最後にわかる米財政赤字上限引き上げ騒動の結末2023年5月17日 田中 宇
米政府の財政赤字上限の引き上げ交渉が失敗し、6月1日に米国債がデフォルトするかもしれないという話になっている。米国は法律で連邦政府の財政赤字の上限額を決めており、政府と議会が交渉しながら上限額をこれまで何度も引き上げて財政赤字を増やし続けてきた。 今の上限額は31.4兆ドルだ。米政府は今年1月19日に赤字がその額に達し、その後は財政システム内の「へそくり」的な資金を使って政府を運営している。6月1日にへそくりが尽きると概算されている。それまでに議会が法改定して赤字上限額を引き上げないと、米国債の利払いができなくなって史上初のデフォルト(債務不履行)が起きる。 (US Treasury Hits Debt Ceiling, Begins Using "Extraordinary Measures", Yellen Tells Congress) 今の米国は、政府(大統領)が民主党で、議会下院の多数派が共和党という「ねじれ状態」なので、赤字上限引き上げの交渉がうまく進まず、6月1日から数日以内に米国債がデフォルトしてしまう可能性が高まっている。イエレン財務長官らが最近、さかんに警告を発している。 米国債がデフォルトすると、ドル建てのあらゆる債券や融資の金利が高騰して金融崩壊が起こり、ドルに依存している米国(と同盟諸国)の経済が恐慌に陥る。 米国は経済全体が巨額の負債に依存しているので、デフォルトによる金利高騰は米国全体の経済崩壊、貧困急増、社会的破綻につながる。米国は今すでに経済崩壊や貧困増加、社会破綻しているが、それが一気にひどくなる。 (Biggest Fear Among US Business Leaders Is "Catastrophic" Debt Default: White House Economic Adviser) 赤字上限が引き上げられるかどうか、実際に米国債がデフォルトする1-2日前までわからない。米国はこれまで何度も赤字上限に達し、そのたびにギリギリの交渉が議会と政府(大統領府)の間で繰り返されてきた。 多くの場合、最後の24-72時間ぐらいのギリギリの段階で、議会とくに共和党が上限引き上げに応じ、デフォルトが回避されてきた。今までは、大騒ぎしつつも毎回上限が引き上げられてきた。 数日前ぐらいの段階で「もうダメだ」と思い込んで「いよいよドル崩壊だ」と書いてしまうと、その後ギリギリに合意が結ばれて「はずれ」になる。私も未熟で何度もはずれ記事を書いた。 (米国債がデフォルトしそう) (米国債政治デフォルトの危機) 今回も、ギリギリで上限引き上げが合意されるのだろうか。その可能性はある。しかし今回は従来と異なり、交渉が破綻してデフォルトするかもしれない。 昨年初め、米連銀がQEとゼロ金利をやめてQTと利上げの自滅への道を歩み出し、ウクライナ戦争も始まって米国側が資源類の利権を失う流れが始まった。これは米覇権崩壊と多極化への道であり、911後に米中枢を席巻していった隠れ多極派が、完全に米中枢を牛耳ったことを示している。 米国債のデフォルトは米覇権を崩壊させるので、隠れ多極派にとって大変好都合だ。そう考えると、赤字上限引き上げ交渉が失敗して米国債がデフォルトする展開がありうると感じられる。 (McCarthy Says Debt Ceiling Talks 'Not In A Good Place' As Yellen Warns 'Time Is Running Out') 従来の繰り返しで、ギリギリに赤字上限が引き上げられて事なきを得る可能性もある。それでも、上限引き上げに失敗してデフォルトするかもしれないと喧伝されることで、ドルへの信用が低下する。 非米側がますますドルを使わなくなり、米覇権崩壊と多極化がしだいに加速する。デフォルトしたら劇的な多極化、しなければ少しゆっくりの多極化になる。 (Much Of The Markets Still Don't Believe The US Can Default)
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