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すでにこっそり非米側なトランプ
25年5月28日
田中 宇
トランプ米大統領は最近、仲良くしていたはずのロシアのプーチン大統領やイスラエルのネタニヤフ首相を非難する傾向を見せている。中国とも関税問題などで紛糾している。
私から見ると、これらはトランプの目くらまし策の「成果」だ。トランプは、表向き喧嘩しているように見せつつ、露中やイスラエルの首脳たちと親密な関係を維持している。
(Trump’s Latest Angry Post About Putin Is His Most Significant One Yet)
トランプは、再就任から4か月かけてプーチンのロシアと多角的に話し合い、米露の利害をすり合わせた。トランプ再任後、大統領どうしは結局まだ直接会っていないが、電話会談は秘密裏も含めて何度も行っていると考えられる。
(米露首脳会談の中身は?)
2人は先日、進展のないウクライナ問題だけで2時間も電話会談したが、プーチンはその後「あれは通訳に時間がかかっただけだ(会談の中身は薄かった)」と、取ってつけたように釈明した。本当は、ガザ戦争やイランなどの話をいろいろいしたはず。
(Kremlin says Putin heard Trump’s speech in telephone call before interpretation)
トランプの返り咲き後、米国は、既存の単独覇権の主導役を放棄し、露中など非米側と協力する姿勢に転向した。米国自身も非米側だ。既存の米英覇権の側に残っているのは英国やEU独仏など英欧だけになっている。
日豪は、目立たないように英欧との距離をおいており、非英化する米国の傘下に残る。カナダも今はゴリゴリの英国系だが、その体制も潰れていく。他の諸国は、ほぼすべて非米側になっている。
(◆英欧潰しの進展)
トランプ(やロックフェラーなど隠れ多極派)の目標は、既存の米英覇権・英国系による支配体制を終わらせることだ。英国系覇権を崩すと世界は自然に多極型に転換するが、多極型の世界をうまく運営する方が、英国系覇権を延命させるよりも、世界は長期的に(金融バブルでなく)実体経済が発展するし、分割支配のために英国系が誘発していた戦争もなくなる。
(‘Era of uncontested US dominance over’ - Vance)
トランプは、返り咲き後の百日で、米国を露中の隠れた仲間にした。米国はこっそり非米(非英)側の国になった。そのうえでトランプは、露中と協力して、英国系覇権の勢力として残っている英欧を、ウクライナ戦争や温暖化対策や移民問題などで自滅させていく。
(Toxic Femininity: Foreign-Born Muslim Women In Germany Are Far More Violent Than German Men)
トランプが米国の非英化をこっそり進めている理由は、それによって英欧の崩壊を効率的にやれるからだ。
トランプが大っぴらに露中と仲良くしたら、英欧も今までの露中敵視をいったんやめて米国と同一歩調をとりたがる。英欧(とくに英国)は、トランプにすり寄って、米欧(NATO)が協調して中露や非米側と仲良くする体制をいったん作った後、それを壊し、NATOと露中が対立する昔の構図に戻してしまう。
(Discreet Exit? EU Officials Fear Trump Will Pull Plug on US Troop Presence)
米国は第二次大戦後、米英仏と露(ソ)中が仲良くする多極型の国連P5体制を、戦後の世界体制(ヤルタ体制)として作ったが、英国に冷戦を起こされ、米英仏と露中が恒久対立する体制にすり替えられた。
トランプが大っぴらに露中と仲良くすると、英欧がすり寄ってきて冷戦時と同様の体制破壊をやられてしまう。そうされぬよう、トランプは返り咲き後、英国系に盗聴されないサウジアラビアの王宮を借りていったんロシアと全速力でいろいろ話し合って隠然同盟関係を構築し、その後はプーチンと喧嘩し始めたような目くらましの演技をしている。
(Russia Cautions Of 'Emotional Overload' Right Now After Trump Calls Putin 'Absolutely Crazy')
トランプは、米国と露中の関係が良いのか悪いのか見極められない状況にしておくことで、英国系が邪魔しに入れないようにしている。
そのうえでトランプは、英欧をけしかけてロシア敵視やウクライナ支援を続けさせ、英欧が米国に頼らず自力でウクライナ戦争に加担して国力や政治力を浪費していくように仕向けている。
いずれ英国系覇権を運営してきた英欧のエリート層は人々の支持を失って選挙で負け、ドイツのAfDなど反エリートな極右勢力が政権をとり、覇権を捨てる。この時点で、戦後(もしくはナポレオン戦争以来)ずっと続いてきた英国系の世界覇権は(今度こそ?)完全に消失する。
(WWIII Watch: Germany's Merz Greenlights Ukraine To Strike Russia With German Weapons)
英国系はしぶといので入念に潰さねばならない。英国系を潰す目的で、ウクライナ戦争はまだまだ続く。
