最近の拙速分析から2011年1月26日 田中 宇私は、毎日ネット上で何十本かの英文情報を探して読み込み、簡単な分析をして短いメモを書き、解説記事を書く時に使います。その分析メモを「拙速分析」と名づけ、ほぼ日刊で「田中宇プラス」の会員向けに配信しています。拙速分析は毎日10本前後を配信しています。以下は最近配信した拙速分析のごく一部です。もっと読みたいと思われた方は、下記のページから「田中宇プラス」への登録をお願いいたします。「田中宇プラス」の購読料は6カ月3000円です。なお、この無料配信を短縮してツイッターでも配信しています。 (有料配信「田中宇プラス」について) ▼覇権、通貨、世界的な問題 【1月22日】 米連銀のグリーンスパン元議長がFOXビジネス・テレビのインタビューで、金本位制への復帰を支持する発言を放った。ドルの過剰発行について尋ねられたグリーンスパンは「(連銀によるドルの」過剰発行を防ぐため、金本位制か、もしくは(金と連動した)固定相場制(カレンシー・ボード)が必要だ。さもないと、過去の歴史的事実から判断して(過剰発行によって)インフレが起こり、経済に大打撃を与えてしまう」と述べた。グリーンスパンは中央銀行が必要かどうかという質問に対し「それは意味のある質問だ」と返答し、中央銀行の必要性についての疑問すら発した。債権金融自由化直後の1987年から、今の金融危機が始まる直前の2006年まで連銀議長をつとめたグリーンスパンは、今の金融危機の元凶となった債券金融(影の銀行システム)のバブルを拡大させた張本人だ。彼は、前代未聞の巨大な金融バブルを作って崩壊させ、米国の経済覇権を潰したわけで「隠れ多極主義者」の疑いが濃い。 (Stunner: Gold Standard Fully Supported By... Alan Greenspan!?) (After Destroying the US Dollar, Alan Greenspan Now Supports Gold Standard) 【1月23日】 商品の国際価格の高騰によって米国もデフレからインフレに変わり、長期金利の上昇(債券価格の下落)が起こって、米連銀が米政府財政や金融界を救済するために買い貯めた巨額の米国債やジャンク債の価値が下落して、その評価損で連銀が支払不能に陥って潰れるのではないかとの懸念が出ている。この懸念を晴らすため連銀は、1月6日に会計基準を変更した。保有債券の損失を、従来のような資本勘定の減少ではなく、財務省に対する負債の増加として計上することにした。この変更によって、連銀が破綻する可能性は激減したという。この変更は連銀の週報で専門用語を使って短く書かれていただけなので当初は全く報じられなかったとロイターが伝えている。連銀はお手盛りで会計基準を変更し、損をしても、損していないことになった。これを世界が「米国がやることだからしょうがない」と考えて、ドルや米国債に対する信頼を変えなければ、米国の経済覇権は保たれる。逆に「もう米国は信用できない」という気持ちが世界に強くなると、会計基準を変更しても一時しのぎでしかなく、いずれ連銀の破綻が起きる。 (Accounting tweak could save Fed from losses) 【1月25日】 国際的に食料が安価だった時代は終わり、世界の人口増や食事の肉食化の影響で今後、食料価格は高騰し続け、40年後に今より50%以上高くなると予測する報告書を英国政府が出した。このまま世界の食料システムを変えないと、世界で10億人が飢えると。今の世界の食料システムは自由市場体制(米国系食料会社などによる隠然支配)だが、国際的な食料管理体制の強化が必要だと。この報告書が示唆するのは「世界政府」の機能強化である。世界的な金融危機回避や貧困対策、地球温暖化対策、テロ対策などの分野でも、世界システムの強化が提唱されているが、それらと同様の、世界政府に向かう隠然とした誘導だ。この動きは、米英覇権体制の綻びと同期しており、覇権多極化の流れの一つである。 (Food inflation is only going to get worse in future, warn scientists) ▼米国、南北アメリカ 【1月24日】 米国の経済学界ではこの30年間、米連銀の研究員や顧問をやった経験がある学者たちが権威者の大部分を占め、幅を利かせている。