トランプ排除やコロナは米欧覇権とエスタブ支配を破壊する2021年1月8日 田中 宇1月7日の米議会両院会合でトランプの敗北が決まった観がある。トランプが、秩序的な政権移行を望むと表明したと報じられている。民主党は、連邦議会上下院と大統領府という米権力の全体を取る。しかし結局のところ、昨年11月3日の大統領選挙で不正があったのかどうか、確定しないままだ。マスコミやネット大企業のほとんどは、政治的にトランプを追い出す側についており、彼らを経由する公的情報は信頼性が低下している。裁判所やバー司法長官もトランプ追い出しの側に立った感じなので、トランプ側が裁判で負けたから不正がなかったという話にもならない。 こうした構図がわかってない人々は「民主党が不正をしたという証拠を見せろ」というが、マスコミや裁判所などの権威筋が認めないものは「証拠」にならないので「証拠を見せろ」と言った瞬間に、その発言者は政治的に偏っていることになる。選挙前の米国の政治状態から見て、隠れ親トランプの有権者の総数が2016年の前回選挙時より多かった。バイデンの人気は明らかにオバマより下だった。だが、今秋の公式な選挙結果は、バイデンがオバマより多くの得票(大統領候補として史上最多)を得て勝ち、トランプの得票は16年より少なかった。民主党側が不正をしたと考えるのが自然だ。だが、マスコミや裁判所が反トランプの側に偏向している以上、不正の存在を確定できない。別の言い方をすると、不正は完全犯罪になっている。 ものを考えたくない思考怠慢な人々は「真実を教えてくれ」というが、上記のような状況になると、思考する人が、思考怠慢な人々に対して何を言っても真実のように聞こえなくなる。自分で考えてください、と言って去るしかない。真実を売り歩く政治家や宗教家やジャーナリストは疲れるのでなりたくない。今後大事なのは不正に関する「真実」でない。米国民の半分を占める共和党支持者の7-8割、つまり米国民の4割ほどが「本当はトランプが勝ったのに、民主党が選挙不正し、マスコミなど権威筋がトランプ追い出し派に回って不正を隠したので完全犯罪になり、トランプが不当に大統領府から追い出される」と考えるようになったことが今後の最も大事なことだ。彼らは権威筋とその配下の民主党支持者らから「危険な妄想を続ける陰謀論者」とレッテル貼りされ、これからずっと弾圧され続ける。 陰謀論者とレッテル貼りされてきた私から見ると、これはすごいことだ。以前は米国民に占める陰謀論者の割合が10%以下だったのが、この3か月で急に35-40%に増えたからだ。トランプ排除劇だけでなく、同時並行的に先進国全体で「第3波・第4波」が演じられているコロナ危機でも、親トランプな共和党支持者は、コロナ統計が誇張・歪曲されていると気づき、都市閉鎖やマスク義務化がコロナ対策でなく経済破壊や市民抑圧の策略であると感じている。マスコミやネット大企業などの権威筋は、政府のコロナ対策に疑問を持つ人を敵視弾圧する。政府当局は、マスクをしない人、勝手に外出する人を処罰する。親トランプな共和党支持者たちは、大統領選とコロナ危機の両面で不当な弾圧を受ける。 今後、バイデン政権になると、この傾向がぐんと増す。バイデン政権を支持する人々は「大統領選とコロナで反逆する共和党支持者は間違っているだけでなく危険な存在だから、処罰されるべきだ。これは弾圧でなく正当な処罰だ」と主張する。マスコミやネットでは、そちらの主張だけが喧伝される。「不当な弾圧」と言っただけで弾圧される。一切の反逆を許さない人民共和国的な状況だ(リベラルを自称する民主党の政権が、この反リベラル体制を強化する点が滑稽だ)。大事なことは、弾圧が不当か正当かという「真実」でない。米国民の4割前後が「大統領選やコロナに関して思ったことを言うと不当に弾圧される」と思う状態になったことが重要だ。 トランプ自身は今後、脱税その他の濡れ衣含みの容疑で訴追され、政治抹殺される可能性がある。だがその一方で、共和党支持者の72%が、トランプみたいな政治家が増えてほしいと願っている。有権者の希望に応え、第2第3のトランプになろうとする共和党議員が出てくる。トランプがいなくなってもトランプ革命が続く。共和党は、民主党と談合する軍産エスタブの党から、2大政党制を破壊するポピュリズムの党になっていく。トランプが続投していたら、民主党が軍産を追い出して左翼政党になっていたはずだ。今回の選挙は、2大政党間の果し合いだった。負けた方が壊滅し、2大政党制が崩れる。 (72% of Republicans See Trump As Model for Party’s Future) ジョージア州の連邦上院議員の決選投票は2議席とも民主党が勝ち、民主党の上院支配を確定させたが、これは2大政党制の維持という米国政治の最重要課題からすると大失敗だ。