他の記事を読む

ぼやける欧米同盟

2010年12月2日   田中 宇

 詐欺師に騙されるとき、騙される側の人は、後になって「なんであのとき、周りの人の忠告を無視して、あんな裏づけの薄い話を信じてしまったのだろう」と、過去の自分を理解できない状態になることがある。アフガニスタンを占領している米英の諜報機関は今、そんな心境にある。

 アフガニスタンではタリバンが優勢になり、米英(NATO)の軍事的優位は崩れた。もはやNATOは軍事的にアフガンで勝利できないと、欧州各国の高官が断言し始め、米軍司令官自身「アフガン占領は来年、もっと厳しい事態になる」と認めた。米国の世界政策を決める「奥の院」である外交問題評議会(CFR)も「アフガン占領は失敗が確定したので、米国は占領を縮小せねばならない」と報告書に書いている。 (Afghanistan has 'no military solution,' German envoy says) (Mullen Predicts `Very Difficult' 2011 for Afghan War) (Council on Foreign Relations panel advises Obama to scale back Afghan occupation

 軍事的に勝てない以上、タリバンと交渉するしかない。米英の諜報機関は、米傀儡のカルザイ政権とタリバンとを交渉させるべく、タリバンの上層部で、秘密交渉の相手方になってくれそうな幹部を探した。そして今夏、タリバンのナンバー2と呼ばれるミュラー・マンスール(Mullah Akhtar Muhammad Mansour)が、パキスタン側の国境都市クエッタで、ひそかに名乗り出た。米英は、交渉の費用としてマンスールに数十万ドルの現金を渡し、今年7月からNATO軍用機を何度も飛ばし、クエッタからカブールまでマンスールを連れてきて交渉を開始した。 (The curious case of the fake Taliban: Pakistani daily

 マンスールはタリバン側の和解条件を提示し、アフガン政府はそれを了承し、歴史的な和解が妥結するかに見えた。しかし、11月になって問題が発覚した。それは、マンスールが偽物だということだった。マンスールを自称した男は、クエッタの商店で働いている、タリバンの何の権限もない下っ端にすぎず、米英諜報機関は男の詐欺話にまんまと騙されていた。正体がばれる直前、にせのマンスールは、米英からもらった金を持って行方をくらました。 (How MI6 was fooled by Taleban impostor

 米国はタリバンを敵とみなし、米当局がタリバンと接触することを国内法で禁じている。米国のCIAは、タリバンと接触できない。にせのマンスールを見つけたのは、英国のMI6だった。今夏、英国の外交官(MI6)がマンスールをNATO軍機に乗せ、初めてカブールに連れてきて、アフガン政府の高官と対面させた。この後、アフガン高官の一人が「あのマンスールは偽物だ」と英米に指摘した。高官は911前、カブールにタリバン政権があった時代、内務相だった本物のマンスールを知っていた。それで、MI6が連れてきたマンスールが偽物だとすぐ気づいた。 (MI6 blamed for fiasco of phoney Taliban warlord who was paid a fortune

 米国のCIAの中からも、本物のマンスールはもっと背が高いはずだとの指摘が起きた。しかし英米当局の上層部は、これらの指摘を無視した。米英は、にせのマンスールをカルザイ大統領との会談を設定して交渉に入り、ビニール袋入りの巨額資金を渡した。11月になって騙されたとわかった後、米CIAは英MI6に対し「君らが連れてきた人物だから、本物だと信じて疑わなかったんだぞ。君らのせいだ」と非難した。 (Taliban impostor warnings ignored by Afghan leaders, says former spy chief

 タリバンとアフガン政府の交渉は、サウジアラビア外務省も仲裁していた。だがサウジは、米英が偽マンスールに騙されたことが発覚する前後に、仲裁役から抜けると発表した。その時の理由は「タリバンがアルカイダと縁を切らないので、これ以上交渉しても無駄だとわかったから」だった。時期的に見て、サウジが抜けたのは米英が騙されたからというのが真相だろう。国際政治に関する発表ものは「理由」が歪曲されていることが多いが、その好例といえる。 (Saudi Arabia halts Afghan mediation

