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民主党の隠れ多極主義

2009年11月6日   田中 宇

この記事は「沖縄から覚醒する日本」の続きです。

 9月に日本で民主党政権ができて「東アジア共同体」とか「対等な日米関係」「国連重視」など、国際情勢分析をしている私から見て非常に気になるキーワードを使い出した。私の分析では、世界は米英覇権体制から、地域ごとの国家統合体の集まりとしての多極体制に転換しつつあるが「東アジア共同体」は多極体制の世界を見越した国家連合体構想に見える。「対等な日米関係」は、対米従属からの離脱であり、米国の覇権崩壊を見越した政策に見える。「国連重視」は、多極型の世界体制が国連を「世界政府」として持つことになりそうだという分析と重ねると興味深い。

 民主党がこれらのキーワードを使う背景に何があるのか。遅まきながら、民主党がどのような戦略を持っているのか、自分なりに調べてみた。すると、民主党ウェブサイトから、私に驚きを与える戦略草案が2種類見つかった。一つは2004年6月に発表された憲法改定の起案書「憲法提言中間報告」であり、もう一つは1999年から4次にわたって改定されてきた「民主党沖縄ビジョン」である。沖縄ビジョンについては前回の記事に書いた。今回は憲法提言について書く。 (創憲に向けて、憲法提言中間報告民主党憲法調査会 2004年6月22日

▼東アジア共同体を前提とした憲法改定案

 憲法提言についての驚きの一つは、アジアでのEU型の国家統合が起きることを前提に、憲法改定を行うことを提起している点だ。「21世紀の新しいタイプの憲法は、主権の縮減、主権の抑制と共有化(中略)に向けて邁進する国家の基本法として構想されるべき」と書いている。民主党は、政権就任後に打ち出した「東アジア共同体」の構想を、すでに2004年の段階で持っていたことになる。鳩山政権は、東アジア共同体によって日本がどう変わるのか明確にしていない。だが実は、民主党政権は、日本が中国や南北朝鮮、東南アジアなどとEU型の国家統合、国家主権を共有化することを、国民投票を経て実施するつもりであることが、憲法提言からうかがえる。

 憲法提言には「東アジア共同体」という言葉は一度も出てこないものの「日米関係一辺倒の外交と安全保障政策を脱して、21世紀の新時代にふさわしい『アジアの中の日本』の実現に向かって歩み出すべき時を迎えている」と書いてある。これは鳩山政権が打ち出した方針と一致している。

 憲法提言を批判する人々は、民主党が日本の主権を中国に売り渡そうとしていると指摘している。世界情勢全体の動きを見ずに判断すれば、そうした指摘が出てくるのは自然だ。だが、世界はちょうど憲法提言が起草されたころから、米国覇権の崩壊と多極化の傾向を見せ始めていた。アジア諸国(ASEAN+3)は、02−03年ごろから、共通通貨を作る準備段階であるアジア通貨バスケットやアジアボンド構想を開始していた。04年1月には米国のパウエル国務長官がCFRのフォーリン・アフェアーズ誌に「米国はロシア、インド中国を支援する」と主張する論文を書いた。今に続く米国の隠れ多極主義の流れを私が最初に感じたのはこの時だ。04年8月には、米国が日本に外交的な自立を求めているように感じられ、私は「自立を求められる日本」という記事を書いた。 (静かに進むアジアの統合) (消えた単独覇権主義) (自立を求められる日本

 つまり民主党が憲法提言を起草した時期は、米国覇権の崩壊過程が始まり(別の言い方をすると、米国の多極主義者が米英覇権体制を自壊させ始め)、世界が多極化の傾向を見せ始め、アジアは統合に向かう動きを開始し、米国は日本にやんわりと外交的な自立を求め出したころである。東アジア共同体は鳩山が最初の発案者ではなく、もともとASEANが主導であり、05年末に最初のサミットが「ASEAN+3サミット」として開かれた。民主党がEU型アジア統合を見越した憲法提言を書いたのは、ちょうどASEANが東アジア共同体構想を立てていた時期と重なる。

