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まだ続くウクライナ戦争

2025年1月4日  田中 宇 

ドナルド・トランプは、米大統領に返り咲いたら初日にウクライナ停戦を実現すると公約していた。だが、それは具現化しそうもない。停戦案はいくつか出ているが、ロシアもウクライナも乗り気でない。
No grounds for ending Ukraine conflict

ウクライナは、昨夏に占領した国境沿いのロシア領クルスクを手放していない。ロシアは、ウクライナよりはるかに強いのに、クルスクにいるウクライナ軍を追い出さない。露軍は、頑張ってウクライナ軍を追い出そうとする演技の戦闘を続けている。
ウクライナのクルスク占領が続く限り、ロシアはウクライナと停戦しない。昨年中は、露軍がトランプ就任前にクルスクのウクライナ軍を追い出す(プーチンがトランプに花を持たせる)かもしれないと思える流れもあったが、それは結局進んでいない。
Failing Kursk Offensive May Backfire On Ukraine As Russian Troops Mass Near Sumy

トランプ系の停戦案の一つとして、停戦後のウクライナに欧州諸国の軍隊が停戦監視・兵力引き離しのために駐留する案があった。だが、一番派兵しそうだったポーランドは派兵を拒否している。マクロンがポーランドに4万人の派兵を頼んだが断られた。ドイツも派兵しないと言っている。
Five Reasons For Poland Not To Directly Participate In Any Ukrainian Peacekeeping Mission
No Western troops in Ukraine without Russian approval - Germany

EU防衛相を出しているバルト3国は出すかもしれない。しかし小国群だけでは全く足りない。長い距離がある戦線の停戦監視には、交代要員を含めて45万人が必要とされ、欧州の主要な諸国がすべて派兵しない限り無理だ。
NATOは加盟諸国の政治家たちに対し、対露和解を語るな、戦争体制の財政を組んで福祉予算を削って軍事費に回せ、と要請している。NATOは、ウクライナ戦争をずっと続けたがっている。
NATO State Warns Against Western Troops In Ukraine: "Discussion Has Gone Off The Rails"
Rutte announces launch of Command on Ukraine, calls to refrain from discussing peace

NATOの好戦性は、プーチンにとって嬉しいことだ。NATO・欧米がロシアを徹底敵視するウクライナ戦争の構図が続く限り、欧州は自滅し、ロシアがBRICSなど他の非米側諸国と結束して欧米抜きの世界体制(多極型覇権)を強化する流れが続く。
既存の米英覇権体制下で、ロシアは経済力を削がれ続けていた。ロシア封じ込めが米英(英国系)の基本戦略なので、ロシアが社会主義を放棄して米英と仲良くしようとしても無駄で、封じ込めが続いた。
世界の中心が米英(欧米)からBRICSなど非米側に移れば、ロシアは封じ込めから解放される。ウクライナ戦争の構図が長期化するほど、欧米は自滅し、世界の中心が非米側に移る。
West pushing Russia beyond ‘red line’

トランプの1期目(2017-2021)には、まだ開戦前でウクライナ戦争の構図がなかった。今はウクライナ戦争の構図があり、トランプはそれを壊さず維持する。
米国民は、自国が関与する世界各地の戦争にうんざりしている。トランプは選挙戦で人気取り策として、当選したらすべての戦争を終わらせると言っていた。トランプはイスラエルにも、戦争するなら早くやれ、俺の就任前に終わらせろ、と言っていた。
戦争を終わらせる公約はありつつも、トランプは多極主義者だ。多極型世界を見据えて、カナダやパナマ運河やグリーンランドの併合示唆など、米国が米州の国であることを強く意識した姿勢を見せている。トランプは、覇権放棄だけでなく多極化を意識している。
トランプが多極主義者なら、ロシアや中国に対する敵視や制裁を解かずに続ける。その方が、ロシアや中国が強化されるからだ。
Russian billionaires allegedly doubt Trump will lift sanctions

トランプは幻影や詭弁を駆使するので、就任後、ウクライナが停戦したかのような事態が描画されるかもしれない。ウクライナ戦争の担当を欧州に押し付け、米国が離脱する動きもありうる。だが、欧州は対米従属策として露敵視・ウクライナ支援をやってきたのであり、米国が完全に離脱したら、欧州もウクライナ戦争をやめてしまう。
それはまずいので、トランプはウクライナ戦争の構図から完全離脱をせず、欧州に負担増だけ強要する。ウクライナ戦争は、欧州を自滅させることが米国の目的だ。それは、プーチンが望んでいる展開でもある。
McCarthyism, European style: The elite crackdown on Ukraine dissent

