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大門小百合のハーバード日記(10)

サルサレッスン

2000年12月23日
 先日ハーバードの今学期最後のクラスが終わったと書いたが、私にとってもう一つ終わったクラスがある。サルサ(ラテンダンス)のクラスである。

ハーバードに遊びに来ているのか!と同僚には怒られそうだが、東京にいる時はあまりに忙しくてレッスンを受けられなかったが、こちらに来てなんと私の家から歩いて10分ぐらいのところにある教会を借りてクラスが開かれているというので、毎週一度の夜のコースに参加してみた。

 サルサを言葉で説明するのは難しいが、南米音楽の4ビートにのって(実際には3ビートで踊る)男女ペアで踊るダンスだ。南米文化が浸透してきたからなのか、とにかく世界中で大ブレイクしているダンスだ。(もうブームになって久しいので、日本でもたくさんサルサ・バーがある。)

 もともと発祥の地はキューバだと聞いている。キューバのソンという音楽が南米のあちこちに広がり、サルサ、チャチャチャ、マンボなどのラテン音楽に発展していたらしい。ブームになったのはアメリカに住むプエルトリコ人がはやらせたからという説もある。

 なぜ、私がこのダンスを気に入ったかというと、やはりラテンの音楽が好きだからだろうか。アフリカの音楽の影響もかなりうけていて情熱的だ。スペイン語の歌詞そのものはあまりたいした意味がないものが多いのだが、リズムは聞いていて陽気になり、自然に体が動いてしまう。

 私は2年前にキューバに行ったが、町中サルサの音楽でいっぱいだった。あー私も踊りたいと思い、その時以来学ぶ機会をねらっていた。

 私がまだ日本にいる時、友人が「サルサは大人のダンスだからいいよね」といっていた。つまり、ディスコ、クラブとは違った層で、30代以上の男女が集まる場がサルサ・バーだという訳だ。

▼ケンブリッジでのレッスン

 さて、こちらケンブリッジでのサルサレッスンだが、先生はケンといってなんとロー・スクール出身のエリート。しばらく弁護士をやっていたというが、今はハーバードで心理学の博士課程の途中だという。気さくな男性で、完全な初心者の私達にも辛抱づよく教えてくれた。

 教会の一部を借りてのクラスなので、参加者も多種多様だった。近くの電気屋さんで働いている人、病院で働いている女の子、ハーバードビジネススクールの生徒、そして隣のMITでやはり博士課程を取っている日本人の男性などなど。ケンブリッジならではなのか国籍もさまざまだ。ロシア人やトルコ人もいた。彼らも国に帰ったらサルサ・バーで踊るのかしら?

 私にとってこの週一回のクラスはハーバード以外の人と知り合えた貴重な体験だった。日本ではダンスレッスンに来る人というとたいてい女性の方が多いのだが、こちらはなぜか男性の方が多かった。

 踊りながら尋ねたことがある。

「なぜサルサを習うことにしたの?」

「この間友達の結婚式に参加したら、サルサの音楽がかかって僕も踊りたいって思ったから」

こちらの結婚式の披露宴では、食事のあとみんなでダンスを踊ることが多い。昔はワルツなど、ソシアルダンスが多かったらしいが、最近ではサルサも踊るのか・・・これは新発見でした。

 私が日本でもサルサがはやっていると言ったら、逆にヘー?と驚かれてしまった・・・

▼ダンス外交

 文化というものは不思議な効力があると思う。世界中で同じものがはやるということをグローバライゼーションといってしまえばそれまでだが、それ以上の意味があるのではないか。

 私の知っている東京のサルサバーではキューバ人の先生がサルサを教えていた。それとは別にドミニカ共和国の領事の方がメレンゲというラテンダンス(こちらは2ビート)をただで教えていた。この2つのラテン音楽がサルサバーでかかる音楽の主流なので、これらのクラスは本当に人気があった。

 と同時に音楽を通じて、日本人にはどう考えてもなじみの薄かったドミニカとキューバという国が近い国になった。この二つの国に興味を持つ人が増え、観光客も増えているという。その国の文化や人を通じ、その国を好きになってもらえるということこそ、素晴らしいことではないだろうか。その国への入り口はなんでもいい。歴史でも、音楽でも、そしてダンスでも。その意味で、ドミニカの領事の地道な努力は外交的にとても意味があったのではないかと思う。

 御存知アメリカとキューバは仲がよろしくない。でも、やはり同じように私のアメリカ人のサルサファンの友人は是非、次の休暇にキューバに行ってその文化を堪能したいと言っていた。

 南米の国のほとんどで、サルサは普通に踊られている。私の友人のコロンビア人は私がサルサを習っているのを知って、とても親近感をいだいてくれた。

 最後のクラスが終わった後日、ケンの率いるわれらサルサ生徒達は、近くのサルサバーに繰り出した。私にとっては教室以外のアメリカのサルサバーで踊るのは初めてだ。

 でも、みんな一緒なら怖くない。へたくそなのはお互い様だ。おまけにカバーチャージが6ドルという安さもいい!

 すでにダンスフロアではライブバンドにのって、男女がくるくる回りながら踊っていた。

 ハイヒールを履いた女性が踊る姿がなんとも美しい!女の私でもあこがれてしまう。エレガントで時にはちょっとセクシー過ぎるかと思われるくらい男女がくっついたり離れたり・・・

 私も一応ダンスフロアで踊ってはみたもののもちろんまだまだだ。

 その夜はラテンナイトに酔いしれた。いつか美しく踊れることを夢見て、サルサは当分私を魅了しつづけそうだ。



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