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まもなく欧州発で世界金融が再崩壊する?

2011年10月9日   田中 宇

 10月6日、英国中央銀行のキング総裁が、テレビで「今後、1930年代の大恐慌よりひどい史上最悪の金融危機が起きそうだ」と表明した。ユーロ圏の国債危機がひどくなってギリシャがデフォルトし、それが独仏など欧州大陸の銀行の不良債権を急増させて銀行の破綻が相次ぎ、その金融危機が英国や米国など世界中に伝播すると、キングは予測した。 (World facing worst financial crisis in history, Bank of England Governor says

 キングは「(ギリシャ危機に対して無策が続くので)EU諸国政府の危機対策の能力を信用できなくなった」と発言した。無能なEUが共同で対策を出してくるのを待ちきれないとの理由で、英中銀は、金融危機の被害を少しでも緩和するため、銀行救済を目的とした量的緩和策(英QE2)を2年ぶりに再開した。 (King Loses Faith in Europe as BOE Battles Region's `Virus'

 同日、IMF顧問で米ハーバード大学の教授をしているロバート・シャピロも、英BBCの番組で「EU諸国が十分な金融危機対策をとらない場合、今後2-3週間以内に(ギリシャなど)EU国債の崩壊(メルトダウン)が起こり、それが欧州の銀行界のメルトダウンを引き起こし、独仏の大手銀行が次々に破綻し、欧州から米英など世界中に銀行危機が伝播することになる。08年(リーマンショック)よりひどいことになる」と述べた。「今後2-3週間以内」と時期を限定している点が目を引く。 (Europe on the Brink) (IMF advisor says we face a Worldwide Banking Meltdown

 米国では同日、グリーンスパン前連銀議長がCNBCテレビの番組で「ドイツ国債より20%も高い利回りのギリシャ国債を維持することは無理だ。何らかの形でのギリシャのデフォルト(国債の債務不履行)が起きるだろう。それは(ギリシャ国債を多く保有する)欧州の銀行にリーマン型の危機をもたらす。危機は米国に飛び火するかもしれない」と指摘した。 (Greenspan: Greek Default Likely as Europe 'Very Dangerous'

 これらの発言から2前日の10月4日、格付け機関のムーディーズが、イタリア国債を一気に3段階も格下げしてA2にした。ギリシャ国債危機の影響でイタリアの国債金利が上昇し、イタリア政府が財政赤字を難なく償還するのが難しくなったとの理由からだった。同業者のS&Pは、9月にイタリア国債を格下げした。 (Moody's cuts Italy's rating three notches

 またムーディーズは、英国の12行の大手銀行を、今後金融危機になっても財政難の英政府から十分な救済を受けられそうもないとの理由で格下げした。フランスの大手銀行は、先月すでに格下げされている。もう一社の大手格付け機関であるフィッチは10月7日、スペインとイタリアの国債を一段階ずつ格下げした。 (Fitch downgrades Spain and Italy

 ドイツ国債のCDS価格(国債の破綻確率)も史上最高まで上っている。報じられていることを総合すると、ギリシャ国債が2-3週間以内にデフォルトし、それがイタリアやスペインの国債危機へと拡大し、これらの国債を多額に保有する欧州の銀行界が危機に陥ってリーマンショックの再来的な事態になり、米英の金融界も危機に見舞われるという予測になる。 (Investors turn bearish on Germany and France

 米国の銀行では、これまで危機説が何度も流れたバンカメに代わって、リーマンショック後に日本の三菱東京UFJグループに買収されたモルガンスタンレーが、最も危険な銀行と称されるようになった。モルスタ株は年初来54%も下がった。お堅い三菱はもともと「米国の投資銀行に深入りしない方が良い」と考えていたのに、リーマンショック後、米政府が日本政府にモルスタ買収を頼んだ。対米従属の日本政府はいやといえず、国内最有力の三菱に命じて買い取らせた。 (金融危機対策の主導権奪取を狙う英国