民主党はわざと負けてでも、上院を共和党支配のままにした方が良かった。共和党は上院でも負けて連邦政府ですべてを失い、共和党のエスタブ支配が崩れ、2大政党間の談合維持が不可能になっていく。トランプは、ジョージア上院選で共和党が負けるように仕向け、共和党エスタブのトランプ続投への賛成(共和党の上院議長維持)を引き出そうとしたが失敗した。トランプは、自分が続投できない場合でも、共和党が上院多数派も失って完全野党化した方が、トランプ支持の草の根右派が党内で強くなって好都合だと思ったのだろう。現実は、この展開になった。 コロナ危機は今後も延々と続く。トランプと共和党はコロナの都市閉鎖に消極的だ。民主党はコロナの都市閉鎖を強化したい。民主党が権力のすべてを握る今後の米国では、政府のコロナ対策がどんどん強められ、それに疑問や不満を持つ人に対する不当な弾圧も強まる(都市閉鎖が愚策なのは「真実」なので、これは「不当」と言い切れる弾圧だ)。都市閉鎖をやりたがらない共和党の州知事や州議会に対する連邦政府と民主党からの攻撃も強まる。連邦政府は全て(議会上下+大統領)民主党に取られ、共和党が強いのは地方勢力だけになる。共和党の地方勢力は、米連邦から本気で離脱しようとする動きをテキサスなどで涵養していく。各州の内部でも以前から、都会は民主党、田舎は共和党であり、この分裂がひどくなる。都会はコロナ対策で抑圧がひどいので、人々は都会から郊外・田舎に出て行く傾向だ。民主党は、トランプが止めていたメキシコからの違法移民の流入を積極的に再開し、支持者の確保に躍起になる。 民主党内でも、コロナ対策に疑問を持つ人が増える。コロナ対策だけでなく、民主党の最近の政策の中には「父親母親など性別を伴った呼称の廃止」「財政赤字を無限に増やしても良いMMT」など、多数の人が同意できないものが多い。権威筋や軍産エスタブは民主党政権を支援し続け、同意できない左右の人々を排除・弾圧していく。政府やエスタブ権威筋から不当に弾圧されていると思う米国民が左右の両方で増えていく。彼らは「危険な陰謀論者」とみなされる。国民の半分以上がその範疇に入っても、彼らを代弁する政治家は増えにくい。米国の民主主義は昨秋以来(多分もっと前から)エスタブ側からの不正がやり放題になっている。マスコミとネット企業による思考歪曲と弾圧の結果、きちんとした考え方が広まらない。合理主義も機能しない。 (Proposed House Rules Eliminate Gendered Terms Like ‘Father’ And ‘Daughter’) 民主主義や合理主義といった近代的な体制が機能しない一方で、それ以前からあったキリスト教的な配役の構図が、今回のトランプ排除劇で作られている。トランプ支持者から見ると、トランプは正しいことを言ってきたのに、それがゆえに(不正で権力を握った民主党軍産エスタブ=ローマ帝国やユダヤ指導者から)不当に弾圧されて抹殺されていく。まるでイエスキリストだ。トランプの従者としてふるまってきた信心深いキリスト教徒のペンス副大統領は、最後の段階でトランプ(イエス)を裏切った「ユダ」である。いや、ペンスよりバー司法長官の方がユダっぽいか。トランプ=イエスを信じる草の根の支持者たちは、ローマ帝国的なこれからの民主党政権下で「危険な妄想家集団」として容赦なく弾圧され続けるが、弾圧が信者たちの信仰や政治信条をますます強化し、自分たちこそ覚醒者という自覚をもたせていく。トランプ教は、反コロナ教でもある。トランプやコロナで人々を反逆させる構図が「上」から意図的にキリスト教の話に似せて作られているのでないかと私は感じている。 (トランプはまだ負けてない) キリスト教徒だけでなく、共産党員など左翼活動家も、弾圧されるほど「自分たちこそ覚醒者」と思い込む。これも20世紀初頭に「上」から国際的に考案された構図で、米国からロシアまでのキリスト教世界の人々の心に響かせるための策略だ(中共は変異的)。今回のコロナとトランプの劇場では、左翼が世界的に「全人類がPCR検査を頻繁に受けるべきだ」など、コロナのインチキ政策に見事に絡めとられている。地球温暖化人為説という、コロナ以前に同様の構図を持っていたインチキ劇場でも左翼は軽信的だ。しかし今後、コロナ危機が恒久化されていくと、左翼(の一部)も態度を変えるかもしれない。民主党内では、先日までハワイ選出の下院議員だったトルシ・ガバードがまっとうなことを言っている非左翼だが、彼女は党上層部や軍産傀儡者たちから無視・疎外・中傷されてきた。最近、合理的な思考は「上」から嫌われる。民主主義と合理主義という近代の体制が意図的に壊されている。