 EUは10月末の加盟国首脳会議で「EU外務省」(External Action Service)の創設を決めた。EU各国は、国家主権の一部である外交権をEUに譲渡し、主権の共有化を進めている。EUは、軍事(安全保障)と外交を一体のものと考えており、EUの外交共有化は軍事の共有化につながる。いずれアフガニスタン占領の失敗が確定するころに、NATOの代わりにEU軍が立ち上がってくるだろう。EU型の統合構想は中南米やアフリカにもある。このまま世界が多極型に転換していくとしたら、欧州以外の地域にも通貨・外交・軍事などの国家主権を共有化する動きが加速する可能性が大きく、東アジア共同体によるアジア統合はその一つになりうる。こうした視点で見ると、21世紀は国家統合の時代だから、主権の抑制や共有化ができる憲法を作るべきだという民主党の憲法提言は、時代を先取りしたものに見えてくる。 (Deciding Europe's place in the world

 米国が繁栄する強い国であり続けるなら、日本はアジア統合に参加せず対米従属を続けるという選択肢がとれるが、実際には、米国の覇権は不可逆的に崩壊している。実は、できれば対米従属を続けたい国は日本だけでなく、ASEANや欧州などの多くの国がそう思い、中国ですら対米輸出頼みの経済対米従属を続けたいと思っている。だが、米国が崩壊していくので、各国は仕方なく対米従属をあきらめ、代わりに地域統合と多極型世界への移行の方を選んでいる。アジア統合参加か対米従属かという選択肢は、統合参加か鎖国かという選択肢に変わりつつある。自民党は鎖国でも良いと思っていたかもしれないが、民主党はアジア統合参加の方を選んだ。だから、この憲法提言が書かれたのだろう。

 とはいえアジア統合には未解決の問題が多い。一つは、統合後のアジアでは、大国化した中国の発言力が圧倒的に強くなり、日本など他の国々が中国に抑圧されるという、右派の人々が根強く持っている懸念だ。アジア統合は、独、仏、英、東欧、北欧、ベネルクスといった多数の勢力がおおむねバランスをとって均衡しているEUのようにはいかない。

 また、欧州統合は民主主義とキリスト教文化という共通性を持った国々の集まりだが、アジアは各国間の経済的、政治的な差異が大きい。アジア諸国間の経済格差は縮小し、中産階級が増えることで人々の生活スタイルがアジア諸国間でそれほど違わないようになるかもしれず、経済面では将来的な統合を可能にする変化が期待できるが、政治面は不透明だ。アジアが統合していくと「なんで中国だけずっと一党独裁なんだ?」という疑問が中国人の中に増すだろう。中国が内側からの民主化を進めないと、アジア統合は進みにくい。中国政府は国民が新たな政党を立ち上げることを禁じているが、人的往来の自由化が進むと、中国人が日本に来て中国の野党を結成するなどという展開になりかねない(日本の右派は、その党を支援すれば中共を下野させられるかも)。

▼憲法9条の代わりに国連中心主義

 民主党の憲法提言の特筆すべき2点目は、徹底した「国連中心主義」である。提言は「前文に謳われている国際協調主義は、国連憲章の基本精神を受けたものであり、第9条の文言は国連憲章の条文をほぼ忠実に反映したものである」と書いて、国連と日本国憲法の理念は近いと指摘した上で、新憲法は「国連安保理もしくは国連総会の決議による正統性を有する集団安全保障活動には、これに関与できることを明確に」するべきだと主張している。これは国連決議に沿った自衛隊の海外派兵を意味する。

 民主党は今年8月の総選挙前に出したマニフェストでも「国連を重視した世界平和の構築を目指し、国連改革を主導するなど、重要な役割を果たす」「わが国の主体的判断と民主的統制の下、国連の平和維持活動(PKO)等に参加して平和の構築に向けた役割を果たす」と書いており、憲法提言の趣旨が踏襲されている。 (民主党の政権政策マニフェスト

 憲法提言は、現行憲法9条について批判的だ。日本は不戦憲法を持っている一方で、実際には日米安保条約で米軍に頼っており、その米軍は世界中で(侵略的な)戦争を繰り返している。憲法提言は、こうした状況を危険な憲法の「空洞化」であると指摘し「憲法の条文を固持することに汲々として、その形骸化・空洞化を放置する立場はとらない」と明言している。空洞化した憲法9条の代わりに、国連と一体化した自衛隊の運用を行うのが憲法提言の趣旨だ。「緊急やむを得ない場合」「国連の集団安全保障活動が作動するまでの間」だけ、日本の軍隊が自衛のために戦争できるという、国連憲章上の「制約された自衛権」を明記すべきだとしている。

