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次期大統領選:勝算増すトランプ、泡沫化する軍産エスタブ

2019年2月6日   田中 宇

スターバックス元会長のハワード・シュルツが、2020年の米国の次期大統領選挙に独立派として立候補する見通しになった。シュルツは、立候補すると投票総数の17%を取ると予測されているが、その多くは民主党候補の得票を食うものとなり、民主党候補の得票が33%になり、トランプが残りの50%を得票し、トランプの勝ちになってしまうと予測されている。シュルツは、トランプを打ち負かすために立候補すると宣言しているが、実態は正反対で、トランプを勝たせるために立候補することになる。シュルツはもともと民主党支持者なので、民主党本部はシュルツに、独立派としてでなく民主党から立候補してほしいと頼んでいるが、シュルツはそれを拒否し、独立派として立候補することをテレビのインタビューで明言している。シュルツの立候補はまだ確定でないが、確定した時点で、トランプの続投がほぼ決定する。 (Ex–Starbucks CEO Could Get Trump Reelected) (Trump Is Practically Daring Howard Schultz to Run

米国は、共和・民主の2大政党制だが、これは間接選挙制を使った事実上「2党独裁制」だ。2党以外から「独立派」として出馬することも可能で、これまで何人かの有名候補がこの道に挑んだが、ほとんどうまくいかない(2党以外が権力をとれないので2党独裁制)。だが、独立派の少ない得票が、2大政党のどちらかの候補の票を食ってしまい、大統領選の結果を変えてしまうことが往々にしてある。近年の米大統領選挙は僅差で決まることが多いからだ。接戦だった前回2016年の選挙では「緑の党」のジル・スタインという独立派の候補が、ペンシルバニアやミシガンといった重要な州でヒラリー・クリントンの票を食い、トランプ勝利の一因となった。16年の選挙は2大候補が新規だったが、次回20年の選挙はトランプが再選を狙う現職だ。このパターンの時は、独立派の票が挑戦者の票を食ってしまうことが多く、その分、現職が有利になる。スタバのシュルツが独立派で立候補すると、現職であるトランプを優勢にする。 (Howard Schultz Could Flip the 2020 Election. Just Not Necessarily to Trump's Favor

シュルツは、独立派としてはかなりの票(シュルツ陣営自身の予測で17%)を獲得しそうだ。彼が著名人だということに加え、「2大政党で失われた穏健派・中道派の支持を集め、過激派に席巻されてしまった2大政党に対抗したい」という方針を掲げているからだ。今の米政界は、2大政党の両方が「過激」とされる草の根のポピュリスト右派(共和)やリベラル左派(民主)に席巻されている。これらの「過激派」を嫌う「穏健派」の共和党「保守派」と民主党「中道左派」が、自党内で投票先を失い、党外の独立派であるシュルツに投票する流れが予測される。2大政党の両方から穏健派の票が流出するのでトランプにとっても不利になる、という指摘も出ているが、シュルツはもともと民主党なので、民主党からの流出の方が深刻だ。 (Donald Trump should welcome Howard Schultz — and his anti-Trump voters

シュルツは政治信条的に保守でなくリベラルで、この点は民主党の左派と同じだが、財政政策が「小さな政府主義」であり、高福祉・大きな政府を希求する民主党左派と食い違っている(共和党の草の根に近い)。そのためシュルツは、党内から出てほしいという民主党本部の要請を断っている。民主党を席巻している左派は大金持ちを敵視しているが、シュルツは米国で23位の巨額資産を持つ大金持ちだ。民主党左派はシュルツを「独善的な大金持ち」と呼んで敵視し、シュルツも左派を「お門違いな政策を掲げている」とやり返している。シュルツは、トランプを破るために立候補すると言いながら、実際には民主党と敵対している。彼は、いくつもの意味でトランプを優勢にしている。トランプは、シュルツを中傷するツイートを嬉々として発している。 (Howard Schultz Wikipedia

シュルツは、米国の2大政党制を壊そうとしている観がある。米政界では従来、民主党も共和党も「中道派」(民主党は中道リベラル、共和党は中道保守)が主流派として強く、民主党の左派リベラルと、共和党の草の根の右派(孤立主義者、連邦政府否定論者、リバタリアン)は、党内で少数派に押し込められていた。2大政党の中道派(主流派)が談合して軍産複合体やエスタブリッシュメントを構成し、米国覇権を運営・永続化するのが米国の政治体制だった。 (Democrats Are in a Blind Panic Over Schultz White House Run That Would Re-Elect Trump