温暖化やコロナの問題を見れば、科学技術や医学、マスコミに対する信頼も、意図的に破壊されていると感じられる。トランプ排除劇で、米国の民主主義への信頼性も下がった。近現代の価値観が「上」から自滅させられている。 (Democrat Tulsi Gabbard Blasts Her Party For Removing Gendered Language: ‘The Height Of Hypocrisy’) (Tulsi Gabbard introduces bill banning biological males from competing in women's sports) 「上」について書かねばならない。コロナ危機を長期化させているのも「上」だ。ダボス会議で「大リセット」を流布しているのも「上」の策略。トランプの革命的な試みも「上」の同意があって行われたはずだ。そして多分今回トランプが排除されるのも「上」の同意の結果だろう。「上」とは国際的な覇権勢力だ。私がこの20年間に書いてきた分析の多くは「上」についてのものだ。彼らは一枚岩でなく、米国の覇権体制を維持したいマスコミやネット大企業を含む軍産エスタブと、覇権構造を多極化に誘導したい隠れ多極主義の国際資本家的な勢力が、諜報界や金融界など米英の最上層部や国連など国際機関で暗闘を続けている。 (新型ウイルスとトランプ) (「大リセット=新常態=新しい生活様式」のからくり) 911あたりから繰り返されてきたことは、軍産エスタブが米国覇権を維持するために起こした大事件が、隠れ多極側によって失策に誘導されて米覇権を解体する要素に転換してしまう流れだ。軍産は911事件を起こし、テロ戦争で世界各国のテロ対策に米国が介入することで世界への支配を強化しようとしたが、その結果起こされたイラク戦争など稚拙な政権転覆策で米国は外交的な信用を失墜した。リーマン倒産は米覇権の根幹にあった債券金融システムを破壊したが、その後のQEがシステムを延命させた。しかし中央銀行群はQEの中毒に陥らされ、これからQEがドルの覇権を壊していく流れになる。新型コロナは、多極側が台頭させてきた中国の経済を破壊するために武漢で(軍産のスパイにさせられた中国人学者によるP4ラボからのウイルス漏洩で)引き起こされたが、多極側はコロナを世界に拡大させた上で欧米先進国に超愚策の都市閉鎖をやらせ、欧米経済を破壊して中国の隠然台頭を加速させる逆転をやった。 (国際政治劇として見るべきコロナ危機) トランプは、中国を敵視して中国経済を米国側から無理やり分離する米中分離を推進し、日豪アセアンの経済的な対米従属を加速するはずのTPPから離脱して日豪アセアンが中国側に転向するように誘導したり、NATOや独仏を冷遇したり、WHOなどから離脱して国連の諸機関が中国寄りになるよう仕向けるなど、隠れ多極主義の策略をどんどん進めた。トランプは反コロナだが隠れ多極主義で、コロナ危機の恒久化を推進している勢力と同じ傾向なので、大した問題なく大統領に再選されるだろうと私は予測していた。だが実際はそうならず、おそらく隠れ多極主義側も同意した形で民主党が完全犯罪的な選挙不正をやってバイデンが大統領になる。トランプと支持者たちは、政治的に憤死させられた。 この展開を私なりに解釈してみる。隠れ多極主義の側は、トランプを続投させて多極化を推進するより、米国をもっとコロナ漬け・都市閉鎖まみれにして自滅させていく方が効率的だと考え、トランプを見捨ててコロナ推進の民主党バイデン政権を成立させることにしたのでないか。中国はすでに米国がどんな対中戦略をとっても経済的に米国の下請けに戻ることはなく、米欧でなく中国国内と一帯一路の諸国を消費市場として経済発展させていく対米自立的な長期戦略に転向している。中国は、ドルの覇権下から出て人民元を中国圏の基軸通貨にする流れを確定している。トランプの米中分離策は用済みになっている。トランプは大統領として続投させるより、支持者軍団もろとも政治的に憤死させ、その怒りで2大政党制が破壊され、政治混乱によって米国を覇権運営どころでない衰退状態にしていく流れのコマとして使った方が良いと、隠れ多極な黒幕さんたちは考えたのでないか。バイデン政権になるとコロナの都市閉鎖が強化され、米連銀のQE策に対する負荷が増す。地球温暖化対策の穴埋めもQEで賄われ、QEが行き詰まってドルが崩壊する流れが前倒しされる。 (中国が内需型に転換し世界経済を主導する?) コロナで世界的に失業者が増え、先進国の中産階級が貧困層に転落しているのに、QEで株価は最高値で、金融資産を持つ金持ちは肥え、貧富格差が拡大している。ダボス会議の大リセット事務局は、貧困層に転落した人々に「雑草を食べるのが、地球温暖化対策になるので良い」と求めている。