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ほぼ日刊の拙速分析を始めました

2011年1月18日   田中 宇

私は、毎日ネット上で何十本かの英文情報を探して読み込み、簡単な分析をして短いメモを書き、解説記事を書く時に使います。その分析メモを「拙速分析」と名づけ、ほぼ日刊で「田中宇プラス」の会員向けに配信し始めました。 (拙速分析のページ(田中宇プラス会員用)

私は毎日インターネット上で何十本かの英文情報を読み込み、それをもとに国際情勢の分析記事を書いてきました。読み込んだ各情報について、その場で簡単な分析をしてメモを書きますが、メモは自分のパソコン上に保存するだけでした。メモの中には、毎回の解説記事に生かされずに退蔵されるものも多く、もったいないと思ってきました。

最近、私の英文を読み込む速度がしだいに向上し、毎週の長文の解説記事とは別に、英文情報を読み込んだ時点で書ける短い分析記事を、日刊に近い頻度で配信していけると思うようになりました。1本の英文情報を読んですぐに1本の短い分析を書いて配信すると、何本もの情報をもとに時間をかけて1本の記事を書くのに比べ、誤読や勘違いが多くなりがちで、私に対する読者からの信頼性が落ちるのが心配でした。しかし、やや信頼性が落ちたとしても、読んですぐに配信するのは、多くの読者にとって歓迎だろうと思いました。

そこで、このやり方を「速いけどややつたない(拙い)」という意味を込めて「拙速分析」と名づけ、試験的に実行していくことにしました。「拙速」という用語は、私がかつて共同通信社(特に新人時代の京都支局)に勤めていた時期に、上司の編集者(デスク)から「拙速でいいから、できるだけすぐに記事を出せ」と言われていたことに基づきます。

まず先月(2010年12月)からツイッターでつぶやく形式で拙速分析を開始しました。1カ月ほどの間に350本以上を発信し、毎週の長文解説記事を書きながら、それほどの誤読もなく、毎日何本かの拙速分析を書き続ける能力が私にあることを自ら確認できました。 (ツイッター:田中宇の拙速分析

私にとって最も大切な読者は、有料配信「田中宇プラス」の読者です。ツイッターは1回の発信が140文字までしか入らず、私にとって短すぎることもあり、ツイッターに似た文字数制限のない仕掛けを自分のサイト内に作り、そこに書き込んでいくことで、1本の情報から1本の分析記事を書く態勢を作り、それをできるだけ毎日まとめて「田中宇プラス」の記事として1月9日から毎日配信しています。

この拙速分析は、日刊を目指しています。筆者は私一人ですので、今後も必ず毎日やれるとは限らず、日刊を読者に約束するものではありませんが、今のところ毎日10本前後の記事をまとめて昼ごろに配信しています。ツイッターの方は、有料記事として配信したものの中から2本程度を1日遅れで無料公開しています。長文の解説記事の執筆も、減らさないようにいたします。

以下は最近配信した拙速分析の一部です。それらを読んでもっと読みたいと思われた方は、下記のページから「田中宇プラス」への登録をお願いいたします。「田中宇プラス」の購読料は6カ月3000円です。 (有料配信「田中宇プラス」について

【前口上ここまで】

【1月17日】チュニジアと似て、独裁者ムバラク大統領の長期政権が続いているエジプトに、チュニジア型の政権転覆の「革命」が伝播するかどうかが注目されている。エジプトでは食糧高騰に反発する小規模な反乱が、すでに昨年からおきている。チュニジアは小国だが、エジプトはアラブの主導的な大国であり、アラブでイスラエルと唯一国交を持っている。エジプトが転覆したら大変なことになる。すぐ「革命」が起きなくても、高齢のムバラクが死んだら早晩政権転覆だろうが。 (Could 'Tunisia effect' topple more Mideast regimes?

