最近の速報分析から2011年2月11日 田中 宇私は、毎日ネット上で何十本かの英文情報を探して読み込み、簡単な分析をして短いメモを書き、解説記事を書く時に使います。その分析メモを「速報分析」と名づけ、ほぼ日刊で「田中宇プラス」の会員向けに配信しています(名称を拙速分析から速報分析に変えました)。速報分析は毎日5-10本程度を配信しています。以下は最近配信した速報分析のごく一部です。もっと読みたいと思われた方は、下記のページから「田中宇プラス」への登録をお願いいたします。「田中宇プラス」の購読料は6カ月3000円です。 (有料配信「田中宇プラス」について) ▼覇権、通貨、世界的な問題 【2月8日】基軸通貨など今後の世界体制を決める主要諸国の談合体であるG20では、議長国フランスのサルコジ大統領が、IMFとG20の機能を融合する組織改革案を作った。IMFとG20の財務相会議に国際経済に関する政策決定権を持たせ、ドルの単独基軸から人民元やSDRも含めた多極型基軸通貨体制への移行を推進したり、国際金融危機対策を主導したり、食糧など国際商品相場の高騰を抑止したり、世界的な貿易不均衡を是正できるようにする。2月18−19日のG20財務相会議で提案する。08年のリーマンショック直後にG20がサミット組織として立ち上がった時から、IMFはG20の事務局として機能していたが、その機能を強化し、事実上「世界政府の財務省」もしくは「世界政府の中央銀行」に格上げしようとしている。IMFには、中央銀行的な、世界に対する「最後の貸し手」としての機能を持たせる。その分、米連銀やドルの機能は縮小する。すんなり実現するかどうか怪しいが、これは世界の経済覇権体制の転換案である。 (Sarkozy to call for structural reform to G20 economies) (Sarkozy says IMF should supervise global imbalances) 【2月3日】米連銀はドルを大量発行して米国債を買い支える量的緩和策(QE2)を続けているが、QE2が予定の半分しか進んでいないのに、連銀は中国を抜いて、世界最大の米国債保有勢力となった。米国債の保有総額は、1位が連銀で1兆1080億ドル、2位が中国で8960億ドル、3位が日本で8770億ドルとなっている。QE2が終わる今年6月、連銀の米国債保有総額は1兆6000億ドルまで増える見込み。その時に世界が米国債を買いたくなっているとは思えないので、連銀はQE2をQE3へと拡大し、ドル増刷で米国債を買い続けるしかないだろう。米国が、国債を発行しすぎて、自国の当局しか買い手がいない状態になりつつあることが明確だ。買い手のない米国債をドル増刷で吸収しているのだから、ドルの過剰発行も明らかだ。今年か来年、米国債とドルの破綻、米国の財政破綻が起きる可能性が高まっている。 (Fed passes China in Treasury holdings) (Fed's No. 1 in Treasury Holdings: Report) 【1月28日】食料高騰に怒る国民の反政府暴動が中東各地に拡大するのを受けて、サウジアラビアやアルジェリアの政府が、自国民への怒りの感染を抑止しようと、小麦などの食糧類を米穀物会社カーギルなどから大量に買い付けている。バングラディシュやインドネシアなど東アジアのイスラム諸国も、国際市場でコメを買い集めている。小麦の国際価格は2年半ぶりの高値となっている。食糧高騰に怒る暴動によって、さらに食糧が高騰している。著名投資家のジム・ロジャーズは、新興諸国経済の成長が続くと、食糧や原油など国際商品の相場はもっと上がると予測している。 (Goverments stockpile food staples) (Commodities Will Make A Fortune) 【2月4日】原油の国際基準価格であるWTIの価格は、もはや国際基準といえない傾向が強まっている。WTIは、米国の内陸部オクラホマ州クシンにある原油貯蔵施設の出し値であるが、その価格は米国中西部の需給しか反映しない。最近はカナダのオイルサンドで産出された原油がクシンに供給され始め、供給過剰で値崩れしている。米国の一地方の需給が世界の基準値というのは間違っており、むしろ英国の北海ブレントの価格の方が、タンカーで世界中に積み出されるのだから国際性があると前から指摘されている。ブレントは1バレル100ドルを超えたが、WTIは90ドル台のままだ。WTIを使い続けることが、ドルの潜在的弱体化の反動として起きている原油高騰を隠蔽する、米国主導の歪曲策となっている。 (Is West Texas Intermediate Still the Global Benchmark for Oil Prices?) 【1月27日】世界の政治経済の著名人がスイスの山中に集まって世界経済の処方箋を練ると言われる鳴り物入りのダボス会議が開かれている。