不正選挙を覆せずもがくトランプ《2》2021年1月3日 田中 宇
この記事は「不正選挙を覆せずもがくトランプ」の続きです。 「昨年11月3日の大統領選挙でのバイデン勝利は不正によるもので、本当はトランプが勝っていた」と主張する米連邦議会の共和党議員が増えている。トランプの勝利を主張する「トランプ派」である彼らは、米議会の上下院の全議員が集まって大統領選挙の結果を決定・承認する1月6日の両院合同会議で、バイデンでなくトランプの勝利を決定すべきだと主張している。連邦議会の共和党議員は現状、下院が195人、上院が52人だが、このうち下院の7割を占める140人と、上院の11人が、正式にトランプ勝利を主張している。トランプ勝利を主張する共和党議員の数は年末から増え続けており、1月6日の両院会議の開始時にはさらに増えていると予測される。 (Multiple senators oppose certifying election results) ('At Least 140' House Republicans Plan To Object To Biden Electoral Votes) (両院会議でのトランプ支持を表明した11人の上院議員の中に、前編の記事に書いたランド・ポールが入っていない。これから動くのかもしれないが不明だ) (不正選挙を覆せずもがくトランプ) 問題は、こうしたトランプ派の勃興が、1月6日の両院合同会議で実際にバイデン勝利をトランプ勝利へとくつがえすことにつながるのかどうか、という点だ。両院会議では、トランプ派の提起により、11月の大統領選で選挙不正があったのかどうか、本当はどちらが勝ったのか、が議論されることが確定的だ。大統領選での不正の有無については、これまでいくつかの州議会で議論が行われたが、米連邦での公式な議論は1月6日が初めてになる(州議会レベルでは、たとえば12月30日に行われたジョージア州議会上院の公聴会で、ドミニオン投票機で不正ができることが示されている)。 (Dominion system hacked live during Georgia election hearing) 連邦裁判所の判決もいくつも出ているが、それらの多くは原告適格の欠如などを理由に却下されており、郵送投票や投票機のシステムを悪用して不正が行われたという指摘の中身を具体的に調査・審議して判決を出していない。マスコミは、選挙不正の隠蔽に加担している。今秋の米選挙の不正疑惑は、きちんとした議論が回避されてきた。1月6日の両院合同会議はきちんと議論する好機だ。トランプ陣営は、両院合同会議に合わせて、選挙不正が行われたと考えられる新たな証拠を出すと言っている。 (Jason Miller to Newsmax TV: We Want to Present 'Specific Evidence' Jan. 6) だが、どんな証拠が出てきても、民主党議員は上下院の全員がバイデン勝利を支持するだろう。共和党でも、最後まで軍産エスタブ支持・反トランプな「選挙不正はなかった」派のバイデン勝利支持の議員が、上院の半分以上、下院の1割程度は出そうだ。議論の末に、どちらの候補が勝ったのかを決める段になると、バイデンの方がまだ優勢だ。多数決をすると、上下院ともにバイデン支持が多数になり、選挙不正が完全犯罪になって終わる。ペンシルバニアなど7つの接戦州から、バイデン勝利とトランプ勝利の両方の当選証書が両院会議あてに送られてきており、そのどちらが正当であるか、という評決がありうる。現時点での分析では、これから新たなどんでん返しがない限り、評決はバイデン勝利になる可能性が高い。 (Electoral College Results to Be Contested by Group of GOP Senators) 両院会議の議論がもめた後の決着方法を、多数決でなく、上院議長の采配に任せるやり方がある。米憲法の修正12条を解釈するとこのやり方になる。1960年の選挙でこの方法が行われている。上院議長は副大統領が兼務している。バイデンとトランプのどちらが勝つことにするかをペンス副大統領が決めることになると、ペンスはトランプの副大統領として続投したいどろうからトランプを選ぶはずだ、というのが従来の考え方だった。トランプ自身、選挙前の昨年9月に、修正12条を使った自分の勝利がありうると述べている。 (トランプ再選への裏街道) (Pence finally breaks with Trump) だが最近になって、ペンスが裏切る可能性が高まっている。12月27日、テキサス選出の共和党議員らが、選挙不正を理由に両院会議でペンスにトランプ勝利を選択することを義務づけるペンスを被告とした裁判を、地元の連邦地裁で提訴した。テキサス州の連邦地裁の判事は共和党寄りなので、裁判所がペンスを縛ってくれるのでないかという目論見だった。