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トランプの「文化大革命」

2017年1月31日   田中 宇

 私が注目する米国の分析者ゲレス・ポーターが「トランプは、文化大革命の時の毛沢東のようだ」と書いている。「トランプのツイッターは、毛沢東の壁新聞と同じだ。司令部を砲撃せよと書いた壁新聞を貼り出して文化大革命を引き起こした毛沢東は、米政府のエリート支配を潰せと大統領就任演説で呼びかけたトランプと同じだ」と。そのとおりだと思った。 (US Intervention Against Syria? Not Under Trump by Gareth Porter

 中国共産党の毛沢東は、国民党との内戦に勝って権力を握ったが、その後の経済運営で失敗し、市場経済をある程度肯定する側近たち(トウ小平ら)によって外されかけた。それを挽回し、中国を不断の革命に引き戻すために毛沢東は、国営マスコミを迂回して人々を決起させる壁新聞(大字報)を貼り出し「資本主義に傾注する党本部を攻撃する政治運動を起こせ」「政府に反逆せよ」と呼びかけ、中国の伝統文化を破壊する文化大革命を起こしたが、大惨事になって失敗した。 (トランプ革命の檄文としての就任演説

 毛沢東はプロの生涯革命家(政治家)だ。文化大革命の前に中国革命を主導し、今に続く共産党政権(という名の王朝)を樹立した。文革は、晩年の毛沢東の老害的な「あやまち」だ。対照的に、トランプは政治家の経歴が皆無で、昨年の選挙で道場破り的に権力に殴りこみをかけて奪取し、大統領になる初日の就任演説で「司令部を砲撃せよ」という趣旨の言葉を放った。毛沢東は、自分が作った共産党の政府を文革でぶち壊したが、トランプは自分と全く関係なく70年前から存在してきた軍産支配の米国の単独覇権政府をぶち壊すために大統領になった。2人の経緯はかなり違う。類似点は、自分が持っている権威・権力を利用して、自分がいる政府の破壊を、政府(中国は共産党、米国は軍産)支配下のマスコミを迂回する宣伝ツールを使って人々に呼びかけた点だ。 (As Trump stresses 'America First', China plays the world leader

 トランプが使い続けているツイッターは、もともとイランなど中東の独裁政権を倒す民主化運動(市民革命、中東の春)の道具として、米イスラエル諜報機関の肝いりで作られたと言われる。それが今や米国の軍産独裁政権を倒すトランプ革命の道具になっているのが皮肉(諜報用語でブローバック)だ。もうひとつ、毛沢東が死んで文革が終わった後、中国は「資本主義傾注者(走資派)」のトウ小平によって自由貿易を信奉する国になり、今やトランプによって米国が放棄した自由貿易の世界的主導役(経済覇権)を、中国が引き受ける展開になっているのもブローバックだ。その意味で、毛沢東とトランプは「革命の同志」である(ふたりは「奔放さ」や「女好き」な点でも同志だ)。 ('China Will Expand Influence': TPP Countries Look for Post-US Trade Deal

 中国政府は、国内のマスコミが、トランプの就任式を実況中継したり、自由に取材して番組や記事を流すことを禁じた。新華社が作った記事や映像を流すことしか許さなかった。この理由は明白だ。「司令部を砲撃せよ」という毛沢東の文革発動を想起させるトランプの革命的な大統領就任演説が同時通訳つきで中国に実況中継されたら、文革を覚えている中国の紅衛兵世代はピンときてしまう。中国で習近平の独裁強化を嫌う人々は、毛沢東懐古趣味に仮託して抵抗運動をやってきた。当選前から、トランプの奔放な革命姿勢は、中国人にとって気になる存在だった。革命したことのない日本人は気づかないが、トランプの就任演説は危険文書だ。習近平に恐怖や敵愾心を感じさせている点でも、毛沢東とトランプは同志だ。 (China steps up censorship for Trump inauguration

▼毛沢東は中国を壊し、トランプは米国を壊す

 毛沢東の文革は、中国を経済的、政治的、社会的に破壊し、後進国にした。トランプの革命も、米国を経済的、政治的(覇権的)、社会的に破壊する可能性がかなりある。ブッシュとオバマ時代の16年間の米国は、軍産複合体(軍、諜報機関、マスコミ、政界などの連合体)がアルカイダやISISといったイスラムなテロ組織と戦うふりをして実はテロ組織を涵養支援し続け、米国がテロ戦争の名目で恒久的に中東など世界に軍事駐留し、気に入らない政権を武力や政治介入(民主化運動の扇動)で転覆してますますテロを増やし、米国内的にも軍産複合体がテロ戦争の名目で権力を握り続ける軍産独裁の体制を敷いてきた。トランプ革命の前向きな点は、こうした米国の軍産支配を破壊しようとしていることだ。だがその際に、米国の政治経済の体制や、米国中心の国際体制(覇権体制)ごと破壊されてしまうことがあり得る。それは、米国と世界の経済危機や政治混乱につながる。 (The Trump Doctrine) (米国を覇権国からふつうの国に戻すトランプ