 国連は、従来は米英覇権体制の道具に使われることが多かった。朝鮮戦争や湾岸戦争は米軍が国連軍となって戦争したし、フセイン政権のイラクやイラン、スーダンなど、米国が敵視する国々に対する制裁の多くは、国連の名を借りて行われた。その視点に立つなら、対米従属も国連中心主義も大した違いはない。

 しかしここでも、最近の世界の流れを見ると、意味が以前とは大転換している。近年の国連、特に総会や人権理事会は、アラブ、アフリカや中南米の反米的な発展途上国に乗っ取られ、むしろ米英を覇権の座から引きずり下ろすことに一役買っている。先日、経済問題を協議する世界最上位の機関が欧米中心のG8から中露優勢のG20に替わったが、G20は途上国主導の国連と親和性が強く、国連とG20は多極型世界の「世界政府」的な最高意志決定機関になりつつある。 (G20は世界政府になる

 そのような世界の流れと重ね合わせると、民主党の憲法提言の国連中心主義は、米英中心体制を崩して世界を多極型に転換する多極主義とほとんど同じであることが見えてくる。国権共有化の是認による東アジア統合推進と合わせ、民主党の憲法提言は、日本の国是を米英中心主義から多極主義に転換しようとしている。憲法提言からは、民主党が米国の隠れ多極主義に同調している(もしくは隠れ多極主義戦略の成功を予測していた)ことが感じられる。

▼民主党と自民党の地方分権

 民主党の憲法提言の重視すべき3点目は「地方分権」である。すでに分析した外交面の話とつなげて一言でいうと「日本は対米従属をやめて自立する。地方は東京従属をやめて自立する」ということだ。憲法提言に載せた民主党の地方分権政策は徹底している。国家主権にかかわる外交や司法などをのぞく大半の分野で、地方の道州政府に立法権や課税権、税率決定権などを与え、政府の形も知事と議会で構成する既存形式から離れて自由に住民意志で変えられるようにするという。参議院を地方代表制の議会に改組する案も入れてある。

 この大胆な自治制度が実現すれば、企業や人々は東京より税金が安い自治体に引っ越したくなるし、行政の制度や気風が自分に合った自治体に住みたくなる。地方の自治権が少ない日本と異なり、実際に地方自治が行われている米国では、自分に合った制度や気風を持つ地域を探して引っ越し、そこで職探しから始めていく人がかなりいるが、日本も地方分権になると、米国風の「好きな地域に引っ越して住む」という生き方をする人が増えるかもしれない。死に体となった日本の地方が再活性化しうる。国土の発展が地域的に均衡していき、東京の高すぎる地価も下がる。

 民主党は今夏のマニフェストでは「地方分権」をさらに強めた言葉として「地方主権」を掲げた。「霞が関を解体・再編し、地域主権を確立する」として「明治維新以来続いた中央集権体制を抜本的に改め、地域主権国家へと転換する」「中央政府は国レベルの仕事に専念し、国と地方自治体の関係を、上下・主従の関係から対等・協力の関係へ改める」「地方の自主財源を大幅に増やす」「国の出先機関、直轄事業に対する地方の負担金は廃止する」などと書いている。

 地方分権の国家戦略は、自民党政権が1990年代後半から採っていたものであり、民主党の独自政策ではない。自民党の地方分権の目標も、民主党とほぼ同様で「外交や安保、通貨など国家の根幹に関わる分野以外は地方に権限移譲する」ということだ。権限を移譲される側の自治体(市町村、基礎的自治体)を強化するため、自民党政権は95年から市町村合併(平成の大合併)を実施して個々の市町村の財政力を強めた。霞ヶ関再編では、自治体に指図する担当だった自治省を01年に総務省に統合した。

