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米国の財政危機再び

2011年11月14日   田中 宇

 米議会は、11月23日までに、3兆ドル近い財政赤字の削減策を決めねばならない。だが、期限まであと2週間を切っているのに、削減策を審議する米議会の特別委員会は、増税を求める民主党と、増税に反対で社会保障関連の支出削減を求める共和党との対立が解けない。2大政党間の対立が解けないため、特別委員会をいったん休会し、対立を解くための方策を再検討することになった。米議員の中には、期日までに結論を出せないと言い出す者が出てきた。 (Deficit panel at an impasse, Republicans say

 11月23日までに赤字削減策がまとまらない場合、8月に演じられた米国債の格下げ危機が再燃する。マスコミでは、ユーロ圏の財政危機ばかりが報じられているが、米国の財政危機も、2週間後に再燃する可能性が高まっている。だからこそ、米英投機筋は、国債先物の売りによってユーロ危機を煽る対象をギリシャからイタリアへと拡大し、米国債やドルの潜在危機から世界の目をそらそうとしているのかもしれない。 (Time Running Out For US Deficit Reduction Deal) (◆米国債格下げ危機が再燃へ

 米2大政党は、特別委員会の今回の議論の中で、相互に譲歩する姿勢を見せている。民主党は、自分らが抵抗してきたメディケア(官制健康保険)の支出切り詰めを含む3兆ドルの支出削減案を出した。しかし、これには1・5兆ドルの増税案が含まれていたため、共和党が拒否した。 (Exclusive: Democrats seek up to $3 trillion savings

 一方、共和党は、各種の税控除を廃止して税収を増やす案を出してきた。しかしこの案は、所得税率を一律に引き下げる減税と抱き合わせになっており、税率の引き下げによって、所得税の最高税率が、今の35%から28%に下がる仕掛けになっている。大金持ちにとって減税である半面、各種の税控除の多くは、中産階級や貧困層を対象にしており、共和党の案は実質的に、中産階級や貧困層の税負担を増やし、大金持ちを減税するものだった(共和党は金融界や金持ちに支持されている)。 (Deficit Panel Members Seeking to Avoid Blame

 米国ではここ数年、金融界や投資家といった金持ちだけが儲かり、中産階級が貧困層に没落する流れが続いて貧富格差が増大し、それが「ウォール街占拠運動」などの政治運動につながっている。米国民の不満を受けて、オバマ政権は所得税の最高税率を、今の35%から40%に引き上げることを予定している。共和党の案は、逆に最高税率を低くするもので、中産階級の怒りをかう内容だ。

 特別委員会が赤字削減策を決められない場合、今夏に米議会が決めた削減策のトリガー条項が自動的に発動され、2013年から防衛費とそれ以外の支出が約8%削減されることになっている。これが発動されると、防衛費の減少に合わせ、日本や韓国を含む世界中から米軍を撤退しようとする動きが加速するかもしれない。また、米国の行政がますます切り詰められ、インフラの老朽化や犯罪の増加などが起こりうる。 (Focus on failure as US budget deadline looms

 中国の債券格付け機関「大公」は、米議会が財政緊縮策をまとめられず、連銀がドルの過剰発行になる量的緩和策の追加(QE3)を発動しそうなので、米国債を再度格下げせねばならなくなりそうだと表明している。 (Chinese ratings agency threatens US with new debt downgrade) (Dagong May Cut U.S. Rating Again If More Quantitative Easing



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