他の記事を読む

米軍はいつまで日韓に駐留するか

2010年8月5日   田中 宇

 今年5月末、韓国政府が米国にそそのかされて、3月末の天安艦沈没事件の犯人を北朝鮮だと断定する発表を行い、米韓と北朝鮮の対立が激化した。その影響で、韓国では、2012年に予定されていた有事の戦闘指揮権の米軍から韓国軍への委譲が、2017年もしくはそれ以降に先送りされることになった。日本では、2014年までに予定されていた沖縄駐留の在日米軍海兵隊のグアム移転が、普天間基地問題の滞りとグアム側の準備の遅れを理由に、2015年以降に先送りされる可能性が高まった。 (60 Years Into War, US Delays South Korea Forces Handover

 天安艦事件は、米韓が北朝鮮に濡れ衣をかけて非難するほど、濡れ衣をかけられた北朝鮮が怒って南北の対立状態が定着するという、冷戦やテロ戦争と同様の恒久対立の仕掛けを持っている。だから、対米従属を今後も続けたいと考えてきた日韓政府は、米韓が天安艦事件の北犯人説を出した時点で、日韓駐留米軍の撤退が大幅に延期されたと考え始めた。

 しかし、天安艦事件の濡れ衣構造は、意外と早くぐらつき出している。韓国政府が北犯人説を発表した10日後の6月2日に行われた韓国の地方選挙では、李明博大統領の与党ハンナラ党が意外に不振だった。韓国政府は、北犯人説の方向で、マスコミを巻き込んで強い言論統制とプロパガンダ戦略を展開した。韓国の元軍人らがさかんに集会を開いて北朝鮮を非難し、集会の規模が大したものではないのに、マスコミはあたかもそれが韓国人の大多数の世論であるかのように報じた。こうした言論統制は逆効果で、6月2日の韓国地方選挙は与党の敗北となった。 (At polls, South Korea conservatives pay for response to Cheonan sinking

 選挙の敗北を受け、李明博政権は北と対決する姿勢の政策を引っ込め、代わりに北と融和していく姿勢を打ち出した。南北の経済和解の象徴である開城の工業団地は操業を続けた。この時点ですでに、北朝鮮との恒久対立をめざす「韓国の911」の戦略は腰くだけだった。その後、韓国政府は、天安艦をめぐる発表のボロが次々と指摘され、さらに不利になった。 (South Korea softens tone with North

 韓国が不利になるのと対照的に、北朝鮮は有利になり、国連やASEAN+3などの国際会議の場で、天安艦事件の調査結果を米韓がでっち上げたと声高に非難するようになった。北朝鮮は金正日が政権についてから、国連などの国際社会で正々堂々と発言する戦略をとらず、国際社会に参加せず、こそこそと武器や偽札、麻薬などの密貿易をやって外貨を稼ぐ「やましい国」の戦略をとってきた。 (North Korea Expected to Steal ASEAN Spotlight

 だが天安艦事件の濡れ衣を受けた後、北朝鮮は、悪いのは濡れ衣をかけた米韓だという大義を得て態度を一変し、米韓の悪事を国連などで堂々と非難するようになった。米国から核兵器開発の濡れ衣をかけられ、国連などで米国と非難の応酬を続けてきたイランの高官は「北朝鮮とイランは、ともに列強諸国の強欲と果敢に戦う革命の同志である」と、北朝鮮を礼賛するようになった。 ('Iran, N Korea share common goals'

 7月9日、国連安保理が天安艦事件に関する非難決議を採択したが、それは「北犯人説」を主張する米韓と、それを否定する中露朝との議論の末の妥協の産物だった。国連決議は、天安艦を沈没させた「犯人」を非難しているものの、犯人が誰かということは一言も書いていなかった。北朝鮮は、自国が名指しされなかったので「国連決議はわが国の勝利だ」と発表し、腰が引けている韓国も「犯人とは北のことであるので、決議はわが国の勝利だ」と発表した。南北の両方が勝利宣言する奇妙な結果となった。 (Creative UN diplomacy papers over the Cheonan incident

▼優劣が逆転する韓国と北朝鮮

 国連決議が出た後、北朝鮮は「6カ国協議に出てもよい」と表明した。これについて「北朝鮮は飢餓がひどくなっているので、食糧支援ほしさに、ずっと出ないと言っていた6カ国協議に、また出てもよいと言い出したのだ」といった「解説」が流布したが、本当のところはそうではなく、北朝鮮は6カ国協議で天安艦問題を議題にとりあげ、米韓を非難しつつ、調査のやり直しを求めるつもりだろう(北朝鮮経済は改善しつつあり、飢餓状態にない)。 (North Korea takes desperate measures - Donald Kirk

