朝鮮戦争が終わる(2)2018年5月13日 田中 宇
この記事は「朝鮮戦争が終わる」の続きです。 6月12日にシンガポールでトランプと金正恩の米朝首脳会談が行われている最中に、中国の事実上の皇帝である習近平主席が、同じくシンガポールを訪問するという話(観測・うわさ・可能性)が、日本を中心とするマスコミで報じられている。この話は、5月11-12日に日本で喧伝され、それを引用する形で韓国などでも報じられた。英語でこの件を報じているのはシンガポールの新聞だけだ。米国のマスコミは全く報じていない。中国政府はノーコメントだ。最初の情報源は北朝鮮政府筋らしい。 (China's President Xi Jinping may also travel to Singapore when Trump meets Kim: Report) (China's President Xi Jinping may also travel to Singapore when Trump meets Kim: report) 日本のマスコミでは、習近平のシンガポ訪問理由について、米朝がシンガポール会談で劇的に和解し、中国が外されてしまうのを恐れ、割り込んでいくことにした、だが米国が中国敵視なので習近平が米朝会談に参加させてもらえる可能性は低い(中国ざまみろ)といった「解説」が流されている。私から見ると、せっかく特ダネを取ってきたのに解説が全く的外れ(嫌中方向への歪曲)だね、という感じだ。 習近平が米朝会談に同期してシンガポールに行く話のすごい点は、トランプ、金正恩、習近平という米朝中の3人の最高指導者がそろうと、その場で朝鮮戦争の終戦協定に署名して、朝鮮半島の対立を正式に終わらせられることだ。朝鮮戦争は1953年に米朝中の3か国で「休戦協定」が結ばれ、それ以来、現在まで、戦争状態(対立)は続いているが戦闘は暫定的にやめている休戦状態になっている(韓国は当時の李承晩大統領が休戦に反対して署名しなかった)。休戦協定の後、数カ月内に正式な終戦協定を締結する予定だったが、それが棚上げされたまま65年が過ぎている。朝鮮半島の対立を解消するには、米朝中が「終戦協定」もしくは「終戦宣言」を締結・共同発表する必要がある。 4月27日、金正恩と文在寅が板門店で劇的に会った南北首脳会談の共同声明は、米国と中国も入れた4か国の会談を今年じゅうに行なって朝鮮戦争の終戦を宣言することを盛り込んでいる。あの南北会談は、朝鮮半島の対立を一気に解消したが、南北だけでは対立の正式な終了を決められない。対立の終了つまり朝鮮半島の終戦協定・宣言には、米国と中国の参加が不可欠だ。シンガポールで、米朝会談が終わったところに習近平が登場すると、その場で終戦協定を締結できる。 (Full text of joint declaration issued at inter-Korean summit) 日本のマスコミが「解説」するとおり、習近平は米朝会談自体に参加しない。会談の終わりを待ち、シンガポールの首相あたりと談笑して時間を潰す。米朝会談で、予定通り金正恩が核廃棄を約束し、トランプが米国の北敵視の終了を約束して会談が成功裏に終わると、そこに習近平が入ってきて(もしくはその前に中朝と米中の短時間の2国間会談を経て)、米朝が和解したので朝鮮戦争を終わらせようと言って、あらかじめ用意してある終戦協定(もしくは終戦宣言)に3人で署名する。この瞬間に、朝鮮戦争は正式に終わり、和平の確立に向けた動きが始まる。 (Seoul offers Kim Jong-un grand bargain to link North and South Korean economies with China) 朝鮮戦争が正式に終結すると、すぐに韓国が北朝鮮の経済開発を支援する話になるので、韓国の文在寅もその場に来ていて、終戦協定が署名された後(韓国も署名に入るかも)、南北首脳が経済開発についての話を始める。文在寅はすでに、膨大な資料を入れた「USBドライブ」を、板門店での首脳会談で金正恩に渡してある。南北の経済開発は、中国の「一帯一路」の一部となる構想なので、習近平からも提案があるはずだ。思惑どおり朝鮮半島の覇権を中国に引渡したトランプは、その展開を尻目にエアフォースワンに戻っていく・・・。私が現時点で空想(笑)するシナリオはそんな感じだ。 (South Korea Gave Kim a USB Drive Full of Economic Aid Proposals) 終戦協定が国際的な条約であるなら、議会が批准(承認)しないと発効しない。中国と北朝鮮は独裁国なので、最高指導者が決めたことに議会が反対しない。だが米国の議会にはトランプ敵視の議員が多く、北朝鮮を許すことを承認しない可能性が高い。米朝中が停戦協定に署名し、朝中の議会が批准しても、米議会が批准しないと協定が有効にならない。だが実のところ、この手の心配は無用だ。以前の記事も書いたが、朝鮮戦争は法律的にみて、米議会が開戦決議して始まった「戦争」でなく、トルーマン大統領が宣言して始めた北朝鮮(米国非承認勢力)の「共産ゲリラ」を退治する警察行為である。議会でなく大統領が始めた戦いだから、大統領が終結を宣言すれば、議会が反対しても終戦できる。トランプと金正恩と習近平が署名すれば、朝鮮戦争は終わる。 (米朝会談で北の核廃棄と在韓米軍撤退に向かう) 米国や日本の軍産複合体(国務省や外務省、マスコミなど)は、北朝鮮が核兵器を完全廃棄(CVID)したと言っても、まだ隠し持っているはずだと米国が濡れ衣をかけ続ければ核廃絶は達成されず、北を「永遠のCVID未達(CVID地獄)」に落とし込んで米朝和解を反故にできると考え「米朝和解の実現は困難だ」と豪語している。