この裁判に対してペンスは、自分を被告にするのはお門違いなので裁判を棄却・却下してほしいという要望・意見書を提出した。ペンスは、両院会議でトランプを支持しない可能性を示したことになる。その後、1月2日にテキサス地裁は、ペンスの要望に沿ってこの裁判を、原告側の不利益の欠如を理由に却下する判決を出した。ペンスを縛るトランプ派の策略は失敗している。 (Pence Asks Judge to Reject GOP Congressman's Elector Lawsuit) (U.S. judge dismisses lawmaker lawsuit against Pence over electoral count) 1月6日にペンスがどんな動きをするか、まだ確定的でない。目くらましの末のどんでん返しのトランプ支持もありうる。ペンスはキリスト教保守派(原理主義)の政治家だ。彼はもともと軍産エスタブ系であるが、すごく保守派なので、民主党が政権をとってリベラルな政策をやりまくることに強く反対なはずだ。その一方で、もともとブッシュ家と親しかったバー司法長官がトランプを裏切るなど、トランプの周辺にいたエスタブ系の側近らが次々とトランプを裏切っているのも事実だ。この延長で考えると、ペンスもトランプを裏切りそうな感じもする。ペンスがどう動くかが両院合同会議の注目点の一つだ。 (How Texas’s Attorney General Won by Losing Big) 1月6日の両院合同会議の前日、1月5日には、ジョージア州で連邦議会の上院議員選挙の決選投票が行われる。ここで決まる2議席が2つとも民主党に取られると、連邦上院は共和党と民主党が50対50の拮抗になり、議長である副大統領が誰になるかで上院の多数派がどちらになるか変わってくる。1月5日のジョージア選で民主党が2つとも取り、1月6日の両院会議でバイデンが勝つと、連邦政府の議会上下院と大統領府のすべてを民主党が取り、共和党が「恒久野党」に成り下がる。強い権力を握った民主党は、民主党支持者が多いワシントンDCとプエルトリコを準州から州扱いに格上げして上院議員の総数と民主党議席を4つ増やし、上院で民主党が恒久与党になるよう制度改定するだろう。下院でも選挙区の引き直しなどで民主党を恒久与党にできる。 (What do Senate runoffs in Georgia have to do with Puerto Rico statehood?) (What’s at Stake in Georgia) 恒久野党にされ弱体化した共和党は、軍産エスタブ中道派と、トランプ支持の右派・草の根が分裂する傾向がひどくなり、二度と勝てなくなる。共和党の崩壊で2大政党制が崩れる。一党独裁制を手にした民主党は、軍産エスタブ中道派が左派を除外する傾向も強める。左派は民主党から押し出されて過激化しつつある。米国は「民主党(軍産エスタブ)の一党独裁」プラス「過激な左右の反政府勢力」の体制になり、民主党が中共顔負けに「左右の野党・反政府勢力」を容赦なく弾圧し、テロや暴動もひどくなって混乱が増す。新型コロナを口実とした人権弾圧もひどくなる。 (RASMUSSEN — Americans Aren’t Voting Republican, They’re Voting TRUMP) 1月5-6日の結果いかんで、共和党は政治的に消されていく道をたどりうる。共和党のエスタブ勢力は、トランプを追放できる大統領選での敗北を認めても、ジョージア選で2議席を失って共和党が恒久野党に成り下がるのは阻止したいはずだ。そんな共和党エスタブの願望を逆なでするように、トランプは、ジョージア選で共和党が負けるように事態を誘導している観がある。 (Is Donald Trump Trying to Lose the Georgia Senate Election?) 米議会で最近、米国民に1人あたり600ドルずつ現金を支給するコロナ不況対策の法案を可決したが、トランプは「600ドルでは少ない。1人あたり2000ドルにすべきだ」と言って法案に署名せず議会に突き返した。ポピュリストのトランプっぽいこの人気取り策を、議会は喜んで可決するかと思いきや、そうではなく、共和党主導の上院が2000ドルに引き上げる改定案を否決し、600ドルのままの旧法案を、トランプが拒否権を発動できない絶対多数で再可決して終わった。この法案は、米国民に関係ない各種の利権団体や外国勢力に巨額の予算を割り当ててある半面、国民への配分は全体の2割しかない。国民への増額を拒否した共和党は不評で、ジョージア選の敗北につながりかねない。 (McConnell Dooms $2,000 Stimulus Check After Refusing To Split Trump's Three Demands) 実のところトランプは、2000ドルへの増額のほかに、今秋の選挙の不正を調査する委員会の新設など、共和党のエスタブ勢力が拒否せざるを得ない2つの項目を抱き合わせにして追加して、法案を議会に突き返していた。