大門小百合の東京日記(3)山辺町からの発信 2001年8月31日 先日、山形県の山辺町(やまのべちょう)という町に行く機会に恵まれた。夫が講演を頼まれたので、私は少し興味本位の同行という感じだろうか。(東京日記のつもりが、範囲が広がってしまいました。すみません!) 東京生まれ、東京育ちの私ははっきり言って地方の状況にうとい。それにしても山辺町って何で有名だったかしら???という疑問がわいたのだが思い当たらない。 山辺町は人口約1万6千人に山形市の隣に位置する緑の田んぼと山に囲まれた小さな町だった。維繊産業の町で手織じゅうたんは皇居や迎賓館など国内主要施設に納品しているというが、最近はやはり衰退気味。地元の人たちの話でも「特にこれといって売り物はないです。夏にはかき氷のイチゴに酢醤油をかけて食べることぐらいかな・・・」といっていた。かき氷に酢醤油?ちょっと風変わりな気がするが、ところてんとイチゴシロップが混ざったような味だろうか。 でも、この町には素敵な人たちがいた。 Taiken堂という会のメンバーだ。この会は山辺町周辺の町からきた有志と山辺町教育委員会の共同主催で、一年を通じて、様々な分野の人を呼び、講演をしてもらう。最近ではタレントの片岡鶴太郎、文芸評論家の加藤典洋、旅行家の蔵前仁一などの講演だけでなく、沖縄出身の音楽家、喜納昌吉とチャンプルーズを呼んで、近くのお寺でライブまでやってしまう。年間9講座でなんと年会費2500円を払えば誰でも聞けるという。託児室も用意されているし、参加者は、山辺町の町民に限定していないのがユニークだ。そのせいもあってか、会場は山辺町の公民館だが、最近では近くの町からこの会を楽しみにはるばるやってくる人が多いそうだ。どうもこの会を見る限りでは、山辺町が山形市をさしおいて、この地域の求心力になっているようだ。講師のラインアップをみてみると、私だってメンバーになりたいくらいだ。 実は夫はこの会に講演を頼まれた。他の講師に比べると知名度はないに等しいし、大丈夫かしらと少し心配したのだが、会場は200人超の満員。 私はというと単なるおまけでは許されない雰囲気で、質疑応答の時には夫と一緒に壇上にあがらせていただいた。演題は「インターネットから世界が見える」というものだったのだが、いやみなさん実に活発に質問されるのである。 中高年の方が比較的多かったせいか、インターネットをやっているという人はまだまだごく少数のようだったが、素朴なインターネットの話から、ペルーのフジモリの話、憲法9条と日米の同盟関係まで、お年寄りから若い方までが、熱心にペンをとり、そして質問をする。 参加者のみでなく、オーガナイザーの方々の熱心さにも感激した。 「この会のオーガナイザーは報酬なんてものはもらっていないんですよ。みんな好きだから仕事の合間に一生懸命やってるんです」とTaiken堂の代表はいう。自治体から補助はもらっているというが、それは講演費や会場代に消えてしまうそうだ。加えて、年会費で何とかやっているという。 オーガナイザーの面々は地元のサラリーマンやOLで、仕事はそれぞれ違うし、年齢もまちまちの男女だ。講師を決める会議では、みんながそれぞれ誰を呼びたいか提案をし、なぜその人を推薦するかの理由をみんなの前でのべる。「会社で会議というとふだんおとなしいやつらも、この会の会議となると活発に議論しはじめるんですよ」 そして、決定後、提案した本人が責任を持ってそれぞれ講師となってほしい人に手紙を書く。もちろん電話でも試みるらしいが、有名人なのでなかなかつかまりにくい。片岡鶴太郎さんに講演をお願いした女性は、最初事務所の方からは忙しい片岡さんのスケジュールを配慮してか、あまりいい返事をもらえなかったそうだ。しかし、手紙を書いたところ、むしろご本人が受けることを承諾してくれ、実現したという。「山形なんて来てくれないかと思ったんですが、意外ときてくれるんですよね」と彼女は嬉しそうにいう。 有名人だからきてくれないとか、大都市や有名な観光地のある場所じゃないとこんな会はできないという先入観は必要ないのかもしれない。メンバー一人一人の思いが、実現させていく会なんだという気がした。 「人の話を聞いて、学ぶ」こんな単純な行為の繰り返しで、人間って成長するのではないだろうか。情報があふれていながらも、仕事で追われる毎日。そんな中で、自分の意志で人の話をじっくり聞く機会というのは現代の社会人にとってどれだけあるのだろう。テレビやインターネットが発達しているとはいえ、生身の人間の話を聞くことは刺激的だ。 日本では、町おこし、村おこしをどうするかと言われて久しいが、お金をかけて立派な博物館や公民館をつくることより、まずは地域の人みんなが楽しめ、知的好奇心をくすぐることのできるこんな会から始めてみるのもいいかもしれない。地元の著名人だけでなく、面白い講師を日本中からよんでくることができれば、そこが即席の教室になり、人が集まってくる。そんなことを考えると逆に東京などより田舎の方が、有名人を惹きつける魅力を備えている気もする。 そんなちょっとした工夫に魅了的な町づくりのためのヒントが隠されていたような気がした。 田中宇の国際ニュース解説・メインページへ |