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米中逆転を意図的に早めるコロナ危機

2020年8月27日   田中 宇

新型コロナで全体状況が見えにくくなって世界の人々が気づかない中で、米国や日本欧州など先進諸国の経済が縮小する一方、中国は早々と経済成長を復活し、経済的に中国が米国を抜いていき、日本はますます落伍していく展開が静かに進行している。 (China’s Economy Is Bouncing Back—And Gaining Ground on the U.S.

中国は新型コロナを世界に蔓延させた発祥者・張本人であるが、中国自身は今年1-5月に厳しい都市閉鎖と徹底的な追跡システムを導入し、国内のコロナ拡大を監視して、6月には新たな陽性者がほとんど出てこない状況を作った。中国はその上で、人々の行動の自由を認めていき、国内消費を再増加させていった。通勤ラッシュや夜間・週末の繁華街の混雑が再現され、飛行機の国内線も、国内の観光地も混んでいる。中国の小売の販売総額は7月に、コロナ前の1月より1%だけ少ない状況まで復活した。 (China's economy has rebounded after a steep slump - but challenges lie ahead

中国の4-6月のホテルの平均稼働率は60%で、70%だったコロナ前の前年同期に近い水準に戻っている。先進諸国ではホテルや航空会社、飲食店などがどんどん潰れていくが、中国では潰れず繁盛し続ける。JPモルガンが予測する今年の中国の経済成長率は、4月時点の予測が1.3%だったが、最近2.5%に上方修正した。新型コロナの発祥地で、1-3月に厳しい都市閉鎖が行われた湖北省の武漢市でも、この3か月間、新たな陽性者が出ておらず、市街を歩く人々はマスクもせず、飲食店など繁華街は満員だという。武漢では最近、大きなプールに市民が密集してコンサートを聞くイベントも行われ、世界的に話題になった。中国は「三密」を乗り越えてしまっている。中国は国内消費で経済成長に戻っている。経済を国内消費主導に転換すると宣言した習近平の政策が奏功している。 (Wuhan hosts massive water park party as coronavirus concerns recede) (中国が内需型に転換し世界経済を主導する?

今年の経済成長がプラスになる中国と対照的に、WSJによると、米国の今年の経済成長はマイナス8%になると予測されている。現在、世界最大の経済を持つ米国は大幅なマイナス成長である一方、世界第2位の経済を持つ中国はプラス成長を続ける。米国と中国の差が縮まっていく。コロナ危機前は、米中ともプラス成長だったが、中国の方が米国より成長率が高いので、2030年にはGDP総額で中国が米国を抜いて世界一になると予測されていた。それがコロナで米国がマイナス成長に転落するので、米中逆転が2年早まって2028年に起きると予測されるようになった。 (China's economy has rebounded after a steep slump - but challenges lie ahead) (China’s Top Leaders Lay Out Economic Agenda as Focus Shifts From Pandemic Support

中国は、すでにコロナを乗り越えて経済活動をコロナ前の状態におおむね戻しているが、米国など先進諸国のほとんど(スウェーデン以外)はそれができず、無意味かつ自滅的な都市閉鎖を今後も延々と続けねばならない。先進諸国のコロナ危機は短くてもあと2年ぐらい続きそうだ。WHO事務局長が先日そのように指摘した。先進諸国では「ワクチンができて全員に接種すればコロナを乗り越えて以前の経済発展に戻せる」と言われているが、ワクチンは今後何年もできないとか、ワクチンができても効果の期間が短いと言われている。そうなると先進諸国のコロナ危機は2年でなくもっと長引く。米国のマイナス成長もずっと続く。対照的に、中国はすでにワクチン不要でコロナ危機を脱して経済成長に戻っている。米中の経済規模の逆転はますます前倒しされ、2025年ぐらいになっていく。 (China’s Xi Speeds Up Inward Economic Shift) (Advisor To British Government Warns Coronavirus "Might Be With Us Forever"

このように書くと「ほらみろ。コロナには、中国のような厳格な都市閉鎖と追跡態勢が必須なのだ」「先進諸国の都市閉鎖は生ぬるいからダメなのだ」といった「コロナ真に受け論者」がしゃしゃり出てくる。だが、こうしたマスコミ軽信の真に受け論者も間違いである。前回記事に書いたように、新型コロナは多くの人が自然免疫で乗り越える病気なので、スウェーデンや、3月までの日本や、途上国の多くのように、ゆるやかな規制をしばらくやって事実上の集団免疫に達して乗り越えるのが良い。 (新型コロナ集団免疫再論) (永遠の都市閉鎖 vs 集団免疫

世界の多くの地域は、新たな陽性者がとても少なくなり、すでに集団免疫に達し、都市閉鎖をしなくても状況は悪化しない。だが「少しでも新たな陽性者が出ている限り厳しい都市閉鎖が必要だ」という間違った政策が米国主導で意図的に続けられ、陽性者が少ないと検査数を増やして「第2波」を演出している。先進諸国ではコロナ危機が延々と演出され、来年も再来年も続けられ、経済のマイナス成長が続き、中国に追い抜かれていく。 (The Quiet American Reset) (暴動が米国を自滅させる

中国の大都市の繁華街が繁盛しているのと対照的に、NYやLA、シカゴなど米国の大都市の多くは、都市閉鎖策が緩和されても人通りが少ない。閉店したままの店が多く、廃墟のような状態だ。NYやシカゴでは暴動や凶悪犯罪が急増している。極左の反政府デモにかこつけて略奪が横行している。民主党支持の左翼の政治運動のようなふりをしているので、州知事や市長が民主党の都市では取り締まりもあまりおこなわれず、略奪や殺人が黙認されている。米国の繁栄と消費の象徴だったNY市の荒廃ぶりが、米覇権衰退を如実に表している。 (New York City is Dead and It’s Not Coming Back) (Haunting Photos of San Francisco’s Desolate Financial District During Morning “Rush Hour”

