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戦争の今後
2024年9月11日
 田中 宇
 
 
今続いているウクライナとイスラエル(ガザ西岸)での戦争が、今後の世界での戦争を減らしていく効果を持つことになる・・・。そんな趣旨の話を最近読んだ。
イラク戦争直前の2002年にイラクの大量破壊兵器を探す国連の査察団長として有名になった、元スウェーデン外相で核兵器に詳しいハンス・ブリックスが昨年「さよなら戦争」(A Farewell to Wars)と題する本を書いた。
 ブリックスは、その本に関するインタビューの中で、ウクライナとガザの戦争はありつつも、今後の世界は、戦争を起こりにくくする各種の要素が強くなると言っている。
 ブリックスの主張自体は、ああでもないこうでもない的で、私にとって面白くなかったので割愛する。取材したのはジョージ・ソロス系のクインシー研究所だ。読みたい人は英語で読んでください。
 (How Hans Blix fits Gaza and Ukraine into 'A Farewell to Wars')
 
 ハンス・ブリックスの話を読んで、つらつらと私が考えたのは、もっと直截的に「ウクライナとイスラエルで今起きている戦争が、結果的に、今後の世界での戦争の発生を減らす効果をもたらすのでないか」ということだ。今回は、この仮説(思いつき)について書いていく。
 戦後の世界で起きた戦争の多くは、米英が覇権運営の関係で誘発したものだ。だから、米英覇権が衰退すると多くの戦争が終わる、というのが仮説の筋だ。
 
 中東で考えると、レバノン、シリア、イラク、イエメン、リビア、スーダンなど。レバノンは、米イスラエルがイスラム側をテロリスト扱いするための策としてレバノンを破壊した。シリア内戦は、米諜報界のISアルカイダ操作班が起こした。ロシアとイランはアサドを支援して内戦を止めた。
 イラク戦争は米国の隠れ多極派の超愚策。イエメン内戦は、米国がサウジを苦しめるために誘発した。リビアのカダフィを殺して内戦にしたのも米国(国務長官だったヒラリー・クリントン?)だ。
 
 アフガン戦争は米国の策。ちょうど23年前に起きた911テロ事件も米諜報界の自作自演。印パを恒久戦争にしたのは植民地終了時の英国。印中が国境紛争を続けることにしたのは、米覇権が終わるまで対立を演じ続けるのが得策と判断した孫子の兵法(政府どうしは、もう対立していない)。
 日本が北方領土と尖閣諸島の紛争を残しているのも、中露を敵視し続けたい米国の都合。日本だけで決められるなら中露と対立しない(読者の多くは、別の洗脳を受けてるかもね)。
 
 台湾海峡の軍事対立も米国の都合。中共と台湾だけなら軍事でなく政治劇中心でやる。朝鮮戦争や北朝鮮も、英米発案の半島恒久分断策の成果物。昨年からロシアが北朝鮮を安保の傘下に入れたので、朝鮮半島はもう戦争にならない。
 これから米英覇権が終わると、これらすべての戦争・軍事対立が下火になる。
 ウクライナ戦争は、NATOを自滅させ、欧州方面の米英覇権を終わらせる。
 
 イスラエル(ガザ西岸)の戦争が終わると、英国系との関係でイスラエルを拘束していたパレスチナ問題が抹消される。イスラエルが米国を牛耳って中東を不安定にする必要が大幅に減る。
 そもそも、そのころには米覇権が崩壊し、イスラエルが米国を牛耳る意味がなくなる(だからイスラエルは、これまでの策を終わりにして、パレスチナを抹消して英国系と縁を切ることにした)。
 イスラエルに牛耳られていた米国の中東支配が終わり、各地の戦争が下火になる。戦争終了後、イスラエルは、他の中東諸国との関係を少しずつ改善(冷たい和平構築とか)して生き延びる。
 
 「(世界中の)戦争(構造)を終わらせるために戦争をする」とか「悪を退治するための正義の戦争」という言い方は、昔から欧米の為政者が好んできた。第二次世界大戦も、イラク戦争もそうだった。
 第二次大戦は、それまでの英国覇権(欧州による世界支配)を終わらせ、代わりに英国から覇権を譲渡された米国が、国連安保理に象徴される多極型で機関化された覇権構造を作り、それによって戦争が激減するはずだった。
 だが実際は、英国(諜報界)の要員たちが米国の覇権運営階層に入り込み、中ソと米英が恒久対立する冷戦構造を作って安保理の多極型安定を破壊した。
 英国系のせいで、朝鮮戦争を皮切りに、世界はその後も戦争が多発した。ソ連やロシア(や中共)は悪い奴という冷戦型の洗脳が米国側の人々の頭の中に刷り込まれ、ウクライナ戦争までつながっている。
 
