最近の速報分析から2011年2月24日 田中 宇私は、毎日ネット上で何十本かの英文情報を探して読み込み、簡単な分析をして短いメモを書き、解説記事を書く時に使います。その分析メモを「速報分析」と名づけ、ほぼ日刊で「田中宇プラス」の会員向けに配信しています。速報分析は毎日5本前後を配信しています。以下は最近配信した速報分析のごく一部です。もっと読みたいと思われた方は、下記のページから「田中宇プラス」への登録をお願いいたします。「田中宇プラス」の購読料は6カ月3000円です。 (有料配信「田中宇プラス」について) ▼米国、南北アメリカ 【2月23日】米国とカナダは、どちらかの国でテロや住民の反乱が起きて国家的な緊急事態になったら、双方の国の軍隊が国境を越えて相互に軍事活動できるようにする協定を、2月14日にテキサス州において締結した。以前から言われてきた米国とカナダの軍事統合であり、経済面のNAFTAによる市場統合と並び、米加の国家統合が進展している。米軍の北方司令部はこの件について発表したが、カナダ政府は何も発表していない。米軍は、他国の勢力に指揮されることを禁じており、本件は事実上、米国がカナダを軍事的な傘下に入れることを意味している。カナダ国民の反発が強くなりそうなので、カナダ政府は発表しなかったのだろう。 (Canada, U.S. agree to use each other's troops in civil emergencies) 【2月23日】米国ウィスコンシン州では、財政緊縮のため州職員の解雇や賃金引下げが検討され、州職員労働組合の反対を抑えるため、州知事が労組の交渉権を抑制する州法を提案している。同州の州都マジソンでは、ベトナム反戦運動以来の規模といわれる7万人の反対集会が開かれ、1万人の反対運動参加者が州議会議事堂に寝泊りして篭城している。州知事は、州兵を差し向けて反対運動を潰すと警告した。同様の州法が検討されている近隣のオハイオやインディアナ州にも反対運動が広がっている。米国で40年ぶりの反政府運動の盛り上がりを受け、ウィスコンシン州議会前は「米国のタハリル広場」と呼ばれ始めている。本件は、米国のマスコミで小さくしか報じられず、人々はネット経由の外国報道やブログで情報を得ている。報道管制も中東革命的だ。 (Wisconsin protests here to stay) (US union protests: Demonstrations move beyond Wisconsin) (Troopers would `absolutely' use force on Wisc. protesters if ordered, police union president tells Raw) 【2月17日】米国防総省はハッカーなどがネット上で公機関のサーバーを攻撃する「サイバー戦争」への対策費を急増させ、軍産複合体の一部である米マスコミは、サイバー戦争の脅威と恐怖を扇動する報道を展開している。米国の専門家の間からは、サイバー戦争という言葉が定義も確定しないまま、恐怖感だけが扇動されているという批判が出ている。中東で米国が外交力を失って、軍産複合体が巨額予算をとるための従来の口実だった「テロ戦争」は敗色が強くなっている。代わりの口実として軍産複合体が出してきたのが「サイバー戦争」の構図なのだろう。 (Too much hysteria over cyber attacks: US experts) (Cyber war threat exaggerated claims security expert) 【2月15日】米国の住宅ローン物件全体の半分にあたる6000万件の住宅の権利関係が登録され、銀行間のローン債権の転売を仲介してきた米国のネットワークシステムMERSについて、ニューヨーク州の連邦裁判所が、MERSにローン債権を転売する権限がないという判決を下した。米国には公的な土地登記制度が存在するが、登記所の処理能力が低いため登記に時間がかかり、そのため95年に民間企業が金融界の支援を受けてMERSを作り、登記所の代わりとして機能してきた。だがMERSは私企業のシステムで、公的なものでないため、裁判所はMERSのシステム上のみに登録され、公的な登記所に登録されていないローン債権の転売は有効なものでないと判決を出した。米国では住宅市況の悪化を受け、債務者がローン返済不能になって金融機関間で転売されるローン債権が増加しているが、その多くが無効とされ、ローン市場が混乱に陥る恐れが出てきた。MERSが法的に無効かもしれないという懸念は、昨秋にローン転売契約をめぐる広範な手続き瑕疵である「フォークロージャーゲート」が起きたときから指摘されていた。住宅ローン債権は、米国の社債市場の根幹をなし、08年のリーマン倒産はその市場崩壊によって起きている。 (Merscorp Lacks Right to Transfer Mortgages, Judge Says) 【2月13日】米政府は「テロの危険性が911以来の最大になっている」と発表したが、これは911を機に作られた米国の有事法である愛国法の延長と拡大が、米議会で反対されて困難になっていることと関係ありそうだ。米当局が発表するテロ警報は、以前から根拠の薄いものだった。米国民にテロの恐怖を思い起こさせ、米議会に圧力をかけて愛国法の延長を実現しようとしているように見える。 (Why is Patriot Act under fire if homegrown terror threat is rising?) (Ron Paul slams Patriot Act, backers drown out jeers at conference) ▼西アジア、中東、アフリカ 【2月21日】革命後のエジプトの姿勢を試そうと、イランが30年ぶりに自国軍艦のスエズ運河航行を申請し、エジプトは航行を認めた。この動きには伏線があった。1年半前、まだエジプトがイスラエルと親しかった時、イスラエルは潜水艦をスエズ運河を通って地中海から紅海へと往復航行させ、イスラエルの潜水艦がいつでも紅海からアラビア海に行ってイランを攻撃できることを誇示した。今回のイラン軍艦のスエズ航行は、それへの仕返しであり、イスラエルとイランの立場の逆転を象徴するものだ。だから、軍艦自体は大した脅威でないのに、イスラエルは苛立っている。 (Egypt is no longer committed to an alliance with Israel against Iran) 【2月19日】エジプト革命後「エジプトでイスラム主義が強まる」と考える欧米の懸念を払拭するため、最大野党であるイスラム同胞団は、本来の方針であるイスラム主義をなるべく表に出さず、穏健リベラルの勢力としてふるまっている。だが表向き同胞団と関係ないところで、エジプトのイスラム主義化が進んでいる。カイロのピラミッド通りには、多くの賭博場が立ち並び、ムバラク政権時代には、賭博が禁じられたサウジアラビアなどからの観光客が羽目を外して賭博や飲酒、売春にふけっていた。革命前から、イスラム主義の若者集団がピラミッド通りの賭博場を「反イスラム的」だとして襲撃する事件がたまにおきていたが、ムバラク辞任から数日後の2月15日深夜、1000人の若者が賭博場を襲撃し、大規模な打ち壊しをやった。同胞団は、同胞団を陥れるために治安当局が傘下の若衆にやらせたに違いないと言っている。誰がやったにせよ、犯人は永久に捕まらないだろう。米軍侵攻後のイラクと同様、エジプトは隠然とイスラム主義政治の方向に動いている。 (Casino attacks raise Islamist fears) (やがてイスラム主義の国になるエジプト) 【2月13日】ソーシャルメディアなどを活用してエジプト革命を主導した青年グループの一つである「4月6日運動」は、2008年にニューヨークで開かれた「国際青年運動連盟」(AYM)のサミットに参加していた。AYMサミットは、米国の国務省や本土防衛省、外交問題評議会(CFR)といった米当局の肝いりで、グーグル、フェイスブック、米3大テレビ局、CNNなど米マスコミ大企業が資金援助して毎年開かれている国際会議で、ソーシャルメディアを活用した若手の政治活動家を世界各国から集め、社会運動や、独裁政権の転覆方法を含む政治運動について議論している。2000年のセルビアと、2004-05年のグルジアやウクライナの政権転覆は、AYMが結成される前の出来事だが、構図はAYM的で、国務省やCIAが各国の青年政治組織を支援して政権転覆を画策した。エジプトの「4月6日運動」は、セルビアの政権を転覆した青年組織オトポールと同じ、拳骨を振り上げたシンボルマークを使っている。エジプト革命にも、発生前から米当局の操作が入っていた観がある。 (Google's Revolution Factory; Alliance of Youth Movements: Color Revolution 2.0) (April 6 Youth Movement From Wikipedia) ▼欧州、ロシア周辺 【2月24日】ドイツでは、メルケル政権がフランスのサルコジと組んでEUの財政統合に積極的なのに対し、与党CDU(キリスト教民主同盟)内では、EU財政統合によってドイツが損失を被ることに反対だ。CDU主導のドイツ議会は、ドイツ人の税金も投入して新設されるEU財政安定化基金(ESM)がギリシャなど周縁諸国の国債を救済的に買う体制になるなら、EU財政統合を承認しないと決議した。EUの主導役であるドイツの国民が反対している限り、EU統合は進まない。統合が進まないと、周縁諸国から順番に英米投機筋に国債危機を悪化させられ、EUとユーロは解体に瀕する。EUは、だめになっていくのかもしれない。 (Berlin reinforces stance on eurozone rescues)
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