 6カ国協議の参加国の中でも、すでにロシアは北朝鮮犯人説を否定しており、北朝鮮の味方である。中国も同様だろうが、中国はあとで北朝鮮と韓国を和解させる仲介役をやるつもりらしく、何もコメントせず、南北どちらの肩も持たず中立を維持している。中露は、天安艦事件の調査を南北合同でやり直すことを求める北朝鮮の主張を支持するだろう。再調査が実施されると、北犯人説は崩れ、濡れ衣をかけたことがばれるので、韓国は6カ国協議を開きたくない。南北の優劣が逆転している。

 米国は北犯人説に固執しているが、米国の外交問題評議会(CFR)は「米国は、6カ国協議を開いて北朝鮮に圧力をかけ、朝鮮半島問題での主導権を中国から取り戻すべきだ」と主張している。実際には、6カ国協議を開くと、天安艦の濡れ衣がばれて米国は不利になり、朝鮮半島問題の主導権はますます米国から遠のいて中国の方に行ってしまう。いつもながら、CFRの言動は隠れ多極主義的である。 (US looks within, Pyongyang looks to war

 米軍は最近、南北境界線上の板門店で北朝鮮軍との会談を何度も開いている。天安艦事件で対立することもなく、和気あいあいとした雰囲気で会談が行われたという。 (Amiable Mood for North Korea-UN Military Talks: Officials

 韓国の李明博政権が、天安艦事件で北に濡れ衣をかけたことは、結果的に北を強化し、自国を弱くしている。6月の地方選挙にも勝てなかった李明博は、北犯人説を発表したことを後悔しているだろう。しかし、今から発表を撤回すると北をますます強化し、自分の政治責任も強く問われるので、いまさら撤回できない。

 北犯人説は、韓国政府が勝手に発表したことではない。むしろ韓国は、米国の対立誘発策につき合わされ、失策の泥沼にはまり込んでいる。北犯人説は、米国、英国、豪州、スウェーデンという「国連軍」の代表たちと、韓国側の軍人や学者が話し合って決めた。スウェーデンの代表は北犯人説を支持したがらなかったと報じられているので、北犯人説を作ったのは米英豪という「アングロサクソン」である。 (South Korea in the line of friendly fire

 彼らは天安艦事件に関して400ページの報告書を作ったというが、誰もそれを見ていない。発表されているのは5ページ分の要約のみで、北のほかにやりそうな勢力がいないという粗っぽい理論で、北が犯人だと結論づけている。証拠として記者会見で公開された魚雷の残骸は、記者会見の5日前に海底で発見されたと韓国政府が発表したが、これも会見のために証拠がでっち上げられた疑いを醸し出している。 (LATimes: Doubts surface on North Korea's role in ship sinking

 米英は、第2次大戦後、朝鮮半島を二分して北半分をソ連に押しつけた後、金日成の南侵を誘発して朝鮮戦争を起こし、東アジアで米英と中ソが恒久対峙する冷戦構造を作ったコンビだ。戦争を誘発して恒久対立の構図を作る米英の戦略は60年経っても不変だが、今回はすぐにボロが出て、韓国政府を困らせている。

▼北朝鮮が6カ国協議に出ると言い出した意味

 今後6カ国協議が再開されてもされなくても、天安艦問題で韓国が北朝鮮に対する劣勢を挽回できる見通しは低い。米国は、イラクにもイランにも濡れ衣をかけ、ばれても平然としているので、おそらく北犯人説も貫くだろう。米国は、都合が悪くなったら韓国のせいにするかもしれない。韓国は、米国から距離を置くかたちでしか方向転換できない。韓国の左派は「わが国は対米従属を続けているので、天安艦事件で無理な北犯人説に立たねばならなかった。もう対米従属をやめるべきだ」という主張を強めている。 (South Korea reels as US backpedals

 韓国が今後、北に対する敵視をやめて方向転換をせざるを得なくなるとしたら、その時に韓国が頼るのは米国ではなく、中国だろう。中国が南北を仲介し、北朝鮮は天安艦事件で韓国を非難することをやめ、韓国は北に対する融和策と経済支援を再開し、天安艦問題をうやむやにして南北が和解するシナリオがあり得る。天安艦問題で中国が黙っているのは、この仲介役をやるつもりだからだろう。史上初の中国による南北仲裁が成功すると、韓国は対米従属を脱し、有事指揮権を米軍から譲り受け、在韓米軍に撤退してもらうことを決意する可能性が出てくる。

