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日本の政治再編:大阪夏の陣

2010年4月22日   田中 宇

 世界の覇権体制は、G7に象徴されていた米英中心から、G20に象徴される多極型に転換している。その一環として東アジアの国際政治体制も、今後数年から十数年の間に、米国中心から中国中心に転換していきそうだ。日本も当然、この流れの影響を受けている。

 日本の政治は今、米英中心型の対米従属を旨とする自民党が下野し、多極型の中国中心の時代に対応しようとする小沢一郎の民主党が政権についている。だが、まだ米国が延命しているうえ、自民党時代に日本を動かしていた官僚機構(とその外縁部であるマスコミ)の対米従属へのこだわりが強く、抵抗勢力となっているため、沖縄基地問題や円高容認策など、鳩山政権が当初掲げた戦略の多くが頓挫している。鳩山政権の終焉が近い感じが高まっている。

 しかし、4月に入って「鳩山以後」の政局を目指して始まった、いくつもの新党結成の動きは、いずれも小沢・鳩山が果たせていない「多極化対応」の策略を受け継いでいる。今回のキーワードは「地方分権」であり、その中でも特に「大阪」である。

 たとえば、自民党を抜けて新党を結成しそうな舛添要一・参院議員は、鳩山批判を展開する一方で「大阪を香港にする」を骨子とした「一国二制度」を掲げている。一国二制度は、民主党が以前から掲げている地方分権の構想のキーワードだ。舛添は鳩山を批判しつつ、日本の国体という、政策の最も重要な部分で、鳩山と同じことを主張している。

 しかも舛添は、地方分権に関して鳩山よりも過激だ。鳩山の民主党が「一国二制度」という言葉を使ったのは、沖縄に対する地方分権政策などを決めた「沖縄ビジョン」の中である。沖縄は、独立王国だった明治以前、中国と日本(薩摩藩)の両方に帰属する「両属」の国是を採っていた。民主党の沖縄ビジョンは、沖縄の両属性の伝統という特殊事情を、日本の地方分権化の起爆剤として使う意図で、沖縄に一国二制度を導入すべきだと書いている。

(民主党がまだ野党だった05年版の沖縄ビジョンでは、この意図が比較的明確に打ち出されていたが、沖縄の両属復活が中国への国権譲渡にあたると批判され、政権取得が視野に入ってきた08年版では、曖昧な表現に変えられた) (沖縄から覚醒する日本

 このように民主党は、沖縄の特殊性をふまえて「一国二制度」の導入を提唱した。舛添は、もっとラディカルに、歴史的に日本の外縁部だった沖縄ではなく、江戸時代まで日本の中心だった大阪で一国二制度をやるべきだと主張し「大阪独立国構想」が日本を救う「秘策」になると主張している。日本分割の主張である。 (日本新生の秘策「大阪独立国構想」を提言する 「一国二制度」で真の地方活性化を 舛添 要一

▼どの新党も地方分権を掲げる

 自民党を脱党して新党「みんなの党」を立ち上げた渡辺喜美も、以前から大胆な地方分権化をうったえており、みんなの党の綱領にも、それがうたわれている。山田宏・杉並区長や中田宏・元横浜市長ら、地方自治体の首長たちが4月18日に結成を発表した「日本創新党」と、大阪府の橋下徹知事らが4月19日に結成した地方政党「大阪維新の会」も、当然ながら地方分権の推進を掲げている。 (みんなの党「脱官僚」「地域主権」「生活重視」) (日本創新党「国家の自立」「地方の自立」「国民の自立」

 橋下の大阪維新の会は、大阪府下の自治体を独自に合併改組し、東京都に匹敵する「大阪都」にして、地方分権の先駆例になろうとするものだ。舛添の「大阪を香港にする」という構想は、橋下が言い続けて来たこととかなり近い。

 橋下の新党は「アジアとの競争」「関西の視点」「住民に近い基礎自治体」の3つを掲げているが、これは「対米従属を脱してアジア重視」「官僚支配を脱して地方分権」という、鳩山と小沢の民主党が掲げてきたこととも、本質的に同じである。あちこちで新党が結成され、政治主張が多様な状態になっているかに見えるが、実はそうではない。