 イラク戦争は、サダム・フセインを倒すと中東が平和になるという触れ込みだった。実のところ、戦争を起こしているのはサダムでなく、英米が中東を内部分裂させて支配してきたからであり、中東の戦争はその後むしろ増えた。サダム亡き後のイラクは、現在まで混乱し続けている。
 「戦争を終わらせるための戦争」の言説は、失敗とウソの残骸だらけだ。それなのに、またもや「ウクライナとイスラエルの戦争が、世界の戦争構造を終わらせる」って言うのですか??。また大外れしますよ、と言われそうだ。
 
 ウクライナ戦争については、前からの分析だ。この戦争で、米国側がロシアを厳しく経済制裁し、ロシアの次に敵視されそうな中国やサウジイランや、日和見な印度などがロシアの側に寄って、BRICSなどが、米国側に制裁されても大丈夫な非米型の世界経済システムを作っている。
 ウクライナ戦争の構図(バルト三国やポーランド、ベラルーシに飛び火しうる)が長引くほど、非米側の経済が優勢になる。
 資源類も大きな消費市場も非米側になり、米国側に残っているのは崩壊寸前の巨大な金融バブルだけになる。いずれ米国が金融崩壊すると、これまで戦争や分裂醸成で世界を支配してきた米国覇権が劇的に収縮する。
 
 米覇権に替わって世界の中心になる中露・BRICS・非米側は、地域の諸大国が均衡して世界を安定させる多極型で、戦争が起こりにくい。
 終戦時に国連安保理の多極型で機関化された覇権を作ったロックフェラー系などの隠れ多極主義者たちが、911以降のテロ戦争を稚拙に過剰にやって失敗して米覇権を自滅させていくと同時に、非米側にBRICSなどの多極型の組織を作らせた。
 今後の多極型世界は、米国が終戦時に作ったけど英国系に壊された国連など多極型覇権機関の後継システムとして最初から用意されている。自然にできたものではない。だから(孫子の兵法で、頓挫したふりをしつつ)意外と成功する。
 
 英国(帝国の論理)は、他の列強に分け前を与えつつ単独覇権で世界を支配し、途上諸国(今の非米側)から資源利権などをピンハネして発展するやり方だ。
 途上諸国が発展台頭して英欧をしのぐ事態を避けねばならないので、世界のあちこちを分裂させて戦争を誘発したり、台頭する非米側を順番に侵攻して政権転覆せねばならない。だから英国型の単独覇権体制は永久に戦争が減らない。
 
 米国は、国内に資源類が豊富だし、世界の中心であるユーラシア欧州アフリカのかたまりから孤立した米州にある。米国は英国と異なり、単独覇権など不要で、多極型の世界の方が良い。
 米国と英国を、地政学上の仲間として分析するユーラシア包囲網的な地政学の理論は、米国を牛耳りたい英国が作った詐欺である。戦後の米国が単独覇権を希求したのは、英国系の要員たちに入りこまれて牛耳られてきたからだ。
 ウクライナ戦争は、今後意外な展開にならない限り、米国を不要な単独覇権から解放していく。この話は、前から何度も書いてきた。
 
 もう一つの、イスラエル(西岸とガザ)の戦争が世界の戦争構造を終わらせる話は新しく、まだ考察の途上だ。
 イスラエルは、パレスチナ問題を抹消するために、西岸とガザでパレスチナ人を追放または殺害する戦争を続けている。
 パレスチナ問題の本質は、英国系(英米欧)がイスラエルの台頭を防ぐため、英国がイスラエルに建国を許した土地の半分をアラブ人(パレスチナ人)に譲渡させる話だ。
 アラブやイランなどイスラム諸国は、英米が発案した「パレスチナ国家」が実現すると領土拡張など自分たちの得になるので話に便乗しているだけだ。
 米覇権衰退後、イスラム諸国がイスラエルと戦争して領土を奪って(奪還して)パレスチナ国家を武力で建設する、という展開はない。イランは、イスラエルに報復攻撃をしない。
 
 ここまで書いて再考し、イスラエルやユダヤ人をめぐる全体構造が巨大で複雑で不透明であることに、いつものとおりぶち当たり、あらためて考察して書くことにした。
 イスラエルの戦争の本質は、欧米のリベラル主義の根幹を揺さぶる・破壊するものだ。リベラルの全体主義化と連動している。全体主義化・ゾンビ化したにもかかわらず、リベラルを今でも信奉している軽信者がとても多い。だから丁寧な考察が必要だ。
 
 私はこれまで今回のような、思いつきで書き散らかしたもののまとまらずに頓挫した文書をたくさんボツにしてきたが、今回は、このまま配信してみることにする。
 
 
 
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