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これからの世界経済
2023年5月28日
田中 宇
中国がロシアから、石油ガスやアルミニウムなど資源類を買いまくっている。
アルミニウムの場合、今年4月にロシアから中国へ輸出されたアルミニウムは8万9千トンで、昨年の3倍近い量だった。ウクライナが開戦した昨年3月からの1年間でロシアから中国に輸出されたアルミニウムは前年同期比倍増(94%増)の約54万トンだった。
(Chinese purchases of Russian aluminum shoot up by 200% - customs data)
中国はアルミニウムの生産量と消費量がダントツの世界一で、ロシアは生産量が第2位だ。
電力が安価でアルミ生産に向いているロシアは開戦前、中国のほか欧日にもアルミを輸出していたが、開戦後に米国側から経済制裁を受け、輸出先の大半が中国になった。
中国はアルミだけでなく、石油ガスやその他の鉱物資源に関しても、ロシアが米国側に輸出できなくなった分を旺盛に輸入している。中国だけでなくインドも、ロシアを制裁しろという米国の警告を無視してロシアから資源類を買い続けている。
(Russian Oil Still Powering Europe’s Cars With Help of India)
(Russian oil floods global markets via major Asian intermediaries)
中国もインドも、ロシアが米国側に輸出できなくなった資源類を安く買い叩いて輸入し、一部を米国側に転売して儲けていると報じられてきた。
しかし、国家経済の大黒柱である輸出資源類を安く買い叩かれたはずのロシアは、今年むしろ好転している。露経済は、米国側から徹底的に制裁されているのにプラスの成長をしている。
虎の子の資源類を安く買い叩かれて赤字になって露経済が悪化していると思いきや、そうでない。輸出が儲かっているから露経済が好転している。
(The West’s Economic War on Russia Has Failed)
これは何を意味するのか??。どうやら、ロシアが資源類を主に欧州など米国側に輸出して経済を回していたウクライナ開戦前の方が、むしろ米国側の諸国から安く買い叩かれていたようだ。
そうでなければ、開戦後の制裁で急に売れなくなった資源類を中国やインドなど非米側に格安(赤字)で輸出し始めたのに露経済が好転するはずがない。
資源類の米国側への輸出が大黒柱だった開戦前の露経済の構造が作られたのは、ソ連崩壊後の混乱期だった。当時のロシアは弱く、欧米は今よりもかなり強かった。
('How about now?' Putin retorts to business’ past belief that holding assets abroad safer)
(ロシアの石油利権をめぐる戦い)
長期の契約を決める輸出の価格交渉で、欧米がロシアの資源を安く買い叩いたとしても不思議でない。むしろ当然だ。国家規模の資源類の売買価格はほとんど非公開なのでわからないが、そう考えるのが自然だ。
安く買い叩かれていたのは開戦前の方がひどかったのでないか。ソ連崩壊から10年の混乱期の後、エリツィンから禅譲されたプーチンが2000年に大統領になり、ロシアを立て直していったが、欧米の優勢はずっと続いた。
高度成長を続ける中国への輸出も増えたとはいえ、ロシアの資源輸出は欧州に依存していたため、価格改定は困難だった。ウクライナ開戦までの20年間、ドイツ主導の欧州経済の成長は、ロシアの資源類の安さに立脚していた。
(Full Text: Russia's New Foreign Policy Concept)
(多極化の申し子プーチン)
開戦後のロシアから中印など非米側への資源類の輸出価格を決めたのは、習近平とプーチンの話し合いだったと考えられる。インドなど中国以外の非米諸国は、中国がロシアから輸入する価格に準じた価格で輸入しているはずだ。
習近平とプーチンは、短期の儲けでなく、長期的に世界の覇権構造を自分たちに有利な形(非米・多極型)に転換するために動いている。習近平は、資源を買い叩かずプーチンが好む価格で輸入することで露経済を潤し、ロシアがウクライナ戦争を有利に長く戦えるようにしてやった。
習近平はBRICSサミットなどを通じて、他の非米諸国にも多極化戦略への協力を取り付けたのだろう。非米諸国の多くは、米覇権などない方が人類のためだと思っている。
(Fundamental Changes Taking Place in Global Arena - Putin)
何度も書いているように、この戦争の構図が長期化するほど、米国側の経済が損傷・停滞していく。前回記事に書いた通り、ウクライナでの実際の戦闘は下火になっていくが、米国側がロシアや非米側を敵視する戦争の構図はまだまだ続く。
