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ゼレンスキーを騙し討ち
2025年3月4日
田中 宇
2月28日のトランプとゼレンスキーの、記者団の前での口論は何だったのか。記者団がいない非公開の会談の場なら、各国首脳どうしがあの手の口論・激論・怒鳴り合いをするのはよくある。首脳たちは非公式の場で、それぞれの要求や世界観をぶつけ合って交渉し、時間内に何らかの結論を出し(平行線のままなら「有意義な意見交換をしました」とか)、怒鳴り合いなどしていないかのように平静を装って記者団の前に登場する。それが外交というものらしい。
(Hard Truths About The Trump-Zelensky-Vance Oval Office Blow-Up)
今回も、記者会見前の非公開の会談では怒鳴り合いの口論があったようだ。トランプは記者会見の冒頭で、それを示唆している。記者会見の前半は「外交」的に進んだが、後半、ロシアと戦争でなく外交するのが良いと述べたバンス副大統領の発言にゼレンスキーが口を挟んで疑問を呈し、そこから激論になった。
('A proper slap down': Russian, world leaders respond to Trump, Zelensky’s tense exchange)
ゼレンスキーは以前から米欧に対し、もっとウクライナを支援しないとダメだと傲慢に要求し続けてきた。米欧が巨額の軍事支援をしても(作戦を立てる米諜報界がわざと下手くそにやるので)ウクライナ軍は勝てず、ロシアと外交して停戦せざるを得なくなっても、ゼレンスキーはロシア敵視を続けて外交したがらなかった。
バンスは、ゼレンスキーが米欧に感謝もせず失礼な態度をとり続けていると、記者団の前で批判した。ゼレンスキーはトランプ政権の対露融和策を非難した。トランプは「惨敗しているウクライナを救うためにロシアと外交しているのに、それがわからないあんたは間違っている」と言い返した。
(Zelensky’s meltdown in the Oval Office)
ゼレンスキーはこの日、いつものTシャツを着て大統領府(ホワイトハウス)を訪れ、トランプからダメ出しされて着替えを命じられていた。ゼレンスキーはいつも態度も服装も失礼で、それが彼の外交様式だった。バイデン政権や英仏独は黙認してきたが、トランプは許さなかった(口実にしてゼレンスキーを成敗した)。
激論やダメ出しの末、トランプは、記者会見後に予定されていたゼレンスキーとの昼食会と、希土類利権の調印をとりやめ、ゼレンスキーを大統領府から追い出した。
(Extremely TENSE exchange at White House between Zelensky and Trump/Vance)
この事件の後、トランプの側近たちや共和党議員の大半が、米国はもうウクライナを支援すべきでないと言い出した。マクロ・ルビオの国務省は、ウクライナへの支援を大幅減額した。諜報界(英国系)の傀儡でゼレンスキーを絶賛してきたリンゼー・グラム上院議員でさえもが、急に態度を変え、もうゼレンスキーを相手にすべきでないと言い出した。
(White House sees Zelensky as ‘petulant child’ - NBC source)
(Majority of US Republicans hostile to Zelensky)
今回の口論で、米国が欧州を率いてロシアを敵視しウクライナを助けるというこれまでのウクライナ戦争の構図が崩れた。
トランプ就任から1か月、米国はロシアと仲直りして親しくなる一方、口論を口実にウクライナを切り捨て始めた。トランプは1期目からロシアとの和解を希求していたが、諜報界からロシアゲートの濡れ衣などを起こされて阻止された。2期目に入って1か月、トランプはロシアとの和解と、諜報界潰し(イーロン・マスクのDOGEなど)を見事に進めている。
米大統領府は、トランプとゼレンスキーが口論になったのは偶然の結果であり、意図したものでないと釈明している。しかし、あの口論は、トランプがかねてからやりたかった状況を、見事に作り出している。見る人が見れば「あれが偶然なわけないだろ」という話になる。
(Trump considers pausing all military aid to Ukraine after Zelensky meeting)
