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金融が破綻しそう
2025年4月11日
田中 宇
4月2日にトランプ米大統領が世界に対する高関税策を発表して以来、米日など世界の株価が激しく上下・乱高下している。中国は徹底抗戦する構えで、米中間は報復関税のかけ合いに入っているが、他の多くの諸国はトランプと交渉したがっている。
4月10日にトランプが、交渉のために中国以外の世界に対して交換税策を延期すると、株価は問題解決を期待して大きく反騰した。
(‘A Deal Is Going To Be Made With Everyone’: Trump Speaks After Dropping Most Tariffs For 90 Days)
しかし、債券の動きは株と違う。高関税策の発表後、暴落した株式市場から逃避してきた資金で米国債が高騰(金利低下)し、基準である10年米国債の金利は4%を割る異様な低さになった。
だがその後、株価が続落したのに金利は下がらず、逆に、じりじりと反騰(債券が下落)している。これは世界の投資家が、ドルや米国債の安定度に不安を持ち、米国債を敬遠し始めている兆候だ。
米国債の約半分は米国以外の海外勢力が保有している。トランプは、まさに彼らに高関税の喧嘩を売った。世界が米国債を持ちたくなくなり、金利が上昇するのは自然な反応だ。
(Are Treasuries Losing Their 'Safe Haven' Status?)
とくに、米国と関税戦争に入った中国は、世界最大級の米国債保有をしていただけに、米国債を手放す動きを加速している。
これまで米国と一心同体だった欧州も、フランスのマクロン大統領が安保策として、財界に対米投資の縮小を要請するなど、トランプの米国を敬遠している(仏財界はマクロンの要請を断ったが)。
(French Business Leaders Reject President Macron's Demand To Divest from USA)
これまで親米だった印度も、経済面で米国から離れて中露などBRICSとの関係を強化している。BRICSは数年前から、ドルや米金融に依存しない非米型の国際金融システムを構築してきた。
(India may turn to new partners due to US tariffs – ex-commerce secretary)
これまでは、米金融が大儲けできる投資先だったので、BRICSは自前のシステムを作りつつ米国にも旺盛に投資していた。米国側の「専門家」たちは「BRICSは、自前のシステムがうまくいかないからドルに頼らざるを得ないんだ」と嘲笑し、高をくくっていた。
(De-Dollarization Was Always More Of A Political Slogan Than A Pecuniary Fact)
しかし、今後は短期間に激変しうる。世界は、予想より早くドル離れ(非ドル化)しており、国際金融システムは不透明な領域に入ったと、ドイツ銀行が警告を発している。
ドルや米国債から、日本円、スイスフラン、金地金などドル以外への資金流出が起きている。
(Global financial system entering ‘unchartered territory’ - Deutsche Bank)
(YEN, FRANC, GOLD RIP HIGHER - Safe havens surge despite cool CPI)
トランプは就任直後の2月初めに「BRICS諸国が非ドル化やドル離れを画策するなら、制裁として100%の高関税をかけて潰してやる」と言っていた。その時は「100%の高関税」がケバケバしく、単なる脅し文句に見えた。
しかし今すでにトランプは、BRICSを主導する中国からの輸入品に最高125%の高関税をかけている。すでにトランプは「非ドル化に対する制裁」を発動している。ならば、中国などBRICSは何も恐れる必要がなく、好きなように非ドル化をやれる。
(Why’d Trump Just Repost His Threat To Impose 100% Tariffs On BRICS Countries?)
もしこれから10年米国債の金利が5%を越えて上昇し続けたら、世界はそれをドル崩壊の兆候とみなす。ドイツ銀行の警告も、この流れを指している。米国のジャンク債の金利は、この数日で7%から8%に跳ね上がり、米国債よりも急速に悪化している。
これまではジャンク債の金利が低かったので、潰れそうな企業でも低金利で資金調達でき、ゾンビ化するだけで潰れず、雇用が何とか守られていた。ジャンク債の金利が上がると企業倒産が急増し、実体経済が悪化して不況色が強まる。
(Schiff Warns "The World Is Getting Rid Of Dollars" As Gold Hits New Record High)
トランプは、世界がドルを見捨てるように画策しているように見える(隠れ非ドル化屋)。中国が関税戦争をやめないなら、次は米国の株式市場に上場している中国企業(全部で286社)を上場廃止に追い込むかもとトランプ政権が言っている。中国企業を追い出したら、米国株は暴落が加速する。
トランプはいったん米国を潰していく(多極型世界の米州の極として再起する)。
(Chinese companies could be removed from US stock markets)
金融崩壊が始まると、米連銀(FRB)がQT(造幣減で債券放出)をやめて、QE(過剰造幣して債券買い支え)を復活すると予測されている。連銀がQEを再開したら、いったん金利が下がり、株価が反騰する。
しかし、BRICSなど世界の米金融への敬遠や非ドル化の動きは変わらない。むしろ(欧日など軽信者以外の)世界は、QE再開を見て、米国が金融破綻に瀕していることを感じ取り、非ドル化に拍車をかける。
("End Of An Era": Deutsche Bank Warns If Treasury Market Disruption Continues, Fed Will Have To Start QE)
そのようなドル崩壊の流れになるのかどうか、今後の1-2週間で見えてくる。5月9日にモスクワで(対ナチス)戦勝記念日の祝賀会があり、プーチンは非米側諸国から広く要人たちを招待している。習近平もモディも行く。
4月中の展開が早ければ、ロシアの戦勝記念日の会合が、BRICSなど非米側による米国(ドル)潰しの戦勝祝賀会になる。プーチンが含み笑いしている。
(Modi likely to attend Victory Day parade in Moscow)
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