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CIAの血統を持つオバマ

2012年8月9日   田中 宇

 一部の人々には以前から知られた話だが、米国のオバマ大統領は、おそらく、若い時からCIA(米諜報機関)の要員として活動していた。少なくとも、オバマの母、父、母方の祖母、義父(母が父と離婚した後に結婚した相手)が、いずれもCIAのために働いていた可能性がある。またオバマは、米コロンビア大学の学生だった1980年代から、米国の諜報界の中枢にいたズビクニュー・ブレジンスキーに指導されていた可能性が高い。ブレジンスキーはオバマ政権の外交顧問だ。オバマがCIAだという話は08年の大統領選挙当時からあった。大統領就任後に詳しい調査報道がなされて再び話題となり、再選に向けた大統領選挙の今年また話題になっている。 (Barack Obama conclusively outed as CIA creation

 オバマの母は米国人のアン・ダナム、父はケニア人のバラク・オバマ・シニアだが、母方の祖母であるメデリン・ダナムは夫(家具屋の経営者)や娘(オバマの母)とともに1960年(オバマが生まれる前年)に、米本土シアトルからハワイに移住してハワイ銀行に就職し、海外送金の担当者となり、10年後の70年に初の女性副頭取になった。メデリンがCIA要員だったという確たる証拠はないが、CIAは当時、アジアや南太平洋諸国の親米政治家に資金供給する際、アジア太平洋地域に支店網を拡大していたハワイ銀行を使うことが多かった。 (Obama's CIA Pedigree

 CIAは、冷戦の米ソ対立が激しかったこの時期、各国の親米政治家にひそかに資金供給して選挙で勝たせ、各国がソ連寄りの左翼政権に転じることを防ぐ戦略を続けていた。ハワイ銀行の上層部は、CIAの戦略における自行の役割をよく知っていたはずだ。ハワイに移住して銀行に就職してからわずか10年間で副頭取まで昇進したメデリンは、少なくとも自分の仕事とCIAの関係について把握しており、CIAに積極的に協力したから昇進した可能性もある。CIAに協力すれば、CIA要員といえる。オバマは、父母が離婚して母がインドネシアに行き、再婚した後、10歳からハワイのメデリンのもとに預けられて成長した。08年の大統領選挙に際し、メデリンはマスコミの取材を断り続け、投票日の2日前に死去した。病死とされている。 (Madelyn Dunham Wikipedia

 メデリンの一人娘、オバマの母であるアン・ダナムは、一家のハワイ移住後ハワイ大学に入学し、大学のロシア語の講義で留学生だったオバマ・シニアと知り合って結婚し、半年後にオバマを生んだが、二人は3年後の64年に離婚した。アンは学士卒業後、アジア太平洋の地域研究で知られるハワイ大学の東西研究所に進学して文化人類学を学び、インドネシアの農村における産業や女性の役割について研究した。

 オバマの父であるオバマ・シニアは、東アフリカのケニアに生まれ育ち、イスラム教徒として生まれたが改宗してキリスト教の学校に行った後、25歳だった1959年、米国のケネディ大統領の一族が用意した、東アフリカ諸国の若者を米国に留学させる奨学金の280人の受給者の一人に選ばれ、渡米してハワイ大学に入学し、アン・ダナムと知り合った。 (Barack_ bama, Sr. Wikipedia

 ケネディ家の奨学金は、冷戦の一環として、東アフリカ諸国で親ソ連の指導者が増えることを防ぐため、親米の指導者を育てることが目的だった。オバマ・シニアを奨学生として推薦したのはケニヤの改革的な若手政治家だったトム・ムバヤで、彼は英国留学組のキリスト教徒だった。オバマ・シニアは米国側から、親米で反共的な指導者になることを期待され、ケニヤから米国に留学しにきた。オバマ・シニアがCIA要員であるという確証はないが(世間に確証を知られた時点で要員として失敗だ)留学時の流れからして、CIA要員になることが期待されていたと考えるのが妥当だ。 (OBAMA and HIS SECRET CIA BACKGROUND

 オバマの母アン・ダナムは、研究内容から考えて左翼的な人であり、各国の左翼を弾圧していたCIAと相反する人だ。しかしCIAは、アジア各国の農村などに現地調査や農村振興の指導に行く、一見左翼の文化人類学者や活動家を要員として取り込み、彼らに各国の地方の状況を調査させ、親米派を支援して反米派を弾圧するCIAの戦略に使っていた。左翼を弾圧する当局が、左翼の内部に通報者を作ることは、60年代以降の日本の左翼界でも行われていた。 (Obama's Mother Worked For CIA

 同時に、親米指導者として教育されるために渡米したオバマ・シニアは、ハワイ大学でロシア語を学び、そこでアン・ダナムと知り合っている。太平洋を挟んでソ連極東と向かい合うハワイにあるハワイ大学のロシア語教育は当時、ロシアをスパイするCIAなどの要員のロシア語学習の拠点だったともいわれ、ロシア語を学んでいたから左翼でなく、むしろ逆に反ソ的CIAだからロシア語を学ぶという見方もできる。

