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世界を二分する通貨戦争

2010年11月9日   田中 宇

 米中間選挙の翌日にあたる11月3日、米連銀(FRB)が、8カ月間で6000億ドル分の長期米国債を買う「量的緩和」(QE)を実施することを決めた。加えて、以前に連銀が買った債券(民間のジャンク債など)が満期になって戻ってくる資金3000億ドル分も米国債購入に回すので、連銀は来年夏までに合計1兆ドル近くの米国債を買い支える。 (US Fed launches fresh stimulus

 連銀の目的は、民間銀行が持っている米国債を買う(米国債とドルを交換する)ことで、銀行にドルを大量に供給し、企業や個人の資金調達をやりやすくして経済をてこ入れすることだ。加えて、市中金利の基準値である米国債の大量購入によって市中金利(預金金利など)を引き下げ、人々が預金してもしかたがないので消費しようと思うように仕向け、米国のGDPの7割近くを占める消費を押し上げることも目的とされている。連銀はリーマンショック後にも量的緩和をやっており、今回は2回目だ。だから今回のは「QE2」と呼ばれている。 (QE2 is risky and should be limited

 すでに何度か書いたことだが、QE2は大した効果を生まない半面、ドルや米国債に対する信用失墜、長期金利高騰、インフレ激化などにつながりかねず、高リスク低リターンのダメダメな政策だ。 (◆破綻へと迷走するドル

 連銀元議長でオバマの経済顧問であるポール・ボルカーは11月5日、G20サミット間近の韓国ソウルで講演し、QE2が米経済を上向かせることはほとんどないと酷評し、QE2で低下する米国の金利を嫌気して、米国からアジア市場に巨額の投資資金が流入し、アジアがバブル状態になると警告した。「量的緩和は、短期的には長期金利低下・債券上昇となるが、中長期的には(通貨に対する信用失墜で)インフレを引き起こし、逆に長期金利の上昇を招いてしまう」とボルカーは指摘した。彼がアジアで(アジアの人々に向けて)この警告を発したことに注目すべきだ。 (Volcker: Fed bond plan won't do much to boost econ

 量的緩和は、あちこちで愚策と批判されている。連銀内でも、ダラス連銀のフィッシャー総裁が11月9日「QE2は米経済を好転させないのではないか」と疑問を呈した。バーナンキ連銀議長自身もリスクを認めている。なのになぜ、連銀は量的緩和を再開するのか。一つの見方は「銀行救済」だ。ある経済分析者(Michael Hudson)は、巨額資金を注入して住宅ローン市場を再生し、住宅相場を引き上げることで、銀行の債権の担保となっている住宅市況を改善するのがQE2の目的だと分析している。「株価をテコ入れして経済が回復しているように見せるため」というのもある。 (Fed's Fisher Says Purchases May Be `Wrong Medicine' For The U.S. Economy

 しかし実際には、すでに米銀行界は有り余る資金を持っている。銀行は、ローンが返済されないリスクを高く見積もり、貸し渋りを起こしている。連銀が市中に追加で資金を注入しても効果はない。株価が上がっても実体経済に関係なく、失業や消費は再生しない。

「QE2はドル切り下げ策だ」という見方もある。ドルを下げて、米国の輸出産業を再生する戦略だという。中国やドイツは「米国は、世界の国々に為替操作するなと要求する一方で、自国はQE2によって為替操作している」と米国を批判している。しかし、そもそも米国の強みは製造業ではなく、国際基軸通貨であるドルを基盤とした金融業と、ドルを刷るだけで世界から商品を買って輸出国に恩を売れる消費覇権である。米国の製造業は1970年から死んだままだ。米国の輸出産業を再生するためにドルを生存の危険にさらすのは馬鹿げている。 (China accuses US of protectionism

▼ドルを支持する国としない国に2分される世界

 経済学者のジョセフ・スティグリッツは「QE2によって連銀は、アジアでバブルの拡大と崩壊を引き起こし、米国の覇権に邪魔な中国をつぶそうとしている」と言った。これは97年のアジア通貨危機の時に米国がやったことでもある。しかし、当時の米経済は非常に強かったのと対照的に、今はボロボロだ。米国の勝ち目は減っている。中国をバブル崩壊させてつぶす前に、中国がドルペッグをやめて米国債を売り放ち、米国をつぶすだろう。 (New $600B Fed Stimulus Fuels Fears of US Currency War