「米朝会談は失敗し、米国が北朝鮮を先制攻撃したがる状況が再現する」との軍産系プロパガンダも席巻している。だがこの件も、イラク戦争の時のように米国が単独でCVIDの判定権を持つのでなく、中国やロシアが米国と対等に判定権を持つ多極型の合議体制でやるなら、現実的なところでCVIDが達成され、米朝和解が阻止されずにすむ。 (朝鮮戦争が終わる) (Kim Jong Un Repeats Commitment to Denuclearization to China) そもそも北朝鮮は、米国との交渉の道具に使うために核兵器を完成したと宣言しただけで、実際は核兵器がまだ完成していない可能性もある。その場合、もとから核を持っていないのだから「完全非核化」がさらにやりやすい。これも以前の記事に書いた。金正恩や習近平は「完全非核化をやる」と何度も明言している。北が核兵器の一部を隠し持ち、中国がそれを黙認するつもりなら、こんな明言をせず、もっと含みをもたせた表現をするはずだ。さもないと、もし今後、米国が再び北を敵視し、それに呼応して北が「実はまだ核兵器を持ってるぞ」と言い出した時、中国のメンツが丸潰れになる。それを考えると、北は核兵器を完成していないのに完成したと言っている疑いが増す。 (Kim Agrees "Denuclearization Is Achievable" After Surprise Second Meeting With China's Xi) (朝鮮戦争が終わる) トランプは、こわもてっぽく「北が核廃絶しない限り和平しない」と言う一方で、自信満々に「南北会談は必ず成功する。失敗予測は偽ニュースだ」と豪語している。この間、国務長官になったポンペオが何度も訪朝して北と打ち合わせを重ねるとともに、米朝会談に対するトランプの自信が増していることが、ツイートなど彼の発言口調からうかがえる。金正恩が本気で核廃絶するつもりである(一部を隠し持つならよっぽどうまくやるつもりである)ことを米側が感じ取り、米朝会談の成功に自信をつけていると考えられる。 (State Department Refutes 'Pompeo's Plan' on Economic Aid for North Korea) 米朝会談が成功するなら、習近平が会談にあわせてシンガポールに来て、米朝中が朝鮮戦争の終戦協定を締結する可能性も高まる。だから、習近平がシンガポールに来る話は、無根拠なガセネタでない。少なくとも現時点で本当に検討されている話だと考えられる。習近平がシンガポールに来るなら、それは、必ず終戦協定が署名されると中国政府が判断したことになる。中国は国家的なメンツとして、「皇帝」を、豹変しやすいトランプや金正恩に恥をかかされるためにシンガポールくんだりまで出向かせるわけにいかない。 米朝会談のあと習近平も参加して停戦協定に署名する予定であるとしたら、会談の会場が板門店でなくシンガポールになったことも理解できる。万が一、米朝会談が失敗して停戦協定の署名が行われない場合、シンガポールなら、各国外交官の外遊時の寄港地に良く使われる場所であり、米朝会談と関係なく習近平が「たまたま近くを通りかかっただけ」だと強弁でき、中国は何とか皇帝のメンツを保てる。板門店だと、そうはいかない。他の関係諸国の首脳(文在寅や安倍晋三??)も「たまたま通りかかっただけ」と言いつつ、米朝会談の成功・不成功によって行動を切り替えられる。 このように事態は、米朝会談の成功、朝鮮戦争の終結に向けて動いている。トランプの自信満々さから考えて、現時点で、米朝会談の失敗を予測するのはお門違い(意図的な歪曲)だ。それなのに日本ではマスゴミが、いまだに「米朝会談は必ずや失敗し、米国が北を先制攻撃する事態が復活する」と大々的に「分析」している。この方向の分析を表明する言論人の発言が、大きく扱われる。これは「裸の王様」のクライマックスのような、大間抜けな構図だ。 (Trump Orders Pentagon to Consider Reducing U.S. Forces in South Korea) なぜこんな大間抜けな構図が意図的に演出されるかというと、それは、対米従属一本槍の日本の上層部(官僚機構)が、米朝会談が成功し、朝鮮戦争が終戦し、朝鮮半島が平和になって在韓米軍が撤退し、次は在日米軍の撤退になるという現状を、国民に感じ取らせたくないからだ。国民に気づかせないことで、官僚機構は一日でも長く、対米従属を大黒柱とする自分らの隠然独裁体制を続けたい。あとは野となれ山となれだ。黒船が近づいているのに開国に対応する準備を最後までせず、いち早く英国の傀儡となった薩長に倒幕されてしまう。戦争に負けるのに、最後まで何もせず無条件降伏するしかなくなる。我が国はこの百年、いつもこうだ。 (U.S. Troops in South Korea Emerge as Potential Bargaining Chip) 今回書いたような、今起きていることの全体を見ると、おそらく今年じゅうに朝鮮半島の対立が終わり、半島から米国勢が出て行き、在日米軍の縮小・撤退が取り沙汰されるところまで行く。マスコミや著名評論家たちは「米朝会談が必ず失敗し、トランプが再豹変して北を先制攻撃してくれるはず」といった「トランプ神風」への願掛けをお経のように唱えているが、彼らを信じるのはもうやめた方が良い。
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