 オバマの父母の結婚はすぐに破綻した。その後アン・ダナムは、東西センターに研究員として来ていたインドネシア人ロロ・ソエトロと出会い、1965年に結婚した。二人は間もなく、インドネシアの政変を機に、幼児だった息子のオバマも連れてインドネシアに移った。ソエトロは中国系インドネシア人で、地質学の専門家としてインドネシア軍に入り、そこから東西センターに留学していた。ソエトロはインドネシアに戻った後、米国のユニオン石油(ロックフェラー系の石油企業。今のシェブロンの一部)のインドネシア支店に勤務した。当時のインドネシアは、親米のスハルトが左翼のスカルノ政権を倒し、新政権を樹立した時期で、東西センターなどを通じて米国とつながっていたソエトロは、石油利権に関して米国とスハルトを結ぶ役割を果たしたとされる。ソエトロもただの人ではなく、CIA的なつながりを感じさせる人物だが、ソエトロとアン・ダナムは1980年に離婚した。 (Lolo Soetoro Wikipedia

 アン・ダナムは、ソエトロと離婚した後もインドネシアに住み、米政府系の援助団体であるUSAIDが資金を出すジャワ島の農村経済の開発事業を手がけたり、ジャカルタのフォード財団で勤めたりした。フォード財団は人権問題などを手がけ、米国に楯突く権力者がいる国に「人権侵害」のレッテルを貼って糾弾する人権外交の素地を作るCIAの系列組織であると指摘されている。興味深いことに、フォード財団で、アン・ダナムをジャカルタ事務所の幹部職員に登用したのは、財団のニューヨーク本部のピーター・ガイトナーだった。彼は、オバマ政権で財務長官をしているティム・ガイトナーの父親で、経済支援を中心とする対アジア政策の専門家で、ロックフェラー財団などにも勤めていた。 (Tim Geithner's dad working with Barack Obama's mom both for the CIA back when AGENCY WAS ALL OVER INDONESIA

 オバマ自身は、10歳から高校卒業までハワイの祖父母のもとで暮らし、その後カリフォルニア州の大学を経て81年にコロンビア大学に編入した。その直後、オバマはパキスタンを訪問した。当時、母親のアンが、ジャカルタのフォード財団に勤務しつつ(する直前?)、アジア開発銀行のパキスタンの事務所でコンサルタントをしており、パキスタンのラホールに住んでいたため、オバマはそこを訪れた。当時のパキスタンは、ソ連軍が隣国アフガニスタンに侵攻し、アフガン難民がパキスタンに押し寄せ、米国のCIAなどが、ソ連と戦うイスラム主義のアフガン人武装勢力に対する支援を急拡大していた。この事業を主導していたのが、カーター政権の大統領補佐官だったブレジンスキーで、ちょうどオバマがパキスタンを訪問した時期、ブレジンスキーもパキスタンにいた。 (Obama, Brzezinski, and Pakistan

 オバマは大学生でしかないのに、パキスタンの有力な政治家(Muhammadmian Soomro)の家に泊まらせてもらっていた。またオバマは、その一家と狩猟に行くという名目で、パキスタンの辺境地帯を旅行している。分析者の中には、オバマがブレジンスキーもしくはその側近の命を受け、イスラム聖戦士(今のタリバンなど)の拠点がある対アフガン国境地帯に入り込み、資金の受け渡しなどCIA的な業務をしていたのでないかと推測する者もいる。 (Barack Obama, Former CIA Agent

 これを突拍子もない妄想と思う人が多いかもしれない。しかしオバマはコロンビア大学を卒業後すぐ、CIA系のシンクタンクであるビジネス・インターナショナル社(BIS)に就職している。BISは、オバマのコロンビア大学での学費を出していたという説もある。カリフォルニアの単科大学からニューヨークのコロンビア大学に編入する時点で、オバマはCIAやブレジンスキーのお眼鏡にかない、奨学金を出してもらったとも考えられる。卒業後、オバマはとんとん拍子に出世し、大統領にまでなった。ブレジンスキーの目利きが正しかったことになる。 (Confirmed - Obama Is Zbigniew Brzezinski Puppet

▼米国覇権はオバマなら軟着陸、ロムニーならハードランディング

 オバマがCIA要員だったかどうか、確定的に言うことはできない。要員であることが暴露することは、CIAとして失敗だから、不透明である方がまっとうだ。CIAは「スパイ」「汚いやり方をする暗殺団」など悪いイメージがあるが、もともとCIAは米国(米国覇権)を守るための組織であり、そこに協力するのは米国民にとって愛国的な行動だ。米国で流されているオバマCIA説は、大統領であるオバマを悪く描こうとする反政府的な傾向が感じられるが、私からすると、その見方も曲がっている。この点を踏まえたうえで再考すると、上に書いたようなオバマ周辺の人々と、CIA的な戦略とのつながりから、オバマが大学時代からCIAと関係があったとしても不思議でない。