ロシアは、ウクライナとの停戦交渉を続けたいと言いつつ、ウクライナ軍の攻撃からロシアを守る緩衝地帯(占領地帯)をウクライナ側で拡大しようとしている。
ロシアは、停戦でなく戦争継続を予測し、緩衝地帯を設けている。ウクライナ戦争が長引くほど、英欧の自滅やエリート政権の不利が加速する。
(Russia expands into Ukraine to build a military buffer zone)
トランプは、イスラエルとの関係でも目くらましをしている。トランプは実質的に、今後もイスラエルを全面支援する。
イスラエルは諜報面でトランプを支援し、そのおかげでトランプは英国系の動きをつかみ、英国系がトランプを潰すのでなく、トランプが英国系を潰す策略ができている。国際政治上のトランプの優勢は、イスラエルの諜報力に依存している。だからトランプはイスラエルを支援し続ける。
(Israel Reportedly Rejects New US Ceasefire Proposal, Citing 'Impossible' Hamas Demands)
イスラエル(リクード系)は以前、(英国系を押しのけて)米覇権を諜報的に牛耳る動きをしていた。トランプ(やそれ以前の隠れ多極派)は、今後の多極型世界でイスラエル(とアラブの連合体、アブラハム合意体制)が中東の覇権を握れるようにしてやり、その見返りに、イスラエルは米(英国系)覇権の自滅に協力した(リクード系であるネオコンが起こしたイラク侵攻以来)。
(Netanyahu: Trump Told Me 'I Have Absolute Commitment To You')
イスラエルは非米側の勢力になり、トランプに協力している。イスラエルは今、ガザ市民を大量虐殺している。これは、パレスチナ抹消というリクード系の目標を達成すると同時に、米英欧の英国系のエリートやリベラル派のイスラエル敵視を扇動している。
米国は政権がトランプになったので、イスラエルを敵視するのは野党の民主党や、リベラルが大半なマスコミ権威筋だ。彼らと、英欧のエリート(全体として英国系)は、イスラエル敵視を強め、イスラエルは英国系の敵になりつつある。
(Israel threatens UK and France with West Bank annexation if they recognise Palestine)
イスラエル(ユダヤ人)を敵に回すと、その国は諜報力が急低下する。米欧のユダヤ人は、これまでリベラル派が多かったが、ガザ戦争の人道犯罪により「ユダヤ人性」と「リベラル性」のどちらかを選ばされている。
リベラル性を選んだユダヤ人は、ユダヤ人性を捨て、イスラエルや諜報界から遠ざかる。イスラエル本国のリベラル派も日に日に弱体化している。
かつて大英帝国の強さの秘訣は宮廷ユダヤ人ネットワークの諜報力だった。その諜報力は今(911以来)リクード系が乗っ取って継承している。米欧の諜報界のユダヤ人たちは、パレスチナを抹消するリクードに同調し、リベラルを捨てざるを得ない。
ガザ戦争は、史上初めてユダヤ人を英国系から引き剥がす。リベラル側に残っている英欧諸国の諜報力は大幅な低下し、200年ぶりに国際政治の負け組になる。
イスラエルは、非米側のロシアやトランプを応援している。中共やサウジ王政は、表向きパレスチナ支持だが、勝ち組に入りたいので実質はイスラエル支持・虐殺黙認である。
ネタニヤフがガザで残虐な人道犯罪をやるほど、英国系の覇権低下に拍車がかかる。
(覇権の起源・ユダヤネットワーク)
非米側のBRICSの中でも、南アフリカはイスラエル敵視で、イスラエルの人道犯罪をICC??に提訴した。非米側は一枚岩じゃないぞ。南アフリカを「白人差別だ」と糾弾するトランプが非米側なわけない・・・。うっかり英傀儡な人々が勝ち誇って言う。
かつてNATOやG7など英国系の覇権組織は強固な一枚岩を維持していた。それに比べるとBRICSなど非米側はヨタヨタだ。中国と印度は敵対したままだ。
(About The So-Called Trump-Ramaphosa 'Ambush')
NATOやG7は一枚岩だったので、米国(英国系)の覇権は、ニクソンショックから50年以上も延命できた。だがその間、無理やりな支配のせいで、世界経済の発展は抑止されていた。
1985年のビッグバン(英米覇権の金融化の開始)以来、金融的なバブル膨張が実体経済の成長であるかのような詐欺話が信じ込まれたが、あれ以来の40年間も、世界の実体経済は抑止されていた。
だから今、英国系覇権を自滅させることが必要になっている。一枚岩は、英国系の世界支配をやりやすくしたが、同時に諸問題を隠蔽してきた。
BRICSなど非米側は、一枚岩である必要などない。一枚岩でない方が問題を露呈させ、解決しやすくなる。
中共は「孫子の兵法」に沿って、印度との和解を寸止めして表向きの敵対を維持して「弱い非米側」を演じてきた。これから英国系の覇権が崩壊すると、中国主導の非米側が弱いふりをやめていく。
(China Doesn't Have The Economic Strength To Save South Africa)
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