世界株価急落の行方2018年2月6日 田中 宇先週末から、世界的に株価が急落している。欧州中央銀行の年初来のQE縮小などの影響で1月下旬から株価が下がり続けていた欧州諸国に加え、2日金曜日から米国の株価が下落し始めた。週明け5日には、米国株に連動して日経平均、香港ハンセンなどアジア株も下がり出した。5日の米国株はS&P500やダウ平均が4%以上の暴落となり、それを受けて6日のアジア株も急落し、日経平均が一時6%以上の暴落となった。 (Dow falls 1,175 points, worst one-day fall in history) (Dow Tumbles Over 1,100 Points in Biggest Point-Drop Ever) 2月6日のアジア諸国の株価の一時的な下落幅は、日本株(日経6%、ジャスダック8%)が、香港(5%)、韓国(2%)、シンガポール(4%弱)よりも大きい。日本株はこれまで、日本銀行がQE(量的緩和策)の一環として、ETFなどを使って買い支えてきた。もし日銀が、日本株の急落を抑えたければ、日々の買い支えの額を柔軟に調整できるQEを一時的に増額し、下落幅を抑えられたはずだ。日経平均6%の暴落は、日銀が、QE全般、もしくはQEのうちの株の買い支え部分について減額しており、QEのパワーが下がっていることを示している。日経平均の終値は5%弱の下落幅で、引けにかけてQEの資金が入った感じだ。 (BoJ Offers To Buy Unlimited Debt, Boosts POMO In Panic Response To Surging Rates) 日銀の黒田総裁は年初来、QE減額の環境が整ってきたと示唆する発言をいったん発したが。その後、日銀はこの発言を打ち消す意味の発表をしている。金融危機の発生を受け、日銀がQEを一時的に増額しているとの指摘も流れた。だが、日銀内では、不健全な政策であるQEを早くやめた方が良いとの意見が出ている。ETFを使った株の買い支えは、株高は政府の経済政策が成功して好景気になっていることを示していると言いたい安倍政権のためにやっている、日銀QEの最も不健全な部分だ。日銀が株の買い支えを減らしていても不思議でない。 (USDJPY Spikes After BoJ Walks Back Kuroda's Comments) 今回の世界的な株の急落は、金融バブルの崩壊という点で、1987年のブラックマンデーに比類されている。だがブラックマンデーで米国株は23%下がったが、今回の下落幅はもっとゆるやかだ。この違いは、前回なかったQE(当局によるバブル扇動)が、今回はおおっぴらに続いていることによる。米日欧の中銀全体でのQEの総規模が減り続ける限り、今後の株価は緩やかであっても下落傾向になる。 ("It Feels Similar To Just Before The 1987 crash") 株価が急落したので、高リスクな株式から、低リスクな国債への資金逃避が起こり、指標となる10年もの米国債の利回りは、危険な上昇がおさまり、やや低下した(先週末2・8%の台から2・6%台へ)。だが、投資家の株式購入の原資となっているジャンク債の利回り(いつものBOFAメリルのHW00)は、1月29日から上昇傾向が続き、しかもしだいに急騰になっている。今の米国中心の世界的な金融バブルは、オモテの中銀群のQEと、ウラのジャンク債の大発行が組み合わさっている。現在5・37%のHW00が8%以上にまで高騰し、そのまま下がらないと、史上最大の巨大なバブルが崩壊し始める。長期米国債の金利も、いずれ上昇に転じる。 ("The Next Crisis Won't Be A Flash Crash; It Will Be A Flash Flood") (ジャンク債HW00などの動向チャート) 米国のトランプ大統領はこれまで、株価の高騰を自分の政策が成功している証拠だと言って自慢し続けてきた。米国株の下落が続くと、この面でトランプに対する批判が強まる。トランプは、株価の続落を傍観せず、何とかして反騰させようとする可能性が高い。その場合、最も手っ取り早いのは、米連銀(FRB)に、これまでの引き締め・QEから遠ざかる傾向を反転させ、短期金利の利上げの見送りや、以前のQEで買い込んだ資産(債券)売却(勘定縮小)の減速や停止、果てはQEの再開までやらせることだ。FRB議長は、今月から、トランプに抵抗しがちなイエレンから、従順な傾向が高いパウエルに交代した。 (Rising U.S. Risk Premium? ) 米連銀は、バーナンキが進めてしまった自滅的なQE・ゼロ金利による不健全な状態(ジャンクな債権の抱え込み)から脱出するために、イエレン時代に、利上げや債権売却を進めた。中間選挙勝利や自分の再選を狙うトランプが株価対策に精を出すと、連銀に今後、利上げや債権売却をやめろと圧力がかかる。これは連銀に、不健全な状態に戻れと強要するものだ。当然、連銀内では、トランプの圧力に抵抗する動きがあり、それを新議長のパウエルが抑えるかどうかという話になるだろう。 (Why One Trader Is Confident That Central Banks Will Disappoint) グリーンスパン元連銀議長は、今回の株価の急落が始まる直前のタイミングで「株式市場はバブルだ」と、高らかに宣言している。日銀も米連銀も追加の緩和策や引き締めの中止を行わない場合、金融危機はひどくなっていくだろう。 (Greenspan Warns: "We Have A Stock Market Bubble") (Can Asset Prices Continue to Rise in the Absence of QE?)
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