 日本が地方分権を必要としている最大の理由は「経済成長の鈍化による財政難」である。高度成長期の日本は、国を挙げて工業化を行い、この儲けを国が地方に配分し、地方財政の不足分を補っていた。しかし90年代以降、成長の鈍化で国も地方も金がなくなり、自治体の財政難の度合いを示す「経常収支比率」の全国平均値は、91年に約71だったのが、95年には約85、07年には93にまで上がった。07年度には、全国の1827市町村のうち948が経常収支比率90以上となっている。経常収支比率は、80を超えると財政難、100以上は継続困難な危機である。 (経常収支比率、過去最悪――地方財政白書) (平成19年度経常収支比率ランキング

 自民党は今夏に政権を失うまで約10年、地方分権政策を推進したが、うまく行かなかった。その最大の理由は、霞ヶ関の官僚が権限を手放すことに抵抗し、分権政策を骨抜きにしたことだ。自民党は日本の長期的な大構想として地方分権を描いたが、それを実施する事務方の官僚制度は、各地方にある出先機関に東京から権限を移すだけの政策(中央分権)や、中央から地方への財政の流れのうち、地方が自由に使える金を多く減らして中央が使途を決める金は残すやり方で、地方分権を腑抜けにした。 (「地方分権」自民党は何をやってきたのか

▼財政破綻を前に地方分権の乱を起こす知事たち

 自民党の国会議員は、国のお金をどれだけ地元(建設業主体の地方経済)のためにとってきたかを競うという、地方分権とは逆の中央集権の土建政治の構図の中で選挙資金や票集めをしてきた。小泉元首相は就任後、多くの古参国会議員に引導をわたして辞めさせ、自らに権力を集中させつつ「自民党をぶっこわす」と言って土建政治の中央集権制をやめようとした。しかし、前述の官僚組織による巧妙な妨害があり、自民党の地方分権は進まなかった。

 06年に小泉が辞めた後の安倍、福田、麻生の3政権は、政権自体が安定せず、地方分権策どころではなかった。その間にも自治体の財政は悪化した。自治体は、財政赤字が一定以上の比率になって自主再建ができなくなると「財政再建団体」に指定され、国の監督下に置かれ、自治権を剥奪された状態で長い再建に入らねばならない(06年夏の北海道夕張市が一例)。 (財政再建団体 wikipedia

 自治体の財政状況を全体的に見ると、市町村よりも道府県の方が悪い。北海道、宮城県、茨城県、大阪府、岡山県などが、このままだと2011年までに財政再建団体に指定されてしまいそうだ。地方分権策の一環として「道州制」が喧伝されているが、11年までに都道府県制度を道州制に転換することは困難だ。財政破綻していない県の議会や住民は、財政破綻した県と合併して道州を組むことに反対するだろう。自治体制度の改革は、住民もしくはその代表としての自治体の議会の同意が必要なので、財政破綻する府県が増えるほど、道州制への移行は難しくなる。そもそも道州制は、仙台、名古屋、広島、福岡など、各地方の中心都市に地方出先機関が置かれている霞ヶ関の政府官僚機構の区分に近く、官僚による地方分権のやったふり(中央分権)のごまかしに使われかねない。 (岡山県が再建団体指定の危機 '08/5/30) (栃木県財政「再生団体」転落の危機 2008年8月10日) (宮城県、11年度にも破綻 財政再生団体へ 中期見通し 2009-03-13

 各道府県の知事は、財政再建団体に指定されれば自治を奪われ、非難される。国は財政難で、地方に対するこれ以上の財政支援は望めない。とすれば、残るは地方色を出した産業政策などをやって自主財源を増やすしかない。しかし、霞ヶ関に阻止されて地方分権は進まず、地方色を出せない。そんな行き詰まりの中で今年6月、全国知事会が総選挙を前に「本当に地方分権を進めてくれる政党を支持したい」と考える傾向を強めた。全国知事会は、自民公明と民主の両陣営のマニフェストに注文をつける文書を発表した。 (全国知事会 地方分権改革に関する各党マニフェストへの要求。09/06/18

