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コロナ危機はまだ序の口

2020年4月16日   田中 宇

これまで、新型コロナウイルスのワクチン開発にかかる時間は「18か月」だと言われてきた。3月末に米トランプ大統領が「3-4か月でワクチンができる」と言ったのを、トランプ政権のコロナ対策担当者であるアンソニー・ファウチが「そんなに早くは作れません。早くても12-18か月はかかります」と訂正し、それ以来「18か月でワクチンができる」という話が世界的にひとり歩きしている。来年秋まで頑張ればみんなワクチンを注射してもらってコロナ危機は解決できるという話を、マスコミも好んで流布してきた。だが実のところ、18か月は非現実的だ。一般に、ワクチンの開発には長い検証期間が必要で、8-10年かかる。検証期間を短くしてしまうと、副作用や効果の面で問題が起こり、コロナにかからなくなるプラス面より、副作用などのマイナス面の方が大きくなる。 (The timetable for a coronavirus vaccine is 18 months. Experts say that's risky) (Fauci said it will take 12 to 18 months to get a coronavirus vaccine in the US. Experts say a quick approval could be risky

WHOによると、現在70種類のコロナのワクチンが世界で開発中で、そのうちの3種類は、すでにヒトに投与・接種する開発段階に入っている。動物実験を省いて、その先の段階に入っているのだろう。しかしそれでも、これから18か月でこれらのどれかが広範に実用化されるのか疑問だ。ヒトに投与開始してから、それを大規模にしていき、検証を終えるまでに何年もかかるのがふつうだ。18か月は楽観的すぎると、多くの専門家が指摘している。 (70 coronavirus vaccines in the works, three being tested on human: WHO ../2004/0414dm.txt) (Why A Coronavirus Vaccine May Be Years Away

オックスフォード大学の専門家(Sarah Gilbert)は、すべてがうまくいけば「18か月」よりさらに前倒しで、今年9月にワクチンが完成する可能性が80%だと言っている。そんなに急いで作って、実用化した時に副作用などの問題が起きないだろうか。「80%の完成度」みたいな感じで実用化されることにならないのか。副作用が起きる可能性がわずかでもあると、それだけでコロナ自体の致死率を上回ってしまう。副作用がわずかでもあるワクチンだと、人々は敬遠して接種を受けたがらない。そういうものを強制すると「やっぱり政府は製薬会社の利益のために動いているんだ」とみんなが思い、猛反発が起きる(日本人の多くは軽信者で政府の言いなりなので反発しないかもしれないが、他の国々の人々は必ずしもそんな馬鹿でない)。現実的に考えて、ワクチンは2023-24年まで出てこない。 (Coronavirus vaccine could be ready by September with an 80% likelihood it will work, says Oxford University expert leading research team) (Why is it so hard to make a coronavirus antibody test? Scientists admit it can take YEARS to find the exact antibodies made by any infection - but say it's happening at 'lightning speed' for COVID-19

コロナの致死率、と書いたのでついでに書いておくと、積極的な検査をしている米独の最近の研究によると、米国では人口の約1割にあたる2800万人がすでに感染ないし治癒しており、致死率は0.1%だという。ドイツでは人口の15%がすでに感染ないし治癒しており、致死率は0.37%だという。コロナの致死率は、以前に言われていたのの5分の1以下で、一般のインフルエンザ並みだ。日米など、コロナの恐怖感を扇動したい国が多いので、致死率の低さはできるだけ報道されないようになっている。致死率がこれだけ低いと、ワクチンの副作用の方が被害が大きくなる。 (New Study Finds 28 Million Americans Likely Infected by Coronavirus — Puts US Mortality Rate at 0.1% Just Like the Seasonal Flu

米独では、人口の10-15%がコロナの抗体を体内に持っていることになるが、人口の60%が抗体を持つと「問題解決」の水準である集団免疫が形成される。米独より1か月早くコロナ感染が始まった日本や韓国では、すでに40%ぐらいの人が抗体を持っているのでないか。集団免疫まであと一歩ということになる。米独など欧米では、集団免疫まで1か月ぐらいか。欧米も日本も都市閉鎖や極度の外出自粛をやっているので、その分、集団免疫の獲得は遅くなる。しかし、トランプは「米国の感染は山を越えた」と言った。米国がいま山を越えているなら、先に感染拡大した日本はとっくに越えている。しかし、安倍の日本はトランプから「都市閉鎖と同等のことをやれ」と命じられているので、そんな話にはならない。 (German study shows coronavirus mortality rate of 0.37%, five times lower than widely reported numbers