▼高級詐欺師たちの国際劇

 米英がマンスールに騙された話は、米英がイラクを侵攻する際、亡命イラク人組織が発する根拠の薄い「イラク政府は大量破壊兵器を開発・保有している」という話を、米英諜報機関が事実と信じ込み、開戦の大義として公表してしまった02-03年の話と似ている。当時、CIAなど米英のイラク分析者の間から「イラクの大量破壊兵器は国連(米英)の査察で全部没収され、開戦の大義にならない」という指摘が出たが、ネオコン(隠れ多極主義者)に牛耳られていた米ブッシュ政権は、それらの指摘を一蹴し、分析者は左遷された。開戦後になって「なぜあのとき騙されたのか」という「意志決定時の集団心理の怖さ」みたいな、まことしやかな記事が、米国のマスコミをかざった。

(当時私は、日本外務省の若手エリート3人に「イラクに大量破壊兵器は存在しないよ」と言ったが、嘲笑された。後になって、一番出世しそうなコースの一人は「若気の至りでした」と言って苦笑いしたが、もう一人は外務省を批判する私に対して後になっても逆切れ的に憤慨して見せ、残る一人は「田中さんは結果だけ当たってるけど、背景は間違ってますよ」と得意の「別の説明」をし続けた。3人組で老人宅を訪れる押し売りのような役割分担だ。外交官は東西を問わず、名役者あるいは高級詐欺師であることを求められる)

 イラクの大量破壊兵器の話について私は、ネオコンが米国(米英)の信用を失墜させる、過剰に強硬な隠れ多極主義戦略の一環として、故意に間違った情報を押し通したと考えている。同様に今回のアフガンでの偽マンスール事件も、米国の当局内に「あのマンスールは本物だ」と押し通した高官がいたと推測できる。アフガンでは、英国が、米英覇権やNATOの崩壊を防ぐ目的で、以前からタリバンと交渉したがっていたが、過剰に強硬な米国は、交渉したい英国の動きを妨害し続けてきた。 (アフガンで潰れゆくNATO

 米国は、傀儡であるカルザイ政権と良好な関係を保ちつつ、何とかタリバンとの敵対をゆるめていくしかない。だが実際のところ米国は、タリバンとの敵対を続けるばかりでなく、カルザイを怒らせて米国から離反させることまでやっている。 (カルザイとオバマ

 11月中旬、米政府では、一人の高官が「来年7月にはアフガンから米軍を撤退し始める」と述べた後、別の高官が「2014年まで撤退しない」と述べ、最後にはゲーツ国防長官が「いつ撤退開始するか、直前にならないと決められない」と述べるという、右往左往があった。アフガンの世論はすっかり反米になっており、カルザイは、米軍に早く撤退開始してほしいと言い続けており、米国の不透明さに怒っている。 ('US to stay in Afghanistan until 2014') (U.S. Won't Know Pace Of Afghan Drawdown For Months

 米国防省は11月初め、アフガン駐留米軍の戦闘機などに対する給油事業を、ジブラルタルに本社がある所有者不明の企業(Mina Corp)に発注した。給油事業の利権は従来、アフガン政府とつながりの深い会社に発注されていただけに、利権を失ったアフガン政府の高官たちは怒っている。 (Pentagon awards jet fuel contract to secretive company

 カルザイは11月19日、ポルトガルのリスボンで開かれたNATOサミットに出席し、NATO諸国(欧米)に対し、欧米軍撤退後にアフガン政府軍が自立できるよう大量の武器を支援してほしいと要請した。だが、米国もEUも財政難で十分な金を出せなかった。そのためカルザイは、記者会見で「NATOが支援してくれないなら(中国やロシアなど)他の国々から武器を得るしかない」と、米国の傀儡国の大統領とは思えない発言を放った。これは地政学的な大転換である。 (Karzai: NATO support insufficient

 アフガニスタンは、中国とロシアと中央アジア諸国で構成する上海協力機構にオブザーバー参加している。上海機構は、米主導のNATOのアフガン占領の敗色が濃くなった05年から、南アジアにおける米国の覇権が弱まることを見越して、アフガン周辺のパキスタン、インド、イランに準加盟(オブザーバー参加)を許した(アフガン自体に対しては、カルザイ政権を米国の傀儡とみなし、準加盟を許可しなかった)。これ以来、アフガンの将来展望は、いずれNATOが撤退し、中露やインド、イランによる多極型の安定の構図へと転換することが見えてきた。 (米露逆転のアフガニスタン

 その後、カルザイは中国やロシア、イランとの関係強化に注力している。今回のカルザイの発言は、こうした流れを公式な言葉として、おそらく初めて表したものだ。カルザイは「NATOがアフガンを平和にすることはできない」と断言しており、誤認逮捕や誤爆ばかりの米国のテロ戦争にも賛同しなくなっている。 (Why a forlorn Karzai is breaking with the west By Ahmed Rashid

