バイデンの機密文書放置事件はクーデター未遂?2023年1月19日 田中 宇バイデン米大統領の陣営が、元事務所や自宅に昔の国家機密文書を何年も放置するずさんな管理をやっていたことが発覚し、スキャンダルになりかけたものの、危機はすでに山を越えている。米民主党と米エスタブ権威筋は、トランプ元大統領が2024年の大統領選に出てきてバイデンを破って大統領に返り咲くことを防ごうと、トランプがマラゴの邸宅に大統領時代の機密文書を保管し続けていたことを攻撃してスキャンダル化を試みてきた。今回バイデン陣営がずさんな機密文書の管理をしていたことが発覚したことは、共和党側から「バイデンこそ機密文書の管理がずさんじゃないか」と言い返せるようにしてしまい、民主党側にとって自滅的だと考えられている。 (Total number of Biden documents known to be marked classified is about 20, source says) (How a corrupt FBI could save Joe Biden in classified-docs scandal) 昔の機密文書を見つけたのはバイデンの側近たちであり、側近たちが見つけた機密文書を公文書館に届けて話を公式化してしまわなければ、スキャンダルにならなかった。法律的な馬鹿正直さを重視しない政治的な観点では、見つかった機密文書を焼却してなかったことにすることもできた(機密文書は公文書館も存在を知らなかった文書だった)。なぜ側近たちは馬鹿正直にこの話を公式化し、マスコミにリークまでしてしまったのか。これは、うっかりによる失策なのか。それとも失策でなく、一部の側近による意図的な動きだとしたらどうか。 (Joe Rogan floats theory that Biden document scandal is a ploy by Democrats to replace him) (‘Even I handled classified documents better’ - Snowden on Biden scandal) 民主党の上層部では、バイデンの大統領続投を好まない勢力が大きくなっている。オバマ元大統領らは、ウクライナ戦争などで中露を結束させて米国の覇権を自滅させているバイデン政権の続投を阻みたいはずだ。その観点から考えると、バイデン政権内でオバマの息がかかった勢力が、機密文書の放置を公式な話にしてしまう政治的な失策をわざとやることで、スキャンダルを起こしてバイデン政権を危機に陥れ、共和党にバイデン弾劾劇をやらせたり、民主党内でバイデンに続投を思いとどまらせる動きを広げようとしたのでないか。そんな見方が米政界で出ている。 (Who is special counsel Robert Hur?) (Intel memos on Iran, Ukraine among docs found at Biden office: report) しかし、1月9日にこの件が報道され始めてから10日経ったが、スキャンダルは大きくならず、むしろ沈静化している。民主党系の米マスコミはこぞってバイデン政権に味方し、この件は大した問題でないと報じている。機密文書の保管スキャンダルとしてはトランプの方がずっと悪質だというバイデン擁護の「解説」も出続けている。この件について司法省が任命した特別検察官は、バイデン陣営の行為の犯罪性を問うことよりも、バイデン政権内の誰が意図的失策のクーデターを試みたのかという政治犯探しをやっている。特別検察官に任命されたロバート・ハーは、共和党支持者だがトランプ敵視勢力(ネバートランプ系)の一人で、バイデン政権の続投を阻もうとする民主党内の裏切り者たちを摘発することでバイデン政権を続投させ、トランプの返り咲きを阻止する目的で動いている。 (Not A Coup, But A Cover-Up) (Federal investigators interviewed Biden attorney who initially discovered classified documents) ペンシルベニア大学がバイデン陣営に貸していた事務所(ペンバイデンセンター)の書庫に、バイデンがオバマ政権の副大統領だった2013年から16年の日付の機密文書が10ページほど置かれているのを昨年11月2日にバイデンの顧問弁護士の一人が片付け中に見つけ、過去の政権の文書を管理する国立公文書館に通知・回収させた。見つかった文書の中には最高機密(トップシークレット)に指定されたものもあった。バイデン陣営はその後、機密文書を再確認し、昨年12月20日にはバイデンの自宅のガレージ倉庫でも昔の機密文書が見つかった。