらを手軽に楽しみたいときに利用している。メニューは「グラニータ(フローズンドリンク)」「メッツォメッツォ(エスプレッ
ソとチョコレートのハーフ&ハーフ)」などイタリア語をそのままカタカナにしたも
のが多いので、これはイタリアへ行ったときに注文しやすくて便利だ。しかし、この
店の2つのドリンクには間違ったカタカナをつけてあり、それがどうにもやるせない。1つは「カフェロンゴ」という名の、エスプレッソを長めに抽出したブレンドコー
ヒーである。これは「Cafe Lungo」という綴りで、本来は「カフェルンゴ」と発音す
る。もう1つは「エスプレッソ・ドゥッピオ」で、倍の量のエスプレッソ、すなわち
ダブルサイズである。これは「Doppio」と綴り、発音は「ドッピオ」の筈だ。「ロンゴ」は英語のロングに引っかけて、少し変形させたのかなと予想できるが、
「ドゥッピオ」に至っては、なぜそうなのかまるでわからない。どちらにしても、こ
の2つの発音では、イタリアで注文したら店員に笑われそうだ。まあ、夜にカップッ
チーノをオーダーするよりは笑われないだろうが・・・
1月22日▼早合点による誤情報の配信
先日配信したビールコラムに、「近所にオープンした大型スーパーの酒売り場には、
日本の大手メーカービールが1種類も置かれていない。今や酒売り場は発泡酒売り場
と化した」と書いた。これを読んだ読者の方から「これは法律で規制されているから
この店はビールを置くことが出来ないのではないか」という情報メールが送られてき
た。慌てて当店の法律に詳しい常連さんに話し、調べてもらった結果、なんと「一定基
準以上の大型店は3年間、日本のビールと清酒(500mlビンのみ可)を取り扱うこと
ができない」と酒税法の通達で定められていることがわかった。があ〜〜ん!なんた
る早合点。ショック!いつも物事を正しく理解したいと願っているくせに、「なぜ日本のビールを置いて
ないんですか?」と、スーパーの店員に質問もせずに自分の判断を信じてしまったこ
とを後悔した。何の疑問も抱かずに簡単にわかったようなつもりになったことを恥じ
た。自分の考えに自信を持ちすぎてはいけない。いつもニュートラルでいなければ正し
いことは見えてこない。と、いつもそう考えていながら、このザマである。あ〜あ。それにしても、こんな通達が存在するとは夢にも思っていなかった。ビールと清酒
は中小酒取り扱い店の2大商品である。その中小店を一定期間守ろうとする救済措置
なのだろうか。それにしても期間が3年とは長い。この酒税法通達についての詳しい内容は、次回のメルマガに書くつもりです。この
日記を読んで下さっているメルマガ読者の皆様、ガセネタを書いてしまってすみませ
んでした。謹んでお詫び申し上げます。
1月21日▼直木賞結果発表
書くのが遅くなってしまったが、16日の直木賞は田口ランディさんは受賞されな
かった。その結果を当日夜、恐れ多くも御本人からの電話で知ったものだから、さあ
大変。焦ってしまってつい「それは残念でしたね〜」という言葉が口をついて出てし
まった。今までこんな時に何て言おうか考えたことが無かったのだ。そりゃそうだ。でも本当は受賞されなくて残念などとは、これっぽっちも思っていなかった。僕に
とっては、ランディさんの処女長編小説「コンセント」が直木賞にノミネートされた
こと自体が、受賞されたのと同じくらいもの凄いことだったのだ。やった〜って小躍
りしてしまったくらいだ。だから「残念」とか「逃した」とは全く考えていない。「コンセント」が多くの方々に読まれてベストセラーになり、著書が次々に発売さ
れて書店はどこも5〜6種類の本が全て平積みになって置かれている。メディアにも
注目されて、取材、原稿依頼の嵐である。ランディさんは今や時の人となった。これ
以上、僕は何を望むというのか。直木賞など他の人にくれてやるわい(今回は)てな