 オバマがCIAであるとしたら、それは何を意味するのか。そもそもCIAとは何であるか。CIAは米国を代表する諜報機関だが、創設されたのは第二次大戦中(前身のOSSとして)であり、おそらく英国の諜報機関MI6が、英国から米国への覇権の移転(第二次大戦に米国が参戦する見返りに英国から覇権をもらうことになった)にともなって、MI6のコピー的な機関を米国に作ったのが始まりだ。英国は米国に覇権を譲渡したが「ただより高いものはない」ということわざどおり、MI6がCIAにノウハウ提供の名目で入り込み、覇権運営の裏方である米国の諜報部門を英国が乗っ取った。入り込みや乗っ取り、なりすましは、スパイの常道だ。OSSは、冷戦開始と同時期の1947年にCIAに改組された。組織的にCIAは大統領のみにつながっており、大統領さえたらしこめば、米政府の他の機関に妨害されず勝手にやれる。たらしこみや、相手を信じ込ませる心理作戦もスパイの常道だ。

 CIAは、米国が英国好みの世界戦略を採らざるを得ない冷戦構造の永続化を模索した。だが米国には、ロックフェラー系の人々など、英国式のユーラシア包囲網の覇権構造を好まず、一大陸一大国の多極型覇権構造を好む多極主義者もいて、彼らは強力なCIAに楯突かず、むしろ協力する方向で、やりすぎによって戦略を破綻させる策をやり、60年代のベトナム戦争を失敗させて米中関係を回復し、80年代にアフガニスタンを占領したソ連軍を、地元のイスラム聖戦士を使って本気で苦戦させ、ソ連を崩壊に導いたり、03年に戦争の大義を欠いたまま米軍をイラクに侵攻させたりした。協力するふりをして敵に入り込み、微妙に失敗して敵を破綻させるのもスパイの常道だ。CIAも多極主義者もスパイのやり方をして暗闘していた。 (CIAの反乱

 今に続くこの暗闘の中では、誰が英国系で誰が多極系であるか、ほとんど見分けがつかない。敵をだますにはまず味方から、というのも孫子以来のスパイの常道だ。諜報界におけるオバマの恩師となったブレジンスキーは、アフガンの聖戦士に金を出してソ連を潰す戦略をやった人だ。ならばブレジンスキーもオバマも隠れ多極主義者なのか。オバマが08年に選出された時の状況を見ると、そうでないと感じられる。オバマの前任のブッシュ政権は典型的な隠れ多極主義で、イラクやアフガン侵攻、リーマンショックなどに際し、やりすぎて米国の覇権を自滅させようとした。ブッシュ政権時代、米政府の諜報分野は国防総省が乗っ取り、CIAは隅に追いやられていた。 (つぶされるCIA

 対照的に、オバマは、イラクやアフガンからうまく撤退する戦略をとり、金融危機も何とか軟着陸や延命をさせようとしてきた。隠れ多極主義のブッシュ政権によって、米国は覇権自滅への道を突っ走ったが、オバマはその道を何とかうまく引き返し、米国の覇権を維持回復しようとした。オバマは多極主義的でなく、米国の覇権をできるだけ延長しようとする伝統的、英国的なCIAの姿勢を維持している(ブッシュの前のクリントン大統領もそうだった。米金融がクリントン時代に上昇期、オバマ時代に衰退期という違いはあるが)。米国の覇権を守るのがCIAの基本的な存在意義であり、オバマはそれに忠実な要員といえる。

 今秋の米大統領選挙で共和党のロムニー候補が勝つと、ロムニーの周りにはブッシュ政権の人々が集まっているので、来年からの米国は、再び無茶をして急な下り坂を転げ落ちる可能性が大きい。半面、オバマが勝って続投すると、米国覇権の下り坂をできるだけゆるいものにする軟着陸路線が続くことになる。

 とはいえ、米国の力がこれだけ弱まってくると、米国覇権の軟着陸は、むしろ中露など多極型世界システムの諸大国と敵対するのでなく、多極型世界をある程度容認し、米国の覇権運営のコストを下げて延命を図ることになる。オバマが勝てば世界は多極型システムに向けて軟着陸し、ロムニーが勝てば多極化へのハードランディングになるという違いだ。オバマは、自滅的な米政府の財政赤字急増を止めるため、米国内の米軍基地を閉鎖しようとしたが、米軍基地は米国のほとんどの州にあって地元経済を支えており、米政界は基地閉鎖に猛反対し、一つも閉鎖せず、代わりに欧州など海外の米軍基地の閉鎖に拍車をかけることにした。このように、オバマの軟着陸計画は難題が多い。 (Pentagon Drops Plan to Close Domestic Military Bases

 好戦的で露骨な親イスラエル姿勢を掲げるロムニーを、常識的な米国民が支持するとは考えにくいが、世論調査によると、オバマよりロムニーへの支持が多いそうで、どちらが次期大統領になるか、まだわからない。 ('Americans favor Romney over Obama'



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