他の記事を読む

先進諸国は国民の知能を下げている?

2019年5月28日   田中 宇

人々の知能(概念的思考や問題解決、言語機能など知的活動の能力)を、試験によって測定した結果が知能指数(IQ)だが、先進諸国においては国民のIQの平均値が年々上昇していく傾向にあった。この現象は「フリン効果」と呼ばれてきた。IQの指数は、同じ試験を受けた全員の平均を100とする標準偏差で表される。ノルウェーやデンマークでは、18-19歳を徴兵する際に知能試験を毎年行なってきたが、昨年の基準で今年の試験結果を処理すると、今年の平均値が100を超える現象が毎年続いてきた。去年の19歳より今年の19歳の方が知能が高い、ということだ。同様の向上がフランスや英国などでも見られたため、フリン効果が認知されるようになった。 (Flynn effect - From Wikipedia

ノルウェーの徴兵時の知能試験では、20世紀を通じ、IQの平均値が10年ごとに3ずつ上がっていた。これが「人類の進化」なのか「試験への対応が社会的にうまくなっただけ」なのかが議論されてきた。だが、このIQの上昇は、1994年ごろを境に、低下傾向に転じている。昨年来の報道によるとノルウェーの徴兵時知能試験でのIQ平均値は94年以降、10年ごとに7ずつ下がっている。今世紀に入ってのIQ低下は、欧州を中心とする多くの先進諸国で起こり、今も続いている。20世紀のフリン効果を「人類の進化」と見なすなら、21世紀に入って人類は「退化」していることになる。 (IQ Scores Are Falling in "Worrying" Reversal of 20th Century Intelligence Boom

人々は一般に、生活水準が上がるほど、幼少時からの教育が手厚くなり、高いIQが出る傾向だ。90年代以降、中東などから欧州に貧しい移民が多く移住して国民になったため、教育水準が低い移民の子供たちが欧州のIQ平均値を引き下げているという仮説も出た。だが、欧州や豪州での調査では、同じ家族の親と子供の知能試験の結果を比べたところ、90年代以降に試験を受けた子供の方が、それよりずっと前に試験を受けた親よりもIQが下がっていたという結論が出ている。IQ平均値の低下は、移民と関係ない。原因は不明だが、人類は「低能」になっている疑いがある。 (IQ rates are dropping in many developed countries and that doesn't bode well for humanity

IQなど無意味だという議論も多いが、一般に「高知能な人々が多いほど、その社会の経済は発展しそうだ」とはいえる。IQが何を測定したものなのか定義が困難であっても、先進諸国において若者のIQの総和が低下しているのは、先進国の経済成長の鈍化と関係あるのでないかという懸念になる。 (Nations and intelligence - Wikipedia

ここまでは、すでに昨年、マスコミ報道されている話だ。先日、米国NBCがこの話を流し、それを私が毎日見ているゼロヘッジが転電して、私は遅まきながらこの話を知り、自分なりの分析ができそうだと考えたのでこの記事を書いている。私の思いついたのは「90年代から、先進諸国の経済構造は、製造業(産業)主導から、消費主導に転換した。世界は米英中心の債券化による金融システムの大膨張・バブル化の30年間を経験し、人々の高いIQが望ましい製造業の利潤による経済発展でなく、世界的な金融バブルの分配を受けた人々による消費の増加が経済成長を支えるようになった。消費者は、高いIQを必要としない。広告宣伝に乗せられて無駄な消費を増やす低能な人が多いほど、消費社会が繁栄する。90年代以降、先進国の支配層にとって、一般の国民のIQは高くない方が良いものになった。だからIQが低下傾向になった」というものだ。 (The World Is Getting Increasingly Dumber, Study Finds

