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福島原発事故はいつ終息するか

2011年4月14日   田中 宇

 私の専門分野は政治経済の国際情勢の分析で、今回の大震災と原発事故によって、世界の中で日本が占める位置がどう変わるかという問題は、私が考えるべきことの一つである。これを考える場合に不可避なのが、福島第1原発の事故がいつまでどのように続くのかを予測することだ。最大の問題は、福島原発がいつまで強い放射性物質(放射能)を出し続けるかである。

 放射性物質の漏洩が間もなく減って二度と増えないなら、原発周辺の人々が帰郷でき、日本は震災後の復興期に入り、経済が早目に復活する。反対に、漏洩がいつまでも続いたり、最悪の場合には原子炉が再び高温化など不安定になり、放射線量が増える事態が再発するなら、避難している人々は戻れず、日本の経済難は長引き、外国人の多くは日本に戻って来ず、多国籍企業は日本で製造していた部品の工場などを他の国々に移転せざるを得なくなる。いったん他国に転出した製造業を日本に戻すのは難しい。

 福島第1原発は、炉心(圧力容器)に残っている燃料を冷却する工程が続いている。事故を起こしていない通常の原発では、炉心と冷却装置(復水器)の間のパイプで水を循環させ続け、原子炉の運転を止めて(燃料棒の隙間に制御棒を入れて核分裂を止めて)から1週間程度で炉内の水温が100度以下となり、燃料棒を使用済み燃料プールに移し、さらに2年ほど水を循環して冷却を続けた後、燃料を再処理工場に送る。

 しかし福島の1−3号機では、2つの点で、この通常の冷却方法が採れない。一つは炉心と復水器をつなぐパイプの水を回すポンプが大震災と大津波以来止まったままで、ポンプや復水器がある建屋が床上まで高濃度に放射能汚染された水がたまっていることだ。床上の汚染水を抜いて放射線を減らし、ポンプや復水器の調子を確かめないと水を循環できない。もう一つの問題は、震災後の水素爆発などで炉心(圧力容器)に亀裂(穴?)が開いており、たとえポンプで水を循環できても、炉心の亀裂から水が漏れていき、完全な循環にならないことだ。2号機と3号機では、圧力容器の外の格納容器にも破損があるため、循環できず漏れた水が、炉心の高濃度の放射性物質を含んだまま、外部に流出してしまう。

 圧力容器と格納容器のどこが破損しているか確認し、破損を修理できれば、放射性物質を漏らさず冷却水を循環できるが、2つの容器の周辺は放射能が非常に高く、接近すらできない。格納容器の外側の建屋も爆発で破損しているので、ロボットを入れることも難しそうだ。福島事故の先例ともいうべき1979年の米国スリーマイル島原発事故では、事故後、放射線がかなり減った1年半後に、ようやく建屋に作業員が入れた。圧力容器の中にカメラを吊り下げて入れ、炉内の破損箇所を調べることができたのは、放射線量がさらに減った3年半後になってからだった。 (Three Mile Island accident From Wikipedia

▼とりあえずの封じ込め態勢づくりに数カ月

 福島は2号機と3号機の圧力容器の底が抜けている可能性が高く、圧力容器にさほどの損傷がなかったスリーマイルより炉心溶融の状況が悪そうだが、仮にスリーマイルと同様だとしても、格納容器や圧力容器の破損個所を特定するまでには、燃料棒の冷却期間として2−3年かかることになる。この2−3年の間、炉心への注水(もしくは、漏洩しつつ一部の水を循環させること)を続ける必要があり、この間ずっと格納容器から高濃度に放射能汚染された水が漏れ続ける。

 破損が修理できなくても、何らかの方法で破損個所が特定できれば、そこから漏れ出た汚染水がどこに流れていくかを突き止め、海や建屋外に流出させず、貯水槽へと水を導いて貯水し、それが満杯になる前に別の貯水槽に移したり、汚染水の再処理を行えれば、放射性物質の大気中や海中、地下水脈への放出を最小限に食い止めることができる。しかし今のところ、まだ格納容器の破損個所が特定されたという発表はない。

