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トランプ再選への裏街道<2>

2020年11月12日   田中 宇

この記事は「トランプ再選への裏街道」の続編です。

米大統領選挙はマスコミがバイデンの勝利を宣言し、バイデン陣営は政権交代の準備に入った。トランプは「選挙不正があった」として敗北を認めず、側近らが負けを認めた方が良いと勧めても拒否している。エスパー国防長官など側近の辞任も相次いでいる。報道だけ見ていると、トランプは無根拠に強情を張っているだけの馬鹿なピエロで、世界はバイデン政権の就任に向けて着々と動いていると感じられる。トランプは、負けを認めて1月に辞めたら、過去の所得隠しなどを立件されて逮捕されかねないので負けを認めないのだという説まで出ている。 (Undeniable Mathematical Evidence the 2020 Election is Being Stolen) (The media are running a coup against President Trump. Is the GOP in on it?

とはいえこれは、マスコミと民主党が描き出している世界(仮想現実)だ。米国の約半分は、この世界像を実際の現実だと思っている。しかし残りの約半分は、この世界像を、民主党とグルなマスコミが歪曲的に描き出しているニセの仮想現実だと思っている。共和党支持者の70-80%は、民主党が選挙不正をやり、マスコミがそれを隠してバイデン当選を宣言することで「選挙の乗っ取り」が行われたと思っている。共和党支持者の多くは、今回の選挙で米国の選挙制度が信用ならないものになったと思っている。この調査結果を出したのは民主党系と目されている世論調査機関モーニングコンサルトだ。 (Tracking Voter Trust in the American Electoral System - Morning Consult) (70% Of Republicans Say Election 'Was Not Free And Fair'

また共和党支持者の45%は、不正が行われたが選挙結果が覆されることはないだろうと考えている。米国の選挙は以前から不正や混乱が多かったが、マスコミがいったん宣言した選挙結果が覆ったことがほとんどない。2大政党間の談合で選挙結果が維持され、不正は隠蔽放置されてきた。どうせ今回もそうなるだろうと、あきらめの境地にいる共和党支持者が45%いる。今回の選挙をめぐる世界観は、マスコミ民主党側と、共和党側で決定的に分裂している。日本など同盟諸国の人々の多くはマスコミ側を軽信し、共和党側の世界がほとんど見えていない。中国ロシアなどは、米国の覇権低下につながる今回の分裂激化・2大政党制の瓦解をニヤニヤしながら見ている。 (Russia’s Putin Joins China’s President in Staying Silent on Joe Biden’s Win) (The US Is In Serious Trouble: Election Integrity May Be Irreparably Damaged

ペンシルバニア、ウィスコンシンなど、開票中の11月4日の未明に不自然な形で優勢がトランプからバイデンに替わった各州では今後、民主党側による選挙不正がある程度明らかになっていくと予測される。だが、それが各州勝敗を転覆する(マスコミが各州での民主党側による不正を報じ、実はトランプが勝者でしたと認める)かどうか。可能性は低い感じだ。 (PROOF OF FRAUD? Republicans Did Not Lose a Single House Race — But Joe Biden Won!!?!) (Biden severely underperformed in every major metro area in the US compared to Hillary Clinton EXCEPT Milwaukee, Detroit, Atlanta, and Philadelphia

私は1997年ごろから4半世紀の間、マスコミや背後の軍産複合体が誇張や歪曲によってウソの構図を次々と作るのを見てきたが、軍産マスコミは、自分たちがウソの構図を作っていることを全く認めない。ウソを一つ認めると芋づる式に他のウソ・余罪も認めねばならなくなって権威や信用を落としかねないので、一つも認めず、バレていくと他のウソの筋書きを作って糊塗する。外交界、学術界、財界、議会などの各種の権威筋も動員される。人類の大半が、軍産の巨大な幻影製造装置に騙され続けている。世界は巨大な茶番だ。マスコミは、今回の大統領選の結果も覆さない可能性が大きい。 ("It Defies Logic": Scientist Finds Telltale Signs Of Election Fraud After Analyzing Mail-In Ballot Data) (Wisconsin Poll Workers Allegedly Altered Thousands Of Invalid Ballots

