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朝鮮半島の緊張は山を越えた?

2010年12月27日   田中 宇

 私は毎日、政治経済に関する何十本かの英文情報を読んでいるのですが、前は読み切れなくて貯まりがちだったのが、最近は読むのがしだいに速くなり、うまくすると情報をその日の午前中のうちに読み込めるようになってきました。ネット上に政治経済の英文情報が多く出るのは、米国時間の夕方から夜、日本時間の朝方なので、午前中に記事を読み終え、昼から配信記事を執筆するようにしています。

 読み込みが速くなったので、長い解説記事まではならない断片的だが重要な出来事について短信記事を書いて配信しようと、かなり前から考えています。ですが私は凝り性のようで、短信のつもりが関連情勢を書き込んでいるうちに長くなり、追加で調べねばならないことも出てきて執筆に時間がかかり、なかなかうまく短く書けません。読み込みが速くなっても、執筆が追いつかず、私なりの独自分析ができるのに記事化できず捨てている出来事が多くなりました。

 そこで次善の策として、ツイッターでの発信を始めました。ツイッターは、イランや中国などで、米英イスラエル側(諜報機関)が政権転覆のツールとして地元の反政府運動の利用を推奨・想定するなど、米英イスラエルの内政干渉と世界支配の道具として使われています。私をけなすリツイートをして専門家ぶる人々もおり、あまり使いたくないツールですが、1発言の上限が140字であるため、凝り性の私であっても凝りたくても凝れず、1本の英文情報だけを元に1つの発言を行える利点があります。関心をひく情報を見つけ、読み込んで発言するまで数分でやれるので速報性があります。 (ツイッター:田中宇の拙速分析

 記事のメール配信は、読者の方から能動的に読みにいくウェブ記事と対照的に、私から読者のメールボックスに記事を送りつけ、読者は届いているものを読む受動的な行為になるので、配信者である私の責任が大きく、できる限り調べて書く必要があります。それで、2時間で仕上げるつもりの短信が、2日がかりの長文解説記事になってしまいます(この文章も2時間のつもりが2日かかっている)。メール配信せず、私のウェブサイトにだけ短信記事を出すことも考えましたが「ウェブに出すならメール配信もしてほしい」という読者からの要望が予想され、ウェブだけの掲載は事実上できません。

 ツイッターの書き込みは「思わずつぶやいてしまった」という体裁なので、発言に対する責任意識が一般のウェブ記事やブログより低い感じです。匿名によるデマやうわさ話的な無責任発言が許される点で、米英イスラエルが市民を煽って行う反米非米諸国での政権転覆(色つき革命)の世論形成策動に適した道具といえます。私も、この低責任性の構造にあやかることにしました。

 とはいえツイッターは誰でも読めます。有料配信の読者には、無料サービスよりも良いものを供給するのが私の希望なので、ツイッターに書いたことを数日ごとにまとめ、よりわかりやすい形の短信記事にして、通常の解説記事とは別に配信することを考えました。今回は、この試みの第1回です。以下、本文です(ですます調終わり)。

▼朝鮮半島の緊張は山を越えた?

 ここ一週間ほどの国際情勢で、日本にとって最も大事なことは、米韓の軍事演習に北朝鮮が挑発されて韓国側を攻撃してくる戦争状態だ。韓国が南北分界線のすぐ南の海域で軍事演習した12月20日に書いた無料配信記事「朝鮮再戦争の瀬戸際」では、韓国が軍事演習したら北が猛反撃し、60年間の停戦状態にある朝鮮戦争が再燃するかもしれないと書いた。だが実際のところ、韓国軍はこの日の午後に軍事演習を挙行したが、北は報復せず「報復に値しない」というコメントを発しただけで終わった。 (朝鮮再戦争の瀬戸際

 北はなぜ反撃しなかったのか疑問に思っていると、12月23日のニューヨーク・タイムスが、北朝鮮が報復しなかったのは中国が北を抑止したからではないかと言っている米高官の話を伝えた。中国が北を抑止してくれるので、米の対中姿勢が軟化していると書いている。 (China's North Korea Shift Helps U.S. Relations

 国連安保理では12月20日の韓国の軍事演習の直前、ロシアの提案で、朝鮮半島の緊張を南北に圧力をかけて緩和するための会議が開かれた。会議では常任理事国の中で、北朝鮮のみを非難する米国と、喧嘩両成敗的な見方をする中露が折り合わず、結論が出なかったと報じられた。だが中国代表は12月21日、会議は有意義だったと述べ、北朝鮮代表も、自国の主張を十分に言えたと満足していた。中露と北朝鮮の側にとって、ある程度満足な状況であることがうかがえる。 (China hails UN Security Council talks on Korea

 12月20日、韓国が軍事演習を挙行して南北間が一触即発の事態になったのと同じ日には、米クリントン政権の北朝鮮担当で北から信頼されているビル・リチャードソン・ニューメキシコ州知事が平壌を訪問し、北朝鮮側から、IAEAの核施設査察を受けても良いという態度を引き出した。中国はこの展開を支持し、朝鮮半島の緊張は峠を越えたとの見方が、この日から出てきた。 (China calls on N Korea to admit inspectors