 こうした展開がいつ始まるか、まだ見えない。天安艦問題をめぐる今後の展開で米韓がどの程度不利になるかによって変わってくる。また、2013年に李明博政権が終わった後の政権交代が一つの機会となる。

 北朝鮮の内政は、金正日から張成沢への政権移譲が進み、中国式の経済自由化(改革開放)を進めるだろう。9月に開かれる労働党の代表者会議で、今後の体制が明らかになるかもしれない。中国は、先日また北朝鮮と新たな経済協定を結んでおり、北朝鮮経済は中国の傘下に入る傾向を強めている。韓国が北朝鮮を敵視したままだと、北朝鮮の経済利権は中国側に奪われていく。 (◆代替わり劇を使って国策を転換する北朝鮮

 北朝鮮は最近、香港の投資家を開城工業団地に案内している。開城工業団地は、韓国が投資して作ったものだが、それを韓国から奪って中国人にあげてしまうかもしれないという、韓国に対する北朝鮮の脅しのメッセージが、この件に込められている。経済戦略の面でも、南北の優劣が逆転している。韓国が対米従属を続けることの矛盾が増している。

▼米中の影響圏再設定と天安艦事件の関係

 前回の記事で書いたように、公海上における覇権の管轄において、韓国前面の黄海(西海)は第1列島線の東側であり、米国の影響圏から中国の影響圏へと移行しつつある。2つの列島線は、海上の影響圏を定めたものだが、海上の影響圏は、陸上の影響圏とつながっている。米国の影響圏が、第2列島線(グアム島)以東まで退却することは、朝鮮半島、特に韓国が、米国の影響下から中国の影響下に移転することを意味している。 (中国軍を怒らせる米国の戦略

 米軍がいつまで韓国に駐留し続けるかわからないが、最終的には、米軍は韓国から撤退してグアム以東に引っ込む。そこに至るきっかけの一つになりそうなのが、天安艦事件の濡れ衣性が暴露されていくことである。

 在韓米軍の撤退は、米国の方から言い出すのではなく、韓国が国家戦略を転換し、米軍に撤退を要請することによって起きるだろう。しかし米国の方は、すでに撤退の長期戦略を決めている。そのことは、中国との影響圏の再設定である2つの列島線に表れている。米国は、中国を(地域)覇権国の一つとみなしているので、中国と話し合って西太平洋における影響圏の再設定を行った。だが米国は、韓国や日本を地域覇権国とみなしておらず、日韓にもその気がない。だから影響圏の再設定は、米中のみの話し合いで決められている。

 日韓はこの半世紀、米国への服従を国家戦略にしてきた。米国が日韓を米国の影響圏から外し、中国に影響圏を割譲する決定をしても、日韓は米国に文句を言う権利を持っていない。米国の戦略に不服があるなら、対米従属をやめて自立するしかないが、今の日韓は自立方向の国家意志が感じられない。日韓は、米国から外されかけていることに見て見ぬふりをしつつ、対米従属にすがりついている。天安艦問題は、そんな日韓のうち、韓国の足をすくった。

▼膠着が予想される在日米軍問題

 日本の方は、鳩山前政権時代に、自力で対米従属を脱して中国と協調する新体制に転換することを試みたが、官僚機構の強力な抵抗と政権転覆策を受けて鳩山は辞任し、菅政権に代わるとともに混沌とした暗闘状態に入った。日本の場合、対米従属を終わらせるきっかけとなりそうなのは沖縄の普天間基地問題で、今後もそれは変わりそうもない。だが普天間問題は、対米従属を維持しようとする勢力と脱しようとする勢力が互角に張り合ったまま動かない膠着状態だ。

 対米従属派は、普天間基地を辺野古に移転して問題を解決し、対米従属の象徴である在日米軍を保持しようしている。だが従属脱却派は鳩山政権時代に、島内から基地をなくしてほしいという沖縄県民の感情を最大限に扇動し、島民を怒らせ、辺野古移転策を中心とする対米従属派の県内移転構想を実現不能な状態にした。菅政権は官僚に対する抵抗力が弱いので、政治主導で日本が米軍に撤退を求める道は封じられている。だが同時に、官僚機構の傘下の民主党内の官僚傀儡勢力が沖縄県民を説得して普天間問題を解決することもできない。当面、普天間基地は現状のまま存続するしかない。

