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自滅的にふさがれるNATOのアフガン補給路

2011年11月30日   田中 宇

 11月26日、アフガニスタン駐留米軍の戦闘機とヘリコプターが、パキスタンに越境侵攻し、国境からパキスタン側に2・5キロ入った山の頂上にあるパキスタン軍の基地を2時間にわたって空爆した。パキスタン軍の兵士24人を殺した。 (One Attack, Many Versions: US and Pakistan Differ on Deadly Air Raid

 事件が起きたのは、パキスタン側からアフガン側に越境して米軍を攻撃するタリバンなどゲリラが隠れている地域で、米軍側は「ゲリラの拠点と思って空爆した」「だが撃ってきたのは相手の方だ」と言っている。しかし、そこがゲリラの拠点でなくパキスタン軍の基地であることは、以前から米軍に通告されていた。そもそもゲリラは山間の谷に隠れるもので、目立つ山の頂上に拠点を作ることはありえない。その夜は晴れていて見通しが良く、誤爆の可能性は低かった。パキスタン軍の兵士は就寝していた。空爆に驚いたパキスタン軍は、米軍側に攻撃をやめるよう、何度も連絡した。しかし無視され、空爆は2時間も続いた。 (Pakistan: US Attack on Base Lasted `Almost Two Hours' as Calls to Stop Were Ignored

 これは誤爆でなく、米軍はパキスタン軍の基地と知りつつ、故意に空爆していた可能性が高い。パキスタン政府は激怒し、米国との関係を見直さざるを得ないと発表した。アフガニスタンに駐留するNATO軍は、物資の8割をパキスタンからカイバル峠経由で搬入しているが、パキスタン政府は、米国が謝罪しない限り、この搬入ルートの利用をNATOに禁じることを決め、トラックを足止めした。米政府は謝罪せず、むしろカイバル峠経由のルートの利用を中止することを検討している。 (US may abandon Pakistan supply routes

 米議会では謝罪どころか、パキスタンの方が悪いんだという考え方が強い。反米ゲリラをひそかに支援しているパキスタン軍への制裁としてちょうど良かったという意見すら出ている。米議会では、パキスタンと縁を切り、米軍のアフガン駐留もやめて撤退すべきだという意見も出た。 (NATO vs Pakistan) (US to investigate deadly NATO airstrike

 なぜ米軍が故意的にパキスタン軍の基地を空爆したか不明だが、これによってカイバル峠の補給路が断たれると、アフガン駐留NATO軍の地上補給路は、北方のロシア方面だけとなる。しかし興味深いことに、ロシア側のルートも、閉鎖の危険性が出てきている。米政府はルーマニアなど東欧に、地対空迎撃ミサイル防衛システムの配備を進めている。これは表向きイランからのミサイルを迎撃するものとされているが、イランから米国に向かうミサイルは東欧を通らないので、イランでなくロシアを標的にしたものだろうと考えられている。 (Russia Elevates Warning About U.S. Missile-Defense Plan in Europe

 ロシア政府は、東欧へのミサイル防衛システム配備をやめるよう米政府に求め、11月上旬にハワイで開かれたAPECサミットでの米露首脳会談は、この件が大きなテーマだったが、話は平行線に終わった。配備計画を進める米国に対し、ロシア政府は、このままだとNATOが物資をロシア経由でアフガンに運ぶことを阻止するぞと言い出している。米政府はこのままだと、ロシアに対し何らかの譲歩をするか、アフガンの地上補給路をすべて失うかの選択を迫られる。 (Russia Threatens To Cut Off NATO Afghanistan Transit

 米国はここ1−2年、パキスタンとの関係が悪化し続け、関係改善の見通しがない。米国は、パキスタン政府がイスラム主義を弾圧しないと非難し、嫌がらせをしてパキスタン人を激怒させ、ますます反米イスラム主義を勃興させる愚策を繰り返している。その一方で米国は、対露協調を重視すると言いつつ、ミサイル防衛問題などでロシアを怒らせ、アフガンへの2つの補給路を両方とも自分から危機に陥れている。

 米軍のアフガン駐留は2014年までの予定になっている。だが実際のところ、来年にはアフガン東部からかなりの数の米海兵隊が撤退する予定だ。海兵隊の多くは、予定より2年も早くアフガンから撤退することになる。来年は米大統領選挙があるので、米政界でアフガンからの前倒し撤退がさらに語られ、アフガンへの補給路も重視しなくて良いという風潮が強まりそうだ。米軍がアフガン撤退していくと、欧州勢も出て行き、同時にEUは軍事統合を進め、NATOはしだいに解体に向かうだろう。 (U.S. Marines to wind down Afghan combat in 2012

 米国は、パキスタンとの関係をないがしろにする傾向を強め、アフガンやパキスタンでは、米国が放棄するほど、中国やロシア、イランの影響力が強まり、米国の影響力が縮小し、多極化の傾向が進むだろう。

 常識的に考えると、アフガンやパキスタンに巨額の資金や人力をつぎ込んで影響力を確保してきた米国が、みすみす自滅的にこの地域から出て行くことには疑問が多い。しかし現実を見ると、01年のアフガン侵攻以来、この地域に対する米国のやり方は、未必の故意的に下手糞で、失敗して当然の流れになっている。最近まで「ありえない」と思われてきた米軍のイラク撤退も、今年末に迫る現実となった。来年、米軍の主力がアフガンから出て行くことも、意外なことでなくなりつつある。



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