 加えて、炉心に残っている核燃料がどんな状態にあるかわかっていないので、冷却にどのくらいの年月がかかるか特定しにくい。燃料棒が溶融し、圧力容器の底にたまっている、または圧力容器の底を抜けて格納容器の床にたまっている燃料が多い場合、そのたまり方によっては、水にさらし続けても冷えにくい。細長い燃料棒が立ち並ぶ通常の状態で残っている部分が多ければ、その間を冷却水が通り抜けて冷却が進むが、溶け落ちて半球状や箱形に固まっていたりすると、水と接している表面は冷やされるが、内側はなかなか冷えない。1−3号機の炉内の燃料がどんな状態になっているかがわかるのは、炉内の冷却がかなり進んでからだ。

 問題は炉心だけでなく、1−4号機のすべてにある使用済み核燃料プールにもある。プールは、炉心の上部から燃料棒を取り出して平行移動してプールに漬けられるよう、原子炉建屋の高い位置にある。プールは、震災とその後の水素爆発を受け、亀裂が入って底から放射能汚染された水が漏れている可能性がある。水が漏れているかどうか、漏れた水がどのような経路で流出しているか、建屋に入って調べないとわからない。人が建屋に入れる水準まで放射線が減るには何年もかかる。

 炉心と燃料プールの汚染水の漏洩箇所や流出経路が特定できなくても、対症療法で、建屋の外の地上と地下に流出しているすべての汚染水を、できるだけ流出源に近い場所で吸い上げて貯水槽に集め、あふれないように移したり処理したりして管理できれば、とりあえず放射性物質の放出量を減らせる。政府は4月初め、放射性物質の放出を止めるまでの期間について、数カ月が一つの目標になると表明したが、この目標とは、炉心や燃料プールに注水して漏洩した汚染水の多くを水槽に回収して管理する、とりあえずの放射能放出の抑止態勢を作ることを指しているのだろう。

 漏洩箇所を特定してふさぐ根本的な策は、数カ月でなく数年がかりになるし、それができる時には、すでに放射線量はかなり下がっている。また、数カ月というのは目標でしかなく、見つけた汚染水をすべて回収しているのに放出される放射性物質が減らず、どこからかまだ流出しているとしか考えられない状況が続いたりすると、もっと長引く。放出量が減った段階で、避難や屋内退避の指示が解除されるのだろう。不確定要素が多いが、それまで数カ月から1年というところか。

 放射性物質のとりあえずの封じ込め態勢を作った後、燃料が発する余熱が減るまで、炉心の冷却を3−5年続けねばならない。燃料の溶融が激しく、内側が冷えにくい半球状や箱形に固まっていると、冷却に10年かかるなどということもあるかもしれない。燃料がかなり冷えた後、原子炉の解体作業に入り、5年かそれ以上かけて廃炉作業が続き、今から10−20年後に、事故の後処理にめどがつく。

 こうした予測される今後の日程と、経済の状況とを重ね合わせると、一つ言えそうなことは、とりあえずの放射能封じ込め態勢が作られ、避難指示が解除されていく課程で、人々の注目点が原発事故から大震災の復興へと移り、今は原発事故を忌避して日本に寄りつかない世界の資金が、再び日本へと集まってきて、円安傾向が円高傾向へと転換するのではないかということだ。

 世界経済は、米連銀が量的緩和策(QE2)による米国債買い支えを終わらせていきそうな過程にあり、すでにドルに対する信頼が揺らぎ、ドルはユーロや豪ドルに対して下げている。ユーロ圏はポルトガルなどの国債危機でリスクが高い状態だが、ドルのリスクはもっと高いということだ。原発事故が一段落した感じを日本が世界に発すると、それを機に円安が円高に転換しかねない。