もんである。負け惜しみではない。本心である。「コンセント」の出版元、幻冬舎のSさんに「今度ノミネートされたら、そんなも
んいらないって辞退してやりましょうよ」と減らず口を叩いた。Sさんは冷静に「い
やあ鳴海さん、直木賞は辞退するとノミネートされなくなるんですよ」とおっしゃり、
僕は振り上げた腕を下ろす術を失った。なんか悔しそうだな、オレ。でも違うんだも
んね。ここだけの話、今回の直木賞で「コンセント」は次点だったのである。情報提供者
に怒られちゃうのであまり詳しく書けないが、堂々の第3位である。並みいる有名作
家審査員たちもランディさんには一目置いていることが、これによってうかがえる。今回の発表日はランディさんの旦那様のお誕生日だったので、ランディさんは御自
宅で連絡を待った。多少ハラハラドキドキしながら、きっと記憶に残る素敵なお誕生
日を一家で過ごされたに違いない。もし受賞されたら慌てて上京しなければならなかっ
たことを考えると(しかも翌朝まで酒盛りだ)、ゆったりと御自宅で過ごせたひとと
きは何物にも代えがたい価値ある1日だったに違いないと思うのだ。こんなことを言うと「それはあんたの希望をあたしに投影してるだけだ!」とラン
ディさんは怒るに違いないが、それでもいいのだ。これは僕の日記だ。思ったことを
書くぞ。がはははは。それにしても、ランディさんが有名になる前に知り合えて、本当に良かった。いま
出会ったら下手をすると「先生」って呼んでいるかもしれない。僕は時々「巨匠」と
か「マエストロ(先生)」とか「ヴィルトゥオーゾ(名人)」とか「文豪」と呼んで
いるのだが、そんな親しみを込めた軽口も叩けないはずだ。というわけで、14日の日記に書いた「受賞したら“あの時のこと”を暴露するこ
とを誓います」という件は、受賞されなかったため暴露しないことを誓います。今度
直木賞を受賞した時にあらためて暴露することを誓います?(疑問形かよ!)
1月19日▼眠り姫
最近僕は眠り姫になったかと錯覚するほど眠い。仕事中はちゃんと起きているのだ
が(当たり前だ)、家に帰ってきてしばらくすると、眠くて眠くてたまらなくなる。
それでも眠気と格闘して雑用を済ませて「いざ日記じゃあ」と日記を書く段になると、
猛烈に睡魔が襲ってくる。涙が溢れ出て瞼が腫れぼったくなり、気絶寸前の状態だ。
さっきも改行キーを押しながら、5分ほどうたた寝をしてしまった。今もちょっと気
絶した。もうダメだ。寝る。死ぬ・・・
1月14日▼田口ランディ 直木賞受賞発表まであと2日
先日、田口ランディさんにお会いした。ランディさんが言った。
ラ 「ねえねえ、16日は直木賞の発表なんだよ」
そう、ランディさんの「コンセント」が直木賞候補になっているのだ。
僕 「ちゃんと覚えてますよ。僕は発表の日をもの凄く心待ちにしてるんですから」
ラ 「そうなの?」
僕 「ええ、だってあの時あんなことがありましたからねえ」
ラ 「きゃ〜〜っ!やだ〜〜っ!(笑)まだ覚えてるの? あの話」
僕 「そりゃそうですよ。僕は1年半前のあの日以来、ランディさんが直木賞にノミ
ネートされる日を、どんなに待ちわびたことか」ラ 「あの時、わたし豪語したんだよね」
僕 「そう、号泣の後に豪語ね」
ラ 「ぎゃ〜〜〜っ(笑)」
僕 「受賞したら、あの日のことをHPに書いてやる〜〜(笑)」
というわけで、「コンセント」が直木賞を受賞したら“あの時のこと”を暴露する
ことを、ここに誓います。
1月12日▼“店長”と呼ばれて
今日初めて来店された40歳台の陽気なカップルが、僕のサービスをとても気に入っ
てくれた。テーブルにカクテルを運ぶ度に「いやあ店長さん自らすいません」「店長
さんに運んでもらって恐縮です」「店長さんのサービスは素晴らしいです」と、とて
も気を遣って下さる。お客様にあまり気を遣わせてはならぬと、こちらも更に張り切っ