【1月17日】訪米を控えた中国の胡錦涛主席が、米WSJ紙に対するコメントで、現在のドル本位制の国際通貨体制を「過去の産物」と呼び、人民元の国際化が重要だと表明した。胡錦涛は、米連銀が長期金利の上昇を防ぐためにドルを発行して米国債を買っている量的緩和策について(国際通貨であるドルの過剰発行によって)中国をはじめとする新興市場のインフレを煽るものだと批判し、連銀がドルの発行量を適度なものに抑えることを求めた。 (Hu Highlights Need for U.S.-China Cooperation, Questions dollar

【1月17日】食糧高騰を受け、欧米などの大投資家や国家機関が、世界的な農地の値上がりを見越して、投資対象や食糧確保の目的で、世界各地の農地の所有権や利用権を買いあさっている。08年以来、外国勢による世界の農地買収の総額は1000億ドルを超える。特にアフリカの農地の利用権に対する買いあさりが激しい。韓国の大宇財閥は08年にマダガスカルの農地の3分の1にあたる130万ヘクタールを買収しようとしたが、マダガスカル国民が怒って暴動を起こし、政府を転覆させて商談を潰した。韓国はこれ以外に、すでに100万ヘクタールの農地を海外で確保している。中国は東南アジアなどで合計210万ヘクタールを買収している。 (In Corrupt Global Food System, Farmland Is the New Gold

【1月16日】経済難で貧困が急増し、国民の15%近くが貧困層になった米国で、慈善事業の食糧配給所に来る人の数がこの3年間に6割増えた。半面、配給所の原資となる企業からの献金は減っている。配給所の運営者は「米国の政府や議会は、予算がないと言って、貧しい子供に対する食糧供給費の年間40億ドルを出し惜しみする一方で、先日は9000億ドルの金持ち減税を延長した。減税の9割近くはニューヨークの大金持ち(金融界)の利得となる。米国は世界で最も貧富格差が大きい国の一つであり、格差はひどくなるばかりだ」と述べている。日本人は米国をお手本にするのをやめねばならない。もう遅すぎるだろうけど。 ('US leads in income inequality'

【1月16日】23年間の独裁だったベンアリ大統領が亡命した後のチュニジアでは、前大統領派らが暴動を煽動して治安を悪化させている一方、与党の立憲民主連合(RCD)の内部では権力闘争が起きている。ベンアリは軍のたたき上げで、1960年代に軍の治安組織の新設を主導した後、権力を得て独裁を敷いた人だけに、彼の亡命によってチュニジアの治安体制が崩壊している。混乱が長引くかも。マスコミやツイッターなどでは「独裁者を追放したチュニジア市民の勝利だ」という論調が目立つが、喜んでいる場合ではない。 (Tweeting tyrants out of Tunisia: the global Internet at its best

【1月16日】中国当局が北京の天安門広場に孔子の像を建立した。広場は北から毛沢東がにらみ、東から孔子がにらむ状態に。かつて毛沢東が放った文化大革命で孔子は迷信と酷評され疎んぜられたが、いまや安定を志向する孔子思想は、毛沢東思想をしのぐ中国共産党体制の支柱へと復権した。 (China elevates Confucius to near Mao-like status

【1月15日】かつて米国で4番目に大きな都会だったデトロイトは、米自動車産業の衰退を受け、今や市街地のかなりの部分が廃墟になっている。財政を切り詰め、教員年金などの支払いを滞らせないようにするため、同市役所は、市内の公立学校142校のうち半数を廃校にしようとしている。 (Detroit and Decay

【1月15日】チュニジアを皮切りに、アラブ諸国の独裁政権が物価高騰に反発する市民によって次々と倒れていきそうな事態になり、欧米マスコミは独裁を批判する論調を流している。だがアラブの独裁が倒れた後にできる政権は、今よりもっと欧米敵視を掲げたイスラム主義の政権になるだろう。従来のアラブの独裁政権は、欧米に対して従順だったが、今後はそうはいかない。新しいアラブ諸国の政権は、国連で中露や中南米諸国、イランなどと結束し、米欧が国際社会を支配してきた体制を壊そうとするだろう。パレスチナ問題でイスラエルに対してアラブが不甲斐ない態度をとる時代も終わる。民主や人権を標榜してアラブ諸国に圧力をかけて対欧米従属をさせてきた欧米マスコミの支配手法も効かなくなる。マスコミがアラブの独裁を批判するのは自滅行為だ。 (Arab leaders should watch TV