 平沼赳夫や石原慎太郎らが結成した新党「たちあがれ日本」も、表向きは外国人参政権や夫婦別姓など民主党の政策に反対しているが、この党には中曽根康弘元総理が関わっている。中曽根は以前から「日本は、米国、中国の両方と等距離外交をすべきだ」と主張しており、考え方は小沢一郎と大差ない。たちあがれ日本に入った与謝野馨は中曽根の元秘書だが、小沢一郎と近い。園田博之もアジア重視で、北朝鮮との外交回復を提唱したこともある。 (たちあがれ日本・結党趣旨

 半面、平沼赳夫は親台湾で、ウイグル独立運動を支援する反中国派で、石原慎太郎も反中国だ。親中国派と反中国派が呉越同舟した、たちあがれ日本は、拙速に作られたと揶揄されているが、実はこれは、右派の勢力をまとめて対米従属から離脱させようとする意図的な組み合わせかもしれない。中曽根はそのぐらいのことを考えうる。石原も、大展開になる話でなければ、東京都知事の任期半ばで新党に入るわけがない。

 民主党が勝った昨夏の選挙戦でも、自民党は、大阪府の橋下知事や、宮崎県の東国原英夫知事に接触し、2人を筆頭とする地方分権論者の地方首長たちを味方につけ、何とか敗北を防ごうとした経緯がある。今夏の選挙で、今度は鳩山の民主党が負けるかもしれないという今、再び橋下や東国原といった地方分権論者が台風の目になっている。

 舛添も今回、橋下と東国原に接触した。首相になりたい舛添は、橋下や東国原を誘って地方分権策を掲げた「第三極」的な新党を立ち上げて党首になり、予測される地方分権化の嵐の中で新党の党勢を伸ばそうとしたのかもしれない。舛添が自民党から大勢の脱党者を連れて新党を結成するならと、渡辺喜美の新党も合流する構えを見せた。しかし、橋下は独自に地方政党を立ち上げて中央政界と一線を画し、山田・中田らも対抗する新党を作るに及んで、舛添の計画は(とりあえず)失敗した。(舛添は4月21日、あらためて新党結成の意志を表明した)

▼官僚支配と対米従属の行き詰まりを打破する秘策

 こうした一連の動きから見えるのは、今の日本の政治の中で、地方分権が大きなテーマとなっている状況だ。国民生活の中で、地方分権が差し迫った必要性として感じられることは少ない。国民の多くは、地方分権と言われてもピンとこない。「日本は狭いのに、何で権力の分散がさらに必要なのか」とか「民力の地盤沈下が激しい地方には、分権化で与えられた権力を有効利用できる能力がない」といった主張もある。

 それなのに、こんなに地方分権の必要性が取り沙汰される理由は、地方分権を推進すると、今までの日本で非常に強い権力を隠然と持っていた官僚機構を解体できるからだ。戦後の日本の官僚機構は、対米従属の国是を維持する機関として機能し「おみこし」的に自民党を担ぎつつ政府の事務局として位置することで、国家権力を握っていた。

 しかし今、官僚にとって真の「お上」である米英の覇権が崩壊過程にあり、官僚機構はあちこちで機能不全に陥っている。在日米軍はグアムに移転する気になっており、日本では防衛庁が省に昇格して防衛能力が向上しつつあるのに、いまだに日本政府は巨額の思いやり予算を無駄遣いで出してまで、何とか米軍を金でつって駐留してもらっている。 (官僚が隠す沖縄海兵隊グアム全移転

 日本は経済が成熟し、円安より円高の方が望ましいのに、日銀や財務省は、ドルを守ることを優先して「デフレ」を重大視する歪曲策をやって円を弱めている。自民党政権の最後の3年間には、自滅的に赤字策が拡大され、民主党が政権をとって対米従属を離脱しようとする時には財政が破綻寸前になっているという、対米従属派の最後っ屁的な策略も行われた。官僚機構の外縁部門であるマスコミも、米国の危機的状況や世界の多極化傾向についてはなるべく報じない一方、中国や小沢・鳩山をできるだけ悪いイメージで描くことに力を注いできた。

 マスコミのプロパガンダ機能を握っている官僚機構は、自分たちを無力化しようとする政治勢力を潰しにかかるので、かなり強い。しかし、日本はこのままではダメだと思う政治家は、官僚機構を大規模に解体再編しない限り日本は立ち直れないと、気づくようになった(今の状況で、そう思っていない政治家は、無能か官僚の傀儡か私利私欲派だ)。