2029年にトランプの任期が終わる時、まだウクライナの対立構造が続いているのでないかと私は現時点で予測している。
ウクライナ戦争が終わるとしたら、それはドイツでAfDが政権をとるなど、欧州が対米自立した時だ。それは意外と早いかもしれず、その場合はトランプの任期中にウクライナでの対立が解け、多極型に転換した世界の中で、米露や欧露が和解する。
NATO Head Says "Wartime Mindset" Needed; Redirect "Pensions, Health, Social Security" To Military Spending

▼天然ガス停止もトランプの策略に見えるけど違う

元旦から、ウクライナのパイプラインを経由してロシアが欧州に天然ガスを輸出する流れが止まっている。
ウクライナ開戦後、欧州は、敵視策としてロシアからの石油ガスの輸入を減らした。開戦前、欧州が輸入する天然ガスの40%が、ロシアからパイプラインでの輸入だった(ウクライナ経由以外にも、ノルドストリームなど何本かあった)。ガスを気体のまま送れるパイプラインは、圧縮(液化)や船積みの費用がかかるLNGよりも3-4割安く、これが欧州経済の強さを支えていた。
開戦後、ロシアからのパイプライン経由は、欧州が輸入するガスの8%に減った。今回のウクライナ経由の停止後は3%に下がる(トルコ経由のトルコストリームが残っている)。
The Political Consequences Of Ukraine's Decision To Cut Off Russian Gas To Europe

ウクライナ経由の露ガスは、東欧のハンガリー、スロバキア、オーストリア、モルドバ、沿ドニエストルなどに送られていた。ウクライナ自身も、ロシアからガスの供給を受けていた。
ウクライナは毎年10億ドルのガス通行料金をロシア(ガスプロム)から受け取っていた。戦争なのに、これらの経済行為が続いていた。これらは今後なくなる。
NATO tells members to divert social spending to militaries

今後は、ロシアの替わりに米国がLNGを東欧やウクライナに売る。ウクライナ開戦後、欧州は米国からのLNG輸入が増え、米国は世界最大級のLNG輸出国になっている。
トランプは石油ガス業界から支援されている。大統領就任前の今、ウクライナがロシアとのガス通行契約の更新を拒否し、欧州が米国のガスに依存する度合いが高まった。これはトランプの策略に違いない。これで1本記事を書こう・・・。私はそう思って調べ始めた。
Major Winners and Losers of Halting Russian Gas Transit Through Ukraine

だが実際は違った。トランプの策略ではない。ウクライナとガスプロムの通行契約は2019年に5年契約で結ばれていた。2022年の開戦後、ウクライナ政府は、戦争が続いている限り、ガスの通行契約を更新しないと言い続けてきた。
トランプが動いて何かが変わったわけではない。昨年末にガス通行契約の期限が来て、元旦にガスの輸送が停止した。
Russia-Ukraine gas transit deal ends: Why it matters

12月にスロバキアのフィツォ首相が訪露したが、事態は変わらなかった。スロバキアが消費するガスの6割がウクライナ経由だった。ハンガリーは、トルコストリーム経由でロシアのガスを買い続けるが、スロバキアはそれもない。
ハンガリー、スロバキア、オーストリア、沿ドニエストルといった親ロシアな諸国がロシアのガスを得られなくなった。地政学は残酷だ。
Ukraine Receives First Ever Natural Gas Shipment From US As It Cuts Energy Ties With Russia

ロシアは、欧州に売れるガスの量がさらに減って困窮しているはずだ、これはウクライナの勝利だ、と欧米で言われている。
だが、ウクライナ経由のガス送付がなくなることはずっと前から予測されていた。ロシアは昨年から、カザフスタン経由のパイプラインで中国にガスを輸出する態勢を強化してきた。
ロシアは、欧州に売っていたガスを中国に売れる。需要増の中国は(安ければ)いくらでもガスを買ってくれる。
Ukrain2 Polish FM slammed for celebrating gas cutoff
Russia Eyes New Gas Route To China, Betting Big On Growing Demand



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