 経産省の傘下で、最近まで悪い情報を言いたがらない傾向が強かった原子力安全・保安院が、ここにきて以前より素直に悪い状況を認める発表をするようになっているのは、原発事故の重大さを認めて世界に発信することで、円安状態を続けて日本の輸出産業を守ろうとする経産省の思惑が背景にあるのではないかと考えたくなる。

▼「レベル7」の衝撃

 ここまでは、4月12日に書いたことだ。この後、福島第1以外の日本の原発がどうなるか、他の原発が廃炉になる傾向が強まるかどうかの考察に時間をとられているうちに、4月12日から13日にかけて、事態が劇的に変化した。激変したのは、福島原発の現地の状況でなく、東京の政治の状況である。それは4月12日に、政府が福島の事故についての国際評価尺度を「5」から、最悪の「7」へと、2段階も引き上げて「チェルノブイリ並み」にしたことである。日本政府は、事故の重大さを小さめに見積もろうとするそれまでの態度から、重大さを大きめに見積もろうとする態度へと豹変した。

 レベル「7」が福島事故の評価として「適切」と考える人が多いかもしれない。「適切」なのだから「豹変」でもかまわない、過小評価を改めて適切な評価に引き上げたのだから良いでないか、という見方もできる。しかし私のように、政治を分析しようとする者から見ると、この豹変は、きな臭いものを感じる。

 4月13日には、菅直人首相と松本健一内閣官房参与との会合で、福島原発から30キロ圏内の地域は「当面住めない。10年か、20年か」という話が出たと報じられた。この発言は、菅首相でなく松本氏が発したもので、素人の個人的な思いつきなのか、それとも政府方針の一部であるのか判然としない。もし政府が今後10−20年間、避難指示を解除しないつもりなら、それは放射線量が確定的に下がるまでの期間を意味すると考えられる。

 だが、今回の記事でも書いたように、当局と東電が今やっている汚染水の封じ込め作業がうまくいけば、数カ月後をめどに原発が放出する放射線量を減らすことができ、避難している人々が帰宅できるようになる。スリーマイル事故では、半年後にゼオライトを使った汚染吸着装置が完成している。今回も、宮城県のゼオライトを使った浄化装置の開発が始まっている。

 事故を起こした原発は非常に不安定なので、人的ミスや再度の大地震など不測の事故が起これば、再び放射線量が激増するかもしれないが、それが起きる可能性があるのでずっと帰宅禁止の政策を政府がとり続けると考えることは無理がある。汚染水の流出経路が判定できず、1年経っても封じ込めがうまくいかないかもしれないが、うまくいくかどうか、今の時点でわからないのだから、今の時点で、事故原発の周辺に10年も20年も住めないと確定的に言うことはできないはずだ。

 レベル7への引き上げにしても、20年住めない論にしても、政府がここ2日間に発した情報には、おかしなところがある。レベル7の引き上げについては、そのおかしさの源泉が私なりに解析できてきたので、次回に書くつもりだが、その前に今回は、福島第1以外の原発がどうなるかについて、私がすでに行った分析を書いておきたい。

▼浜岡と柏崎刈羽が廃炉の俎上に?

 今回の事故では、多くの「想定外」の事態が起きている。ありえないはずの全電源喪失が起こり、破れないはずの原発の「5重の壁」のすべてが、少なくとも2号機と3号機で破れてしまった。今回のような巨大な震災や津波が二度と日本で起きないかといえば、決してそうではない。今回の大震災によって日本近海の断層のゆがみが拡大し、いずれ余震ではなく、東日本大震災と同規模の大きな地震が再発する懸念があると、日米の研究者が警告している。 (Scientists warn of years of aftershocks in Japan, and risks on other faults

 紀伊半島沖から静岡県沖にかけての海域で、2025年ぐらいまでの間に「東南海地震」または「東海地震」が起きる確率が80%以上だという予測も出ている。次の大震災が東海地方で起きた場合、中部電力の浜岡原発が、福島第1のように制御不能になり、浜松市や静岡市の市民が、福島市やいわき市の市民のようなひどい目に遭いかねない。静岡は「第2の福島」になりうる。 (地震活動期に入った日本が原発でいいのか