 総選挙での敗北は必至と予測された自民党の古賀誠選対委員長は、全国知事会で大阪府の橋下徹知事と並んで地方分権を要求する急先鋒の一人だった東国原英夫・宮崎県知事を誘い、元芸人で人気の高い東国原に衆議院選へ出馬してもらう代わりに、与党の座を守れたら地方分権を進めることを約束した。東国原は全国知事会の要望を容れた政策を作ることと、当選したら自民党総裁にすることを条件にしたが、結局は破談した。どちらかの党の要人から「自民党は勝てない。宮崎県知事にとどまって地方分権を要求していった方が良い」と諭されて納得したのだろう。その後、古賀は橋下にも会いに行っている。

 このドタバタ劇でマスコミは、東国原の中途半端な野心を非難中傷した。実際のところは、東国原や橋下らが選挙を前に「地方分権を進めろ」と自民・民主両党に圧力をかける反乱を企てたのに対し、官僚機構とそのリークを受けて書かれるマスコミは、反乱鎮圧のために東国原を非難したのだろう。全国知事会でも、旧自治省の出身の平井伸治・鳥取県知事は、公人である知事が政党支持をことさら表明するのは良くないと反対した。正論ではあるが、本音は自分の出身母体である官僚機構の防衛だろう。 (知事会「力ない」と橋下氏 東国原氏「活動は分岐点」09/07/08

▼人気首長の決起が地方主権を導く

 ここで私が東国原のことを書いた理由は、民主党の沖縄ビジョンに「沖縄を地域主権のパイロット・ケースにする」と書いてあることとの関係だ。本土とは異なる伝統を持つ沖縄は「自立・独立」「一国二制度」によって自然に住民自治の強い地域主権へと移行しうる。だが本土の各地には、沖縄のような強い地域アイデンティティが存在せず、草の根からの自治拡大要求もない。政治家や学者は「主権在民」と言うが、住民はそれを自覚しようがない。実生活の中で、自治がもっと必要だと強く思う場面は少ない。財政破綻を機に夕張市民が自治に目覚めた感じは受けない。沖縄は、地域主権のパイロット・ケースではなく「唯一のケース」になりかねない。

 そもそも日本人の伝統は、草の根から決起する人々ではない。だが、名君の殿様がいれば、それについていく。逆に、為政者の集団の中で下々のことを考えて良いことを言う人が政争に負けて粛清されたら、それは語り継ぐ物語になる。もしかすると民主党も自民党も、地方分権を進めるために、この構図を使おうとしているのではないかと私は考える。宮崎の東国原や大阪の橋下が、自分の府県の財政難を改善するためにいろいろやっている光景は、住民に好意的に受け止められている。東国原の知事としての活動は、宮崎県民にかなりの元気を与えている。2人が知事になる前にテレビの人気者だっただけに、こうした動きは全国的なニュースにもなる。

 東国原は以前から「九州独立」「EUを理想とした地方分権」やを理想として公言している。これは民主党の地方主権の考え方に合致している。東国原の宮崎は、民主党が目指すところの、沖縄に続く地域主権のパイロット・ケースになりうる。日本では、住民からの自治要求の湧き出しは期待できないが、人気のある府県知事や市町村長が出てくれば、それに対する支持という形で住民がやる気になることは十分に期待できる。だからこそ、自民党総裁になるより宮崎県知事でいた方が日本の役に立つと誰かが東国原を諭し、本人も納得して衆院選出馬をやめたのだろう。今後、全国各地の自治体に財政破綻が広がる中で、県知事や市町村長が地方分権に対する要求をもっと強め「決起する殿様」が増えれば、それについていく住民も増えるだろう。 (九州「独立」論:東国原英夫、江口克彦

▼地方分権は隠れ多極主義

 ここまで、地方分権策がどのように展開していきそうかを分析したが、そもそもなぜ日本で地方分権が必要なのか。「財政難」は、実は根本的な理由にならない。財政難は30年前から予測されており、政府が地方に全面的な権限移譲をする前に、政府の権限をかなり残したまま地方経済を活性化して自主財源を構築する時間は十分にあった。