しかし今や、米国でマスコミが人々を軽信させられるのは、半分の側、民主党側だけだ。共和党側は今回、もうたくさんだと思い、マスコミぐるみで不正が行われているのを看破するようになった。マスコミは不正の存在を無視するので、共和党側のマスコミ不信も続く。マスコミが騙せるのは米国の半分だけになった。軍産マスコミの威力=洗脳力が落ちている。 (Americans Neither Listen To Nor Trust Each Other Anymore) (Kristi Noem Criticizes Romney for Conceding to Biden

この数日間に起きた新たな転換は、共和党の重鎮たちが「民主党が広範な選挙不正で大統領選の結果をねじ曲げた」というトランプの主張を支持し、従来の2大政党間で談合してマスコミが決めたウソの事実を受け入れる体制に決別すると決めたことだ。マコーネル、グラハム上院司法委員長、クルーズ上院議員などがトランプ支持を表明した。共和党の重鎮たちの中で、バイデン勝利を受け入れたのは、前から共和党内の反トランプの騎手だったミット・ロムニー上院議員ぐらいしかいない。連邦議会上院を率いる院内総務のミッチ・マコーネルは11月9日、民主党が選挙不正を行った可能性があることを認め「不正を調査するトランプの姿勢は正しい。不正票は除去せねばならない。バイデン勝利はマスコミが勝手に言っているだけだ。マスコミに、選挙結果を決める権限はない」と表明した。 (Mitch McConnell says Trump has every right not to concede until election is certified) (Lindsey Graham Urges Trump, Republicans Not To Concede To Biden

マコーネルは、共和党を代表するエスタブだ。共和党全体が、マスコミ=軍産の支配を認めないと宣言したことになる。トランプは4年前の当選時から軍産マスコミに挑み続け、ある程度勝って軍産(諜報界)を乗っ取り始めている。軍産は、トランプ側と、反トランプ側(マスコミや各種権威筋、民主党)に分裂している。大統領選で民主党と共和党の対立が決定的になって2党間の談合体制が壊れる中での今回のマコーネルの宣言は、共和党が全体としてトランプ側につき、軍産や各種権威筋、ひいてはマスコミも、民主党側と共和党側に分裂していく流れが確定したことを意味する。 (McConnell Backs Trump In Push For Recounts, Says Shouldn't Accept Election Results "From The Media") (Ted Cruz Calls for Investigation of Voting Machine Software

草の根の共和党員の7-8割が選挙不正があったと考えて怒っている以上、マコーネルら共和党の上層部は、従来の2党談合体制を壊しても、党員たちの怒りを代弁せざるを得ない。また、もしかしてそれより大きいかもしれない要因は、バイデン政権を民主党左派が乗っ取りそうなことだ。AOC(オカシオコルテス下院議員)ら民主党左派は、マスコミがバイデン勝利を宣言した直後から党の執行部やエスタブ中道派を攻撃し始め、新政権と民主党全体の主導権を左派が乗っ取ることを目標に猛烈に動き出している。バイデンら中道派は守勢に立たされている。 ('I'd Be Honored': James Woods Responds to AOC After She Suggests Compiling List of Trump Supporters) (AOC vs. DNC: Ocasio-Cortez Threatens To Quit Politics, Slams "Hostile" Dems For Not Being Progressive Enough

共和党が負けを認めてバイデンの民主党が政権を取り、それを左翼が乗っ取ると、「米国革命」が試みられ、大混乱と財政破綻に行きつく。米国は毛沢東やスターリン、ポルポトばりの左翼政権になる(!?)。民主党だけでなく共和党側のエスタブや金持ちも左翼政権によって粛清され、マコーネルら共和党重鎮たちは投獄されかねない。その惨事を防ぐため、マコーネルらは、トランプに合流して民主党の選挙不正を暴き、マスコミやエスタブの談合体制を破壊してトランプを勝たせてバイデンを阻止することにしたのだろう。(民主党内の左翼台頭からの全体構造が、トランプら多極主義者が仕掛けた謀略に見える) (Cruz: Prepare For "Socialist Abyss" If Dems Win Senate) (Coup Underway Right Now