【1月15日】金地金の国際価格を決める欧米の金先物相場が下落したが、中国などアジアの金地金市場では、この安値を狙って地金購入が増えている。香港では地金が品薄で、 1オンス3ドルのプレミアムがついた特別の高値で売買されている。中国での金地金取引の総額は、年末からの3週間で30-50%増えた。FT紙の報道。中国人がドルを信用しなくなっているようだ。日本人はいつまで信用し続ける? (Gold prices buoyed by China demand

【1月14日】格付け機関が米国債を格下げしうると相次いで警告した。米国債が格下げされたら、ドルが暴落し、他のすべての主要通貨が急騰する。世界中の慎重な機関投資家が米国債を投げ売りする。危機になったらドルを買うという世界中の投資家の信頼感が崩れ、すべてのドル建て資産からの資金逃避が起きる。米国債は世界のすべての債券の基準なので、債券市場の全体が暴落する。こんなことが平然とWSJ紙のブログに書かれている。実際には、格付け機関は前にも米国債を格下げしそうだったが実際にはしなかったので今回もしないだろうという読みから、ドルは下がっていない。ドル以外の主要通貨も弱いので、ドルだけの急落になっていないとも。今のところは大丈夫だが、今後はわからないという趣旨。(1月14日) (Shrugging Off U.S. Ratings Risks - For Now

【1月14日】訪米中の仏サルコジ大統領と共同記者会見した米オバマ大統領は、フランスをEUで最大の米国の同盟国であると評し、サルコジや仏国民は、米国にとって最も強い友人であると賞賛した。従来、EUで最大の米国の同盟国は、フランスではなく英国だった。英外交官は、オバマが英国を軽視する方針をとっていると考えている。英軍幹部は、イラクでもアフガンでも米軍の苦しい占領に最も協力しているのは英軍で、フランスは何もしていないのに、米国が英国よりフランスを重視するのは馬鹿げていると不満。米国の英国軽視はオバマが初めてでなく、前ブッシュ政権からのこと。英米同盟が世界を支配する戦後の覇権体制は、内側から壊れている。オバマ政権もブッシュ政権と同様、英国が米国を操って覇権を維持する英米中心の世界体制を壊そうとしている。 (US terms France not UK 'closest' ally

【1月13日】フランス・ルノーの電気自動車に関する機密が漏洩した事件で、中国企業がルノー幹部に金を出して機密を漏らさせたに違いないという噂が、欧米日でさかんに報じられている。日米欧のマスコミで強まる中国脅威論にちょうど適合する話なので、調査中の段階なのに確たる事実のように報じられている。フランスも参画するエアバス社の首脳も記者会見で、以前から中国で試験飛行する際には機密を盗まれないよう注意していると発言し、中国犯人説を前提に話が進んでいる。大量破壊兵器の濡れ衣を着せられてフセインのイラクが潰されたころから、マスコミの体質は変わらないどころか悪化している。 (Spying is a `reality' in China, says EADS chief

【1月18日】ルノーの電気自動車の技術が漏洩した産業スパイ事件で中国が犯人扱いされ、この事件の尻馬に乗ってエアバス首脳が「中国には警戒が必要だ」という趣旨の発言をした。それから数日後、エアバスの別の首脳が、中国は知的所有権を十分に自覚しており、中国を犯人扱いするのは良くないと発言し、軌道修正を図った。エアバスは天津など中国に工場を持ち、たくさんの飛行機を中国企業に買ってもらっている。企業幹部が中国にいちゃもんをつけるときは、自社の状況を確認してから言った方が良いということだ。中国は隠然と圧力をかける。 (Enders defends China in Renault spy case



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