 韓国軍は12月23日にも南北分界線のすぐ南の海域で「史上最大規模」と称する軍事演習を挙行し、危機を煽ったが、北朝鮮はほとんど反応しなかった。ソウルは分界線のすぐ南にあり、北朝鮮の短距離ミサイルが十分に届く。韓国政府が、北朝鮮を挑発する軍事演習を繰り返すことは、報じられているような北朝鮮に対する抑止力の強化などではなく、自滅行為である。中国が北朝鮮に対する手綱を保持しつつ北を抑止したおかげで、ソウルは火の海にならずにすんだ。 (South Korean Military Prepares for Largest-Ever Live-Fire Drill

 リチャードソンの訪朝は米政府の了解を得て行われたが、米政府は、6カ国協議を再開すべきだというリチャードソンの提案を拒否し、米政府側は、訪朝から帰国したリチャードソンと会うことすらしなかった。米政府は「北朝鮮が好戦的な態度をとる限り6カ国協議の再開に賛成しない」と発表している。 (US troubleshooter backs new N.Korea talks) (White House rejects new talks with North Korea

 韓国軍は完全に米軍の傘下にあるので、米政府は電話一本で韓国に挑発的な軍事演習をやめさせることができた。だが米国はそれもしなかった。韓国中枢では、分界線の近くで軍事演習を繰り返すと北を挑発するので危険だという意見が出たはずだが、演習はその批判を無視して繰り返し挙行された。韓国政府の強気の姿勢は、米政府の容認がなければ生まれないだろう。韓国に危険な軍事演習をやらせているのは米政府だと考えられる。

 北朝鮮のような古いタイプの独裁型の国は、ロシアと同様、挑発されると動物的に激怒して反撃してくる。米国は、北を挑発したら反撃してくると知りつつ、韓国に挑発的な軍事演習をやらせている。朝鮮半島の緊張は、米国が作り出したものだ(同様に40年続いた冷戦も、米国がソ連を挑発し続けて継続させた)。

 その一方で、米国の有力誌は「朝鮮半島が戦争になったら、避難民の保護などの面で、中国軍の助けを借りざるを得ない」という見方をしている。オバマ政権は繰り返し「朝鮮半島の緊張緩和には、中国の協力が不可欠だ」と言っている。日本では「米国は圧倒的な軍事力で、北朝鮮と中国を潰すつもりだ」という、昔の阿弥陀信仰にも似た「神風」的な希望的観測(夢想)が強いが、それは現実と合わない。米国からは多額の投資が韓国に入っており、米国が韓国経済を戦争で自滅させることは考えにくい。 (In Korea, Planning for the Worst: Mass Evacuation

 米国の軍産複合体は、経済的な利得を無視して戦争を誘発しうるので、朝鮮戦争の再燃はまだあり得る。12月27日にも「米国は朝鮮半島で戦争する準備をしている」という報道が出た。だが、すでに何度も書いているように、米国が朝鮮半島を戦争にしたら、中国は他の非米反米諸国と結託し、全力でドルと米国債を潰しにかかり、経済面から米国の覇権を崩壊させようとするだろう。中国が米国を経済面で引き倒すのは、リーマンショック前に比べ、格段に簡単になっている。 (US Mobilized for the Possibility of War on Korean Peninsula

 半島が戦争寸前だというのに、中国は、中朝露3カ国の国境地帯である北朝鮮の羅津地区の港湾や工業を開発すべく、中国・吉林省から羅津まで高速道路や鉄道を建設する協約を北朝鮮と締結したと12月27日に報じられている。北朝鮮のことを最も良く知っている国は中国だ。その中国が北朝鮮の経済開発に資金を出す契約をしたということは、半島は戦争寸前の状態などではないということだ。北の政治体制が崩壊寸前だというのも多分、日米韓側の夢想的な思い込みにすぎない。現実主義の中国は、崩壊寸前の国のインフラ整備に金を出さない。金正日が、妹の金敬姫・張成沢夫妻に経済自由化をやらせ、同夫妻が金正恩体制の主導権を握る流れが、依然として生きている感じだ。 (China Inks Deal with N.Korea on Rajin Development Project) (中国の傘下で生き残る北朝鮮

 韓国も、北と戦争する気が満々と思いきや、実はそうでない。韓国国防相は12月26日、今年末に発表する国防白書の中で、北朝鮮を「主敵」と呼ぶ表現を避けることにしたと表明した。すでに以前に主敵と宣言しているので、あらためて宣言する必要がないとか、主敵の代わりにそれとわかるような強い表現を使うとか釈明しているが、この出来事も、半島での緊張関係が峠を越えた感じを示している。 (S. Korea not to call NK `main enemy' in white paper

 今回はツイッターの自分の発言をまとめて、3つの短信記事を1本にして配信しようと思ったのだが、やはり1本目を書くだけで、かなりの記事分量と2日間の時間がかかってしまいました。これを配信してから残りを書きます。



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