TNN(田中宇の国際ニュース解説) 他の記事を読む

エリツィン大統領の辞任を読み解く

1999年12月31日   田中 宇

 記事の無料メール配信

 ロシアのエリツィン大統領が12月31日、突然辞任したが、その背景には、12月19日のロシア議会下院選挙で、エリツィン氏とプーチン首相が支持する政権与党「統一」が大躍進したことがありそうだ。

 19日の下院選挙は、エリツィン大統領が狙ったとおりの結果だった。下院の第1党である共産党は、ほとんど議席を伸ばすことができず、躍進した「統一」と、ほぼ同じ25%前後の得票率しか得られなかった。

 また、大統領選挙でエリツィン陣営の手ごわいライバルとなりそうだったルシコフ・モスクワ市長らが率いる中道連合「祖国・全ロシア」は12%しか得票できず、意外と人々の支持を集めていないことが明らかになった。こうした選挙結果をみて、エリツィン大統領は、任期満了なら2000年6月に予定されていた大統領選挙を前倒しした方が、自陣営の勝算が高くなると読んだのではないか。

 プーチン首相はKGB出身で、チェチェン共和国のイスラム武装勢力に対して、強硬に武力で鎮圧しようとする姿勢を貫いている。多くのロシア人(キリスト教徒)は、自国の衰退にいらだち、愛国心を高める傾向にあり、ロシアに対する反感を持っているチェチェンのイスラム教徒を憎んでいる。このためプーチン首相の人気は高まり、19日の選挙での、エリツィン・プーチン陣営躍進の背景となった。

 チェチェンでは、首都グロズヌイがロシア軍の手に落ちかけているが、イスラム勢力は山間部に入って抵抗戦を続けることは間違いなく、戦争は長引くと予測される。今後、戦争が泥沼化するにつれ、イスラム勢力によるモスクワなどでの爆弾テロが頻発すると予測され、そうなるとプーチンに対する支持も下がる。エリツィン氏は、自分の陣営に対する人気が高いうちに、大統領選挙を実施し、自らが決めた後継者であるプーチン氏を勝たせたいと考えたのだろう。



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