て高品質のサービスを心がけていたのだが、しばらくして男性の方がにこやかに僕に
問いかけた。「やっぱり、お客に“店長”って呼ばれると嬉しいですか?」
「(が〜〜ん) い、いえ、“店長”っていうのは僕の名前と同じようなものですか
ら、“店長”と呼ばれて特に嬉しいとかっていうのはごにょごにょごにょ・・・・」このお客様の質問が僕にはとてもショックだった。この方は、僕が“店長”と呼ば
れたら喜ぶと思って、しきりに「店長」「店長」と話しかけていたのかなと想像した
ら、ちょっと怖かった。寒かった。その場では言えなかったが、ここに声を大にしてお客様にはっきりと言いたい。
「“店長”は褒め言葉ではな〜〜〜い!!!! いくら“店長”“店長”と呼ばれても
嬉しくも何ともな〜〜〜い!!!!!」はあはあはあ、ちょっと声が大きすぎたかな。喉が痛い。く〜〜、それにしても変
なことを言うお客様だ。世の中にはいろんな人がいるもんだ。ぐっすん。
1月9日▼ホームパーティー
今日は店の休業日である。そこで、昨年暮れに女性バーテンダーSさんから出され
た企画「店が休みじゃないと絶対に出来ないことをしよう」というコンセプトに基づ
いて、当店の従業員4人が我が家へ遊びに来た。やって来たのは全員女性である。「みんな彼氏もいなくて暇なんですよね」と言っ
ていたことから、僕は彼女たちを「ロンリーフォー(4)」と名付けた。ロンリーフ
ォーは、僕が以前、田中宇さん宅へお邪魔した際、奥様の大門小百合さんが作って下
さった抜群に美味しい特製パエリアを我が家で食べたいと所望。それに僕がタラバガ
ニ食べ放題を付け加えて彼女たちを歓迎した。当初、ロンリーフォー以外にもう1人「マイナスアルファ」が加わる予定だった。
それは当店の副店長である。なぜ彼がマイナスアルファなのかというと、タラバガニ
食べ放題を目当てにやって来るに決まっており、食べ放題というからには「死ぬほど
食ってやろう」と目論んでいたはずである。するといったいどのくらいタラバガニを
用意しなければならないかわからない。たぶん必要なカニ足本数は天文学的数字に達
するだろう。我が家は破産してしまうかもしれない。あいにく副店長は風邪を引いてダウン。来ることが出来なかった。タラバガニ食べ
放題に関してのみいえば、事なきを得た。副店長よ、静養して早く良くなってほしい。
いや、マジで。午後、ロンリーフォーは我が家に到着した。最初は緊張して遠慮がちだったものの、
お目当ての愛犬、ネネとモモを発見して突然緊張が解れたようだ。「ネネちゃ〜〜ん」
「モモちゃ〜〜ん」「かわいい〜〜」を連発。皆で触りまくって写真をバチバチ撮っ
ていた。人見知りをしないモモは、ここぞとばかり皆に甘えまくっていた。この甘え
上手め。一方ネネはブルブル震えて丸まったままだ。もうちょい社交的になれ〜。その後、妻の特製オードブル数種と、大枚を叩いた山盛りのタラバガニ、そして小
百合さん直伝レシピのミックスパエリアで昼間から酒盛りである。皆エクスタシーの
表情で舌鼓を打っていた。食後はロンリー1とロンリー2がピアノで連弾を楽しんだり、僕の部屋でドラムマ
シンやエレキギターでドンチャン騒ぎである。合間に犬を触ったり酒を飲んだりお茶
とお菓子で一息ついたりと忙しい。しかし楽しい時間はアッという間に過ぎ去り、夜
9時過ぎにロンリーフォーは帰っていった。そういえば彼女たちからの手土産が凄かった。マキシムのケーキ、10数種類の地
ビール(よく持てたな)、イルサルマイヨのアンチョビ入りオリーブとブラックオリー
ブ(合わせて1キロぐらい!)、瓶詰めのピクルス、あられ詰め合わせ、などなど。
店の常連さんから預かってきたCDや、昨夜来店したアメリカ在住の知人からのお土
産などもあった。みんなちょっと気を使いすぎよ! かえって恐縮してしまった。今日はとても楽しい42.195キロ、もとい、6時間半でした。
ババンババンバンバン、また来いよな!