不況や金融危機を受け、世界中が緊縮に耐える必要性を打ち出したが、実のところ、緊縮させられているのは庶民だけで、ダボス会議に集まるような世界中の金持ちとその代理人たちは米国の金融緩和策の恩恵を受けて儲けている。この二極分化の構図を見ると、ダボスで発せられる処方箋は薄っぺらだ。ダボス会議は、リーマンショックすら予測しなかったと指摘され、時代遅れなお門違いになっている。菅首相の演説が注目を集めたとか、日本人が何人呼ばれたかとか、ありがたがって考えるのは馬鹿らしい。 (Davos, Dakar and a ton of BRICS) ▼米国、南北アメリカ 【2月2日】米政府の国勢調査局の調査で、米国の高齢者の6人に一人が、政府が決めた貧困水準以下の生活をしていることがわかった。特に一人暮らしの女性の場合、ヒスパニック系の43%、アフリカ系(黒人)の34%が貧困水準以下の生活をしている。米国では、今年初めて団塊の世代(baby boomer)が65歳を超えた。今後さらに高齢者の割合が増え、貧困にあえぐ高齢者の数が増えると予測されている。 (Troubling Statistics on Seniors Living in Poverty) 【2月5日】米国のアリゾナ州議会が画期的な新州法を検討している。州議会内に12人からなる委員会を作り、多数決によって連邦政府が決めた法律や規制を、選択的に無効にできるようにする。新法案は、合衆国憲法や米連邦の法律が、各州の法律よりも優先するという従来の序列を転覆するもので、事実上、アリゾナ州が米国から分離独立する動き。完全な分離独立ではなく、自州民にとって良くないと考えられる連邦政府の規制のみを、州内に適用することを拒否する。連邦も州も財政破綻に瀕している米国は、国家の枠組みが崩壊しそうなラディカルな事態となっている。米国は人工国家であるだけに、天然国家である日本人の想像を絶するようなことが行われている。 (Arizona to secede (without OFFICIALLY doing so)) 【1月26日】国連の人権問題特使(パレスチナ担当)であるリチャード・フォークが、01年に起きた911テロ事件について「米政府の発表には矛盾がある。米政府は事件の真相を隠している。米国のマスコミは、この矛盾について報じたがらない」と1月11日に自分のブログで表明した。米政府は激怒し、フォークを辞めさせろとバン・キムン事務総長に圧力をかけ、バンはフォークを批判する声明を出した。すでにドイツでは、人々の9割が、911事件に関する米政府発表の筋書きを信じていない。半面、日本では官界とマスコミによる言論統制が強く、いまだに911に対する疑問視を「間違った考え」「極悪な行為」とみなすプロパガンダ軽信の態度が強い。 (Interrogating the Arizona Killings from a Safe Distance) (US fury over UN expert's 9/11 'cover-up' claims) (Poll in Germany: 89.5 doubt official version of 9/11) ▼東アジア、南アジア 【1月28日】S&Pが日本国債を9年ぶりに格下げした。格付けは「金融兵器」だ。S&Pなど米英の格付け機関は、米当局の失策によって潜在危機が拡大するドルを防衛するため、昨年ギリシャなどEU周縁諸国の格付けを引き下げてユーロ危機を誘発した前科がある。その後もドルの危機は拡大しているため、次は日本を潰す方向の格下げを行ってドルを防衛するつもりかも。日本の官界や金融界、マスコミには米英の傀儡みたいな勢力が強いので、格付け機関の行為を非難せず、菅首相の無策ばかりをあげつらっている。日本国債の95%は日本国内で保有され、米英系の売り浴びせで日本が財政破綻する懸念は少ない。だが敗戦国日本の悲劇は、日本の支配層の中に米英傀儡が多いことだ。彼らが日本を自滅させかねない。 (激化する金融世界大戦) 【2月5日】ミャンマーでは昨秋の20年ぶりの総選挙を受けた議会が20年ぶりに開かれ、将軍を新大統領を選出した。選挙をボイコットし議会に参加していないNLDのアウンサン・スーチーは、この動きに反対かと言えばそうでもなく、先日ダボス会議にビデオ映像を送り、ミャンマーに投資してほしいとダボスに集まった大資本家たちに要請し、経済面で軍事政権に協力している。スーチーはすでに昨秋の選挙直後、欧米に対し、経済制裁を解除してミャンマーに投資してほしい、観光客に来てほしいと求めていた。欧米日のマスコミでは、スーチーが自国の現政権と敵対しているとの報道が主流だが、実際には、スーチーは現実路線に転換し、軍事政権とある程度協調して自国を発展させていきたいと考えている。 (Did Suu Kyi's Davos Speech Signal U-Turn on Sanctions?) (Aung San Suu Kyi shifts position on sanctions) (アウンサン・スーチー釈放の意味) ▼西アジア、中東、アフリカ 【2月4日】エジプト革命を機に、長く親イスラエルだったネオコンが、イスラエルを裏切る姿勢をとり始めた。