 今回、福島原発をおそった津波は15メートルの高さだったので、これまで6−7メートルの津波しか想定していなかった浜岡原発の防波堤も15メートルまで耐えられるようにするというが、今後それ以上の高さの津波が来ないとは言い切れない。

 06年の中越地震の際、火災を起こした東京電力の柏崎刈羽原発も、もう一度中越で大きな地震が起きたら、次はもっとひどい福島のような事態になるかもしれない。今回の大震災でも、中越地方で余震が起きている。今まで「あり得ないこと」「想定外」と言って無視していられた原発の大事故が、福島の事故を機に、他の原発でも起きうる話に転換している。浜岡と柏崎刈羽は、福島と同型の沸騰水型軽水炉の原発だ。地震や津波の危険性から考えると、浜岡と柏崎刈羽は、すべての原子炉を廃止していくことが望ましいといえる。

(日本では沸騰水型の他に、関西電力などが加圧水型の軽水炉を使っている。加圧水型は、沸騰水型より格納容器がずっと大きく、格納容器の封じ込め能力が沸騰水型より高いと考えられている。沸騰水型は圧力抑制室を持つことで格納容器を小型にしているが、圧力抑制室が効果を維持する電力が必要で、福島の事故では圧力抑制室も機能不全に陥った)

 大震災後で電力不足が起きている今の時期に、電力不足に拍車をかける原発の追加的な廃止をしない方がよいという考え方があるが、半面、事態は「代わりの電源がない限り、原発を廃止すべきでない」と考える範囲を超えているともいえる。

 福島第1以外の日本の原発を、原子炉の寿命が来る前に廃炉にしていく場合、意志決定のあり方として、市民運動などが強まって「下からの圧力」で政府が廃炉を決定するパターンと、下からの圧力がなくても政府が「上から決定」するパターンがある。

 日本の場合、下からの圧力が顕著に高まりそうな感じは、今のところ大きくない。日本では911事件の前後から対米従属プロパガンダの力が強まったのと歩調を合わせ、原発に反対する言論人の主張をマスコミが載せない傾向が強まった。対米従属派(右翼など)の多くは、原発積極推進の主張だった。大震災後は、日本人お得意の自粛的な言論統制が、戦時中に匹敵するような強さになっている。

(最近、東京などで原発反対のデモが行われ、意外に多くの参加者を集めているようなので、今後、運動の盛り上がりがあるかもしれないが)

 声高な反原発運動の高まりが顕著に起こらなくても「地震が多い我が国は、もう原発を止めた方が良いのではないか」という民意は、非常に強まっている。自民党支持者とおぼしき人が、民主党の議員たちがいかに原発を推進してきたかを批判的に書いている文章も出てきている。反原発の民意にあやかった方が選挙で勝てるという思惑が、政界関係者の間で強くなっていることがうかがえる。

 また福島第1原発について、東京電力が廃炉の対象を1−4号機だけにとどめ、5−6号機はいずれ運転を再開しようと目論んだのに対し、政府(枝野官房長官)は、5−6号機も廃炉にすべきだと明言している。今の日本では、政治家が原発の廃炉を決定することが、民意に支持される政治パフォーマンスになっている。このような傾向の中、上からの決定で、各地の原子炉の新設計画を中止するとか、浜岡原発の残っている比較的古い原子炉(3、4号機)を予定より前倒しして廃炉にするといった政治決定が、今後あるかもしれない。

 福島事故の重大さを「レベル7」に引き上げたことで、日本の原発は全体的に「存亡の危機」の状態が強くなった。私には、レベル7を宣言したことが、日本政府の「脱原発宣言」のようにすら見える。東芝など日本企業が、世界に日本型の原発を売り込むことも、一気に困難になった。レベル7をめぐる分析は、次回に書きたい。



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