 モルスタ買収は、三菱にメリットが少ないが、お上の命令なので仕方がない。日本の国策がらみの買収であるためか「三菱はモルスタを見放さない」と報じられている。今後モルスタの状況がひどく悪くなると、資金をつぎ込まされている三菱の経営が悪化するかもしれない。預金者は要注意だ。 (MUFG reaffirms support for Morgan Stanley

 欧州の国債危機が世界的な金融危機を引き起こすとの懸念から、10月4日に欧州の銀行のCDSがのきなみ上昇した。米国の銀行にも上昇が波及して、モルスタなどのCDS価格が急騰し、株価が急落した。10月6日、ガイトナー米財務長官が「米国の大銀行が破綻することは決してない。EUの危機が米国に波及しても悪影響は少ない」と口先介入し、米銀行のCDSが下がった。 (CDS numbers count against banking system) (Bank Stocks Get a Boost From Geithner

 今にもEU発の世界金融危機が再燃しそうな感じだ。だが、ユーロ国債危機は米英投機筋がユーロ圏内で脆弱なギリシャを選んで揺さぶりをかけて起こしていること、米英マスコミでユーロ危機が誇張気味に喧伝されてきたことなどをふまえると、一歩引いて考えてみることが重要だ。

 リーマンショックの時、リーマンが危ないという話は半年ほど前からときどき指摘されていたが、今回のような「2-3週間以内に大変な事態になる」といった、著名人による予言的な警告は発せられなかった。リーマン倒産の1週間ぐらい前から、米国のいくつかの大手金融機関が危機に見舞われる中、唐突に「リーマンの倒産は不可避だ」という話になり、その翌日にリーマンが倒産した。

 土台の腐った家屋がいつ倒れるか、事前の的確な予測が難しいように、巨大な危機がいつ起きるか、確定的に予測することはほとんど不可能だ。「2-3週間以内」といった確定的な予測が、もし当たるとしたら、それは当局や銀行界が救済しようと頑張ったが無理になって倒産するのでない。米英の金融界(投機筋、格付け機関、マスコミ)がドル延命のためのユーロ潰しの新たな攻勢を今後かけるので、2-3週間もすればギリシャのデフォルトを皮切りに全欧的な危機になるだろうという「宣戦布告」的な話と考えた方が自然だ。

 ユーロ国債危機はもともと誇張されたものだったが、危機に対する誇張報道が1年以上も続くうちに信用不安が煽られ、危機が本物になっている。本当に2-3週間後に欧州銀行を皮切りとした世界的な金融危機が起きるかもしれない。

 ギリシャのデフォルトがユーロ圏離脱に直結するわけでないものの、ユーロの将来は不透明だ。今回のEU危機は、短期的に大惨事だが、念願だった政治や財政の統合を実現することにつなげられるので、長期的にEU統合の成功につながるとの見方もある。しかし、そういった楽観は、まず今回の危機をEUが何とか乗り切った後の話だ。 (China seeks higher ground in Europe

 米銀行界は欧州に対して巨額の債権があり、EUの危機は米国に飛び火しやすい。半面、日本の金融界はバブル崩壊後ずっと萎縮して高リスク投資を避けているので、すでに述べたモルスタの件以外は、あまり被害を受けないだろう。リーマン倒産直後に起きた、MMFの元本割れぐらいは起きるかもしれない。 (Major U.S. Banks At Risk If European Debt Crisis Spreads

 米連銀のバーナンキ議長は最近、米経済が不況に再突入する可能性が高いと米議会で証言した。ガイトナー財務長官は、米国の住宅バブル崩壊の悪影響が今後何年も続くとの暗い見通しを米議会で表明している。米経済は、実体経済の実需(大衆消費)が伸びない代わりに、金融界による債券金融システムのレバレッジ再拡大によって何とか回っている。EU発の金融危機が米金融界に波及すると、それが決定的でなくても、米経済は不況に逆戻りする。ユーロ危機に加え、財政赤字を増やせない米国の不況再突入が、来年にかけて世界経済の混乱に拍車をかけることになる。 (Bernanke downbeat about US economy) (Tim Geithner: Firewall needed against debt crisis



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