 そして、大都市圏で集めた税金を地方の公共工事に回して地方経済を回すという戦後の土建行政の体制が、成長鈍化による財政難によって進められなくなり、その対策として地方分権の構想が出てきたのに乗って「地方分権を大胆に進めることで、東京の官僚機構の権限を剥奪し、各地方に分散してしまう」という官僚制解体構想が、ここ数年、隠然と出てきた。地方分権になれば、マスコミに対する行政的な権限も地方に分散される。与党時代の自民党も地方分権構想を作っていたが、かなり大胆なものだった。

 日本の国是は明治以来、中央集権の強化である。それが100年以上続いた今、地方には、人材も独自文化も進取の気性も、ほとんど残っていない。地方に受け皿がないのだから、地方分権はもともと「地方切り捨て策」である。しかし、そこに「官僚解体」という隠れた目的が加わったことで、地方分権の主張は一気に活気づいた。舛添が、地方分権の先駆例となる「大阪独立」を「秘策」と呼んだのは、誇張ではない。

▼現実になる「沖縄から覚醒する日本」

 県知事の中には官僚出身者も多く、彼らの多くは地方分権構想をスローガンだけの表層的な内容に薄めようとした。それに対し、中央政界からは、選挙のたびごとに橋下や東国原といった数少ない人気のある独立系の知事を大騒ぎして盛り立てる動きが出て、地方の人々が地方分権に目覚めるのを誘発している。

 鳩山の民主党は、この手の人々を奮起させる誘導策を、すでに沖縄で「普天間基地問題」としてやって、成功している。民主党は、野党時代から「沖縄ビジョン」で普天間基地の県外・国外移転を求め、政権に就いた後は、県外・国外移転を基調政策としつつ鳩山が「沖縄の民意を重視する」と言って沖縄県民を扇動した。鳩山が官僚とマスコミによる敵対策の中で動けなくなり、指導力が落ちた今では、沖縄のほとんどの人々が「普天間基地を県外(国外)に移転するまで戦う」という意志を持っている。

 普天間基地問題が喧伝される中で、日本人は全国的に「地元に米軍基地が来たら大変なことになる」「そもそも日本に米軍基地が必要なのか」と考え始めた。普天間基地の移設先として名指しされた鹿児島県の徳之島では、大半の島民が移設に反対し、猛烈な反対運動を始めている。普天間基地がある限り、沖縄県民は基地追い出しの運動を続けるだろうし、本土にどんな移設先が出てきても、地元の人々が反対する。

 硫黄島など無人島への移設には「隠れ多極主義」の米軍が反対する。最後には、米軍基地に日本から出ていってもらうしかない。米軍は、とっくに出ていく気になっている。中国は古来、日本を占領しようと考えたことはない(元寇は蒙古人)。日本には立派な自衛隊がある。もともと米軍の駐留は必要ない。「沖縄から覚醒する日本」が現実のものになりつつある。 (沖縄から覚醒する日本

 ここで当然「与党や首相には権力がある。民主党が米軍に出ていってほしいのなら、米国にそう言えばよい。沖縄県民の反基地運動の誘発などという回りくどい方法は必要ないはず」という疑問が出る。しかし実態は、そんなに理想的ではない。

 たとえば最近、日本の外務省が軍事などに関する過去の日米密約の文書を破棄し、政治家や国民に知らせないようにしてきたことが、民主党政権によって暴露されている。軍事だけでなく、70年代にドル支援のために日銀が巨額資金を米連銀に無利子で半永久的に貸し出していた件も、日本側は文書を破棄していた。つまり官僚は、首相や議員に大事なことを教えないようにしてきた。首相や大臣は、マスコミや世論に非難されぬよう、うまくやる必要があるが、そのための情報や外交ルートなどは、すべて官僚が握っている。官僚は政治家が丸裸だと知りつつ、何でもお申し付けくださいといんぎんに言う。

