他の記事を読む

トランプはまだ負けてない<2>

2020年12月17日   田中 宇

この記事は「トランプはまだ負けてない」の続きです。

12月14日、全米各州で選挙人集会が開かれ、バイデンが306人の選挙人を獲得して、232人しか獲得できなかったトランプに対する勝利を確定したと報じられた日、ジョージア、ペンシルバニア、ウィスコンシン、ネバダ、ミシガンという5つの接戦州で、共和党がトランプを勝者と認定する「もうひとつの選挙人集会」を開いていた。この集会の開催は、マスコミや民主党側もほとんど知らないうちに開かれていた。大統領府のトランプの側近(Stephen Miller)が、もうひとつの選挙人集会が5州で開かれたことを記者団に語ったため、開催が明らかになった。 (Alternate electors: The latest far-fetched Trump plan to overturn the election, explained

これらの集会は、前回の記事やその前の「トランプの敗北」などで、私が「対抗的な選挙人集会」とか「反逆的な選挙人集会」と呼んでいたものだ。私は、もうひとつの集会が開かれない以上、1月6日の連邦議会での両院合同会合でトランプが逆転勝利する可能性がゼロになると考えて「トランプの敗北」を書いた。その後、12月14日にもうひとつの集会が開かれなくても、その後で民主党の選挙不正やハンターバイデンの犯罪がもっと暴露されて共和党が選挙人集会のやり直しを求めれば、その時点でもうひとつの集会が開かれて逆転勝利がありうることに気づき、「トランプはまだ負けていない」を書いた。しかしそもそも、実はもうひとつの集会が5州でひっそりと開かれていた。手続き的に、トランプの敗北はまだ確定していない観がさらに強まった。 (Trump 'Alternate Electors' Send Votes Directly To Congress 'To Preserve Legal Options'

民主党・軍産側のマスコミであるNYタイムスやAP通信は、もうひとつの集会について、無意味で非合法だと断罪する報道を流している。 (No, Republican attempts to organize ‘alternate’ electors won’t affect the official Electoral College tally) (Why Trump’s latest Electoral College ploy is doomed to fail

たしかに、12月14日の公式側の選挙人集会でのバイデンの勝利を受け、共和党の連邦議会上院議員の筆頭者であるミッチ・マコーネル院内総務ら、何人かの共和党の上層部が、バイデンの勝利を認める宣言をしている。このままの状態が続くと、1月6日の両院合同会合で、共和党の連邦議員たちがバイデンの勝利を認め、接戦5州の共和党のもうひとつの選挙人集会が送ってきたトランプの当選証書をニセモノ扱いし、民主党の選挙人集会が送ってきたバイデンの当選証書を正式なものと宣言し、バイデン勝利、トランプ敗北を確定させる。すでにバイデン勝利への認知を宣言したマコーネルら共和党の重鎮たちが今後、その認知を撤回するような事態にならないと、もうひとつの集会が作成したトランプの当選証書が生きてこない。NYタイムスやAP通信は、そんな事態になるはずがないと言って、もうひとつの集会を無意味で非合法だと断罪している。バイデンの合法的な勝利を認めない点で非合法だという。 (Mitch McConnell Officially Concedes Joe Biden Is "President-Elect"

選挙人集会の後、プーチン大統領のロシアや、メキシコなど、これまで米大統領選でどっちが勝ったかわからないと言っていたいくつかの国も、バイデンを勝者と認める宣言をした。イランは、米国がJCPOAの核協定に戻ってくるなら対応すると言い出した。世界はバイデン政権に対する準備を進めている。もうひとつの集会は開かれたものの、トランプの逆転勝利への道がどんどん険しくなっている感じもする。もうひとつの集会の開催を記者団に伝えたトランプ側近(Stephen Miller)は「まだ裁判で民主党の選挙不正が認められてトランプ勝利に転換する可能性があるので、その場合の手続きの道を閉ざさないため、念のため接戦5州でもうひとつの集会を開いてもらった」と、控えめな釈明をしている。「トランプは勝ったんだ。だからもうひとつの集会は当然だ」という自信満々な説明は、すでにない。トランプ陣営は、もう自信満々でない。しかし、まだ負けてはいない。 (Putin, Bolsonaro and AMLO finally congratulate Biden on US election victory

まだ今のところ、大事な点は裁判でない。裁判所には共和党系の判事もいるが、彼らは共和党議員の多くと同様、軍産・深奥国家の一部であり、軍産が民主党にやらせた選挙不正を認める勢力でない。正反対の、選挙不正を隠蔽し、トランプを敗北に誘導したがる側だ。現状で裁判で勝てないことは、トランプ側も知っているはずだ。裁判に言及し続けるのは、負けを認めない時間稼ぎのためだ。前回の記事に書いたように、最も大事な点は、共和党の草の根の支持者たちが、党の上層部が不正を加担・容認する軍産系であることに怒って党内で反乱し、その勢いが非常に強いので党内の上層部の中から反乱側に転向することで自分の政治力を強めようとする議員らが増えて党内の勢力転覆を引き起こせるかどうかだ。共和党の反乱勢力は親トランプだ。転覆が進むと、裁判所の共和党の判事も態度を変え、民主党の選挙不正を裁判所で裁くことに同意する。 (Trump accuses Republicans of allowing Democrats to 'blatantly cheat' in the election