彼らは連銀の政策を擁護し、連銀を批判する学者や記者らを酷評して無力化する。連銀は、愚策をやろうが「専門家」で連銀を批判する者がほとんどいない状態を作り上げた。その上で連銀は、量的緩和(ドル過剰発行による米国債買い支え)など自滅的な延命策を拡大している。当局の傀儡をつとめる学者が幅を利かせるのは、米国や日本の国際政治学界や、地球温暖化問題をめぐる学術界も同様だ。これらはプロパガンダ機能の一つだ。記者と同様、学者も、つまらない業界になっている。 (How The Federal Reserve Bought The Economics Profession) 【1月22日】 加州など、米国民の3分の1が住む全米10州が財政破綻に瀕する中、米議会では、連邦政府が州政府を救済することに反対する共和党の勢力が、連邦破産法を改定し、従来は不可能だった州の破産申請を可能にする試みを始めている。州が破産すると、労働組合と交渉し、財政難の主因の一つである公務員年金の支払いを減額できるが、半面、州債はジャンクとなり、起債できなくなってインフラ建設事業が止まる。総額50兆ドルの世界の債券市場(うち半分が米国)に破壊的な影響が出る。州資産の大幅売却も迫られる。 (U.S. State Bankruptcy Weighed by Republicans Blocking Aid) 【1月21日】 一時はオバマ大統領が閉鎖を約束していた、キューバの米軍基地内にある米軍のグアンタナモ軍事監獄が、最近またオバマ政権によって多用される傾向にある。米当局がグアンタナモに収容しているアフガン人やアラブ人などの「テロ容疑者」は、裁判で白黒を確定すべき「犯罪容疑者」でも、ジュネーブ条約に沿った待遇が必要な「捕虜」でもない超法規的で曖昧な存在。米当局は、勾留者の地位に法的な定義を与えないことで、濡れ衣で逮捕してきた者でも永久に勾留し続けることができる。これは明らかな人権侵害であり、当選直後のオバマは改善を約束したのだが、濡れ衣で勾留し続けることが暴露されると米国家の信頼性が下落するため、改善できずにいる。オバマ政権は軍事法廷を開いて勾留者の処分を決める予定だが、それは2年前からやるといいつつやっていないことでもある。他国の人権侵害に、世界で最も敏感な米国が、実は世界で最も人権を侵害している国の一つであるという皮肉な事実。そしてこの事実をマスコミがほとんど報じないという事実。正義が詐欺になっている米国に従属する日本で「いじめ」が広がるのも当然だ。 (Obama administration expanding use of Guantanamo Bay: report) 【1月24日】 米国で、環境問題や消費者問題、米軍の帝国主義的な世界支配などを、二大政党制の枠外から批判してきた左派指導者のラルフ・ネーダーと、共和党内で右から米国の世界支配や財政拡大を批判してきた「孤立主義」的な右派指導者のロン・ポールが、政治的な同盟関係を結ぶことで合意した。この異例の左右両極の連合体は、米政府の軍事費の拡大や、米軍の世界的な戦争拡大、テロ対策の名目で続く自由の束縛など、今の米国の無茶苦茶さに、合意できる範囲で反対していく。金融界や軍産複合体に抵抗する力を失っている民主共和両党の談合による二大政党制を、この第三勢力が打破する流れが始まるかもしれない。 (Ron Paul, Ralph Nader agree on `progressive-libertarian alliance') ▼東アジア、南アジア 【1月25日】 米国はずっと前から中国に人民元の対ドル為替を切り上げろと要求し、拒否されてきた。だがバーナンキの連銀は昨年、量的緩和策で巨額のドルの余剰資金を作り、毎日10億ドルの投機資金を米国から中国に流入させ、中国が人民元を切り上げたくなる状況を作った。中国側はドルペッグを維持するため連銀のドル大増刷に合わせて人民元を増刷せざるを得ず、昨年12月には約20%も増刷。中国はインフレが悪化し、国民の不満が高まって、人民元の切り上げが必至となった。バーナンキは中国に「勝利」したわけだが、実際には、人民元の切り上げは、中国がドルを見放してドルが国際基軸通貨としての地位を失い、米国の覇権が失われることにつながる。中国以外の新興市場諸国にも、米国からの巨額資金が流入してバブルとなっている。