 NATOのアフガン占領には、パキスタンの支援も不可欠だ。だが米軍は、パキスタンにタリバン越境掃討と称して勝手に侵攻し、パキスタンの政府と世論をも怒らせている。先日、ウィキリークスが米国の250万件の機密外交文書をネット上などで暴露し、大騒ぎになっているが、その中には、パキスタンの世論がオサマ・ビンラディンに好意的なことを批判的に分析する文書があり、この暴露で米パキスタン関係が悪化すると懸念されている。 (Wikileaks's unveiling of cables shows delicate diplomatic balance with Pakistan

 ウィキリークスの外交文書暴露の件は、テーマが広範囲で分析し切れておらず、あらためて書くつもりだ。現時点で私が感じているのは、暴露された文書の内容が、米国と世界各国の関係を悪化させるもので、しかもイラン核問題などでイスラエルに有利を与える歪曲方向を示すものも目立つので、イスラエル右派筋(隠れ多極主義も含む)の諜報部隊が、意図的に流したのではないかということだ。少なくとも、単にセキュリティが甘かっただけの意図せぬ情報漏洩ではない。ビンラディンが生きていることを示す文書も暴露された点も政治臭が漂う。オバマ顧問のブレンジスキーも、政治的に意図されたリークだろうと述べている。 (Wikileaks "Cablegate" Psychological Operation Justifies Zionist War Propaganda) (Zbigniew Brzezinski: Who is Really Leaking to Wikileaks?

▼NATOは反露?親露?

 11月19-20日、NATOの年次総会(サミット)が、ポルトガルのリスボンで開かれた。NATO(北大西洋条約機構)は、欧米の集団安全保障組織(同盟体)であり、米国が欧州を軍事的な傘下に入れるための組織だ。冷戦時代に、ソ連と対峙するための組織として発足したNATOは、ソ連なき冷戦後、存在意義が低下した。従来のNATOが範疇としてきた欧米地域の外にも進出することで「世界の警察官」になる方向性を模索し、911後のアフガン占領が、その戦略実施の第一弾だった。しかし今、アフガン占領の敗色が濃くなり、NATOは新たな戦略を模索しようとサミットで話し合った。 (Nato and the case for defence

 しかし実際には、将来像はほとんど話し合われず、アフガン占領の重荷をいかに軽減するかに議論が集中した。その中心は、NATOが、かつて敵だったロシアとの関係を改善し、ロシアとその傘下の中央アジア諸国や上海機構に、アフガン占領を助けてもらう方向だ。 (Nato and the case for defence

 アフガンのNATO軍は従来、占領遂行に必要な物資をパキスタンからカイバル峠越えで運んでいたが、国境地帯でタリバンの活動が強まり、パキスタンからの搬入路が使えなくなった。そのためNATOは、ロシアから中央アジア経由で物資を運ばざるを得なくなった。NATOはサミットにメドベージェフ露大統領を招待し、アフガン占領について話し合った。米国は、すでにロシア軍をアフガンに呼び込んでおり、10月末には、麻薬取り締まりをテーマに、アフガンで初めての米露合同軍事演習が行われた。 (Russia, US collaborate in Afghan drug raid

 ロシアはNATOサミットで、アフガン占領用のNATOの車両を、ロシアと中央アジア経由でアフガンに運び込むことに同意した。その条件としてロシアは、NATOがロシア周辺の中小国(東欧、バルト、バルカン、コーカサス、ウクライナなど)のロシア敵視を扇動しないよう求めた。NATOとロシアは、折り合いをつけつつある。 (Russia allows NATO vehicles transit) (Russia urges NATO to halt expansion

 とはいえ事態の全体を見ると、欧米とロシアの協調は、そんなに簡単ではない。独仏を筆頭とするEUは、ロシアとの協調を強めたがっている。EUは財政再建のために加盟国の軍事費を減らそうとしており、ロシアとの緊張緩和が不可欠だ。EUでは、911以来の米国の過激な単独覇権主義にうんざりし、EUが自立して米国傘下から脱し、米露と等距離になりたいと考える勢力が強い。ロシアも乗り気で、先日ドイツを訪問したプーチンは「ロシアはいずれユーロに加盟する」「EUとロシアの市場を統合しよう」とぶちあげた。欧露が市場統合すると、日本の隣に、ウラジオストクからリスボンまで東西1万キロの巨大市場ができる。 (Putin: Russia will join the euro one day) (Putin proposes Russia-EU union