 トランプ革命が成功すると、世界を軍事的に不安定化させて支配し続けようとする軍産複合体がいなくなるので、世界は今よりかなり安定する(革命中は暗闘で逆に激動する)。米国が単独覇権国であり続けると、いったんテロ戦争の構図を潰しても、またその後何らかの形で軍産支配が復活しかねないので、トランプは米国の単独覇権構造を破壊すると同時に、覇権を中国やロシアなどに分散移譲(押し付け)して、世界の覇権構造を恒久的に多極型に転換しようとしている。 (米欧同盟を内側から壊す) (Trump, Merkel agree NATO members must pay fair share

 トランプは、政権の上層部に何人も軍人を入れており、それだけ見ると軍産支配を壊す人に見えない。だが、トランプは、ロシアと協調してやると言っているシリアでのテロ退治の詳細を、国防総省に全く伝えていない。軍産系とおぼしきマティス国防長官に、トランプがどれだけ権限をわたしているか大きな疑問だ。トランプはマティスを、軍産に対する「目くらまし」として国防長官に据えた可能性がある。マティスが間もなく日韓を訪問するからといって、トランプが日韓との同盟関係を大事にしているとは言い切れない。トランプが軍事費の急拡大をうたっているのも軍産敵視と矛盾する。だがこれも、軍産の傀儡議員ばかりである議会の共和党がトランプに反旗を翻さないようにするための短期的な贈賄行為に見える。 (Tensions Rising Between Trump Team, Mattis Over Appointments

 トランプは、軍事費を増やすと宣言する一方で、共和党(ブッシュドクトリン)的な軍事による強制民主化(政権転覆)も、オバマ政権時代にエジプトやウクライナで行われた民主党的な民主化運動の扇動による政権転覆もやらない、自国にとって明確な脅威がない限り、外国に対するあらゆる形の介入をしないと、英国のメイ首相が訪米した時に宣言している。外国に軍事介入しないなら、そんなに軍事費は要らない。 (Why US giving up on policy of direct military interventions

 トランプは「どんどん軍艦を建造してやるからな」と海軍に言っているが、海軍は「そんなに要りません。それより当座の修理費や修理設備が足りません」と返答している。トランプの軍事費増加の宣言は頓珍漢であり、きちんと履行されるかどうかわからない。米議会は最近、超党派で、無駄な米軍基地を縮小する検討を再開すると言い出している。米軍が拡大縮小どちらの方向なのか不透明だ。 (Trump Signs Order for `Great Rebuilding' of US Military) (Trump wants a bigger Navy — but the Navy wants its fleet fixed first) (Top Dem plans to reintroduce base closure plan

 トランプは「エリート支配を壊す」と言いながら、エリートの象徴であるゴールドマンサックス出身のムニューチンを財務長官にしている。閣僚に大金持ちが多い。トランプは、金融バブルの膨張を抑止するドッドフランク条項を大幅縮小するともいっている。いずれも大金持ち優遇策だ。だがこれらも、当座の金融バブルの崩壊を先送りして政権維持や再選を狙う現実策の可能性がある。トランプの経済政策は、経済ナショナリズムに名を借りた「覇権放棄」で、長期的に、軍産金融のエリート層が米国の覇権を使って金儲けや世界支配を続けてきた体制を壊す。それを実現する前に、金融危機が再燃したり、共和党が反トランプで固まってしまわないよう、目先の軍拡や金融バブル維持をやっている感じだ(不確定だが)。 (The Next Repeal And Replace: Dodd-Frank

▼無意識に軍産の傀儡にされるリベラル派

 毛沢東の文化大革命が、中国の伝統文化を破壊したように、トランプの革命には、米国の伝統文化であるリベラルな社会風土を破壊しようとしている観がある。大統領選挙で、民主党のクリントン陣営がリベラル主義に立脚し、イスラム教徒やメキシコ系など移民への寛容さ、リベラルなマスコミへの支持、西欧など「リベラル自由主義体制」の同盟諸国やNATOとの関係維持、ロシアなど権威主義諸国への敵視維持を掲げたのと対照的に、トランプは、反リベラル的な、イスラム教徒移民=テロリスト予備軍、メキシコ系移民=米国民の雇用を奪う人々、リベラルマスコミ敵視、同盟諸国=防衛にカネを出さない奴ら、ロシア=テロ戦争での味方、自由貿易=国益毀損、反リベラルな欧州極右への隠然支持などの姿勢をとっていた。

 こうしたトランプの反リベラル姿勢は選挙終了とともに終わると思いきや、大統領就任後も全く変わらず、トランプはむしろ全速力で反リベラル政策を進めている。マスコミとの対決も続き、トランプはマスコミ迂回ツールであるツイッターでの発信をやめていない。トランプがリベラル敵視を続けるのは、リベラル派が中東民主化(政権転覆)や環境保護(米国内のエネルギー開発を禁止させ、米国が中東などの石油ガスに頼らざるを得ないようにして、米軍の世界支配を正当化する)などの点で、軍産複合体の無意識の傀儡になってしまっているからだろう。

