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暴動から内戦になり崩壊していく米国社会

2020年9月1日   田中 宇

米国の大都市、特に民主党が市長や州知事をやっている諸都市・諸州で、暴動が続いている。ニューヨーク、シカゴ、ポートランド、シアトル、デンバー、ミネアポリスなどだ。先週末には全米で50人が射殺された。全米の暴動の最初のきっかけは、5月25日にミネアポリスで黒人のジョージ・フロイドが、白人警官に逮捕時に射殺されたことだ。当初は、黒人の人権擁護運動を展開するBLMなど左翼(民主党左派)が警察を非難し、地元警察の予算権を持っている市長や州知事など民主党を動かして警察の予算を減額したり、警察の行動規制を強化する政治運動として展開された。 (A Staggering 50 People Shot, Including 2 Police, In Another Blood-Soaked Chicago Weekend

左翼たちの中には、右派を敵視して喧嘩を売るアンティファなどもいて、彼らは共和党系の右派の市民運動やトランプ政権の連邦政府への非難もしたが、右派の側が左派から売られた喧嘩をあまり買わなかったので、当初の対立軸は「左翼対警察」だった。左翼は、いくつかの都市の中心街を何週間も占拠して「解放区」を宣言する左翼ごっこを続け、反政府デモが暴動や略奪に変わり、全米的に社会秩序が壊されていく事態が続いた。5月のフロイド殺害後、警察の予算が大きく削られたミネアポリスでは、警察が取り締まり切れないため強盗や自動車窃盗などが急増した。市当局は8月初め、警察を縮小したので市民を守ることができなくなっていることを認め、強盗に襲われた時に警察を呼んでも助けに行けないことが多いので、拳銃を買うなどして自衛するか、もしくは強盗の要求に従って財布などを渡して自分の命だけ守ってくださいと市民に呼びかけた。 (Minneapolis Authorities Warn Residents "Prepare" To Be Robbed & Obey Criminals

左翼の運動は、米国を良くするどころか正反対に、米国の治安状態を悪化させた。米国での拳銃の販売数は今年、昨年より75%増えている。当初は、左翼運動が掲げる、黒人などに対する警察のやり方が人種差別だという話が中心だったが、やがて、左翼運動がデモと称して略奪や破壊を展開し、米国の法治体制や社会秩序を壊していることの方が問題になってきた。

8月になり、民主共和両党が11月の大統領選挙に向けた候補一本化のための党大会を相次いで開いた。民主党大会では、左翼運動が米国の法治体制や社会秩序を壊していることが全く議題にされなかった。左翼は民主党内でどんどん力を持っている勢力であり、自分で自分を批判しないのは当然だった。大統領候補になったバイデンは、党内で左派と対立する中道派(エスタブ系)だが、左派に離反されると自分の敗北に直結するので法治と秩序の崩壊についてほとんど発言しない。一方、共和党大会に際しては、BLMなどの民主党左派勢力がワシントンDCなどに結集し、草の根系のランドポール上院議員夫妻らをBLMのメンバーが襲撃しかけるなど、共和党の右派に喧嘩を売って怒らせる戦略を展開した。 (An Evening Stroll With Black Lives Matter) (Chaos Erupts In DC After GOP Convention; Rand Paul And Wife Chased Down Street By BLM Protesters

世論調査によると、米国民の59%が、米国の法治と秩序を回復する問題を、11月の大統領選の重要な争点と考えている。共和党支持者の74%、民主党支持者の46%がそう考えている。トランプの共和党は、自分たちが法と秩序を回復する政党であると喧伝している。民主党は、法と秩序を壊しているのが自分たちの身内であるため、法と秩序について何も言えない。法と秩序の崩壊で迷惑しているのは白人だけでない。伝統的に民主党支持勢力である黒人やラティノも迷惑している。今回、黒人の36%がトランプ支持に回っている。伝統的に、黒人は圧倒的に民主党支持であり、10%ぐらいしか共和党を支持してこなかった。36%は画期的だ。 (Are The Tables Starting To Turn?