 戦後の敗戦国として米国の傀儡色が強かったドイツでは、マスコミなどに反ロシア的な論調も強く、プーチンの提案に「ロシアはEUとの市場統合によって、欧州のエネルギー市場を支配しようとしている」と反発した。プーチンと独メルケル首相は意見が折り合わず、首脳会談は30分しか持たれなかったとも報じられた。 (Putin, Merkel trade barbs ahead of talks in Germany) (Putin receives frosty reception in Germany

 しかし長期的な流れとしては、米国の覇権が弱まるほど、ドイツやEUはロシアと接近していく。これまでNATOの力を借りてロシアと対決していたグルジアのサーカシビリ大統領は先日、EUの欧州議会に招かれて演説し、ロシアとの対立を解消して話し合っていく姿勢を見せた。欧米は従来、ロシアを封じ込めるために好戦的なサーカシビリのロシア敵視策を支持していたが、今のEUは逆に「EUに入りたいならロシアと仲良くしろ」と言ってサーカシビリの好戦性を抑止している感じだ。 (Georgia to Make an Overture to Russia

(余談だが、サーカシビリは最近、米国の仇敵であるイランと仲良くし始め「イランは核の平和利用をする権利がある」と述べたりしている。イランが原油を安く売ってくれるためだ。サーカシビリは、米国の口車に乗せられてロシアと対決して失敗し、国内政治的にも窮した挙げ句、米国に見放されてもイランやロシアに接近する方針に転換した。これも多極化対応、地政学的転換の一つだ) (Georgia backs Iran's nuclear program

▼中間選挙で息を吹き返した米強硬派

 NATO内部で、EUがロシアと協調する姿勢を強めているのと対照的に、米国では、ロシアとの敵対を維持したい勢力が強い。オバマ大統領はロシアとの協調を望み、米露核軍縮(91年に締結された戦略兵器削減条約の延長手続き。START2)を進めたい(START2はすでに調印され、議会上院の批准を待っている。START1は昨年12月に期限切れで失効した)。だが、11月2日の中間選挙で米議会を席巻するに至った共和党など、軍産複合体に近い筋は、軍事費拡大を目標に、ロシアとの敵対を維持し、むしろ米国の核兵器を増やすことを望んでいる。 (G.O.P. Senators Detail Objections to Arms Treaty

 中間選挙の結果は来年1月から米議会に反映され、その後は共和党主導となる議会が、民主党のオバマの言うことを聞かなくなる。だからオバマは今年中にSTART2を上院に批准させたい。だが、民主党内でも軍産複合体から利権の鼻薬をかがされて批准反対に回る上院議員が増え、年内批准は困難だ。全米各州にまんべんなく工場を持つ米防衛産業は、連邦議員にとって雇用確保の切り札であり、邪険にできない。余裕の共和党はオバマに対し「老朽化した米軍の核兵器を向上させ、ミサイル防衛計画を進めて軍事予算を増やすなら、START2批准を考えてもいい」と、軍事費の増加を批准の条件にしている。START推進派は、米露敵対を緩和して米国の軍事費を減らすのが目的なので、共和党の提案は皮肉、冗談、茶番のたぐいである。 (New START Is Worthy, but Let's Not Violate the Constitution to Save It

 共和党の茶番に対し、民主党のオバマも茶番的な国際軍事戦略で切り返している。オバマ政権は、先日のNATOサミットで、欧州を対象に計画されていたミサイル防衛構想(地対空迎撃ミサイル)をロシアにまで拡大することを提案し、了承された。これまでのNATOの欧州ミサイル防衛構想は、表向きイランを敵視したものだったが、実際にはロシアを敵視しており、ロシアの怒りを買っていた。米露の敵対を扇動する米英軍産複合体の策略だった。オバマ政権は、この欧州ミサイル構想に、ロシアも包含してしまうことで、米露の敵対を超越し、軍産複合体の謀略を無効化しようとしている。 (Nato makes defence offer to Russia

 そもそも地対空迎撃によるミサイル防衛は、巨額の金がかかるのに、実際に使い物になるかどうか非常に怪しい。使い物にならないと指摘する米国の専門家が、国防総省から嫌がらせされている。全欧ミサイル防衛も、誰が金を出すのか不明確で、机上の構想のみだ。つまり、米露敵対を扇動するミサイル防衛の空論をふりかざす共和党に対し、オバマは米露協調を進める空論を出して対抗したわけだ。ミサイル防衛の茶番劇は、国際政治のひとつの象徴だ。ミサイル防衛をまじめに議論する(ふりをする)人は「外交官」か「対米従属派の傀儡専門家」か「軍事おたく」か「知ったかぶりしたがる助平おやじ」である。 (米ミサイル防衛システムの茶番劇