貧困層に突き落とされ、雑草を食わされる人々は、しだいに怒りを感じていく。ダボス会議筋は「反逆的な精神状態の人々を察知するため、すべての人類にマイクロチップを埋め込むのが良い」とも言っている。大リセットは、人々の怒りを世界的に扇動するために行われている。「上」が人類に対する支配強化を本気で画策するなら、大リセットとか言って喧伝するのでなく、表立って何も言わず静かに進めるはずだ。 (World Economic Forum Encourages Plebs to Eat Weeds & Drink Sewage) (Klaus Schwab: Great Reset Will “Lead to a Fusion of Our Physical, Digital and Biological Identity”) 独仏など欧州は、すでにコロナ第3波の演出で、厳しい都市閉鎖を何か月も続ける展開になっている。米国と同様に欧州も、政府のエスタブ層がコロナの愚策な都市閉鎖を続けるほど、人々はコロナのインチキに気づいてエスタブ支配に不満を持つようになり、エスタブ支配の枠外にいたポピュリストの政治家が出てきて政権を奪っていく流れになる。欧州のエスタブは対米従属が好きだが、ポピュリストは違う。自国の対米従属を破壊することで人気を拡大しようとする。黒幕さんたちは、欧州に愚策なコロナ対策を延々とやらせることで、欧州をポピュリストに乗っ取らせて対米自立させ、EUを丸ごと非米的な存在に転換させ、多極化の一翼を担わせようとしているのでないか。 (Finland's Prime Minister Warns COVID-19 Will Trigger A Populist Backlash) コロナが長引くほど、米国は政治経済の両面で自滅し、覇権を失っていく。英国も同様だ。QE負担増でドルも崩壊に近づく。EUは、自滅した末に非米的なポピュリズムに転換していく。中国は、ロシアと組んで、米欧が撤退した領域の覇権を拾い集めて自分たちを強化していく。中国は、米国が捨てたWHO(や国連全体)の支配権も拾って自分のものにしている。コロナを理由にWHOが欧米諸国に愚策な都市閉鎖を延々とやらせ、欧米経済を自滅に誘導しているが、これは中国の覇権拡大につながる。中国がWHOを通じてやらせているとも考えられる。コロナの長期化は、覇権中枢にいる隠れ多極な勢力と、中国共産党が組んでやっている多極化の策略になっている。隠れ多極な勢力は、軍産のふりをして同盟諸国に都市閉鎖を恒久化しろと加圧するので、対米従属な同盟諸国のエスタブは騙されて従って、その結果自滅して馬鹿を見る結果になる。 日本は対米従属だが、欧州諸国に比べてコロナの都市閉鎖を国際的な「上」からあまり強要されていない。日本政府は、非常事態宣言という準都市閉鎖策を、国際的に目立つ首都圏で再開した。これはWHOなど国際覇権勢力から強要されたものだろう。だが、今回の非常事態は、昨春の1回目より内容がかなり薄くなっている。市民の方も騙される傾向が低下し、静かに昨日と同じ生活を今日も送っている。軍産傘下の日本のマスコミやネット大企業は、非常事態が不十分だと騒いでいるが、菅首相は非常事態をできるだけ短期間にしようとしている。 日本のWHO傀儡の専門家たちは「非常事態は5月まで必要だ」と、欧州諸国と同一の期間の長さを指定している(地域性を無視したこの同一性が、専門家たちの傀儡性、詐欺性を感じさせる)。菅政権は、国際傀儡な専門家やマスゴミからの加圧を無視して、2月までの1か月間で非常事態を終わらせると言っている。実際に1か月で終わるかどうかは、ウイルスでなく国際政治が決める。延々と続くこの無茶苦茶を尻目に安倍晋三は、やはり首相を辞めて良かったと思っているだろう。重い忍耐の精神性を持つ東北地方の山間部で育った菅義偉こそ、今の無茶苦茶な状況をこなすことに合っている。 昨年来、日本政府が本格的な都市閉鎖でなく、もっと軽くて掛け声重視の、国際お上への面従腹背的な非常事態宣言ですませることができているのは、安倍政権以来の日本政府が、経済政策としてやむを得ないと言いつつ中国に積極的に擦り寄り、日本を「中国圏の国」に仕立てたからだろう。コロナは多極化の策略だと書いた。日本は、対米従属から対中従属に静かに切り替えていくことで多極化に呼応しているので、隠れ多極な勢力からの自滅の強要をあまり受けずにすんでいる。中国圏に入った日本を経済的に自滅させることは、隠れ多極と中共にとって良くないことだ。日本国内で、もっと厳しいコロナ対策をすべきだと政府を批判するマスコミや専門家たちは、日本経済を自滅させる大馬鹿者になっている。
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