FOXやWSJといった共和党系のマスコミは、今のところバイデン勝利を宣言したままで、マスコミ内部の統合(権威保持のための談合体制維持)を重視している。だが私の見立てでは、これから共和党側が選挙不正に対する反撃を強めていくと、FOXやWSJが民主党による選挙不正を報じ始め、これまで一枚岩だったマスコミのウソ保持体制が壊れていく。エスタブ業界や各種権威筋も分裂し、軍産が作ってきたウソ構造に亀裂が入り、世界が巨大な茶番であることが露呈していく。米英ともに2大政党制・2党独裁制が終わっていきそうだ。私は前回の記事で、マスコミのバイデン勝利宣言まで時間がかかるのでないかと予測したが、それは外れ、マスコミは早々とバイデン勝利を宣言した。この時間的な転換の遅さからすると、なかなか私の見立て通りに進まないかもしれない。だが、いったん大転換が起きだすと動きが速くなるとも考えられる。短期的な当たり外れより、大きな流れを見ることが重要だ。 (Rudy Giuliani: Trump Campaign Has the Evidence To Change PA Election Results) (Saturday’s Media Declaration Is A Naked Attempt To Silence Republicans, And Nothing Has Changed

共和党が全体としてトランプの戦略に乗ったことで、マスコミが選挙不正の存在を認めるかどうかに関わらず、今回の選挙でのトランプの勝算が高まった。前回の記事で米憲法の修正12条について書いたが、あのシナリオが現実になる可能性が高まったからだ。共和党全体が「本当はトランプが勝ったのに民主党が選挙不正した」と思って怒りで団結すると、接戦州のすべてにおいて、州議会の共和党議員団がトランプの勝利を宣言して選挙人会議の開催し、トランプ勝利の選出証書を連邦議会に送る。各州の民主党議員団も別のところで選挙人会議を開き、バイデン勝利の選出証書を連邦議会に送る。1月6日ごろに開かれる連邦議会の両院合同会議で全米から届いた選出証書が開封され、接戦州から二重に届いた選出証書のどちらを採用するかでもめるが、最終的な決定は米憲法修正12条にのっとり、上院議長であるペンス副大統領にゆだねられる。ペンスはトランプを当選させる。 (This Election Is Not Over... And The Media Knows It) (In 30 States, A Computer System Known To Be Defective Is Tallying Votes

選出証書には州知事の署名欄があり、一見、州知事の署名がある選出証書が正当であるようにみえるが、憲法上はそうでなく、上院議長の判断は州知事の署名を無視できる。1960年の大統領選でハワイ州から2重の選出証書が届いた時は、州知事の署名を無視して副大統領が決めた(ニクソンは、ハワイが覆っても勝てないので、自分を負けさせる決定をした)。選出証書が2重に作られれば、州知事がどっち側であろうが関係なく、その州は共和党側の勝ちになる。これが、一人ひとりの有権者でなく州に大統領選出の権限を与えている米憲法が定めた民主主義の決まりである。合衆国憲法という「黄門さまの印籠」によってトランプが勝つ。 (Trump will win in the end. Bad news: A fractured nation is certain) (How Donald Trump Could Steal the Election

接戦州の多くは、トランプとバイデンの票差が5万票以下だ。いくつかの票の束が無効だと宣言されると、勝者がバイデンからトランプに変わる。憲法修正12条による「印籠方式」に頼る前に、接戦州の選挙結果が書き換えられ、トランプの勝ちになるかもしれない。 (Yes, state legislatures do indeed have the final say over this election) (Donald Trump may win the state of Georgia after 132,000 ballots may be ineligible

軍産マスコミが最も避けたいことは「トランプ2期目」よりも「分裂の固定化」だろう。軍産マスコミは、分裂によって2大政党の談合体制が壊されて自分たちの権威(ウソがバレない力)が失われるよりも、今回だけは民主党の選挙不正を報じる(全面的に不正の存在を認めるのでなく玉虫色の態度をとる)姿勢に転換してトランプの2期目を容認し、軍産マスコミぐるみでトランプへの批判をやめてトランプと談合し、権威やウソ糊塗力を維持する道を選ぶのでないか。CNNがこっそりFOX化、みたいなことだ。これまでの軍産マスコミのウソ戦略のうち、911や新型コロナは「ウソの構図の存在を永久に認めない」道筋だが、イラク戦争は「ウソの一部を認めつつ糊塗して権威を維持する」道筋をとった。2020大統領選は、911コロナ型でなく、イラク戦争型の道筋になっていくようにも見える。 (Why is Biden getting hundreds of thousands more votes than other down-ballot Democrat candidates in key swing states?



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