 ロシア側も、この手の米国の茶番劇は冷戦時代から慣れており大好きなので、今回も劇に参加している。NATOサミットで、メドベージェフ大統領が「欧露ミサイル防衛はすばらしい構想だ。ロシアが東半分を、欧州が西半分を管理する体制にしたい」と逆提案し、米国のミサイル防衛技術をロシアに管理させろと言って、米国側を苦笑させている。 (Russia makes new proposal to NATO

 米国の軍産複合体は、アフガニスタンでも米露協調を邪魔している。米主導のNATO軍は、タリバンの本拠地であるアフガン南部で苦戦しており、苦肉の策として、タリバンがアフガンの南部から北部に移動する際にヘリコプターを出したりして助ける代わりに、タリバンにNATO軍との戦闘で手加減してもらっている。これによってタリバンは、従来支配が及ばなかったアフガン北部に進出している。北部は従来、ロシアやイランが支援するタジク人やウズベク人など「北部同盟」が支配してきた。NATOが加速したアフガン北部へのタリバン拡大によって、ロシアや中国の影響圏である中央アジアでイスラム主義が強まる動きもある。ロシアは迷惑し、怒っている。 (Russia-led Bloc to NATO: Stop Pushing Afghan Militants North

▼欧州の軍事費削減に怒る米国

 欧州はロシアと協調したいが、米国は協調派と敵対派の内紛が続いて対露戦略が定まらない。そんな中でNATOの将来像をサミットで議論しても、何も決まるはずがない。EUは今のところ軍事的な対米従属をやめていないが、米国は覇権の力が落ちており、欧州が米国の戦略未確定に付き合う意味が低下している。欧米間の同盟体であるNATOは、存在意義があいまいになる傾向を続けている。 (Increasing European-Russian convergence

 EUは金融危機対策で金がかかり、財政難だ。ロシアと対立する必要などないと考えるEUは、兵器の共同開発や共同管理によってEU参加各国の軍事統合を進め、各国の軍事費を減らそうとしている。英仏は軍事産業を統合していく方向を打ち出し、手始めに無人偵察機を共同開発することにした。英米同盟の弱体化を受け、英国は、欧州大陸諸国と同盟を組まない200年の孤高の外交政策を転換している。英国はこの10年、米国の軍産複合体につき合って参戦してきたが、米国は英国に軍事技術を教えてくれず、英国は幻滅している。ドイツは来年、徴兵制を廃止する。デンマークは、バルト海で対露諜報を担当していた潜水艦を退役させる。 (Germany to scrap conscription mid-2011

 米国は、軍事費を削る欧州を「NATOにタダ乗りするな」と非難している。ゲーツ国防長官は「EUが防衛に金をかけないなら、米国はEUを守りたくなくなるぞ」「世界中が安全保障で米国に頼ろうとするのはよくない」と警告した。欧州の軍事産業は、EU各国が軍事費を削る中、儲けを捻出するため、ロシアや中国に兵器を売っている。これがまた米国を怒らせる。 (Uncertain destination of Atlantic journey

 その一方で、米国自身、財政難がひどくなっており、いずれ軍事費を削減しなければならない。米国は、欧州など同盟国が軍事費を出し渋ると「世界に対する責任放棄だ」と怒るくせに、自国が軍事費を削減する時は、おそらく孤立主義と紙一重の単独覇権主義をふりかざし、勝手に削減するだろう。ドイツはNATOサミットを前に、NATOが率先して核兵器を廃止し、世界的な核廃絶につなげることを提唱したが、米国に却下された。米国は、議会主導で核兵器を拡大向上する方向を目指し、欧州の5か所に戦術核兵器を配備する計画を立てている。欧米関係は、すれ違いを増すばかりだ。 (Nato pressed on nuclear disarmament) (US a kid in a NATO candy store

 米国の覇権に代わるものは多極型の世界体制だが、それはなかなか顕在化してこない。欧州は対米従属を続けている。通貨の面でも、ドルの基軸体制が揺らぎつつも続いている。しかし何も起きていないわけではなく、国際政治の外交茶番劇の下で、多くの人が気づかぬまま、潜在的な転換が進んでいる。



この記事を音声化したものがこちらから聞けます



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