他の記事を読む

シリアも政権転覆か?

2011年3月26日   田中 宇

 中東の革命がシリアに飛び火している。シリア南部の都市ダルアで、3月中旬から激化した政府批判の運動が拡大し続け、独裁者であるアサド一族への批判の声が、これまでのタブーを破ってシリア国民の口から発せられている。ダルアの周辺地域ではここ数年、水利政策の失敗などが重なって干ばつが続き、小麦の収量が減少して生活できなくなった農民らが、100万人規模の国内避難民としてダルアで貧困生活を強いられてきた。中東で広がる革命の影響で、彼らの困窮が政府への不満の爆発につながり、治安部隊が発砲して死者が出て、その葬儀でさらに多くの人が反政府デモに参加し、また発砲が行われる悪循環になっている。昨今の中東では、国民が街頭デモのスローガンで独裁者への批判を明言するようになると、その独裁政権は転覆に至ることが多い(エジプトやチュニジアはそれで革命が起きた。サウジやヨルダンでは、まだ明確な国王批判が発せられていない)。 (Call for revolution at Syria funeral; security forces respond with tear gas

 シリアの独裁者であるアサド家は、国民の1割しかいない山岳地帯に住む少数派のアラウィ派イスラム教徒の出身だ。スンニの強硬派(サラフィ)は、広義のシーア派系であるアラウィを異端視する。フランスがシリアを支配していた時代、民衆分断政策としてアラウィ派などの少数派に、多数派のスンニ派などを監視する治安維持要員をさせていた関係で、独立後のシリアでもアラウィ派が軍や治安関係者に多く、その流れの中でハーフェズ・アサドが1970年代に権力を握り、今では次男のバッシャール・アサドが大統領を継いでいる。このような歴史なので、国民の多くはアサド家やアラウィ派を心底で尊敬していない。シリアの反政府運動が強まり続けると、アサド政権は崩壊する。 (Syria's Bashar al-Assad faces most serious unrest of his tenure

 アサド政権の転覆され、シリアが民主化する(つまり弱い国になる)ことは、米イスラエルの望むところだと、マスコミの多くが書いている。しかし私が見るところは、そうでない。アサド政権が崩壊し、その後しばらくすると、ムスリム同胞団が台頭するだろう。シリアでは独立以来、イスラム主義の同胞団と、世俗主義(左翼)のバース党(アサドの党)が対立し、父アサドが1982年に同胞団の決起を大弾圧した後、同胞団は静かになったが、アサド政権が転覆されれば、ほぼ確実に同胞団が台頭する。特に近年のイスラエルは、シリアやエジプトといった周辺諸国との関係を改善することで国家の生き残りを模索してきた。アサドは、条件(ゴラン高原の返還など)が整えばイスラエルと和解しても良いと言っていた。アラブ諸国の全体を一つの国に統合し、イスラエルを潰すことを目標としている同胞団より、シリア一国の独裁者であり続けたいアサド家の方が、イスラエルにとって、はるかにましな交渉相手だ。エジプトもシリアも同胞団の国になると、アラブ全体が反米反イスラエルの方向に大きく傾く。



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