 同様の事態は米国でもある。オバマはアフガニスタンから撤退したいが、策略を持った側近に隠然と阻まれている。軍産英複合体が作った米国の英米中心主義の体制を壊すため、米中枢の多極主義者は、軍産複合体の一員のようなふりをして権限を握り、イラク戦争やイスラム過激派扇動などを過剰にやって失敗させるという、手の込んだ策略を展開した。オバマの顧問であるブレジンスキーは「世界的に人々が政治覚醒する時代が来た」と言ったが、これは彼自身を含む多極主義者が、世界的に人々の反米感情や独立精神を扇動し、世界を多極化する戦略である。普天間や地方分権の問題で、日本の民主党などがとっている戦略は、ブレジンスキーのものとよく似ている。 (世界的な政治覚醒を扇るアメリカ

(その意味で小沢一郎は隠れ多極主義の対米従属だといえる。かつて小沢の師匠の田中角栄は、多極主義者だった米国のニクソンに誘われて日中友好をした。土建屋の角さんは、中国の巨大なインフラ整備事業の潜在需要に飛びついた)

 沖縄県民を不可逆的にその気にさせた時点で、民主党の戦略は成功している。小沢にとって鳩山が「駒」だとしたら、鳩山政権が短命に終わってもかまわない。次の選挙で民主党が負けても、その次に出てきそうな政党の多くが「地方分権」「アジア重視」を掲げているのなら、敗北すらかまわないことになる。小沢の戦略が失敗しうる最大の可能性は、ひょっとして米国の覇権が延命・復活し、日本で対米従属派が巻き返すことだろう。

▼大阪の異様なパワーを再び

 話を地方分権に戻す。私が「地方分権問題は、沖縄基地問題の延長線上にある、ブレジンスキー型の国民扇動戦略だ」と最初に思ったのは、昨秋、政権交代後「東アジア共同体」「対等な日米関係」など多極主義的なにおいのする方針を打ち出した民主党の本質を調べ、民主党の沖縄ビジョンと地方分権策(改憲案)を読んだときだ。私は「民主党の隠れ多極主義」という記事を書いた。 (民主党の隠れ多極主義

 そこには、橋下や東国原も登場するのだが、私が抱いた「沖縄基地問題の延長線上で地方分権問題が煽られていく」という予測は、今回、鳩山政権が弱くなったのを機に、地方分権を掲げる新党結成の動きがいくつも出てきたことで、一歩現実に近づいた。

 地方分権策の先駆地として、大阪などの関西はうってつけだ。関西は、首都圏に次ぐ大都市圏で、江戸時代まで日本の中心だったという誇りと、独自の文化が、人々の中に存在する。関西は1970年代以降、多くの企業が大阪から東京に本社機能を移転した結果、経済的、人材的に危機に陥っており、人々の中に潜在的な危機感がある。

 大阪府下の自治体は、大赤字で財政破綻寸前のところが多く、それが橋下府知事らの危機感の原点になっているが、大阪の財政難の原因は、多くの企業とその社員が東京に移り、税収が減ったのに、以前と同じ財政支出を続けたためだ。その点、大阪の役人や人々(有権者)は、危機感が足りない。「どうせ東京にはかなわない」というあきらめが過半かもしれない。

(私は東京出身で、仙台の大学を出て、1990年代前半に大阪で記者勤務をしたが、当時の大阪、特に本町以南の雰囲気が、東京や東北の街と非常に違って風変わりなことに驚いた。大阪人は商売も巧みで、東京の大銀行が「なにわ金融道」に引っかかり、何百億円も不良債権を抱えていた。だが先日、久しぶりに大阪ミナミの商店街を歩いたところ、東京の真似しかできない仙台と似通った雰囲気の、小じゃれた街になったのを感じ、大阪はすっかり「地方都市」になったと思った。大阪の異様な独自パワーは消えつつある)

 だが、歴史的背景から考えて、関西人は扇動されれば「自分たちこそ上方」「東京をしのぐ街になる」という気概を持つだろう。東京が対米従属にからめ取られている間に、アジアから独自の経済誘致ができれば、舛添の言うとおり、大阪は香港的な発展ができる。大阪は従来からアジア指向だったが、これまでの地方自治の枠組みでは、スローガン以上のことはほとんどできなかった。日本が明確な地方分権策をとれば、この限界を打破できる。大阪が、地方都市に成り下がるのがいやなら、国策の革命を起こすしかない。そして、橋下や小沢や舛添は、大阪人・関西人を扇動し、革命にいざなおうとしている。