だがトランプ登場後、共和党はトランプを中心とする草の根右派が強くなり、軍産エスタブを押しのけて党の主流となった。民主党でも、中道派(軍産傀儡)だったクリントンの敗北後、党内で左派が強くなり、軍産エスタブ・中道派を引きずりおろし、左派が主流派になっている。民主党の左派は、大金持ちの資産や所得に課税する新税制を提案しているが、これは民主党内のエスタブの人々に対する宣戦布告だ。ビルゲイツやザッカーバーグら、これまで民主党にいた大金持ちのエスタブが、左派によって追い出されつつある(驚きのざまみろでしょ)。 (Why It's Not The "Super-Rich" That Will Pay For The Left's "Radical" Tax Plans) (The super-rich are an easy target for tax

ウォーレン、オカシオコルテス、サンダースなど、民主党の大統領候補たちは、大金持ちに対する過酷な資産課税や、懲罰的に高率の所得税を競って発案し、党内のエスタブ層をつるし上げて自分たちの人気を高めようとしている。2大政党の上院議員の連名で、米国の大企業の株価をつり上げる自社株買いを禁じる法案も出される。大企業と資本家が、米国の政治家に敵視されている。まるで中国の文化大革命だ。米民主党は「共産化」「赤化」している。資本主義の権化だったはずの米国で「共産革命」が起きている。 (トランプと米民主党) (Schumer and Sanders: Limit Corporate Stock Buybacks) (Elizabeth Warren Doesn’t Understand Wealth Taxes

共和党側のトランプは近視眼的な金持ち減税が好きで、この点でエスタブの仲間だが、同時にトランプは覇権放棄・軍産敵視であり、軍産エスタブにとっては共和党も居心地が悪化している。軍産エスタブは今後、米政界において「野党」ですらなく(米国で野党というと、2大政党の弱い方を指す)、それ以下の「泡沫候補」にされてしまう。 (The Trump era could last 30 years

このように2大政党から追い出されつつある軍産エスタブを、2大政党の外側で吸収しようとするのがスタバのシュルツの戦略だ。シュルツは20年の大統領選で負けるだろうが、それと同時に、2大政党制の外側に、シュルツが率いる名称未定の「軍産エスタブ中道党」が作られる。米政界は、草の根右派・孤立主義的な「トランプ共和党」と、左翼リベラル・反戦的な「左翼民主党」の2大政党と、シュルツの新たな「軍産エスタブ中道党」が競い合う多党制に転換していく。 (Democrats Plan Starbucks Boycott If "Egotistical, Billionaire Asshole" Schultz Runs For President

2大政党の談合体制は排他性が強く、体制から追い出された軍産エスタブが、体制を壊して多党制に転換させていくのは困難だろう。軍産エスタブは、かつて自分たちが左右両極の草の根勢力を排除するために作った2大政党制の排他機能に、自分たち自身が苦しめられる。これで軍産エスタブがあきらめてしまうと、左右両極が占領した2大政党制の米政界が、米国の覇権をどんどん放棄して、中露イランを敵視によって強化し、世界を多極化していってしまう。これを何とかくい止めたい軍産エスタブは、2大政党制を破壊する道を選びそうだ。米政界は、体制崩壊の時代に入り、大混乱になっていく。シュルツの立候補は、米国をこのような道に入らせる。 (Virginia Governor Rebuffs Fellow Democrats, Risks Undermining Party in 2020

シュルツは本当のところ、何がしたいのか。トランプを破れると本気で思っている単なる馬鹿なのか??。そうではないだろう。彼は2014年から大統領選に出ることを検討し、政治情勢をずっと観察してきた。シュルツは、自分の陣営の世論調査でトランプに勝てないという結果が出ているのに、立候補しようとしている。負けると知りつつ、2大政党制を壊すことになると知りつつ立候補する。その意味は何か?。 (Howard Schultz’s Own Polling Finds His Campaign Would Reelect Trump

私がひらめいた一つの浅薄な「陰謀論」は、シュルツが古巣のスターバックスを、中国やその傘下の一帯一路の諸国に大展開させてもらうため、中国のエージェントとして米大統領選に出馬するのでないか、というものだ。シュルツは以前、スタバを中国など世界に大展開する戦略担当者だった。トランプは中国と貿易戦争しているが、これは中国を長期的に強化する隠れ多極主義戦略だ。中国は、トランプにやられるふりをして貿易戦争を享受している。中国は、自国を強化してくれるトランプが好きだ。2期目も続投してもらいたい。2大政党制が壊れて米国が混乱に陥るのも、中国が喜ぶところだ。シュルツは、トランプを再選させつつ米政界を壊す役目を中国のために担い、見返りにスターバックスを中国や一帯一路の国々に大出店させてもらう話になっているのでないか、というのが私の思いつきだ。



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