 むしろ地方分権は「EU型の東アジア国家間統合」を作る動きと連動している感じがする。小泉政権も、結果的には米国の単独覇権主義に乗ろうとする政府内の対米従属派に押し切られてしりすぼみになったものの、05年ごろまで国際的には東アジア共同体、国内的には地方分権の政策をとろうとしていた。従来の私流に言うと「世界が多極化するのだから、日本がEU型の地方分権を進めるのは当然」ということになるが、東アジア共同体の中で、日本だけが地方分権(地方主権)を進めて、中国は強固な中央集権を維持するとなると、日本はますます弱くなり、中国の優勢が増してしまう。

 中国が地方分権策を採ることは、現状では全く考えられない。地方分権を少しでも認めたら、台湾や香港、チベット、ウイグルは独立を容認されたと思うだろうし、広東省や上海市など沿岸各地域は、北京に税金を払いたがらなくなる傾向を強め、共産党政権の掌握力が一気に低下する。中国のこの問題が解けて変化しない限り、東アジア統合は対等な「EU型」にならず、中国による「新冊封体制」つまり中国中心の帝国型に近くなる。

 民主党の小沢一郎は前から親中国なので「民主党は地方分権によって、日本を解体して中国に売り渡そうとしている」という右からの考え方がある。だが、そもそも地方分権をやり出したのは自民党だ。民主党の「地方主権」は自民党の「地方分権」と異なるという見方もあるが、両党の目標を見ると大した違いはない。

 地方分権が進むと、沖縄と九州は中国との経済関係を強める独自の地域政策を強めるだろうが、その一方で新潟、秋田、北海道などはロシアとの経済関係を強めるだろう(民主党の北海道戦略会議はこの流れを打ち出すだろう)。日本海側は全体的に朝鮮半島との経済関係も強めるだろう。これは「中国の差し金」というより、日本とアジアの関係における「対米従属から多極型世界対応への転換」である。 (民主党北海道が戦略会議準備会

 米国の隠れ多極主義的な傾向を勘案すると、日本の地方分権策は、中国ではなく米国の影響で進められたと感じる。米国は、従来は日本を同盟国とみなしてきたが、米国自身の策動によって世界が多極型に転換した後は、むしろ日本は対米従属から解かれて「瓶のふた」が外れた状態になる。対米従属をやめた後の日本は、多極主義者が好む「中国の傘下」に入るとは限らない。東南アジアなど海洋系の諸国を誘い、残存する英国系諜報網の力も借りて、ユーラシア包囲網的な反中国海洋連合を形成し、多極化を阻害しかねない。

 このような日本の可能性を削ぐために、米国の隠れ多極主義者は日本に地方分権をやらせ、国家としての統合力を低下させ、中国の傘下に押しやりたいのかもしれない。同様の戦略として、日本政府が90年代にバブルの処理を誤り、銀行救済のために巨額の財政赤字を抱えてしまったのも、米国が意図的に間違った処方箋を日本に勧めた結果かもしれない。(多極化の目的は、途上国に対する欧米からの抑圧を取り去ることで世界経済の成長力を上げることだろう) (多極化の本質を考える

 ユーラシアの日本の反対側にある英国は、米国の戦略立案を牛耳ることでユーラシア包囲網を作ってきたが、今や米国から大きなしっぺ返しを受けて金融的に壊滅しつつある。英国が破綻すると、おそらくスコットランドは独立して直接EUに加盟するようになり、連合王国は解体される。これと、日本の地方主権の行く末にある「九州独立」は近いものがある。米英中心主義の恒久化を目指していたのは英国も日本も同様で、だからこそ米英中心主義の終焉に際し、日本が自らを解体する地方分権をやらされる状況に追い込まれているのかもしれない。

 地方分権が進展すると、日本は「鎖国」すらできなくなる。東京が鎖国したくても、北海道、九州、沖縄、日本海岸地域、もしかすると関西までが、対アジアや対露の貿易の拡大を望み、鎖国を阻止するだろう。日本は恒久的に東アジアの一員となる。米国の隠れ多極主義者の目標はそこではないか。

 地方分権を進めることで、日本にとって安全保障面で良いことがあるとすれば、それは日本が米英中心主義と多極主義の暗闘としての地政学的な戦争を起こしたり、巻き込まれたりしにくくなることだ。多極型の世界は、従来の世界より安定的だ。中華帝国の傘下は息苦しいが、反逆しない限り戦争はない。昔から、世界戦争を誘発するのは米英中心主義の側だけである。



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