1月6日▼イエスマン
当店は来週の平日に2日間、正月の代休として店を休業する。別に店を開けていて
も交代で連休をとることは可能なのだが、オーナーが従業員を気遣って「休めば?」
と言ってくれたので、好意に甘えることにした。年末年始もずっと忙しかったし、店
を閉めることは滅多にないので、みんなで同時に骨休みするのも悪くないと思ったの
だ。しかし、当店の休業を快く思っていない人がいた。社長である。社長にしてみれば、系列他店が一店も休業せずに毎日営業しているというのに、当
店だけが休むのでは他店に示しがつかないし、店を休業するという前例を作ったら、
今度は他店が「うちも休みたい」と言い出した時に止めることが出来なくなる、と考
えているように見えた。それならオーナーから休業の話を聞いたときに許可しなけれ
ばよかったのだ。「オーナーにはオーケーを出したけど、どうなんだ。休んだ方がいいのか」と、社
長は何度も僕に聞いてくる。僕は「はい。せっかくオーナーからそのお話をいただい
たので」「何だ!お前はオーナーがやろうって言ったら何でもやるのか!」「大抵そ
うですね」ムカッときて、僕はそう言った。「お前はイエスマンか! それじゃ困る
だろう。自主性を持たなきゃダメだろう!オーナーの言いなりじゃ困るよ!」ばかやろう。お前らが話し合って決めたことを、後から従業員にゴチャゴチャぬか
すな、ぼけ!(こんなこと勿論言えない)それでも僕はいろんなことが口をついて出て来そうだったが、社長は口は悪いが本
当は良い人なのだ。事を荒立てても僕には何のメリットもない。適当に相づちを打っ
てその場を濁し、とっとと事務所から退散した。イエスマンとは、また随分な言われ方をされたものだ。この言葉が一番むかついた。
僕はオーナーがどんなにトンチンカンな企画を持ってきても、大方その企画を遂行す
る。そんな企画はやるだけ無駄だとわかっていても、オーナーがやる気満々なうえ、
そもそも僕にその企画を却下する権限はないのである。オーナーが持ち込む企画は、
その時点ですでに決定されたものなのだ。僕に出来ることは、その企画が僕の想像し
ている結果とどのくらい誤差があるのか考えるだけである。そして、僕の予想は恐るべき精度の高さで、いつも大当たりだ。つまりオーナーの
企画はいつも大失敗なのである。なぜそんなダメ企画を必死で止めようとしないのかというと、行って失敗してみな
いと絶対に納得してもらえないということと、以前は僕も相当止めたりしたのだが、
それによって「自分の言うことをきかないヤツ」と、僕の評価ががた落ちしたためで
ある。それ以来、会社のため店のためを思って逆らっていたのを止めた。自分の企画
の失敗振りを目の当たりにして、物事をもっとよく考えるようになれ、という気持ち
を込めて静観するようになった。ああ、人に使われるってのは大変だなあ。
1月5日▼蝦夷鹿(エゾシカ)のテリーヌ
今日、女子アルバイトが持ってきた「蝦夷鹿(エゾシカ)のテリーヌ」を食べた。
なんでも大阪でフレンチのシェフをしている彼女の知人が、送ってくれたそうである。
このテリーヌはとっても美味しかった。ジビエの滋味が溢れているうえに、鹿肉の間
に散りばめられているフォアグラがまた素晴らしい。仕事中に思いがけず至福のひと
ときを味わってしまった。貴重な料理を振る舞ってくれたKさんに感謝!このテリーヌを食しながら僕はある疑問を持った。それは、この蝦夷鹿の産地はど
こなんだろうか、ということである。普通に考えれば蝦夷=北海道なのだが、和牛が
別に日本の牛肉というわけではなく「和牛」という牛の種類であることを考えると、
蝦夷鹿=北海道産とも言い切れないのではないか、などと天の邪鬼なことを考えなが
ら食べてしまった。もっとテリーヌに没頭すればよかった。「オレのカンじゃ、きっとロシア産蝦夷鹿だな」「何でですか。草木が生えないと
ころのわけないじゃないですか」「そりゃシベリアだろ! 何で最北端限定なんだよ。
もっと南、南だよ。じゃあね、オーストラリア産かな。オージー・エゾって名前だっ
たりして。いや、それともニュージーランド産だったりして。あっちじゃキーウィー・
エゾージカとか呼んでたりしてな、がははは」「・・・・・」「おいおい1人にしな
いでくれ〜」 アホ丸出しである。
1月3日▼新年の御挨拶
皆様あけましておめでとうございます。今年も不定期メルマガともどもどうぞよろ
しくお願い致します。年末年始は様々なつまらないストレスをため込み、何も書く気
が起こらず深夜に1人で悶々としておりました。ストレスは未だ解消には至りません
が、あれこれ考えていても時間の無駄なので、心機一転カラッと乾いた風のように生
きていければ(いければかよ!)と考えています。ジメジメ挨拶ですみません。尚、
メルマガが滞っておりますが、廃刊ではありません。毎日コツコツとしたためており
ますので、今しばらくお待ち下さい。やっとビールのことを書き終えたので、あとは
発泡酒、日本酒、牛乳、ミネラルウォーターのことを書くだけでおしまいですから。
残り僅かです・・・
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