NY、NJなどの左派の州知事らは、経済停止による税収減を金持ち増税で穴埋めしようとして、金持ちの州外への転出に拍車をかけてしまっている。NY市などに住む金持ちは、略奪とテレワーク、それから増税を理由に転出していく。米国は、コロナによる経済停止と、左翼系による破壊と、米連銀のQEによるいずれ潰れるドルのバブル化によって自滅に向かっている。ドル建て物価のインフレが激化するとの警告が最近、あちこちの金融筋から発せられている。今年は米国の大企業の倒産も史上最多になる。 (New Jersey Governor Proposes Hiking Millionaire Taxes To Plug $1 Billion Spending Hole) (Permanent Economic Damage – Danielle DiMartino Booth) (US Default Bomb Goes Off: 2020 Will Have A Record Number Of Large Corporate Bankruptcies

日本や西欧など同盟諸国も、米国ほどでないが、米国から強要されたコロナ対策によって自滅的に経済停止させられている。日本経済は今年マイナス5.8%と予測されている。日本はGDP総額ですでに中国に抜かれており、これからさらに劣勢になる。「中国は人口が多いだけ。一人あたりGDPの額は、まだ日本の方が多い」と強がっても、日本が米国主導の自滅的なコロナ危機扇動策に追随してマイナス成長が続くほど、一人あたりのGDPでも中国に追いつかれていく。 (Literal Battle Zones Are Erupting All Over America) (After Kenosha — Divided We Stand

私の以前からの見方は、こうした米国と同盟国(先進諸国)を自滅させ、中国を台頭させるコロナ危機の扇動が、軍産・諜報界を乗っ取ったトランプの隠れ多極主義・覇権放棄的な策略だろう、というものだ。日本は当初、PCR検査をできるだけやらず全体像を曖昧にしたまま事態を自然に集団免疫に近づけ、経済停止の自滅的な都市閉鎖をやらずに、経済成長を保ったままコロナを黙って乗り越えようとした。人々の自然免疫の力が強い日本では、この方法が良いものだった。 (ただの風邪が覇権を転換するコロナ危機

だが、トランプの米国はこれを許さず、3月後半に安倍の日本政府に圧力をかけた。日本側は抵抗し、経済を全停止させる都市閉鎖まではやらず、その手前の半強制の「自粛」をうながす非常事態宣言をやらされた。7月に日本政府がGOTOキャンペーンをやって経済テコ入れしようとすると、米国がまた出てきてやめろと加圧し、金持ちの人口が多くて旅費を使ってくれそうな東京都をキャンペーンから外させた。トランプは、日本経済を無理矢理に減速させることで、相対的に中国の台頭と日本の後退を経済面から加速させ、中国がアジアの新たな盟主になり、米国は覇権を退潮させ、日本が中国に従属せざるを得ない多極化の新状況を作ろうとしている。

トランプは、コロナ危機の開始後、中国敵視策を増大し、中国は報復策の一つとして今春、中国に駐在する米国のマスコミ記者たちの行動を規制したり、中国から追放したりした。コロナで中国と外部世界との航空旅客便が停止し、米英などのスパイが中国に入りにくくなった。中国国内のコロナの追跡システムにより、国内での外国スパイの動きも止められている。その結果、中国の内部で何が起きているか、以前よりわかりにくくなり、中国国内の経済成長の様子や、中共中央における習近平の独裁強化の状況や、一帯一路諸国に対する中国の覇権拡大などの詳細が、外部の世界に漏れにくくなった。中国(習近平)は、世界からの監視を気にせずに覇権拡大できるようになった。世界は中国の覇権拡大に気づけなくなり、わかった時にはもう逆転不能になっている。私から見ると、これはトランプの見事な隠れ多極主義戦略である。 (コロナ危機による国際ネットワークの解体

中国には、米日欧など先進諸国の企業の工場がたくさんあるが、本国の本社から派遣され工場を統括してきた先進諸国人の要員の多くはコロナ発生後、中国を出国して本国に戻っている。先進国側が中国を敵視し続けていると、先進諸国人の要員が中国の工場に戻るための再入国を許可されないままになり、工場を中国側の合弁相手に乗っ取られてしまう。先進諸国は中国と敵対しにくい。 (Visa acceptance for certain Japanese, Singaporean and Indonesian citizens

中国はBRICSなど新興諸国・発展途上諸国の中でも、ダントツに経済が大きな国になっている。インドの経済規模は中国の5分の1しかない。途上諸国は、親米的な姿勢を続けていると、米欧側から、自滅的なコロナ対策を強要されるうえ、従来からの人権や民主、環境などの面の歪曲された価値観を押しつけられ、思い切った政策をやれない。 (Modi’s ‘New’ India: Notch Or Knot On China’s Belt (And Road Initiative)) (4 Reasons Why India Couldn't Win a War With China

コロナを機に中国が経済力で米国に追いついて米中が対等な状態になり、米国が中国を敵視して世界が米中に分裂・デカップリングしていく中で、これまで米国側についてきた途上諸国が中国側に寝返る傾向が増していく。コロナはそれを加速する。中国は、他国のコロナ政策に介入しない。中国は、金儲けになる国際関係にしか敏感でない。トランプは、中国を勝たせるために中国敵視やデカップリングをやっている。そんなはずはない、と思っている人は、今後の流れを読み間違える。 (Towards a US-China War? The Creation of a Global Totalitarian System, A “One World Government”?



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