世界の資源の大半は非米側が握っているので米国側の資源不足がひどくなり、悪性のインフレがずっと続く。インフレは金利上昇を生み、超低金利によって支えられてきた米国側の30年分の巨大な金融バブルが、金利高騰によって破綻していく。
(決着ついたが終わらないウクライナ戦争)
(Russia Mocks Western Banking Crisis, Says Aggressive Sanctions Have Provided Insulation)
米国側の経済を大きく底上げしてきた債券金融のバブルが崩壊すると、米国側が享受してきた豊かさが消失し、先進諸国は大幅に貧しくなる。ドルや米国の覇権が崩れ、中国主導の非米側が世界の中心になっていく。国連などの国際機関はすでに非米側のものだ。
(The Collapse Of The West's "Business Model")
きたるべき米国の金融崩壊は、金融が経済を拡大した1980年代以来の世界的な構造の崩壊になる。金融が持っていた金儲け・価値増殖の機能が消失し、決済や備蓄といった昔ながらの機能だけになる。
その後の世界経済で金儲けや価値増殖の機能を担うのは、製造業やサービス業といった「実業」になる。消費市場としても、生産現場としても、これから実業が拡大するのは中国インド中東アフリカなど非米諸国だ。実業の推進に必要な資源類の利権はすでに米国側になく、非米側が持っている。
(Emerging Market Investors Dump Dollar-Denominated Debt as Currency Continues Global Decline)
米国側(先進諸国)は実業が頭打ちだし、金融バブル崩壊の打撃から立ち直るのに長い年月がかかる。資源も非米側にとられて買えくなくなる。
非米側も金融バブル崩壊の打撃を受けるが、経済成長していくので蘇生も早い。中共は数年前から自国の金融バブルを積極的に潰している。
金融の拡大を基盤にした従来の成長モデルは過去の遺物になる。今後の世界経済は、非米側の実業の拡大によって成長していく。
(China Sells US Debt, Stockpiles Gold Amid De-Dollarization Trend)
(金融バブルと闘う習近平)
主要通貨の構造も大転換する。これまでは、ドルが米覇権の強さに支えられて基軸通貨として機能してきた。米覇権に裏打ちされた米国債を頂点に、ジャンク債まで広い裾野が作られ、それが従来の世界経済の中心である債券金融システムだった。
だがいずれ起きるドル崩壊によって、このシステムは全崩壊する。米国側・先進諸国の繁栄も消える。
(Most Russia-China trade no longer involves dollar - Mishustin)
代わりに出てきそうなのは、資源類に裏打ちされた人民元など非米側の諸通貨だ。
今後の世界の経済発展の中心は中国が主導する非米側になるのだから、今後の世界の基軸通貨体制を決めるのも彼らだ。
(China hopes world has adequate immunity from effects of debt-driven US financial risks)
非米側は、すでに国連などの国際機関の運営権も握っているので、彼らが好む多極型の世界体制を形成していく能力と技能がある。
彼らは、金地金や石油ガスを含む資源類が、今後の多極型の基軸諸通貨の価値を裏打ちする「金資源本位制」の世界体制を作ろうとしている。
(優勢になるロシア)
(資源戦争で中国が米国を倒す)
それはウクライナ開戦直後に、世界経済の大転換を的確に予測した分析者ゾルタン・ポズサーが「ブレトン・ウッズ3」と呼んだ新世界体制だ。
世界的な基軸通貨体制は、米単独覇権のドル本位制が崩れ、多極型の金資源本位制(ブレトン・ウッズ3)になっていく。
中国やインドがロシアから資源類を旺盛に買い続けているのは、非米側の有力国(極)である中印が、買った資源類に自国通貨をひもつけて金資源本位制を形成していくためだ。
(‘After This War Is Over, Money Will Never Be The Same’: What Credit Suisse’s Shocking Prediction Means For The Bitcoin Price And Crypto)
ゾルタン・ポズサーは開戦直後の2022年3月、中国が金資源本位制における人民元の立場を強化するため、ロシアが欧米に売れなくなった資源類をどんどん買うだろう、その資金は米国債を売却するか、中国独自のQE(通貨の大量発行)によるだろうと指摘した。
