日本の大地震と世界経済2011年3月14日 田中 宇以下は3月14日に速報分析としてメール配信したものです。 地震と津波による福島原発の深刻な事故を受け、日本では今後、多くの原発立地で増設に反対する声が強まる可能性がある。発電を原子力に頼れないなら、石油や天然ガスを世界から輸入するしかないが、世界では今、日本の主な石油購入先だった米英の大手石油会社(メジャー)の力が弱まる半面、中国など新興諸国の国営企業が、中東やアフリカなどの油田の利権を直接おさえる手法が席巻している。象徴的なのが、イランの巨大なアザデガン油田だ。一時は日本勢が油田開発を計画したが、米国のイラン制裁への参加を余儀なくされ昨年、正式に撤退を決めた。そして3月12日、中国の国営石油会社が60億ドルを投入し、アザデガンを開発することが決まった。日本は地震で原発を失うと同時に、アザデガンの石油利権も失った。今後もし日本が原発を縮小するなら、今からでも遅くないから、米英メジャーに石油購入を頼るのをやめて、日本企業が直接に世界の油田開発に取り組む戦略を強めるしかない。中露インド、そして対米従属の韓国までが、すでにそれを進めている。 (China invests USD 6bn in Iran oilfields) 福島原発の事故を受け、ドイツでは、国内の古い原子力発電所の寿命を延長して稼働している独政府に対する、野党による反原発運動が強まっている。米国でも、オバマ政権がテロ戦争の石油離れ・中東離れの一環として、新たな原発の建設を計画していることに対し、米議会から、福島の教訓を踏まえて計画を見直すべきとの声が出ている。 (Germany orders safety review at nuclear plants) (US lawmakers mull nuclear moratorium after quake) 半面、米国の原発推進派はWSJ紙に「福島の事故は原子炉自体の問題でなく、循環ポンプが津波で壊れて冷却できない問題だ。原子炉自体は、最も古いタイプの福島第1原発1号炉でさえ、あれだけの地震と津波に耐えた。米国で開発中の最新型の原発は、ポンプを使わず対流によって冷却水を循環するので、福島のような事態にならない。スリーマイル原発事故で炉心溶融が起きたが、溶けた燃料が炉の底の鉄筋コンクリートの基底を突き破るチャイナシンドロームは起きなかった。事故後の30年間の調査で、ベント(炉内からの放射能を含む水蒸気の放出)による健康被害もほとんどなかったことが証明されている」と書いている。 (Japan Does Not Face Another Chernobyl) 為替市場では、日本の企業や保険会社、投資家などが、地震からの復興にかかる費用や保険金の支払いをまかなうため、海外に投資していた資金を取り崩して日本国内に戻す流れが起こり、円高ドル安が続くとの見方が出ている。円高をおさえるため、日銀は史上最大の規模で市場に円資金を供給している。日本勢が米国債を売って日本に資金を戻す結果、米国債が下落して米国の長期金利を押し上げる可能性も指摘されている。地震による経済成長の鈍化を予測して日本から引きあげる外国勢の資金もあるだろうが、その一方で米国の金融崩壊の予兆も相次いで出ており、日本から米国に資金を移す流れを妨げている。米国の著名な企業買収家(乗っ取り屋)であるカール・アイカーンは3月11日、今年6月に連銀がドル増刷による米国債買い支え事業(QE2)をやめた後、株や米国債など金融相場が大幅下落する可能性があると表明し、他の投資家たちから預かって投資していた18億ドルを現金に戻して返金すると発表した。 (Yen's Post-Quake Rally May Fade) (Quake to lift yen? It's not so simple.) (Icahn warns another downturn may lie ahead) 大地震によって、日本の原子力発電の総能力の15-20%にあたる680万キロワット分が失われ、これを石油火力で代替すると1日あたり約24万バレルの原油が追加的に必要となると報じられている。日本は緊急に世界から原油を買い集める必要があり、その影響で国際原油相場が値上がりすると予測されている。コスモ石油の千葉製油所やJX日鉱日石エネルギーの仙台製油所といった製油所が地震で使用不能になった。地震で停止した製油所の総能力は日産120万バレルで、日本の製油能力の25%を占めるとの指摘もある。日本は、原油でなくガソリンや軽油、ジェット燃料などのかたちで、原油よりもかなり高値での輸入が必要になるとも予測されている。輸入元は米国西海岸の製油所となる可能性が高く、米国は日本にガソリンなどを売る影響で、すでに値上がりしている米国内のガソリン価格の上昇に拍車がかかり、米経済の回復の足を引っ張るのではないかと、米国の新聞が書いている。国際石油市場は、中東の混乱に加え、日本の原発停止という値上がり要素が新たに出てきた。 (Japan Nuclear Closures Could Have Oil, Gas Price Fallout - BarCap) (Japan earthquake may push Oil prices higher) (Japan Will Need to Boost Energy Imports) アルジャジーラなど中東の放送局も、ここ何日か、ニュースの中心が中東の民主革命から日本の大震災に移っている。バーレーンやレバノンでは大きな反政府運動が続いているが、サウジやイエメンの運動は弾圧された状態になっている。レバノンでは台頭して政府を牛耳るに至ったシーア派イスラム主義武装勢力のヒズボラに対し、親米的な世俗派が数万人規模のデモや座り込みを行い、武装解除を求めるとともに、宗派ごとに議席や政府要職を割り振っている既存の政治体制の解体を求めている。 (Outlook for democracy dims across much of Middle East) (Tens of thousands rally in Beirut, demanding Hezbollah disarm)
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