IQの高い人が広告宣伝に乗せられにくいのかどうか知らない。だが、国を挙げて産業を発展させたいなら、製造や開発、流通の現場で機敏な思考・行動ができる高IQの人が多い方が良い。90年代以降、経済が30年間の債券化(金融バブル)に依存した消費主導になると、高いIQは不要になった。日本では金融バブルが崩壊したまま30年放置されたが、これは日本を支配する官僚機構が対米従属の国是を維持するため、経済的に自滅して米国より劣等な状態を維持したもので、世界的に例外だ。日本では「ゆとり教育」が導入され、若者の低能化が着々と進められた。人々は、標語だけで中身が欠如した「ものづくり重視」を軽信した。今では、日本より中国の方が製造業ですぐれている状態が不可逆的に確定しつつある。

日本のIQ平均値の年次の推移は調べたが不明だ。しかし、日本の権力機構がこの20年ほど、対米従属策の一環として国民の「低能化」を進めているのは確かだ。すでに日本人の多くは、ダイナミズムが欠如した、小役人的な「くだらない人」になっている。官僚独裁制の究極としての一億総小役人化。全員が官僚なのだから「独裁」ですらない「全体主義」の極致だ。隠然と行われているだけに、戦前の日本の体制より「進んでいる」(=たちが悪い)。顕然とした中国共産党の一党独裁制よりも「すごい」。日本は、産業的・文明的な活力が低下し続けている。「そんなことないぞ」と言い切れる人は低能化の犠牲者だ。日本万歳!。

欧州ではIQ平均値の低下が90年代半ばからだが、米国ではもっと前からIQ平均値が欧州より一段低い。そのため米国は、90年代以降のIQ低下も起きていない。米国は終戦時に単独覇権国になったころは経済がダントツに繁栄し、IQ平均値も高かっただろうが、その後、英諜報界に国家戦略立案を牛耳られて冷戦を起こされ、そのくびきから逃れるためであるかのように経済力や覇権を浪費していき、70年代の経済破綻(ニクソンショックや石油危機)を引き起こした。米国の産業は80年代までに国際競争力を失い、それと同時に国民のIQも低下したと考えられる。米国のIQ平均値の年次の推移も見つからなかったので、確たることはわからない。日本は、米国の自滅の後を追って90年代から自滅している。 (Americans Have Never Been Dumber

米欧など先進諸国がIQを引き下げたのと対照的に、中国(香港台湾シンガポールを含めた中国人世界。歴史的に中国の属国である韓国も)は、世界最高のIQの高さを誇っている。昨年の調査では、シンガポール107・1、中国105・8、香港105・7、韓国と台湾104・6、日本104・2が、世界の高IQのトップ6だ。欧米勢の最高位は7位のフィンランド100・9だ。 (Ranked: The 25 Smartest Countries In The World

都会と農村・田舎を比べると、都会の方が子供を手厚く教育して高IQを涵養する高所得層が多いので、田舎より都会の方がIQが高い傾向になる。シンガポールや香港は都市国家で丸ごと都会なので高IQで当然だが、西方に広大な「ど田舎」を持つ中国が、都会の香港よりIQ平均値が高いのはおかしい。中国はIQを粉飾していると疑われる。たぶん都会の子供たちのIQテストの結果だけを集計して中国全体のIQ平均値だと言っている。粉飾の疑いはあるが、中国はすでに世界最強の製造業地域になりつつあり、国を挙げて国民のIQを高めようとしていることは間違いない。 (World ranking of countries by their average IQ – Brainstats

欧米はIQが下がり、日本も国民の「低能化」を進めてきた。対照的に、中国とその影響圏では、製造業の振興とIQの底上げが進められている。世界経済は、米国が欧日を従属させる米覇権体制から、習近平の一帯一路やトランプの米中貿易戦争によって米国側と中国側が分離(デカップリング)し、多極型に転換しつつある。欧米のIQ低下は、米国と先進諸国の政策立案の決定権を持つ米中枢にひそむ隠れ多極主義者たちの仕業だったのかもしれない、などと書くと、行きすぎの「陰謀論」と言われそうだが、方向感としてはそっちだ。 (世界経済を米中に2分し中国側を勝たせる



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