NYタイムスやCNNなど米マスコミの多くは、左翼の側を無前提に支持する形で報道を続けている。「警察は、無抵抗な黒人市民を射殺した」「BLMなど左翼の運動はほとんど平和裏である」などなど。実際は、そうでない。5月末に警官に殺されて今年の運動・暴動の出発点になったフロイドは、公開されている動画などによると、殺される前に警官に尋問されていた時、麻薬中毒でラリっている状態で、警官の支持に従わなかった。フロイドが一方的な善玉で、警官が一方的な悪玉というのは、民主党支持のマスコミの決めつけ的な歪曲報道だった可能性が高い。「暴動を、暴動と呼ぶのは人種差別だ」というマスコミまである。 (NPR Claims That Calling A Riot A "Riot" Is Racist

8月23日には、ウィスコンシン州ケノーシャで、黒人のジェイコブ・ブレイクが警官に射殺された事件から、左翼による反警察デモが起こり、他の諸都市の展開と同様、暴動と略奪に発展している。この事件でも、マスコミはブレイクが一方的な善玉で、警察を一方的な悪玉と報じている。だが、これは明確な間違いだ。ブレイクは殺される前、しばらく前まで付きあっていた元彼女(事実婚の元相手。2人の間に子供も)の家を訪れ、攻撃されかけた元彼女が恐れて警察を呼んだため、警官がやってきた。ブレイクはそれより前にも元彼女の家を訪れ、性的ハラスメントをした上、元彼女の金品と自家用車を奪って行った。元彼女は被害届けを出し、ブレイクは刑事起訴された。その後、8月下旬に再びブレイクが元彼女の家にやってきてハラスメントを開始したため、元彼女は警察を呼び、警察はブレイクを逮捕しようとした。ブレイクは、乗ってきた元彼女の自動車の中にナイフを置いており、逮捕に抵抗しようとして自動車にナイフをとりに行ったため警官に撃たれ、その後死亡した。警官は正当防衛として、犯罪を重ねようとしたブレイクを撃った観がある。 (Before You Honor Jacob Blake As A Martyr, Read The Criminal Complaint Against Him

民主党支持のリベラルマスコミや左翼運動家は、警察が一方的に悪いと言い募り、反警察デモを暴動や略奪に発展させている。共和党支持のブログなどは、警察は正当な行動をしただけであり、事態を歪曲してそれを口実に破壊活動を広げている左翼運動家と、それを容認扇動しているリベラルマスコミこそが悪だと言っている。どちらが正しいのか。フロイドやブレイクが殺された状況が不確定なので、少なくとも、善悪が不確定だ。政治問題化してしまったので、おそらく今後もずっと不確定だ(確定しても不利になる側が認めないので)。不確定である以上、民主党支持者は「警察と右派とトランプが悪い」と言い募り、共和党支持者は「左翼とリベラルマスコミが悪い」と言い募る。対立が深まるばかりだ。 (Has The Civil War Has Begun? Left Vs. Right Violence, Just Like The Elites Want

5月末にフロイドが殺された後、対立軸は「左翼対警察」だったが、8月末にブレイクが殺された後、対立軸は「左翼対右翼」「民主党対共和党」になった。支持政党が違うと、善悪観も正反対になるが、最重要なのはそこでない。善悪観がどうあれ、左翼が米国の法と秩序をどんどん破壊し、そのせいで米国民の生活がどんどん悪化している。法と秩序の破壊を止め、事態の悪化を止めるべきだという世論が、支持政党に関係なく広がっている。それなのに、民主党は法と秩序の破壊を止められない。身内の犯行だからだ。リベラルマスコミも、トランプ批判に終始している。

コアな民主党支持者以外の米国民の全体が、リベラルマスコミや民主党への不信感を強めている。共和党支持者は、マスコミ系の世論調査に対し、共和党支持を明らかにするだけでハラスメントを受けかねないので、支持政党を言わなくなっている。隠れトランプ支持が増えている。表向きの世論調査結果は、まだバイデンが2ポイントの優勢だが、実際は現時点ですでにトランプ優勢だろう。民主党支持だが16年のトランプ勝利を早くから予測し警告していた映画監督のマイケル・ムーアは最近「トランプ圧勝になるぞ。民主党支持者はそれで我慢できるのか?」と警告した。色んなものを当ててきた金融機関のJPモルガンも、トランプ圧勝の可能性の高まりを指摘している。 (Michael Moore & Bill Maher Beg Dems To Wake Up: "Enthusiasm For Trump OFF THE CHARTS! Are You Ready For Trump Victory?") (Kolanovic Says Trump Re-Election Odds Are Soaring, Prompting Nate Silver To Melt Down On Twitter