イスラエル政府は、エジプト革命が進行すると、79年のイラン革命と同様の展開になって非民主的なイスラム同胞団の政権ができることを不可避と考え、ムバラク政権が続いた方が良いと考える。対照的に、米国のネオコンは、イスラム同胞団の政権ができる可能性は低いので、ムバラクを辞めさせてエジプト革命が進行した方が良いと考えている。ネオコンは、イスラエルのために中東の政権を潰していくと言いつつ、実際には中東全域でイスラエル敵視のイスラム主義を勃興させ、イスラエルの窮地を加速させてきた。エジプト革命によってイスラエルの窮地が決定的になった今、ネオコンはいよいよ「親イスラエルのふりをした反イスラエル」の本性をあらわし始めたようだ。 (In backing change in Egypt, U.S. neoconservatives split with Israeli allies) 【1月29日】エジプトの最大野党であるイスラム同胞団が反政府運動に正式に参加し始め、ムバラクに辞任を求めている。エジプト革命は、今はまだナショナリズムの発露が中心だが、いずれイスラム主義の色彩が濃くなると、NYタイムスも予測している。同胞団はエジプトが発祥で、すべてのアラブ諸国に組織を持つ汎アラブ的な、世界最大かつ最古のイスラム政党だ。中東の要衝に位置する大国エジプトの革命は、アラブ全体のイスラム革命に発展し、インドネシアからモロッコまでのイスラム諸国の全体に大きな影響を与え、地政学的な大転換になりそうだ。 (With Muslim Brotherhood Set to Join Egypt Protests, Religion's Role May Grow) 【1月26日】米英マスコミは、チュニジアからエジプトなどに飛び火する市民革命について「ツイッターやフェースブックが革命を起こしている」とさかんに報じている。その裏で、米投資銀行ゴールドマンサックスに率いられた機関投資家群は、フェースブックの株式を大量購入し資本参加した。彼らは、中東の諜報に長けた米当局から事前に市民革命の拡大予測を知らされ、マスコミがそれをソーシャルメディアなどと関連づけて喧伝するプロパガンダをすることも把握した上で、投資したのではないか。CFRもソーシャルメディアが世界の政治を変えることについての企画的な論文を出しており、全体として不自然な画策が感じられる。 (Egyptian youth mobilise via the internet) (The Political Power of Social Media) ▼欧州、ロシア周辺 【2月6日】EU統合をめぐり、独仏は、金融危機対策の名目で、各国の経済政策決定権を剥奪してEU当局に集中させたいが、各国は権限を剥奪されるので反対し、EU内で論争になっている。ベルギーは、自国のインフレ連動型の給与制度が認められなくなるので怒っている。オーストリアは、定年の年齢を引き上げられそうなので嫌がっている。ポーランドは、EU内でユーロ圏諸国が決めたことを非ユーロ諸国が一方的に押し付けられそうなので反対している。この論争を経て、EU中枢の独仏が勝てばEUの政治統合が進み、ユーロは今より強くなる。独仏が他の諸国に大幅譲歩せざるを得なくなると、統合が進まず、ユーロは英米投機筋に壊され解体するかも。欧州統合は正念場にきた。今後の長期的な世界の覇権体制がEUの議論にかかっている。 (Germany and France Roll Out Plan to Boost Euro) (European Leaders Clash at Summit) (Cracks over Franco-German eurozone plan) 【2月6日】英国ロンドン北方の町ルートン(イスラム教徒が市民の15%と多い)に、EDLなどイスラム主義を敵視する極右や人種差別団体が欧州中から集まり、英史上最大の反イスラム集会を開いた。キャメロン英首相は極右に擁護的で、英国は寛容な多文化主義が失敗し、イスラム過激派に断固として対決する「強硬リベラル主義」になる必要があると述べた。英内外のイスラム組織や反ファシスト運動が反発。英政府の不可解な煽動は、もしかすると、欧州のイスラム教徒の若者を激怒させ、エジプトの反乱を欧州に飛び火させ、英国よりフランスなど欧州大陸諸国での暴動を煽動し、欧州大陸経済やユーロを再び混乱させ、凋落しているポンドやドルを守ろうとする策略かも。 (David Cameron sparks fury from critics who say attack on multiculturalism has boosted English Defence League) (中東の反政府運動が欧州に飛び火するとの予測)
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