以前は鋭かったが今はダメな米国の国際政治ブログ「アラバマの月」は、ウクライナの希土類利権を得る協定に調印しようとしていたトランプが、ゼレンスキーと口論してしまったばかりに利権獲得できなかった、そもそも強欲な利権あさりのトランプはウクライナに関して無計画だ、みたいな流れで分析している。
トランプが、いかにもトランプらしい利権あさりの演技をしたら、それをそのまま軽信している。平板な見方しかできなくなったアラバマの月。リベラル系。
(最近は、ソロス系のクインシー研究所の記事なども中身なし。すかたん。読んでるけど時間の無駄。ゼロヘッジもいまいちに)
(The Guessing Game Over Trump's Real Aims In Ukraine)
ウクライナの希土類利権をめぐる今回の話は、怪しい点が多い。ウクライナが埋蔵する希土類の過半は、ロシアが占領・併合したクリミアやドンバスにある。これらの地域は今後永久にロシア領だから、トランプが交渉すべき相手はゼレンスキーでなくプーチンだ。プーチンは最近仲良くなったトランプに、希土類の開発に米国勢も参加しなよと言っている。
(What we know about US-Ukraine minerals deal)
ウクライナの希土類埋蔵の根拠はソ連時代の1960-80年代に行われた調査だ。埋蔵量が誇張されている可能性があり、採掘の採算性も無視されている。
ウクライナの土壌を研究してきた米国の地質学者(Tony Mariano)は、今のところ採算の取れる希土類が見つかっていないと結論づけている。
要するに、ウクライナの希土類開発はインチキな詐欺話だ。ここで「トランプは利権に目がくらみ、ゼレンスキーがちらつかせるインチキな希土類詐欺を信じ込んでいる馬鹿だ」と思う人々(マスコミとかアラバマの月)は、彼ら自身が超間抜け(もしくはリベラル派)だ。トランプは、ウクライナの希土類話の詐欺性をわかった上で、ゼレンスキーと騙し合いの政治劇をやっている。
(Ukraine rare earths potential relies on Soviet assessments, may not be viable)
トランプは1期目から、米国の軍事費支出を、占領地の資源利権を強奪して穴埋めする策をやっていた。諜報界が「IS退治」の名目(自作自演)でシリアに米軍駐留することをトランプに強要した時、トランプはシリア東部(ISIS跋扈地域)の油田を米軍が占領して産出原油をイラクに搬出して米国が盗む話と抱き合わせることで了承した。
これを見ると確かに、トランプが資源強欲な感じはする。だが私から見ると、今回のウクライナでトランプは、この「資源強欲者」のイメージを逆手にとって、ゼレンスキーの希土類詐欺に乗せられている感じを演出している。
(What are Ukraine’s rare earth minerals, where are they and what will the deal with Trump involve?)
ゼレンスキーは、トランプに希土類の利権をあげるから代わりに〇〇してくれ、と交渉するために訪米して大統領府まで来た。〇〇に入りうるものはいくつか考えられ、ウクライナのNATO加盟とかでなくゼレンスキー自身の延命かもしれないが、要点はそこでない。
ルビオ国務長官によると、希土類の協定はすでに話がついており、ゼレンスキーが訪米しなくても調印できた。訪米したいと言ってきたのはゼレンスキーの方だという。希土類話の詐欺性から考えて、ありそうな話だ。
ゼレンスキーは、トランプの強欲性を引っ張って、希土類利権を渡す代わりに最後の交渉をして〇〇を得ようと思って米大統領府に来た。トランプは、その会合をマスコミ公開の口論大会に変質させ、米国がウクライナ支援をやめる状況を作り出した。トランプは、ゼレンスキーとの騙し合いに勝った。
(Rubio delivers the most insightful 'America First' response to Zelensky)
米諜報界英国系の機関であるNATOのルッテ事務総長は、ゼレンスキーはトランプと仲直りすべきだと言っている。これが英仏独のエリート(英傀儡)たちの希望だろう。英国系は、米国が欧州を率いてロシアと対立する冷戦構造を永続したい。だが、ゼレンスキーは謝罪しないと言っている(今のところ)。
https://www.rt.com/news/613580-nato-chief-urges-zelensky-to-mend-ties-with-trump/NATO chief urges Zelensky to make peace with Trump