 今秋11月の沖縄県知事選挙で、普天間基地の閉鎖を強く求めてきた地元の宜野湾市の伊波洋一市長が立候補・当選するかもしれない。伊波氏は昨年、日米政府が談合して発表人員数をごまかし、沖縄海兵隊の一部しかグアムに移転しないかのような話が作られていることを指摘した。伊波氏は、在日米軍をめぐる日米政府の談合によるごまかしの構図を見抜いている。伊波市長が沖縄県知事に当選すれば普天間基地問題は解決するかといえば、そうではない。県知事に外交政策の権限はない。しかし県知事は、県内への基地新設を拒否して止めることはできる。ここでも膠着状態が待っている。東京の政府は、11月の沖縄県知事選の前に辺野古移転を決めてしまおうと動いているが、実現は無理だろう。 (官僚が隠す沖縄海兵隊グアム全移転

 米国は財政難による困窮を強めているが、米国の財政難がひどくなっても、それだけで沖縄から米軍が撤退することはない。思いやり予算やグアム移転費などのかたちで、日本政府が在日米軍の駐留費の多くを出しているからだ。ドルや米国債が崩壊し、世界の他の地域からすべて米軍が撤退しても、沖縄には米軍が駐留し続けられる(米国が財政破綻したら、巨額の米国債を持つ日本の財政も破綻し、在日米軍の駐留費を出せなくなるかもしれないが)。

 米軍は海兵隊の遠征軍を3つ持ち、第1と第2は米国の東海岸と西海岸に駐留し、第3遠征軍が沖縄にいる。米軍関係者の間からは、軍事技術の向上によって、海兵隊を使わなくても最新戦闘機や無人偵察機などのハイテク兵器で敵国を急襲できるようになっており、海兵隊という存在自体が要らなくなっているという指摘が出ている。だが海兵隊の遠征軍のうち、たとえ第1と第2がなくなっても、沖縄の第3遠征軍はなくならない。日本政府が毎年6000億円の公金を出してくれるからだ。米軍が海兵隊を廃止したら、日本からお金がこなくなる。 (Get Out of Japan by Doug Bandow

 攻撃用部隊である海兵隊は、日本の防衛に役立たない。「先制攻撃が最大の防御策」という考え方は、イラクとアフガンの失敗で崩壊した。日本の対米従属派は、海兵隊が日本の防衛に不可欠だから金を出して引き留めているのではない。在日米軍がいることで日米同盟が存続し、日本が対米従属の国家戦略を続けられるので、海兵隊を日本に引き留めている。非常に金のかかるやり方だが、在日米軍が出ていったら、その後の日本は対米従属のタガが外れ、政治家(国会議員)の力が増加して官僚の権力は奪われる。それを防ぐ官僚機構にとって最後のとりでが、在日米軍の存在を使った対米従属の体制である。

▼日本にとって東アジア共同体の好機は過ぎた

 中国の新たな影響圏海域(空域)の東の端を示す第1列島線は、沖縄の南西諸島の日本領海のすぐ西側(もしくはもう少し西の沖縄トラフ上)を通っている。沖縄の米軍基地は、第1列島線のすぐ東側に位置している。これまで米軍は第1列島線など意識せず、中国沖の東シナ海や朝鮮半島を自由に行き来できた。しかし今後、2つの列島線が米中の影響圏の境界線として実効力を持つようになると、米軍は沖縄の西側での行動範囲を狭められ、沖縄の基地は使いにくく、米国にとって価値の低いものになる。

 米軍は、日韓駐留軍の大半を2014年までにグアム島に移転する計画になっているが、米政府は財政難の影響で、日韓からの軍勢を受け入れる施設をグアムに建設する予算を確保できなくなっている。環境影響調査などを通じた地元の反対もあり、グアムが日韓からの米軍移転を予定どおり受け入れられない可能性が高まっている。グアムに移転できない以上、在日米軍は沖縄駐留を続けざるを得ないという話になり、日本の対米従属派はこっそり喜んでいる。 (U.S. Senate panels cut outlays for relocating Okinawa Marines to Guam