共和党エスタブ派は、2000ドルへの増額でなく、抱き合わせにされた2つの項目を受け入れられず、600ドルのままの法案を再可決する道を選んだ。トランプは、共和党エスタブ派が国民への支援金増額を拒否せざるを得ない状況を作り、ジョージア選挙での共和党の敗北を招こうとしている。ジョージア選で共和党が2議席とも負けると、恒久野党を免れる道は、1月6日の両院会議でバイデンでなくトランプを勝たせることしかなくなる。トランプは共和党エスタブ派に「オレを追い出したら恒久野党になって党の解体だぞ。オレの続投を認めた方が良いぞ」と持ちかけている。ジョージア州では、トランプ支持者たちが投票に行かない意志も見せている。 (Poll: 55% of 'very conservative' Georgia voters who won't vote in runoffs say they'll stay home due to 'rigged' process) とはいえエスタブ派もしぶとい。エスタブ派は超党派で、ジョージア選の結果が出るのを遅らせようとしている。米国では、選挙の結果が何日も出ないことがよくある。1月5日のジョージア選の結果が出るのが数日遅れれば、1月6日の大統領を決める両院合同会議の時に上院がどうなるか決まっておらず、共和党が恒久野党になるかどうかわからない状態で大統領を決めることになり、トランプの脅しが効かなくなる。複雑な駆け引きが続いている。 ( Senate Latest: Twin Runoffs Are Likely to Drag Out Results for Days) 1月6日の両院会議でバイデンが勝つと、トランプが逆転勝利できる可能性はゼロに近づく。共和党がジョージアの上院選で負けて恒久野党になることが決まり、共和党のエスタブ派があわてて方向転換し、共和党全体がマコーネルらを追い出してトランプ支持で結束して選挙不正を問題にし始め、1月20日の就任式を延期して選挙不正の真相究明にとりかかる、といったシナリオぐらいしかなくなる。軍産エスタブは強いので、そんな転換になる感じはしない。(軍産が強く見えるのは、マスコミが描く幻影かもしれないが) 議会上院の院内総務として共和党のエスタブ派を率いるマコーネルは、早々とバイデン勝利を認め、下院議長として民主党を牛耳るペロシと組み、2人で反トランプの旗手になっている。マコーネルとペロシは、軍産エスタブの象徴だ。正月早々、ペロシとマコーネルの自宅近くに切断された豚の頭が置かれていたり、家のドアに反逆的な落書きが描かれたりしている。米国の政治は、従来の共和党vs民主党から、軍産エスタブvs草の根の左派と右派という構図に転換しつつある。 (Severed Pig's Head Left On Nancy Pelosi's Driveway As Vandals Tag Garage; McConnell Hit Too) 共和党vs民主党は、2党が談合して軍産エスタブの支配を維持する安定的な構造だったが、これが「軍産エスタブvs草の根の左派と右派」になると、それは独裁勢力が反政府勢力を容赦なく弾圧する不安定な構造になる。これを安定させるには、軍産エスタブの独裁党となる民主党が、草の根の左右の反政府勢力を強く弾圧する「中共型」の政治体制に移行するしかない。米国は、名実ともに民主主義を捨てて独裁体制になっていく。軍産エスタブ勢力の一部であるマスコミやネット大企業は、米国が独裁化していることを無視し、独裁化を指摘する分析者たちを「有害な妄想屋」して扱い、言論弾圧を強める。多くの人は、しばらく気づかないだろうが、いずれ気づいていく。気づいた人から順番に弾圧の対象にされていく。オーウェルの「1984年」を模した展開になる。 (The Threat of Authoritarianism In The U.S. Is Very Real, And Has Nothing To Do With Trump: Greenwald) (Portland Mayor Turns On Antifa, Vows To Battle 'Lawlessness And Anarchy') そうなっていくのかどうか、まず1月5日のジョージアでの上院選と1月6日の両院合同会議がどうなるかが分かれ目だ。バイデン政権になった場合に共和党やトランプがどうなるかを分析するのはそれからだ。 (Sara Carter: The Swamp will never be able to hide again after Trump)
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