民主党の選挙不正の手口は、郵送票の捏造と、投票機のハッキングによる結果の歪曲だ。ドミニオン投票機で、トランプ票をバイデン票に転換する不正ができることが知られているが、共和党の筆頭の上院議員である前出のミッチ・マコーネルは昨年、ドミニオン社から献金をもらい、投票機のセキュリティを向上させる法案を潰していたことが民主党系のマスコミで暴露されている。草の根の共和党員たちは、マコーネルの腐敗を批判している。 (Mitch McConnell Received Donations from Voting Machine Lobbyists Before Blocking Election Security Bills) (Dominion Software Intentionally Designed to Influence Election Results: Forensics Report

軍産はしぶとい。軍産はトランプの4年間で弱体化させられたはずが、今秋の選挙で不正をやってトランプにしっかり逆襲している。共和党上層部の軍産系は、草の根からの反逆を受けてもびくともしないかもしれない。このまま1月20日になってバイデンが就任し、トランプは大統領府から追い出されて終わりうる。その後のバイデン政権下で、ハンターバイデンの有罪性が父親まで波及してバイデンは辞任に追い込まれるかもしれないが、その場合は次の大統領が民主党左派のハリス副大統領の昇格になる。民主党左派も米覇権の自滅や放棄をやりそうなので、左派が権力を掌握するのも興味深い展開だ。だが、トランプ続投の「右からの覇権放棄」とは違う話になる。左派が米国の権力を握ったら覇権運営がどうなるか、まだ見えてこない。 (THIS IS HUGE: “It’s a Real Simple Fact to Prove that There Was Massive Fraud in This Election”

大統領選後、米政界の2大政党間の対立が激化して「新南北戦争」的な展開になっていることは前回も書いた。北軍が民主党で、南軍が共和党だ。民主党は北部を中心に大都市に支持者が多い半面、共和党は田舎に支持者が多い。都会は北側で、田舎は南側だ。大統領選では北側が不正して南側が負けそうになっている。しかし、経済力の点では南側の優勢が増している。北側はコロナの対策と称して超愚策の都市閉鎖を強化し、北側の諸都市の経済を自滅させている。共和党が知事をしている州の多くは、間抜けな都市閉鎖をなるべくやらないようにしている。 (The Flight from Liberal-run States. People are waking up) (PEOPLE WERE POURING OUT OF US CITIES LIKE LA AND NEW YORK EVEN BEFORE COVID STARTED ..

北側大都市の象徴であるニューヨークでは、州知事が今週からすべての飲食店の屋内飲食を永久に禁じる政策を開始した。ニューヨークといえばおしゃれな外食だった。それが永久に失われる。真冬のNYで屋外の飲食などない。NYCの外食産業は壊滅する。ウォール街にいた銀行や証券会社などは、次々に南部・南軍側のフロリダ州に移転している。ゴールドマンサックスはフロリダのウエストパームビーチへの本社移転を決めた。米国の金融界は、北軍のNYから南軍のフロリダに逃げ出している。北軍側の民主党の州知事や市長が間抜けで自滅的な都市閉鎖を続けているからだ。ニューヨークは自滅させられて廃墟になっている。さよならNY!。 (NYC OFFICE SPACE FOR RENT HITS HIGHEST LEVEL SINCE 2003 AS GOLDMAN FLEES FOR FLORIDA) ("THIS IS INSANE": NYC SMALL BUSINESSES FURIOUS AT INDOOR DINING BAN AFTER DATA SHOWS RESTAURANTS ACCOUNT FOR ONLY 1.4% OF COVID CASES

ネット産業といえばカリフォルニアのシリコンバレーだ。加州も民主党が強い。ネット産業の大手もすべて民主党支持だ。しかしネット産業も、北軍側の加州のシリコンバレーから、南軍側・共和党系のテキサス州に本社を移動し始めている。民主党の州知事はコロナの都市閉鎖で経済が自滅して税収が減った穴埋めのために金持ちから税金を取りたがるので、シリコンバレーの人々への課税がしだいに厳しくなっている。共和党の州知事は、都市閉鎖も金持ち増税もやらない傾向だ。税金を取られたくないシリコンバレー人々は、自分たちの党派性よりおカネを重視して、加州からテキサスに映ってく。フロリダに移るNYの金融界の人々と同じ傾向だ。今後、北部が南部をいじめるほど、南部は米連邦から分離独立したくなる。米国は永久の都市閉鎖を続けて貧しくなる北部だけが残り、民主党の一党独裁の国になる。同じく左派が強いカナダと合併すれば良いという話もある。「北米民主主義人民共和国」略称「北」とか。 (Even More Tech Firms Are Leaving Silicon Valley for Texas) (Texas GOP Chairman Allen West Suggests Secession After SCOTUS Betrayal on Lawsuit

連邦議会では、南軍の将軍の名前がついた南部の米軍基地(ノースカロライナのフォートブラッグFort Bragg、テキサスのフォートフッドFort Hoodなど)を「奴隷制を容認していた南軍を讃えるのは黒人への人種差別だ」として改名する条項が、防衛予算案(NDAA)に紛れ込ませる形で、トランプの反対を乗り越える多数で可決された。米政界では北軍=軍産が、南軍=トランプを打ち負かしている。しかし、コロナは北軍の経済や都会文化を自滅させ、南軍側に相対的な優勢をもたらしている。これは、南軍側が勝っているというより、コロナの愚策を積極的に推進しているのが軍産や左翼の側で、トランプや草の根共和党員や右翼の側がコロナの愚策をやりたがらないので起きている現象だ。都市閉鎖による不況は、黒人に多い貧困層を最も打撃する。米軍基地の名前を変えても何の意味もない。 (Senate votes through Defense Act with huge majority and dares Donald Trump to veto move to raise troops' pay and strip Confederate names from bases



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