|
イスラエルはパレスチナ抹消を世界が認めるまでイラン攻撃する?
2025年6月16日
田中 宇
イスラエルがイランを攻撃し続けている。6月13日に始まった攻撃は当初、イラン軍高官の居宅へのピンポイント攻撃など限定的なものだったが、しだいに石油ガスのインフラや、イラン政府の建物などを攻撃するようになり、攻撃対象を拡大しながら毎日続いている。
イランも報復としてイスラエルを攻撃しているが、国威維持のための報復であり、今回の戦争の本質は「イスラエルによるイラン攻撃」だ。イスラエルが攻撃をやめればイランもやめる。イランが攻撃をやめてもイスラエルはやめない。
(Israel strikes building belonging to Iran's Foreign Ministry, says deputy foreign minister)
昨年から2度起きたイスラエルとイランの戦争はこれまで、イスラエルが口火を切り、双方がひとしきり長距離攻撃し合った後、下火になっていた。今回もそうなると当初私は思った。
だが、今回は違うかもしれない。イスラエルはこれから範囲を拡大しながら毎日イランを攻撃する可能性が増してきた。
だとしたら、その目的は何か。イランを国家的に潰すことか??。私の見立てはそうでない。イスラエルは、拡大しつつイランを攻撃し続け、米中露アラブなど世界の仲裁を受ける。交渉の中で、イスラエルは世界に対し「パレスチナ国家の抹消を認めろ。認めるまでイランを攻撃し続ける」と言う(示唆する)のでないか。
(Israeli strike on oil depot in Tehran suburb ignites huge blaze )
イランを潰されたくなかったら、世界はパレスチナ国家をあきらめろ。パレスチナ人を見捨てろ。そんなイスラエルの要求は、全く「不当」だ。テロリストや誘拐犯の手法だ。「許される」ものではない。
しかし、世界が「イスラエルの要求は不当だから無視する」と決めたら、イスラエルはイランが潰れるまで攻撃する。そして、それが終わるころにはガザ市民の多くが餓死し、西岸の市民もヨルダン追放もしくは殺害されていく。
世界が認めても認めなくても、パレスチナは抹消される。
(Large Numbers In Congress Back Israel's Attack On Iran)
米露中アラブなど世界はこれまで、イスラエルのパレスチナ抹消を口で非難しつつ実際は容認してきた。イスラエルは「イランを潰されたくなかったら、世界はパレスチナ抹消を黙認しろ。口だけのイスラエル非難すらもやめて黙れ。サウジはイスラエルと国交を結ぶアブラハム協定に署名しろ」と要求しつつ、イランを攻撃し続けるのでないか。
イスラエルは、トランプやプーチンと電話会談を繰り返している。このシナリオが事実としたら、イスラエルはすでに米露にこの要求を伝えているはずだ。
(Putin holds phone conversations with Israeli PM and Iranian president )
米欧はイランを敵視してきた。イランなんて潰れてもいいのでないか??。実はそうでない。米欧がイランを敵視してきたのは、米欧の政界がイスラエルに加圧されてきたからであり、米欧自身の戦略ではない。
大国であるイランが潰れると、中東全体が不安定になる。誰もそれを望まない(多分イスラエルも)。
イラン自身が、「イスラエルのパレスチナ抹消を容認するから、わが国を潰さないでくれ」と無条件降伏したいだろう。
イランは米露とくにプーチンの仲裁で、パレスチナ抹消を黙認する条件でイスラエルからの攻撃を止めてもらいたいと考えられる。イランはすでに、自国の傘下にいたヒズボラやアサド(シリア)がイスラエルに潰されるのを受容している。イスラエルから見ると「あと一歩」だ。
(Battered Hezbollah Says It Will Stay Out Of Iran-Israel Fight)
イスラエルの脅しに世界が屈し、パレスチナが抹消されるとしたら、ガザ市民はどうなるのか。全員餓死か??。
その前に、ガザ市民をソマリランドに移住させる話がある。以下、昨日配信した有料記事の一部を複写する。
(戦争し放題のイスラエル)
トランプは最近、「アフリカの角」にある、ソマリアから分離独立したソマリランドとの国交を樹立しようとしている。米軍が、ソマリランドと紛争しているプントランドを「ISIS掃討」の名目で空爆している。
ソマリランドは、ガザ市民の強制移住地の候補として名前が上がっていた場所だ。ソマリランド政府は以前、パレスチナ抹消に協力したくなのでガザ市民の受け入れを拒否していたようだが、最近、態度を変えた可能性がある。
(US Launches Airstrike in Somalia’s Puntland Region)
ソマリランドは、米国が国交を樹立してくれて、米軍が紛争地からプントランドの敵勢力を追い出してくれるなら、ガザ市民を受け入れても良いと言っているのかもしれない。
情報が少ないので、この話は推測でしかない。ガザ市民の多くが餓死する前に移住が実現するのかも怪しい。
だが、もしガザ市民がソマリランドに移住してガザ戦争が終わるなら、サウジはパレスチナ国家への拘泥をやめてイスラエルと国交正常化してアブラハム協定が完成し、イランとイスラエルも共存して、中東が多極型の新時代に入る可能性が高まる。
田中宇の国際ニュース解説・メインページへ
|