 米国の勝ち目は減っているが、QE2によって、世界が「ドルを支持する国々」と「ドルを支持したくない国々」に二分される傾向が一気に高まり「通貨戦争」の状態になってきたことは確かだ。表向きは戦争ではなくG20で話し合う態勢だから「通貨冷戦」とも言える。この戦いによって最終的にドルは基軸通貨の地位を喪失するだろうから、これは「戦争」というより、米国による「ドルの自爆テロ」と呼ぶべきかもしれない(自爆テロも戦争の一形態だ)。

 英テレグラフ紙は、QE2の意味を2種類のキーワードで示した。一つは「ソフトな米国の債務不履行(soft default)」で、もう一つは「経済のスエズ動乱(economic Suez)」である。「ソフトな債務不履行」は、説明不要だろう。米国が債務不履行する時代がいよいよ来た感じだ。1956年に英仏イスラエルがエジプトと戦ったスエズ動乱は、米国がエジプトの味方をしたため英仏側の敗北となり、これを機に、それまで世界を支配していた英国の覇権が崩壊を強め、英国は67年までにアジア(スエズ以東)から総撤退した。この英国と同様に、米国がQE2によって経済覇権を失いドル崩壊に至るという方向性が「経済のスエズ」という言葉に集約されている。 (The rest of the world goes West when America prints more money

 ドルを使いたくない国々は、中国、ロシア、ブラジルやベネズエラなど中南米諸国、トルコやイランいったイスラム諸国、タイやマレーシアといった東南アジア諸国などだ。この中で、中国やベネズエラなどは、通貨がドルペッグしており「ドルを使いたくない」という気持ちは、今のところ経済的な現実でなく、政治的な理念でしかない。

 タイやブラジルは親米国だし、トルコはNATO加盟国である。「ドルを使いたくない」という気持ちは「反米」ではなく「米国がまともでなくなったので、やむを得ず離れる」という「非米」だ。私は6年前に「非米同盟」(文春新書)という本を書いたが、これまで潜在的な動きだった非米同盟(BRIC+途上諸国)の結束が、QE2による通貨戦争によって顕在化している。

 ドル崩壊を予測する投資家のピーター・シフは、現状を「通貨の核戦争」と呼んだ。この核戦争は、インフレ(ドルの下落による国際価格上昇)という放射能を世界中にばらまき、人類の多くが、その放射能(インフレ)を浴びて死に至る(生活不能になる)というのが、シフの比喩の落ちだ。通貨戦争は、米国がQE2発動によって宣戦布告したものであり、他の国々は「放射能(インフレ)」をかぶらないよう防衛する側である。 (Peter Schiff's Gold Report - The Currency War

 すでにインドや中国などが、インフレ対策として利上げを余儀なくされている。利上げすると米国との金利差が拡大し、米国から中印に流入してバブル化する資金が増えるが、やむを得ない。通貨戦争は激化するばかりだ。

▼ソフトな米国債務不履行の後、ソフトな金本位制に?

 非米諸国側のドル回避策は、ドルの代わりに相互の相手国通貨で貿易決済をするやり方で、2年ほど前から各地で行われているが、煩雑だし、相手国通貨がドルペッグしていたらドルの下落とともに減価する。長期的には、ドルの代わりにIMFのSDR(特別引き出し権)を決済通貨に使う構想もあるが、使いものになるかどうか不明だ。これらの動きは何年も前からのものだ。外貨備蓄として、ドルや米国債の代わりに金地金を貯め込む国が増えている。だが、国際通貨体制を金本位制に戻すと、今の通貨総量から勘案して、金地金は1オンス5000ドル以上の高値になるとされる。 (ドル崩壊とBRIC