この件について司法省が特別検察官を置くことになり、1月9日にはこの件が報道され始めた。 (After discovery at Penn Biden Center, additional documents found in Biden’s Wilmington home) (Did The Deep State Turn On Biden?) バイデンは2017年に副大統領の任期が終わった後、2019年に大統領選に出馬するまで、ペンシルベニア大学の教授をしていた。2018年にはペンシルベニア大学に外交問題を専門とするバイデンセンターが新設され、いま国務長官をしているアントニー・ブリンケンはセンターの事務局長だった。バイデンセンターは出馬前の陣営事務所として使われていた。副大統領を終えた後、バイデン陣営は文書箱の山をペンシルベニア大学に運んで整理した。選挙や就任、任期終了など、政治家の事務所は状況激変でバタバタして文書の整理が追いつかないことが多く、任期を終えた数年後に政治家の自宅や元事務所で機密文書が見つかることは米国で多々ある。意図的な隠匿でなければ違法にならない。今回のバイデンもその事例だ。 (What we know about the classified documents found in Biden's think tank) (Blinken says he had no knowledge of documents taken to Penn Biden Center) 今回発見された機密文書には、ウクライナやイラン核問題などに関する情報が載っていたと報じられている。今回の機密文書群が作られた2013年から16年には、米諜報界がウクライナの市民運動を支援煽動して親露的なヤヌコビッチ政権を追い出し、今のゼレンスキーにつながる米傀儡の極右政権を設置した「マイダン革命」があった。当時のバイデン副大統領はウクライナの担当で、息子のハンター・バイデンをウクライナ政府に食い込ませ、ウクライナの極右新政権が米国で効率的にロビー活動できるようにしてやった。ハンター・バイデンは、父親の代理人としてウクライナ側から贈賄されていた。 (Hunter Biden, China, classified documents: Mystery swirls around Penn Biden Center) (Republicans Call Out 'Double Standard' Over Biden Classified Docs Hypocrisy) こうした話が問題の機密文書群に載っていて、バイデン陣営の文書杜撰管理スキャンダルの拡大の中で、機密文書の中身が報じられてバイデン家の不正疑惑が再燃する、といったシナリオがあり得た。今回のスキャンダルは「イラン・コントラ事件」みたいな諜報界の大事件になるという予測が出ていたが、その意味するところがこのシナリオだ。しかし、問題の機密文書群に何が書かれているかという話は、この件の存在が最初に報じられた時に少し言及されただけで、その後は出てきていない。クーデターの道具の一つとして用意されたものの、使われずに終わるのかもしれない。 (Biden In 'Very Big' Mess Over Document Scandal, Needs To 'Get The Facts Out': Former White House Adviser) スキャンダルの火種は消えずにくすぶっており、いずれ再び燃え上がるのかもしれない。しかし、今のところ燃え上がりそうでなく、逆に、クーデターが未遂に終わり、バイデンに味方する諸勢力によってうまくもみ消されている感じがする。今回の件で見えたのはむしろ、不人気なはずのバイデン陣営の意外と強い政治力・謀略技能だ。民主党の上層部で、今回の件でバイデンを批判し続けている勢力はない。民主党系のマスコミでも、バイデン批判は大きくなっていない。当初は「この事件はやばいかもよ」という論調があったが、その後消えている。この分だと、バイデンは来年の大統領選に再出馬し、選挙不正も完全犯罪としてうまくやり、共和党のトランプを「破って」再戦されるだろう。巨悪が繁栄し、米国のウソと隠然抑圧の政治体制が今後も続き、同時に米覇権の自滅過程も続く。 (How White House missteps exacerbated Biden’s classified documents headache) (Why Didn't Biden Just Burn Those Classified Documents?)
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