トランプと喧嘩して追い出されたゼレンスキーは、親露なトランプに謝罪するのでなく、露敵視をつ続ける英仏(独)に頼って対露戦争を続けようとしている。トランプに謝罪したら、ロシアと和解せざるを得なくなり、ゼレンスキー自身の政治生命が終わりになる。だから謝罪しない。
ゼレンスキーは、代わりに3月2日にロンドンに行き、英仏首脳とのサミットに出た。英仏はゼレンスキーに、ロシアとの和平交渉を約束させるとともに、もし露軍がウクライナに攻めてきたら英仏軍が戦ってウクライナを守ると約束させた。
https://responsiblestatecraft.org/uk-france-ukraine-meeting/The Flimsy UK, France, Ukraine 'Peace Plan' Discussed Sunday
ゼレンスキーがロシアと交渉して和平が実現するなら、英仏はロシアと直接交戦しなくてすむ。たがもしゼレンスキーがロシアと交渉するふりだけして交渉を破談させたら、英仏がウクライナで露軍と戦争せねばならなくなる。
2月28日にゼレンスキーがトランプと喧嘩してしまったので、ゼレンスキーがトランプの支持を受けつつプーチンと交渉して停戦和平する展開はなくなった。ウクライナ停戦の可能性が低下している。
(Trump’s entire team supports halting talks with Zelensky)
ロシア政府は「ウクライナにNATO加盟国(英仏など)の軍隊が来るなら、それはウクライナがNATO加盟したのと同じことになるので、ロシアとしてウクライナ停戦できない。ロシアは自衛権の行使として、ウクライナにいるNATO加盟国(英仏)の軍隊を破壊する戦争を続けざるを得ない」と言っている。
英仏は、ウクライナに派兵すると決めた時点でウクライナ停戦交渉を潰している。英仏の派兵は、ウクライナを平和にするためでなく、ロシアと戦争(第三次世界大戦)するためのものになる。
これは英仏の意図に反している。英仏はロシアと戦争したくない(ロシアの脅威を煽りたいだけ)。英仏は、ウクライナ派兵案を寸止めし、最終的に放棄する。それ以外の道はない。
これは、トランプがこっそり望んでいるシナリオでもある。トランプは、ウクライナを英仏に押しつけ、英仏をロシアと戦争せざるを得ない立場に追い込みたい。英仏はロシアと戦争しない。力関係上、できない。英仏の国際信用が急落する。
(Ukrainian Officials "Desperate" To Get Deal Back On Track After Oval Office Meltdown, Trump Not Interested)
ロシアは、ウクライナ戦争の構造が長引くほど、中露など非米側の結束が強まり、(トランプがやっているように)米覇権が解体し、欧州が弱体化するので好都合だ。トランプとプーチンは、裏で組み、米露の利益になるよう、英仏ゼレンスキーを追い込んでいる。
(単独覇権よりも米州主義の方が米国の利益になる。単独覇権の方が良いんだと言っている日本のマスコミや専門家は英傀儡で売国な大馬鹿。早く廃業すべき)
(Trump, Vance, & The New New World Order)
米国はトランプになって覇権放棄を急速に達成している。米国が抜けた後の米覇権(リベラル世界秩序)は、そのまま消失するのでなく、英仏が背負う。そして、背負い切れずに崩壊する。
米国が英仏を率いたまま(単独覇権を背負ったまま)ロシアと和解すると、英国系(諜報界)が米国の外交策をねじ曲げて対露和解を破壊して米露対立に引き戻して失敗させる。だからトランプは、先に米国だけが英仏を入れずにロシアと交渉開始して米露和解して、事実上米国覇権から離脱した。米国は非米化した。
米国が抜けた後の米覇権は無力だ。ゼレンスキーや英仏は、右往左往するばかりだ。ゼレンスキーの前後に、仏マクロンや英スターマーが相次いで訪米してトランプと会った。英仏は、停戦を前提に平和維持軍をウクライナに派兵するから、米国も資金、諜報、兵器、兵力などの面で助けてくれと頼みに来た。トランプは、ほとんど断っている。
(The Flimsy UK, France, Ukraine 'Peace Plan' Discussed Sunday)
書き散らかした。とりあえずここまでで、このまま配信する。
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