(Zoltan Pozsar Warns Russian Sanctions Threaten Dollar's Reserve Status)
世界最大の保有国である中国が米国債を売るほど、米国債の金利が上昇して米国は金融崩壊していく。中国インドなど非米側が資源類を買い込むほど、米国側は買える資源類が減ってインフレがひどくなる。金利上昇とインフレ悪化で、米国側の経済は中国など非米側に壊され、米覇権が崩れて多極型に転換する。ゾルタンはそれらも指摘した。
それから1年以上、中国やインドはずっとロシアの資源類を買い込み続けている。ゾルタンの予測は当たっている。
(As global powers fight it out, commodity prices are set to rocket)
(Credit Suisse Strategist Says We're Witnessing Birth of a New World Monetary Order)
冒頭でアルミニウムの話を書いたが、中国は世界のアルミの半分以上を生産しており、ロシアとインドを加えると世界の7割近くを生産している。非米側が結束すると、米国側はアルミ不足に陥る(すでに価格は高騰している)。
米国などG7は最近、半導体などハイテク分野の中国との貿易関係を断絶していく方向を打ち出している。これは、中国を困らせる経済制裁の策だ。
しかし、この政策によって困るのは中国でなく米国側だ。中国はこれまで米国側から半導体を買い、米国側の技術を使って半導体を製造してきたが、これから米国側から制裁されると、中国は自前で半導体を作る傾向を強める。
何年か経つと中国は、米国側に全く頼らずに半導体を作るようになる。世界経済の大半を占める非米側の多くが、米国側の半導体でなく中国製を買うようになり、米国側は経済の自滅に拍車が掛かる。
(Nvidia CEO Slams Biden, Warns Escalating Chip War With China Will Lead To "Enormous Damage")
米国側の半導体産業はこのシナリオを知っているので、G7の対中制裁に反対している。米金融界も「半導体の米中断絶は不可能だ」と言っている。
G7諸国は半導体だけでなく、バッテリーに関しても中国依存を解消しようとしている。これも不可能なことで、無理に進めると、米国側は電気自動車もパソコンも得られなくなる。産業界は、やめてくれと懇願している。
それでも米政府は、日本などG7の傀儡(同盟)諸国を巻き込んで、自滅的な中国との断絶を無理やりに進めている。G7は、加盟国を自滅させる「無理心中機関」になっている。
(Morgan Stanley Shows Why US-China Decouple Is "Neither Possible Nor Desirable")
In One Stunning Chart
広島のG7サミットでは、米国などがイタリアに対して「一帯一路を脱退しろ」と加圧した。イタリアはシルクロードの一部であり、先進諸国で唯一、一帯一路に加盟している。加盟は国益に沿っているので伊政府は抵抗している。米国は、G7を通じて同盟国の国益を損なうことばかりやっている。
ドイツはノルド・ストリームの海底パイプラインを米当局に爆破されたが、黙ったままだ。ドイツは最近、爆破を落ち目のウクライナのせいにして、米国は関係ないという素振りをとり始めた。それほど対米従属したいのか。馬鹿め。
日本はロシアのサハリンから天然ガスを輸入しているが、これもいずれ米国に加圧されて嫌々ながらやめさせられ、サハリンのガスは中国に輸出されるようになって二度と日本に来なくなるかもしれない。
(Italy's Meloni To Pull Trigger On Belt & Road Exit In Major Blow To China)
(G7 ban on all exports to Russia ‘not doable’)
同盟諸国を自滅させ、中露を隠然と強化する米国は「隠れ多極主義」そのものである。日欧は、早く米国と距離を置く非米化をした方が良いのだが、米国は日欧を傀儡化して身動き取れなくしており、離脱できない。
G7は半導体で中国との関係を断絶しようとしているが、韓国はその穴を埋めて中国との半導体取引を増やそうとしている。
米国は、日本に対して中国敵視を強要しているが、対照的に韓国に対しては親中国姿勢を黙認している。米国は、韓国が中国の影響圏内であることを認めている。韓国は非米化を許されて発展するが、日本はダメだ。
(South Korea Says Its Chipmakers Can Fill Void After China Bans Micron Over 'Security Risk')
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