(世界銀行のゼーリック総裁は11月7日のFT紙に載せた論文で、金地金と通貨の定率交換を確約する硬質な金本位制ではなく、通貨の価値やインフレの度合いを測る目標値のような役割を金地金の価格に持たせるソフトな金本位制についてG20が議論すべきだと提唱した。これなら、金相場を急騰させずに擬似的な金本位制が実現できるかもしれない。米国がソフトに債務不履行を起こした後、国際通貨制度がソフトな金本位制へ転換するという話になるが、全体として曖昧な話で、大国間の密室での談合でいつの間にか新世界秩序が決まる展開になりそうだ) (The G20 must look beyond Bretton Woods II By Robert Zoellick

 非米諸国の非ドル化の流れは試行錯誤で、なかなか進まない。「代わりの基軸通貨体制がない以上、各国が必死にドルを支えるしかない。各国が支えられている限り、ドルは崩壊しない」と高をくくる人が、世界で最も強くドル安に対抗している日本を筆頭に、世界的に多い。だが、連銀はすべての警告を無視して量的緩和に走っており、ドルはすべての警告を無視して勝手に自滅していく。

 QE2の後にQE3が続くと予測される。ドルを買い支えるとドルと無理心中するので馬鹿馬鹿しいと考え、非米側に転じる国が増えていく。最後には、ドルを支える支柱がすべて折れ、国際通貨体制はドル本位から、何らかの多極型に転換する。QE2が決まった11月3日を境に、そうならない可能性の方が低くなった。

 世界の多くの通貨がドルに連動している。中国元は公然と、日本円は市場介入によって隠然と、ドルに連動している。世界のすべての通貨がドルを意識している。世界経済はドルという敷物の上に乗っている、壊れやすい食器類のようなものだ。米国は、世界中が反対する中で、敷物を引っ張ってひっくり返そうとしている。これは世界にとって許容できるものではない。

▼非米同盟の象徴は上海協力機構

 通貨の多極化を進める非米諸国の筆頭は、中国である。現状に対して「通貨戦争(currency war)」という言葉を初めて発したブラジル政府によると、米国は、中国にドルペッグを外させるため、中国を相手に通貨戦争を始め、これが中国以外の新興市場諸国を巻き込んで通貨大戦の状態になっている。 (Brazil to oppose 'currency war'

 中国にドルペッグを外させるのが目的だとしたら、中国がドルペッグを外して米国が目的を達成した時に、中国はドルを買い支える必要がなくなってドル崩壊が起きる。米国は、通貨戦争に勝った瞬間に負けている(米国の目的が世界を多極型に転換することであるとしたら、敗北こそ成功だが)。

 ロシアは、中国より強く通貨の多極化を望んでいる。前回の記事に書いたとおりだ。中国とロシアは、両国の間にある中央アジア諸国やインド、パキスタン、イラン、アフガニスタンなども巻き込んで911のころから「上海協力機構」を作っている。上海機構は欧米から、ユーラシア中央部から米国を追い出すための多国間安保体制とみなされることが多い。 (メドベージェフ北方領土訪問の意味

 だが、上海機構が07年夏に決議したビシケク宣言(Bishkek Treaty)には、ロシアや中央アジアがふんだんに埋蔵する石油ガスの開発を軸に、加盟諸国が経済協力や市場統合していく方針が描かれている。これは、EU統合の源流となったECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)を結成する際の1951年のパリ協定とよく似た内容だと指摘されている。上海機構は、EUと違って政治統合する構想こそないものの、残りの部分ではEUと同様に、安全保障と経済の分野で統合の構想を進めている。「上海機構は、経済の新世界秩序を象徴する存在だ」と言われている。 (Gold is part of the new economic order

 ロシアのプーチンは以前から、国際原油相場を安値誘導する米国の覇権を壊し、ドル崩壊後、石油など埋蔵資源の価値を担保にロシアのルーブルを多極型の国際基軸通貨の一つにしたいと考えている。この構想は、メドベージェフも推進している。日本人の多くはロシアを馬鹿にするが、ロシアの多極化戦略はかなり深い。 (プーチンの逆襲

