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没原稿:パレスチナ和平の蘇生

2017年5月12日   田中 宇

 5月3日、パレスチナのマフムード・アッバス大統領が訪米し、ホワイトハウスでトランプ大統領と初めて会談した。会談後、2人は記者会見したものの、会談で大した話が出なかったことになっている。パレスチナのヨルダン川西岸地区では、イスラエルによる不正なユダヤ人入植地住宅の建設が続き、西岸を占領するイスラエル軍が、主要道路網のあちこちに検問所を作ってパレスチナ人の生活や国家運営を妨害し、国際問題になっている。だが、トランプはこれらの問題について、記者会見で一言もふれなかった。イスラエル寄りと言われるトランプに、中東和平の推進を期待するのは無理なようにも見える。

 だが実のところ、トランプとアッバスの会談では、これまでになかったような非常に具体的な和平推進案が検討されていた。それは、以下のような、パレスチナ問題のすべての難問に解決を与える内容だ。(1)イスラエルが、西岸に作ったユダヤ人入植地のうち、主なもの(西岸の総面積の約7%、西岸入植者人口の75%の居住地)を残し、その土地をパレスチナ国家からイスラエルに譲渡する代わりに、イスラエルは、西岸とガザの周辺にあるイスラエル国内の農地など6%弱をパレスチナ国家に譲渡する形で土地交換を行う。残りの入植地は撤去する。(2)エルサレムの神殿の丘など、パレスチナ国家内でイスラム教とユダヤ教の両方の聖地であるがゆえに紛争になっている(右派のユダヤ教徒がイスラム教徒の聖地を侵害したがる)場所については、米国、イスラエル、パレスチナ、ヨルダン、サウジアラビアの5カ国で作る国際委員会が管理する。(3)パレスチナ国家を一体化するため、ガザと西岸をつなぐ高速道路を作る。その土地はイスラエル領のままだが管理はパレスチナが行う。

 これらの内容は、もともと08年9月にイスラエルの首相だったエフド・オルメルトが、パレスチナ問題の最終解決案としてアッバスに提案した「オルメルト提案」だ。オルメルトは秘密裏にアッバスと会談し、これらの提案を打診した。アッバスは乗り気で、その後2人は協議を重ねて最終案をまとめるたが、09年3月にオルメルトが汚職スキャンダルで辞任させられたため、調印に至らなかった。09年1月までの米共和党ブッシュ政権はオルメルト提案に基づく問題解決を支持していたが、どうもその後の民主党オバマ政権は違ったようで、米イスラエルはオルメルト案を棚上げした。アッバスは「オルメルトは和平を進めようとしたので政治的に殺された。和平を進めたので暗殺されたラビン首相と同様だ」と語っている。オルメルトはまだ服役している。

 このオルメルト案が、米政権が民主党オバマから共和党トランプに交代した後、8年ぶりに再登場した。アッバスはトランプと会って、オルメルト案を基礎にして中東和平を蘇生するのが良いと提案した。トランプは、この提案に対して何も発言していない。ただトランプはアッバスに対し、1年ぐらいの間に中東和平を実現したいと話した。1年という短期間で解決するには、非常に具体的な案がないとやれない。またトランプは、アッバスと会った後、すぐに初の外遊先として5月下旬の中東歴訪を決め、パレスチナとイスラエルに行くことにした。このことから考えて、トランプがオルメルト案に基づく中東和平を推進しようとしている可能性は非常に高い。

 5月20日からのトランプの初外遊は、サウジアラビア、パレスチナ、イスラエル、バチカンに行くもので、イスラム教、ユダヤ教、キリスト教という3つの一神教の主導国を歴訪する。パレスチナでは、キリスト生誕の聖地であるベツレヘムに行く。

・・・ここまで書いて、トランプが外遊で目指しているものを調べ出し、再度の全面書き直しが必要とわかったので、この原稿をボツにした。



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