 しかし本質的に日韓駐留米軍は、グアム島に移転できないなら日韓に駐留し続けるのではなく、米本土に移転するか部隊ごと解散する方が、米国にとって望ましい。日韓駐留米軍の最大の存在意義である朝鮮半島の不安定要因が今後、縮小する方向に進むと予測されるからだ。北朝鮮は中国式の改革開放に向かうことで安定し、韓国も天安艦事件を口実にした北と敵対する戦略をいずれ捨て、中国の仲裁による南北和解が進むだろう。米中は、そうした東アジアの安定を見越して、2つの列島線を引き、米中の影響圏の新たな分担を決めている。

 米中が東アジアでの影響圏の再設定などするはずがない、2つの列島線は中国が勝手に決めたもので、米国は反対しているはずだという考え方が、読者の中にまだ強いかもしれない。しかし私は(1)米国は「米軍再編」の名目で在日・在韓米軍をグアム以東に撤退する計画を10年以上前からやっている(2)CFRなど米国の有力シンクタンクが、中国が第1列島線まで進出して米国が第2列島線まで後退することはやむを得ないと言っている(3)中国政府の政策立案者も、米軍はグアムまで撤退する予定だと言っている(4)米国は世界的に覇権の多極化を誘発しており、米中の影響圏の再設定は多極化の流れとよく符合する、といったことを理由に、2つの列島線による米中影響圏の再設定が今後具現化すると予測している。

 数年前、私が「覇権の多極化」を予測し始めたとき、多くの人はピンと来なかったが、その後現在にかけて多極化はかなり具現化した。これと同様に、2つの列島線による米中影響圏の再設定も、いずれ具現化してくると私は考えている。

 問題はそれがいつ具現化し、普天間基地の国外移転もしくは海兵隊の廃止などの具体的な動きになるか、ということだ。韓国の場合、北と敵対して対米従属を続ける戦略と、逆に北と和解して半島を安定化する戦略の両方が存在するので、前者を捨てて後者を取ることで、韓国が米軍に撤退を要請する転換があり得る。しかし日本は韓国と異なり、対米従属に代わる明確な国家戦略が存在しない。

 しばらく前までは「中国と組んで東アジア共同体を作る」というのが戦略としてあり得たが、日本が中国と組むなら、少なくとも日中が対等な立場でないと、日本にとって意味がない。中国はここ数年、経済面や国際政治面でどんどん強くなっている。国際政治の分野では、すでに中国は日本よりはるかに大きな存在だ。経済面でも中国は今夏、GDP総額ですでに日本を抜き、米国に次ぐ世界第2位に上がった。中国はすでに日本より優位に立っているので、今後の東アジア共同体構想は日中共同ではなく、中国が主導するものになる。日本は、韓国や東南アジア諸国とともに中国に従属する存在にしかなれない。日本にとって東アジア共同体は、昨夏、鳩山政権が打ち出したときが最後のチャンスだった感じだ。 (China overtakes Japan as No.2 economy: FX chief

 米国の覇権が後退した後の東アジアは、中国中心の東アジア共同体的な状態になるだろうが、アジアで以前のような優位に立てない日本は、アジアの政治協調にあまり積極参加せず、新事態を消極的に受け入れる「半鎖国」の状態になりそうだ。それまで、日本は対米従属をできるだけ長く維持する姿勢を続け、日本のマスコミは米国の衰退や多極化をなるべく伝えず(「多極化」を「無極化」とごまかしている)、日本人は閉塞感を持ちつつも、なぜ閉塞するのかわからず、打開の糸口がつかめない状態が続くだろう。

 自国の暗い話は読みたくないだろうから、このぐらいにする。このような前提で考えると、在日米軍の撤退が具体的に日本で取り沙汰されるのは、韓国が在韓米軍の撤退を要請した後になるだろう。朝鮮半島の安定化が見えてくると、いくら日本のマスコミが無視・歪曲しても、在日米軍の存在意義が失われていることに日本人も気づく。駐留米軍に撤退してもらうには、国会で決議すれば良い。手続き的には簡単だ。これまで多くの国々が、議会の決議一本で米軍基地の閉鎖を決めている。

 その前に、民主党内で小沢一郎が再び力を持ち、在日米軍や地方分権などの問題で大転換的・反乱的な動きを再燃させ、鳩山辞任で挫折した日本の多極化対応策の続きをやろうとするかもしれない。だが、まだそれが起きてくるかどうかも見えない。全体的に視界不良で「米軍はいつまで日韓に駐留するか」という本記事の題名の問いにも具体的に答えられないままであるが、日韓をとりまく状況を網羅的に説明したことで、本記事の意義とさせていただきたい。



この記事を音声化したものがこちらから聞けます



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