▼日米化するブラジル、インド、イスラム世界

 BRIC4カ国(中露印伯)の中では、ブラジルも今年初めから、かなり強い多極主義の国家戦略をとっている。ブラジルのマンテガ財務相は「上空のヘリコプターからドル札をばらまけば景気は回復する」とかつて述べたバーナンキ連銀議長に引っかけて「ヘリコプターからドルをまいても何の効果もない」とQE2を批判し、ブラジルなど新興諸国に資金の過剰流入をもたらすQE2を挙行した米国に復讐してやると宣言した。 (Brazil ready to retaliate for US move in `currency war'

 11月1日に当選したブラジルのルセフ新大統領(来年1月就任予定)は、G20サミット開催地の韓国に出発するにあたり「G20は、加盟国の一方的な通貨切り下げを罰するような強い権限を持たねばならない」と述べ、一方的にドルを切り下げるQE2を発動した米国に対し、G20の新規則を作ることで制裁・報復したいと表明した。 (Brazil Rousseff speaks on the currency war

 G20やその傘下のIMF、国連などが強い権限を持つと「世界政府」になる。ブラジルは、世界政府を肯定していると読み取れる。最近、米国を含む各地で、世界政府の財源作りにつながる「トービン税」の導入構想が語られている。米議員もFT紙上で主張している。「世界政府」は従来「英米ユダヤによる世界支配の強化」を意味し、国際市民運動に毛嫌いされていたが、近年はまったく反対で「中露やイスラム世界、アジア・アフリカ諸国が多極型で世界を管理する構想」を意味している。 (We need a Tobin tax to fund development

 中南米ではブラジルのほか、ベネズエラなど多くの国が非米的な傾向を強めている。アフリカも、南アフリカやリビアなどを筆頭に、同様の傾向だ。 (Fed cash-injection raises global concern

 独立後も英国に翻弄されたインドは、BRIC4カ国の中で最も米英追随が強く、米国の対中包囲網の一端を担う姿勢を見せている。だがインドは中国と同様、国内の貧困層が中産階級になる際の消費の拡大によって経済が高成長を続けており、インフレに悩まされている。弱くなるドルに連動して自国通貨の上昇を止め続けると、インフレが激化する。インドも中国も、これに耐え切れず、最近相次いで利上げした。インドは、政治的に対米従属を続けたくても、経済的にはもう無理だ。中国やブラジルと連携し、非ドル型の世界経済作りに協力していくしかない。 (China and India output jumps sharply

 しかも、そういうときに限って、訪印した米オバマ大統領が、インドが国連安保理の常任理事国になることを公式に強く支持したりする。オバマは、どこまでも対米従属を貫こうとする日本ではなく、耐え切れずに非米化していくインドの方を、常任理事国にしたいと推挙したわけで、隠れ多極主義的である。日本も常任理事国になりたければ、対米従属をさっさとやめて非米化すればよいだけだ(米英傀儡の官僚機構が権力を握る限り、あり得ない話だが)。米国は、あの手この手でインドを多極型世界の方に引っ張り出している。 (Obama call for top India role at UN) (中国を使ってインドを引っぱり上げる

 イスラム世界では、トルコやマレーシアが、中国との間で、ドルの代わりに相互の自国通貨を使った貿易体制を組んでいる。トルコはNATO加盟国だが、近年イスラムに目覚め、非米側への傾注を強めている。マレーシアは以前から、金本位制を意味するイスラムの伝統的な金貨(ゴールドディナール。金4・25グラムで1ディナール)の復活を国家事業にしている。マハティール元首相は10月末「通貨戦争(切り下げ競争)を防ぐには、ゴールドディナールを使うのがよい」と提案した。もはや誰もマハティールを嘲笑できない(する人は世界の現状を理解してない)。 (Use Of Gold Dinar Will Stop Currency War, Says Mahathir

 イランやサウジアラビアの政府は、以前に発表していたよりもはるかに多い金塊を持っていることを、最近になって暴露した。これらも非ドル化の一環だろう。サウジを筆頭に湾岸産油諸国(GCC)は大金持ちのくせに弱気で対米従属性が強く、通貨がドルペッグしている。GCCは、共通通貨を作ってドルペッグを外していく構想を何年も前から持っているが、実現していない。だがドル依存の対米従属の裏でサウジ王家は、ドル崩壊に備えて金塊を隠し持っていたことになる。さすがアラブ人だ。 ('Iran in no need of gold for 10 years') ('Saudi Gold reserves rose on accounting' - Jasser

▼EUや英国さえ米国に見切りをつける中で日本は?