左翼が自分たちの暴動略奪の行動に固執するほど、これまで事態をあまり気にしていなかった右翼(トランプ支持者)が覚醒して左翼に売られた喧嘩を買い、事態がさらに悪化して米国の分裂がひどくなる。ポートランドでは、左翼が右翼を射殺して「ファシストは死ぬべきだ」と殺人を正当化した。左翼が民主党の主導権を握る傾向が強まり、民主党はバイデンがふらふらと左傾化のイメージを強め、中道的な支持者が離反する。右派の覚醒はトランプを優勢にする。トランプは間もなく暴動直後のケノーシャを訪れ、民主党左派が壊した米国の法と秩序を自分が立て直すとぶち上げる。 ('I'm Not Sad That A Fu*king Fascist Died Tonight': Left-Wing Portland Protesters Celebrate Murder Of Trump Supporter) (Trump Will Visit Kenosha On Tuesday To Meet Cops And 'Survey The Damage' From The Protests Over The Police Shooting Of Jacob Blake

トランプ登場まで、米国の2大政党はいずれも中道派(エスタブ系)が握っていた。草の根の民主党の左派と共和党の右派は、党内で常に少数派だった。2大政党制は、2大政党の中道エスタブ系が談合して政策を決める「2党独裁制」だった。2党の草の根勢力は民意に支持されつつも、政界と諜報界を握る2党の中道エスタブ(=軍産複合体)よって無力化されてきた。草の根勢力は民意のガス抜きとして存在してきた。オバマも、出身は草の根左派だが、大統領としては中道エスタブだった。 (米大統領選挙戦を読み解く

米国の2党独裁制は、トランプによって破壊された。トランプは、共和党の中道エスタブ(ブッシュ家やテッドクルーズなど)を一掃し、ロシアゲートの濡れ衣を逆手に取って軍産を乗っ取った。BLMや、下院議員のAOCなど民主党左派は、民主党の中道エスタブと喧嘩して弱体化させ、米国の秩序を破壊して国力を低下させ、米国を覇権国の座からずり落とす隠れ多極主義に貢献しつつ、トランプを強化する利敵行為を延々とやっている。軍産を乗っ取ったトランプらは、もともと軍産がガス抜き機関として入り込んでいた民主党左派を意図的に過激化させ、中道エスタブの2党独裁制を左右からぶち壊す策略をやらっているのでないか、と私は前から疑ってきた。 (トランプと米民主党

11月の大統領選挙は、2000年の選挙と同様、どちらが勝ったか決着が延々とつかない展開になるとも予測されている。以前から民主党は、選挙不正をやりやすい郵送投票をやりたがってきた。延々と未決になると、民主党の左翼が共和党の左翼に喧嘩を売って米国を内戦化する動きを強め、バイデンら民主党の中道派は当事者能力を失い、2大政党制の崩壊に拍車がかかる。最終的にはトランプの勝ちが確定するだろうが、それまでにさらに米国の国力と覇権が低下することになる。これも覇権放棄屋のトランプが望むところだ。 ("This Is Real... There's Going To Be A F**king War In November" - Dem Operative Admits Voter Fraud

コロナ危機がまだまだ続き、米経済はこれからさらに悪化する。10月にはいろんな政府補助金が切れていく。株や債券の金融バブルは、このまま選挙後までもつのでないかとも思われる。だが、一般の米国民の生活は悪化する一方だ。 (New Covid-19 Layoffs Make Job Reductions Permanent

CDCが6月に調べたところ、米国民の約1割が、この半年間に自殺を考えたと答えている。とくに18-24歳の若者の25%が自殺を考えた(25-44歳は16%)。学歴が高卒未満の失業中の人の3割が自殺を考えたという。何らかの精神病の予兆を自分で感じている人が米国民の41%いる。コロナで幽閉され、経済悪化で失業し、暴動や略奪の話に接してさらに鬱屈する。2000-2016年に、米国で自殺が3割増えた。コロナ前からの傾向が、コロナで一気に悪化した。コロナも暴動も全く不必要な現象だ。コロナの長期化はインチキ策だし、暴動は扇動の結果だ。トランプらによる覇権転換戦略で米国(米欧全体)が自滅させられている。かわいそうな米国人。覇権などという余計なものを持たされてきたからだ。 (Greenwald: America's Social Fabric Is Fraying Severely... If Not Unravelling



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