米露対話と日本
2025年8月14日
田中 宇
間もなくアラスカで行われる歴史的な米露首脳会談を妨害するため、ウクライナが自国側を攻撃してロシアのせいにする自作自演の偽旗作戦を計画していると、露政府が指摘している。
具体的にどのような偽旗作戦なのか、露政府は言っていない。ウクライナ当局は、欧米の記者団を対露前線のハルキウ(ハリコフ)郊外のチェルニゴフ(チェルニヒウ。Chernigov)に来させている。
この地域で偽旗作戦をやって露軍に濡れ衣をかけ、欧米マスコミに露軍の攻撃を喧伝させるつもりかもしれない。英国が偽旗作戦の黒幕だろうとも言われている(あるある)。
(Kiev planning false-flag attack ahead of Trump-Putin summit)
(UK May Stage False-Flag Stunt After Being Sidelined From Putin-Trump Talks)
ウクライナ軍を動かしているのは米英諜報界で、諜報界を牛耳っているのはトランプ(やプーチン)と連動しているリクード系だ。トランプらは、ゼレンスキーを動かして会談妨害的な偽旗作戦をやらせ、それを露軍が阻止し、会談後にトランプが偽旗作戦の存在を暴露してウクライナを非難して縁切りするシナリオかもしれない。
このシナリオなら、米国がウクライナ支援をやめて英欧に押しつけ、非米側を長期的に結束・台頭させつつ、ウクライナ戦争を続けながら米露が親密になれる。そのような展開になるのかどうか、そのうちわかる。
(Ukrainian False Flag Would Totally Destroy US Ties - Expert)
米露首脳がアンカレッジで会う8月15日は奇しくも、第二次大戦が終わった日本の敗戦日だ。終戦当時、米国とソ連は連合国として協力関係にあり、ヤルタやポツダムで日本を倒す方法を協議して実行した。8月9日のソ連の対日参戦や、北方領土の占領は、日本の降伏を早める策として、米国の支持を受けて挙行された。
米国は、英国から覇権を譲渡されることを条件に、第二次大戦に参戦した。米国は、英国から貰い受けた覇権を新設の国連に与える「覇権の機関化」を進めた。国連は、最上部の安保理常任理事会が米英仏ソ中(P5)の合議制の多極型になっている。
英国の国益を優先していた大英帝国の単独覇権を解体し、もっと人類全体の利益になる多極型・合議制の国連へと、覇権体制を機関化するのが米国の目的だった。米国が参戦した最大の目的は、日独を倒すことよりも、時代遅れになった英国覇権を解体して機関化・多極化することだった。
この計画(ヤルタポツダム体制作り)は途中までうまくいき、日独は敗戦し、多極型のP5を持つ国連が作られた。しかしその後、英国は諜報力を駆使して米国の上層部に入り込み、ソ連や中共など共産主義を敵視する冷戦体制を構築し、国連P5を敵対の場に変質させ、覇権は国連でなく米国だけが持ち、英国系が黒幕として米覇権を牛耳る体制が作られた。
冷戦が起こらず、戦後ずっと国連中心の多極型の世界が続いていたら、連合国全体に対して無条件降伏した日本は、戦勝国であるソ連や中共を敵視せず、北方領土をソ連の領土として認めていたはずだ。(戦後の日本が共産党の独裁政権になっていた可能性も大きい)
しかし冷戦が起こり、英国の傀儡にされてソ連を敵視するようになった米国は、日本にソ連の北方領土占領を認めず非難し続ける姿勢をとらせた。
日本のロシア敵視は対米(本質は対英)従属策の一環であり、米国と無関係に日本が独自にやってきたことではない。
戦争末期のソ連の対日参戦や北方領土の占領は、米ソ協調のヤルタポツダム体制作りの一環だから当初は米国も賛成した。(米国が英国に傀儡化されて)冷戦になったので、米国がソ連敵視の一環で、属国の日本に北方領土の返還を要求させた。
ソ連は当然ながら拒否した。米国は、日米とソ連の対立を恒久化するのが目的であり、むしろ北方領土が返還されない方が対立を恒久化できるので好都合だ。日本政府は何回か現実的な2島返還で問題を解決しようとしたが、米国の反対で潰された。
しかし今、トランプの米国はロシアとの関係を敵対から親密に大転換していきそうだ。トランプは米国を英傀儡を脱出させ、多極主義(孤立主義=米州主義)の世界戦略に転換させている。世界は、ヤルタポツダム体制の原点に戻りつつある。
米国が恒久的にロシア敵視を捨てて親露になってしまうと、日本のロシア敵視や、北方領土問題への固執は無意味になり、非現実性が増す。
トランプは、ロシアだけでなく中共に対しても、表向きの関税戦争などの敵対と裏腹に、隠れ多極主義的にこっそり強化している(中共は、米国から敵視されるほど非米側の世界をまとめて対抗し、世界を多極化する)。
地政学分野のトランプ革命が完成するまで(数年以内?)に、日本は中露に対する敵視姿勢を捨てざるを得なくなる。米国と関係なく、日本自身で中露を敵視しても利得が全くないからだ。
8月8日、日本の岩屋外相が記者会見で、8月9日のソ連の対日参戦80周年について尋ねられ、ソ連の対日参戦は当時の日ソ中立条約違反の不当行為であり、参戦の結果、ソ連やロシアが北方領土を占領していることも不当だと、これまでの日本政府の見解を改めて表明した。
(岩屋外務大臣会見記録)
それに対してロシア外務省のザハロワ報道官が8月10日、ソ連の対日参戦や北方領土の占領を不当だと主張する日本こそ、世界中が認めている戦後の世界秩序(ヤルタポツダム体制)を認めない不当行為をしていると言い返した。
(Russia Rejects Japan's 'Unacceptable' Claim About 'Illegal Occupation' of Southern Kurils)
この日露の対立は、米露が冷戦的に対立している従来の状況下なら、日米が結束して悪徳なロシアに対抗するという、日本にとって「良い」構図だった。
しかしトランプとプーチンが会談して和解していく今後の「ヤルタポツダム再来」の状況下では、米国もロシアの主張を否定しないようになる。ロシアが正しく、日本が間違っている(戦争責任を認めていない)ことになる。日本は孤立しつつある。
戦後の日本人は、国際的な孤立を恐れるよう洗脳されている(だからクソみたいに英会話したがる。英会話クソ)。国際的な孤立を恐れない北朝鮮の方が、精神的に日本よりずっと強い。今後の日本人には、再鎖国してもかまわないぐらいの気概が必要だ(国際交流も実はクソ)。
現実の日本はとても気弱で孤立したくない。孤立を避けるにはどうするか。トランプに頼んで仲裁してもらい、ロシアと和解して2島返還で決着させてもらうしかない。
トランプは、世界各地の対立する諸国間を仲裁して和解させ、自分の外交得点にしている。日本もそれに乗る。日朝も。
弱くなった日本が直接、強くなったロシアと和解交渉すると、小さな2島も返してくれない。トランプに仲裁を頼めば、2島だけは返ってくるかもしれない。ロシアは以前、2島だけなら返す用意があると言っていたようなので。
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