 BRICや中南米、アフリカ、イスラム世界が経済面で非米化を目指すことは、世界が「中国を筆頭とするBRIC+途上諸国」対「米国を筆頭とする先進諸国」との対立構造になっているように見える。「通貨冷戦」の構図だ。

 しかし、先進諸国の状況を見ていくと、実はこの対立構造がすでに崩れていることがわかる。最も象徴的なのは、経済面でEUの筆頭国であるドイツが、連銀のQE2を酷評したことだ。ドイツのショイブレ財務相は11月5日、シュピーゲル誌のインタビューで、QE2について「米経済を上向かせる効果がないばかりか、世界経済を不安定にする愚策」「先進諸国と途上諸国が均衡点を探ることを困難にした」「米国は、中国の為替操作を批判するくせに、自国の為替を操作している」「米国の不況は、産業基盤を育成せず、借金で経済を回す不摂生を続けてきた米国自身の政策のせいであり、ドイツや中国などの貿易黒字国が悪いのではない」など、多方面から酷評した。 (Germany attacks US economic policy

 独財務相と役割分担するかのように、EUの通貨政策を決める欧州中銀のトリシェ総裁は、米国批判を避けつつも、欧州が連銀の量的緩和策に追随する必要はないと表明した。英国や日本の中央銀行は、米連銀に追随して量的緩和を続けているが、EUは米英日から一線を画した。EUは、関ヶ原の合戦の直前に徳川側に転向した大名のように、ドル崩壊の悪影響を避けようと、静かに非米側に転換している。EUは経済だけでなく、安全保障の面でも、ロシアとの協調を強めるなど、対米従属から静かに離れている。 (Germany, China Despise QE. Currency War Commeth) (Trichet avoids transatlantic dispute

 EU以外の先進国のうち、オーストラリアは利上げしたので、ドルにつき合うつもりがなさそうだ。豪州は資源輸出国なので、ドル安になっても昨今のように資源価格が上がっている限り困らない。カナダは、米国と市場が統合されているので米国の不振の影響を受けやすいが、同時に資源輸出国でもあり、その点は豪州と似ている。

 英国は、米国と一体の債券金融バブルに乗ってきただけに、米国と一蓮托生であり、米国に追随して量的緩和策をやっている。しかしその一方で英国は、政治面で米国覇権(米英同盟)に見切りをつけ、史上初めてフランスと軍隊を統合し、今後英国が海外派兵するときにはすべて英仏合同軍で行うことを決め、11月2日にフランスと条約を締結した。これは、英国が米国覇権から離れ、EUに統合されていく方向に転換した瞬間だった。 (Cameron: one British+French brigade) (Anglo-French defence co-operation - Entente or bust

 こうしてみると、先進国の中で徹頭徹尾の米国追随を続けているのは、わが日本だけだ。日銀は量的緩和を続行している。外交的にも、日本は反中反露で、非米同盟には決して加わらない姿勢を貫いている。だが、米国の覇権が崩壊するのはもはや不可避だ。日本はどうするのだろう。

 一つ考えられることは、日本政府が円高ドル安を嫌うのは、米国との関係というよりも、日本の最大の貿易相手である中国がドルペッグしているからではないかと考えられる。今後もし中国がドルペッグをやめ、円ドルと円人民元の為替が急速に乖離していった場合、日本は円元為替の方をより重視するのではないか。その時点で日本は、崩壊するドルにつき合って量的緩和を続ける必要はなくなる。ドルが崩壊した後、日本は、中国中心のアジアの経済新秩序の中に、遅ればせながら入れてもらう道に転換すると予測される。その転換がスムーズに進むことを祈るばかりだ。



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