新型ウイルスの被害は、致死率だけでなく、重篤性においても、言われているより低い感じだ。世界各地で、中程度以下の発症者のために作られた即席病院に入院する人がとても少ない状況になっている。英国では全国の6カ所に、展示場や体育館などにベッドを置いた「ナイチンゲール病院」を作ったが、ほとんど入院者がいないままだ。4千床を計画したロンドンのナイチン病院は開設から1週間たったが19人しか入院していない。マンチェスターやバーミングハムでは、まだ誰も入院していない。7つ目のナイチン病院は作るのを棚上げした。 (London's new Nightingale Hospital treats 'just 19 coronavirus patients over the Easter weekend' despite having a 4,000-patient capacity) (Washington Nightingale hospital 'may not be needed'

米国では陸軍が、感染者多発のシアトルのアメフト球場を野戦病院したが、ここも入院者がいないので4月10日に撤去することが決まった。日本でも、東京都や神奈川県などがホテルや保養所を軽症者用の入院施設にしたが、神奈川県では20人ほどしか滞在していない。英米日とも、無発症やすぐに治ってしまう軽症者が意外と多いと考えられる。 (Army's Seattle Field Hospital Closes After 3 Days, Without Treating a Single Patient) (「弁当体に合わぬ」軽症者の入所進まず

英米日では「入院者が少ないのは、人々が外出を控え、政府の言いつけを聞いて社会的距離をちゃんと取っているからであり、政府やマスコミがガミガミ言わなかったら軽症者用の施設も満員になっていたはず。都市閉鎖はまだまだ続けねばならない」という自己正当化がマスコミで席巻している。「コロナ自身の特性として、言われているほど重篤性がないのでないか」「各国政府はコロナの重篤性や致死性を誇張しているのでないか」」といった見方は、公式論として厳禁だ。 (German lawyer detained for opposition) (German Lawyer Who Criticized Lockdown Arrested, Taken To Psych Ward

ドイツでは「都市閉鎖の政策は、感染拡大阻止の効果が疑問で、憲法違反でもある」と主張して都市閉鎖に反対する政治運動を始めようとした医療に詳しい弁護士(Beate Bahner)が、逮捕され、監獄の精神病棟に入れられてひどい目にあっている。日本では、テレビに出続けたいタレントや著名人たちが外出自粛の政策の提灯持ちの言動を大政翼賛的にやっている。国民は「自粛=自由意志」で強制されている。戦前よりはるかに巧妙だ。もしくは、今の人々が戦前より騙されやすい間抜けになっている。 (Klägerin Beate Bahner in Psychiatrie eingewiesen) (ドイツ語から英語への翻訳。かなり正確。翻訳家は小役人的に傲慢なので失業な。笑

前回の記事「日本のコロナ統計の作り方」にも書いたが、日本政府は非常事態宣言の発令と同時に、日々のPCR検査数を増やすことで統計上の感染者数の増加幅を拡大させることで「感染拡大が今にも爆発しそうな事態」を演出している。トランプなど国際勢力からの政治圧力で、日本は、実際の感染状況と関係なく、非常事態宣言と経済の全停止をやらされている。非常事態宣言が決まった4月7日以降、4月15日までの日々の検査数は平均すると1日5340件で、それ以前の4日間の平均の2915人よりかなり増えた。それを受けて日々の感染者数も、以前の300人程度から、500人程度へと増えた。この増加は、感染状況がひどくなったからでなく、検査数を増やしたからにすぎない。日本政府は事態を誇張することで、経済全停止をやっている。トランプから経済全停止を命じられたので、事態を誇張して命令に従ったのだろう。コロナ危機は、医療の問題でなく国際政治の問題だ。 (日本のコロナ統計の作り方) (厚生労働省 報道発表資料

米国では、5月中旬から都市閉鎖を少しずつ解除していく方向で、最初は小学校や保育園の再開からやるようだ。早く都市閉鎖を解除したいトランプ政権と、(大きな政府が好きなので)年末までかけてゆっくり解除していきたい民主党の州知事たちがここ数日、主導権争いを展開した。結局、権限は州知事にあるものの、知事たちはトランプが作ったガイドラインに沿ってやるという折衷案で談合が成立した。米国が閉鎖解除に動き出すと、トランプの命令で都市閉鎖に準じる非常事態宣言を出していた安倍の日本も、非常事態の解除に向けた動きに入りそうだ。 (CDC, FEMA have created a plan to reopen America. Here’s what it says) (White House Leaks Draft Plan To Reopen American Economy

しかし、閉鎖解除がすんなり進むとは思えない。閉鎖を解除すると、感染が再拡大する。閉める時より開ける時の方が大変だと、2月に中国が都市閉鎖をやっている時から言われていた。今後を「予測(という名の「こうやります」という宣言)」する米国の金融界などの権威筋は最近「事態が以前の平常に戻るのは2023年だ」と言い出している。コロナ危機は3年続くことになる。4月初めまで「危機が終わるのは18か月後」「2022年には平常に戻る」と言われていたが、その後、危機の期間が1年伸びた。 (JPM Sees Global Profits "Cratering" 70% In Q2, No Recovery Until 2023) (Goldman: After The Crash Of 2020, Corporate Earnings Won't Recover Until 2023

