他の記事を読む

北朝鮮を扇動する米国

2013年4月3日   田中 宇

 北朝鮮をめぐる緊張状態が高まっている。米国は、北朝鮮の国境付近で韓国と合同軍事演習をやり、米軍は演習の一環として、核兵器を搭載可能なB2ステルス爆撃機を北朝鮮の国境すれすれに飛ばし、北朝鮮に対するこれまでにないほどの挑発行為を行った。 (US Sends Nuclear-Capable B-2 Stealth Bombers to Intimidate North Korea

 ロシアはめずらしく、北朝鮮を挑発する米国に対して「統制不能になって戦争が起きる可能性がある」と警告を発した。米国は毎年、北朝鮮のすぐ近くで韓国と軍事演習をやっているが、ロシアが警告を発するのは異例だ。 (Russia warns against military activity near North Korea) (Russia warns against Korea escalation

 北朝鮮は、寧辺の核施設を再稼働すると表明したり、韓国とのホットラインを全部切断したり、韓国との停戦協定の破棄して戦争状態を宣言したりしたとされる。 (North Korea Cuts Off the Remaining Military Hot Lines With South Korea

 とはいえ、北朝鮮が停戦を破棄して戦争状態を宣言したというのは、過剰報道だ。北朝鮮側が「敵が攻めてきたら、有事の法律にのっとって団結する」と発表したのを、戦争の宣言と誤訳して報道されたものだ。 (North Korean "state of war" declaration is a faulty translation and NOT official policy statement from Kim Jung Un

 米国の国防総省や韓国政府は、北朝鮮の言動として目新しい動きはないと言っている。報道を見ると、北朝鮮をめぐって今にも戦争が起こりそうな感じを受けるが、実のところそうでなく、むしろ米国の側が挑発しているのと、マスコミが喧伝している結果、一触即発の感じが醸し出されている。 (North Korea's Threatening Rhetoric Nothing New) (Taking North Korean threats seriously

 米国は以前から北朝鮮を挑発してきたのであり、今回の件はめずらしいことでない、という見方もできる。だが今回は、従来よりはっきりしたかたちで米英マスコミが一触即発観を醸し出しているし、ステルス機の飛来など、米国が危機を扇動している感じが強い。

 米国が今のタイミングで北朝鮮を挑発したことに理由があるとしたら、考えられることの一つは、韓国で朴槿恵政権ができて、南北対話が始まる可能性があるので、それを潰すという軍産複合体的な理由だ。もう一つ指摘されているのは、米国が北との敵対を扇動するのが中国包囲網の一環という点だ。しかし実際のところ、米国が北との敵対を扇動すると、中国とロシアの結束が強まり、中国包囲網が機能しにくくなる。 ('US targeting NK to besiege China'

 中国は習近平政権になり、習近平は就任早々ロシアを訪問した。米国が北朝鮮を挑発して緊張が高まったのは、習近平が訪露したのと同じタイミングだ。中露は、結束して北朝鮮やイラン、シリアの問題を解決する方針を決めている。習近平訪露の直後には、南アフリカでBRICSサミットも開かれ、米国がやり散らかして混乱している国際問題をBRICS主導で解決していくことが提案されている。 (Putin Says BRICS Should Focus on Key World Issues

 北朝鮮問題は以前、米国が北朝鮮と和解する代わりに北朝鮮が核廃絶し、在韓米軍が撤退するシナリオだったが、このシナリオは01年にブッシュ政権になるとともに破棄されている。次に出てきたのが、米国が中国に6カ国協議をやらせ、中国の傘下で北朝鮮問題を解決していくことだったが、これも途中で頓挫している。

 しかし今回、国連が、北朝鮮と交渉せざるを得ないと言い出している。このことと、国連との連携が強いBRICSが、米国がやり散らかして失敗している国際問題に取り組む姿勢を強めていること、BRICSの中心が中国であることを合わせて考えると、北朝鮮問題の解決に向けた新たな枠組みが立ち上がっていく可能性がある。北朝鮮に対する米国の今回の挑発は、そうした可能性が出てくるのと同じタイミングで行われている。 (Calling Kim's Bluff



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