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まだ続くシェール石油のねずみ講

2019年5月14日   田中 宇

シェール石油(タイトオイル)の油田開発を進めることで、これまで石油輸入国だった米国が永遠に安価で石油を自給できるようになり、もう産油地帯である中東を無理やり支配したり、嫌なサウジアラビアとつきあったりする必要がなくなる、という「シェール革命」の楽観論が数年前から喧伝されてきた。これに対し、米国のオルトメディアなどが「シェール石油は油井の枯渇が早く、巨額の開発費用が常にかかり、安価でないし、米国の長期の石油自給につながらない。シェール革命の話は、米金融界によるねずみ講・詐欺的な誇張話だ。人々は、特殊な石油業界用語で煙に巻かれて騙されている」と悲観論を展開してきた。私も悲観論者だが、多くの人は、楽観論を事実と考え、悲観論を無視・揶揄してきた。 (シェールガスの国際詐欺) (Shale Is In A Deep State Of Flux

この数年、2014年など、国際石油価格が下落したり、シェール業界が開発費用をまかなっているジャンク債の金利が上昇するたびに、シェールの油田開発が停滞する事態になった。最近では、昨年末の世界経済の不況色が強まったのに米連銀が利上げして金融が混乱した時、金利上昇と石油下落でシェール業界も危なくなったが、それでもシェール革命の楽観論が破綻するまでには至らず、今も喧伝・軽信されている。 (The U.S. Shale Oil Industry Bloodbath Spreads As Oil Price Meltdown Continues

しかし最近、再びオルトメディアが、以下のような悲観論を発している。マスコミの楽観論は「シェール業界の採掘技術の向上で、石油相場が下がっても採算がとれるようになった」と報じているが、これはシェール業界の騙し文句だ。実のところ業界は、地下のシェールの地層に沿ってより長く横方向の油井を掘ることで採油量を維持・増加しており、これはその油井の枯渇が近づいていることを示している。業界はまた、水や砂などを油井に入れるフラッキングを増量して生産を増やしているが、これも油井の枯渇を早めている。 (The Shale Boom Is About To Go Bust

シェール石油が多く出る地域は米国でも限られている。米国で採掘されるシェール石油の全量は日産620万バレルで、そのうち520万バレルがイーグルフォード、バッケン、パーミアンという3つの地域で採れる。採掘業者は、それらの地域の中で、既存の油井と油井の間に新たな油井を掘るようになり、油井の間隔が縮まって、隣の油井からの悪影響の干渉で採掘量が減る事態が起きている。この減少を穴埋めするため、業界はさらに新たな油井を近くに掘らざるを得ず、油井間の干渉がひどくなる傾向だ。業者は、努力しても産油量が増えにくくなっている。 (U.S. Shale Has A Glaring Problem

これらの悪い指摘はいずれも、既存の米国のシェール油田地帯が枯渇を速めていることを表している。シェールの油井は、採掘開始から2年後には枯渇の傾向が始まり、最初の数年間で産油量が4分の1以下になる。次々に新たな掘削が必要だ。既存型の油田の油井が20年以上もつことが多いのと対照的だ。シェール業界は、枯渇を採掘技術の革新で乗り越えて増産に成功したと言い、マスコミはその説明を喧伝している。米国のシェール石油は、この6年間で生産量が3倍増えた。産油量は来月また過去最高を更新しそうだ。 (U.S. shale output to hit new record of 8.49 million bpd in June: EIA

だがオルトメディアによると、増産は、横油井の伸長やフラッキングの増加、油井間隔の短縮など、近視眼的ながむしゃらな行為によるもので、シェール革命の神話を表面的に維持するために無理をしている。業界企業の多くは赤字続きだ。がむしゃらな増産にはジャンク債の起債による巨額資金が必要で、低金利状態が必須の自転車操業が続いている。シェール業界全体で3000億ドルの負債があり、利払いするだけで産油量の25%の売上金が飛んでしまう。 (Warning Signs Flash For U.S. Shale

今のところ世間一般では、楽観的なシェール革命の神話をまだみんな信じている。だが昨年来、世界は実体経済が不況の様相を強め(以前からの不調が隠せなくなり顕在化)、金融システムもバブル膨張がひどくなっている。今後、実体経済の不況色が強まるほど石油相場が下がり、シェール石油を売っても赤字になる。いずれ金融のバブル崩壊も起き、シェール産業の調達金利が高騰する。シェール石油のねずみ講は、破綻する運命にある。マスコミだけ読んでいる人は、それに気づかない。日本では、石油業界の立派な人々でさえシェール革命を全く疑わずに信じているので驚く。詐欺であると断言はできないが、全く疑わないのは、どうみても馬鹿だ。 (The Coming Collapse Of U.S. Shale Oil Production

シェールのねずみ講はいずれ破綻するが、破綻はしばらく来ないかもしれない。世界経済が不況になっても石油価格が下がらないよう、トランプは産油国であるイランへの敵視制裁を強め、イランの石油を世界が買いにくい状況を作るとともに、大産油国であるサウジアラビアの石油積み出しルートであるペルシャ湾で今にも戦争を起こしそうな演技を展開している。金融面でも、トランプは米連銀(FRB)にQE(ドル増刷による債券買い支え)を再開せよと圧力をかけ、債券金利のバブル崩壊的な上昇を先送りしようとしている。 (One Last Warning For The U.S. Shale Patch) ('Shale is not superman.' Geopolitical chaos is testing the limits of America's oil boom

中東(など全世界)での米国覇権を放棄したいトランプは「米国は国内にシェール石油があるから中東の石油など必要ない。中東の覇権なんて捨ててしまえ」と言えるシェール革命の神話が好都合なので維持したい。トランプの策略は成功しており、まだしばらくはシェール革命の神話が維持される。だが、トランプ政権の2期目かそれ以降の時期に、いずれ金融バブルが崩壊し、シェールのねずみ講も破綻する。 (Trump is taking a risky bet that oil prices will remain stable



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