2020年は経済が50%ダウン、2021年は25%ダウンで、2022年にダウンした分を取り戻し、2023年から本調子に戻る、といったシナリオだ。ウイルスの脅威がなくなっても、人々は危機感がトラウマになっており、感染を恐れるあまり余暇に外出してカネを使うことをやりたがらなくなるので、消費やサービス業が経済の70%を占めている先進諸国の経済はなかなか蘇生しないといった、まことしやかな説明も最近喧伝されている。 (5 Reasons Why The "V-Shaped Recovery" Is A Fantasy

このようなシナリオからは、権威筋がコロナ危機の長期化を望んでいると感じられる。この感覚からすると、5月に始まる経済の再開は限定的であり、再開は一進一退しながらゆっくり進んでいく。再開に時間がかかっているうちに企業の倒産、失業や貧困が増え、経済的な被害が拡大していく。すでに米国のフードバンクは備蓄が払底し、多くの失業世帯が飢餓に近づいている。暴動になる。経済被害の穴埋めは、米連銀(FRB)など中央銀行群による造幣・QEでまかなわれる。航空各社など産業界が国有化されていき、金融界も株や債券の下落分がQEの資金で穴埋めされて「金融市場の国有化」が進む。米日欧の中銀群は、コロナ危機の経済損失をすべて負担させられ、最終的に機能不全に陥る。米国の覇権やドルの体制が破綻する。 (Food Banks Warn They Will Soon Run Out Of Food As Economic Suffering Explodes All Over America) (Could U.S. Airlines Be Nationalized?

そこまで到達するのにかかる時間が2-3年なので、コロナ危機を3年間続けようということのようだ。米国の中枢にはトランプなど、覇権体制を壊して世界の覇権構造を転換しようとする隠れ多極主義の勢力が陣取っている。彼らは米連銀に過大なQEの負荷をかけて潰し、米国覇権の根幹にあるドルの基軸性を破壊しようとしている。米連銀を潰すまでコロナ危機が長引かされる。都市閉鎖を延々とやり、少し閉鎖を解いては感染が再拡大したと騒いで再閉鎖することを繰り返す。 (中央銀行群はいつまでもつか

日本に経済の全停止(非常事態)をやらせない場合、日本経済は穴埋めが必要な状態にならず、日銀は日本の穴埋めでなく、コロナ以前からやっていた米国の穴埋めの肩代わりをやってしまうので、日銀が身代わりになって米連銀が潰れない。これではトランプらのドル潰し策が成就しない。だからトランプは安倍に命じてヤラセの感染拡大による経済全停止を続けさせている。米国同様、日本の経済再開もなかなか進まないだろう。 (How big could the Fed’s balance sheet get?

都市閉鎖や外出自粛の強要は、感染拡大を一時的に遅らせるが、閉鎖や自粛を解いたら感染拡大が再発するので根本的な解決策でない。ワクチンがない中でコロナ危機の解決策は集団免疫の獲得しかない。英国には、集団免疫の形成にこだわり続けている勢力がいる。彼らが最近出してきた独創的な案は「感染しても重症になりにくく、しかも高齢の同居人がいない、20-30歳代で一人暮らしをしている民間企業の勤務者が勤務を再開するシナリオで、企業活動の再開を許す。これによって若者から順番に集団免疫を獲得させていく」というものだ。20-30歳代で一人暮らしの民間企業勤めの英国人は260万人おり、このシナリオで想定されるコロナでの死者数は630人だという。630人の犠牲のもとで、英国全体が集団免疫を獲得し、経済も再開できるという案だ。現状では、米国の覇権崩壊を引き起こすための都市閉鎖の策の方が政治的に強いので、この案も実施されないだろうが。 (Releasing 20 to 30-year-olds who no longer live with their parents could be the best route out of lockdown and avoid an 'extraordinary recession', experts suggest — but at the cost of around 630 extra deaths

英国絡みの蛇足のもうひとつは、ジョンソン首相の退院についてだ。ジョンソンは4月12日に退院し、公用車で首相別邸(チェッカーズ)に移ったが、途中で首相官邸に立ち寄るのが目撃された。公用車にはジョンソンの他、身重の新恋人、警備員、運転手、愛犬が同乗し、誰もマスクすらつけていなかったという。ジョンソンは、退院したといっても症状が消えただけで感染したままの状態でないか。それなのにマスクもつけず、妊娠中の新恋人や警備員らと一緒に車に乗り、首相官邸に立ち寄った。ジョンソンは感染をばらまいていないか??。いやいや、ジョンソンはそんな非常識なことはしないはずだ。前回記事以来の私の見立てでは、やはりジョンソンのコロナ感染は政治的な意図を持った仮病だ。今回の入院でジョンソンへの国民の支持が急騰した。加えて、英政界やマスコミやMI6内部の暗殺計画者などの政敵から身を守ることもできた。 (Boris Johnson stops in Downing Street to deliver tribute) (Boris Johnson’s illness has made him more powerful



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