流入総額は今年が9600億ドル、来年が1兆0400億ドルと予測されている。 (Currency Wars: How Ben Bernanke Outsmarted China) 【1月23日】 胡錦涛の訪米に同行する中国企業が、米国の穀物会社カーギルなどから、1回の購入として史上最高額となる67億ドル(1150万トン)の米国大豆の買い付けを行った。中国が輸入する大豆の2-3ヵ月分に相当する。中国は、国際大豆価格が今後高騰することを見越して、早めに買い付けをしているのだと、米国の分析者は考えている。 (China inks $6.7 bln U.S. soybean deal, largest ever) 【1月18日】 中国の政府系金融機関2行が、リーマンショック以降の2年間に世界の発展途上諸国に融資した資金の総額は1100億ドル以上となり、世界銀行による融資1003億ドルを上回った。中国は、途上諸国やBRICS諸国の資源開発やインフラ整備に旺盛に投資しており、中国主導で世界経済のグローバリゼーションが進んでいることが明らかになった。途上諸国が欧米や日本に依存する割合は減っており、欧米中心の世界体制が中国によって覆されつつある。多くの石油利権が、米国から中国に移っている。覇権の多極化が起きている。欧米覇権の道具だった世界銀行は、中国との協調戦略に転じている。世銀総裁のゼーリックは、ブッシュ政権時代に中国の台頭を誘発した張本人でもある。 (China's lending hits new heights) 【1月21日】 北朝鮮が南北対話を提案したのに対し、当初は「北が核廃絶をすると事前に約束しない限り対話には応じない」拒否していた韓国が、態度を変えて「最初から高官協議をせず、まず下級官員どうしの対話を行って、その中で核廃絶の話をしていく」と言い出し、対話に応じることになった。財政難がひどくなる米国が、世界最大の米国債保有国である中国に対し、表向きの敵視姿勢とは裏腹に、実質的な譲歩姿勢を強めている。韓国は北に対する強硬姿勢の唯一の支えだった米国の力の弱まりに直面し、北に対して強いことが言えなくなっている。 北はそれを承知で韓国に対話を呼びかけたのだろう。 (South Korea Agrees to Low-Level Talks With North) ▼西アジア、中東、アフリカ 【1月20日】 米国ワシントンDCのパレスチナ代表部が史上初めて、パレスチナ国旗を掲揚した。これは、米政府が国旗の掲揚を許したことを意味している。パレスチナ自治政府が今夏に国際社会から国家承認を勝ち取ろうとしていることを、米政府が容認しつつあるということだ。これは画期的だ。米国の後ろ盾を失い、イスラエルは西岸入植地からの撤退を余儀なくされる。最近のイスラエル政界の混乱や、ユダヤ系の米上院議員リーバーマンの引退表明は、いずれもこの画期的な動きの一環と見ることができる。チュニジアの革命がイスラエル近傍のエジプトやヨルダンに飛び火するかもしれないことと合わせ、中東は今年、歴史的な転換期に入るのではないか。 (Palestinians raise flag at Washington office) ▼欧州、ロシア周辺 【1月19日】 ロシアのメドベージェフ大統領はパレスチナを訪問し、パレスチナ国家の独立を認めると宣言した。ロシアはソ連時代の1988年からパレスチナ国家の独立を承認しているが、最近、中南米などの諸国が相次いで独立承認を宣言する流れの中で、ロシアとしても改めて宣言をした。パレスチナ自治政府は9月に国連で国家承認の決議をしてもらう戦略を持っており、各国が相次いでその戦略に呼応している。メドベージェフはイスラエルも訪問する予定だったが、イスラエル外務省の右派勢力が和平阻止のためストライキを起こして準備を進めなかったので、訪問を断念した。彼は「ロシアの大統領が、隣国(イスラエル)を訪問せずパレスチナだけを訪問したのは初めてであり、これは歴史的に非常に重要なことだ」と述べた。イスラエルは、右派の過激な言動によって自滅しつつある。 (Medvedev makes 'historic' visit to West Bank)
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