 沖縄は、この革命の先駆地であるが、沖縄は地理的・歴史的に日本の辺境なので、沖縄の革命は本土に伝播しにくい。そのまんま東の宮崎県も、指導者的には革命拠点になりうるが、地理的にめだたない場所にあり、宮崎で革命が起きても、東日本の人はピンと来にくい。その点、大阪は影響力がある。東京のテレビに出ている関西人の芸人たちが「大阪の独立を支持するで」「地方主権や」と言い出せば、大騒ぎになる。

 今後の地方選挙で、橋下新党が大阪府下や関西一円の地方議会の多数派になっていけば、地方からの民主的な革命(体制転換)になりうる。関西の動きに呼応し、各地で地方分権の要求が起こり、東京政府の中央集権的な官僚制度が「旧体制」として打倒の対象になる。こうした地方からの革命(政権転覆の反乱)が起きれば、それは明治維新以来のものだ。沖縄、大阪、宮崎での地方分権運動の連携は、かつての「薩長同盟」になりうる。日本人は、陶酔の対象を「坂本龍馬」など美化(誇張)された昔の物語に求める必要はない。明治維新と並ぶ大転換の物語が、今の日本で始まっている。

(またもや東北人は、情報不足から旧体制側を支援して失敗する「奥羽列藩同盟」の誤算を繰り返すかもしれない。今回の動きの中でも、東日本の動きはにぶい。民主党が仕掛けた北海道の地方分権運動もしりすぼみだ。残念なことに、鈍感な東北は「永遠の田舎」だ)

 今回は、選挙で選ばれた首長や議員たちがリーダーだが、明治維新のリーダーたちは選挙で選ばれたわけではない。その意味で、今の日本で展開している地方分権革命は、明治維新よりフランス革命に近いかもしれない。日本でもようやくフランス革命型の民主的な下からの体制転換が起こりうる。

▼中国の介入が心配

 今回の体制転換で気をつけねばならないのは、失敗すると中国の日本に対する影響力を強めてしまうことだ。地方分権運動は、多極化する世界の中で、東京の中央集権の官僚政府が対米従属を頑迷に貫いて失敗していることを受け、地方勢力が分権とアジアへの接近(多極化への対応)を模索して運動を起こしている。はからずも米英中心主義と多極主義の対立軸になっているが、内乱がひどくなると、中国が「日本の安定化を助ける」という名目で、地方分権勢力を隠然と支援する事態になる。中央集権体制の解体である地方分権は、うまくやらないと国力がばらばらになり、中国など外国勢力に付け入るすきを与える。

 このように書くと「嫌中派」(無自覚に対米従属する人々)から「やっぱり中国は日本を支配したいんだ」と反論が来るだろう。だが、そもそも今回の事態は、米国が隠れ多極主義の方向に走り、日本の対米従属の国策が破綻しているのに、日本政府(官僚機構)が国策を変えず、日本を危機に陥れているところから起きた。中国に介入されるとしたら、それは日本人が自国を行き詰まりから脱却できないからだ。その一因は、国民の多くがマスコミ(官僚機構の一部)に踊らされ、無自覚に対米従属を信奉する嫌中派になっていることだ。

(最近また、中国軍が日本の軍艦に接近する事件の報道が相次いでいる。こうした報道の中に、日本人の中国嫌いを煽って対米従属を延命させるための誇張や歪曲が入っていないかどうか、考える必要がある。私も日本人として、思考が浅いくせに偉そうな中国人に腹が立つときがあり、心情的には中国に対する脅威感は理解できるが、官僚機構は、この漠然とした日本人の対中脅威感に付け入って歪曲報道をしている)

 中国は、ミャンマー、カンボジア、ラオス、中央アジア諸国、パキスタン、北朝鮮、モンゴルなどの国々に、経済と政治の両面で隠然と介入している。いずれの国も経済や政治の基盤が脆弱で、国として不安定なので、中国の介入を招いている。中国は、自国周辺の安定のために介入せざるを得ないとも言える。日本は、沖縄の両属をのぞき、これまで一度も中国に介入されたことがない。今後、日本が中国に介入されるとしたら、それは日本がミャンマーや北朝鮮、カンボジアなみの、不安定な国に成り下がることを意味している。中国を嫌悪するひまがあるのなら、むしろ、中国に介入されない対米従属以外の日本の国家戦略について考えた方がよい。



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