 1月27日には、シリア、イラン、イラク、イエメン、リビア、スーダン、ソマリアという中東イスラム世界の7カ国からの移民難民の米国への渡航を暫定的に禁じる大統領令を出し、米国の空港などが混乱した。米国のリベラル運動家が人権擁護、難民保護の観点からトランプを非難する政治運動を強めている。 (Donald Trump’s Immigration Ban Sows Chaos

 7カ国にテロリストが多いのは事実だ。もともと7カ国を列挙したのはオバマ政権だった。冷戦末期から、米軍やCIAがイスラム世界から観光客や移民のふりをして渡米したテロリストに軍事や諜報の訓練をほどこして本国に返す形で「テロ支援」していたのも事実だ。トランプのやり方は性急すぎると報じられているが、この政策はトランプが選挙前から言っていたことでもある。米国の権威ある世論調査の一つであるキニピアック大学の調査によると、トランプの7か国民に対する暫定入国禁止令に対し、米国民の米国民の48%が賛成し、42%が反対している。マスコミは、米国民の大多数が反対しているかのような印象を報じているが、実のところ賛成論の方が多い。 (Poll: Nearly Half of America Voters Support Trump's Immigration Order

 思い返すと、こうした傾向や現象は、選挙戦の時から変わっていない。トランプが、テロ対策としてイスラム世界からの移民を規制せよとか、メキシコから出稼ぎにくる違法移民が米国民の雇用を奪っているので取り締まれと主張するたびに、マスコミやクリントン支持者が差別だと非難し、トランプの劣勢が加速したと報じられたが、実のところトランプを支持は減らず、リベラルかつ軍産傀儡のマスコミが歪曲報道しているだけだった。

 トランプは、リベラル派の怒りを意図的に扇動している感じがある。リベラル派が怒るほど、非・反リベラルな人々がトランプを支持する傾向になり、国論が分裂するほどトランプが有利になる。今のところ騒いでいるのは反トランプなリベラル派が多く、トランプ支持の右派はあまり街頭行動などをしていないが、これはトランプが権力を握って今のところ優勢だからだろう。今後、軍産マスコミやリベラル派との対立でトランプが劣勢になると、草の根右派がトランプ支持の街頭行動を強めるだろう。

 移民に寛容な国策は、長らく米国の基盤だった。移民がもたらす才能が、米国の発展の原動力の一つだった。それを考えると、トランプの移民制限は、米国の覇権力を低下させる策とも考えられる。トランプは、最終的に米国が経済政治的に破綻して覇権力が低下することを容認(誘導)しているふしもある。ブッシュ政権も、イラク侵攻で米国の覇権力をなかば意図的に低下させており、この傾向は近年の共和党政権に一貫している。

 トランプは、就任から10日しか経っていないのに、前代未聞な大統領令を毎日発している。その多くは覇権放棄的な策か、覇権放棄策を自分の与党の共和党の議員たちに飲ませるための賄賂的な策だ(それぞれの策の分析は改めて書く。どんどん事態が進展するので解読が追いつかない。文革との比較などという悠長なことから書き出して時間を無駄にしたと、書きながら後悔している)。共和党を賄賂策で抱き込んでいるので、トランプはかなり強い。

 軍産側が反撃してくる前に、できるだけ多くの覇権破壊的な大統領令を矢継ぎ早に出してしまおうと、トランプは全力で急いでいる。大統領令の多くは、国務省や国防総省、司法省など現業官庁に相談せずに発令されている。トランプの大統領令は、実体的な政策というよりも、就任演説の延長にある「大統領宣言」だ。具体策を欠いているが、世界に対し、米国が覇権を放棄するのなら対策をとらざるを得ないと思わせる効果がある。日本のように対米従属しか策がない国は、トランプが引き起こす嵐が去るのを待つしかないが、自立的な国家戦略を持ちうる国(欧州、BRICSなど)や、米国以外の頼る大国がある国(中国依存の選択肢がある東南アジア、ロシアに頼る選択肢がある中東諸国など)は、トランプが覇権放棄の宣言を繰り返すほど、米国から離れていく。トランプが覇権放棄の大統領令を出すほど、世界は多極化していく。

 覇権放棄策を大急ぎで連発するトランプをなんとか無力化しようと、軍産複合体の側は、トランプを不利にする報道を展開したり、傀儡と化したリベラル派の大衆運動に反トランプの街頭行動を激化させたりしている。トランプ敵視の政治運動の黒幕である大金持ちのジョージソロスらは、米国で政権転覆のカラー革命を起こそうとしている。エジプトやリビアやウクライナの政権を転覆した、米民主党(ネオリベラル)系の扇動策を、米国でもやろうとしている。 (Ex-WSJ Reporter Finds George Soros Has Ties To More Than 50 "Partners" Of The Women’s March

 最初がトランプ就任式の女性たちの50万人集会だったので、トランプ政権転覆の革命は「ピンク革命」と名付けられている。あの女性集会の首謀者の多く(56人)が、ジョージソロスとつながりがある。軍産は、軍産リベラル女性複合体になっている。「女性好き」のトランプが手がける反リベラル文化大革命を潰すのが、リベラル革命的な女性たち、というのもブローバックだ。 (Is a Pink Revolution beginning in America?



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