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サウジアラビアにて (3)

女だけのパーティ

2005年4月10日

 リヤドの女子大生、ディーマの家でのパーティの日がやってきた。こちらの週末は木曜と金曜で、木曜の夜は次の日も休みなのでこちらの人は夜遅くまで出歩いたり、パーティをやったりするようだ。私がよばれたパーティも夜8時半からだった。

 知人の車で送ってもらい、彼女の家についた。立派な門構えで高い塀に囲まれている。リヤド在住の知人によるとディーマの家のあたりは高級住宅街のようだ。門をあけると、もう音楽が聞こえてきた。

 家にはいると居間の手前でディーマが迎えてくれた。今日は妹さんの誕生日だそうだ。見ると居間には、ディスコのようなチカチカの照明にステレオの音楽がガンガンと鳴り響き、椅子などが回りに並べられた広いスペースがダンスフロア風にしたててあった。なるほど若者のパーティだ。隣の部屋には、ソフアや椅子があり、ビュッフェ風に食べ物が並んでいる。食べ物は若者のパーティらしくサンドウィッチやサラダ、甘いケーキなどが並んでいた。

 まずは、アバヤを脱いでリラックス。壁際のコート掛けには、お客のアバヤがずらりとかかっている。周りを見回すと、ディーマの友達もたくさんきていた。その中には、ディーマと一緒にカフェであった女の子達もいた。しかし、何よりも驚いたのは、アバヤを脱いだ彼女たちは、日本人の女の子たちと比べると、かなりビッグサイズだったことだ。顔立ちはきれいなのだが、腰まわりは太い。なかにはやせている子もいるのだが、大半は太め。アバヤで隠れていたので最初にあったときは全然気がつかなかった。

 着ている服はカジュアルなパーティとあって、タンクトップやジーンズのスカート。サマードレスという女の子もいた。それでも、彼女たち一人一人はお化粧を念入りにしており、目はパッチリの美人。お化粧のせいもあってか顔はとても大人っぽかったが、音楽にあわせてキャッキャしている様は、やはり学生ののりだった。

 この学生ののりにちょっととまどっていると、ディーマがアラビアコーヒーでもてなしてくれた。これはサウジアラビアで客人をもてなす飲み物で、コーヒー豆を炒って煮立て香辛料のカルダモンを入れるので独特の香りがする。さらりとした味で、どろっとしたトルココーヒーなどとは似ても似つかぬ存在だ。

 音楽がかかったので踊ろうと誘われる。のりのよいアラビアのポップスだ。エジプトの音楽やレバノンの音楽など、アラビア語の音楽といっても国はまちまちだ。この国では、イスラムの教えに反するということで、公共の場での踊りやコンサートは禁止である。学校では音楽の授業もないので、お金持ちの家ではプライベートレッスンなどでピアノをならわせている家もあるそうだ。とはいえ、音楽CDやDVDなどは町のCD屋さんで売っている。そのあたり、この国のきまりは厳しいのか厳しくないのかわかりかねるところがある。

 せっかくなので、私も踊りの輪の中に入った。リズムにのって踊る女の子達は本当に楽しそうだ。「よくこんなパーティをするの?」という私の質問に、家でもよくやるし、オーディオセットを持って砂漠に出かけていって、誰もいない砂漠でも女の子達だけで踊ることもあるのだそうだ。「サウジアラビアのイメージは色々あると思うけど、私たち、結構色んなことして楽しんでいるのよ」という。でも砂漠で踊るのは、彼女達が考えだした週末の楽しみ方だそうだ。女の子だけというのが、サウジアラビアらしい。

 こちらの人はよく砂漠でピクニックをする。羊を一頭持っていって、砂漠でさばいて調理することもあると聞いた。砂漠でのピクニックはなかなか豪快だ。

 後日、私も、研究所の人達とともに砂漠のイベントに参加する機会に恵まれた。夕方から砂漠に出かけていって、夕暮れのどきの砂漠を歩きまわった。そこには、常設の大きなテントのようなものがあり、中に絨毯が敷き詰めてあり、アラビア風の肘掛もあった。そこにみんな座ってアラビアコーヒーとデーツ(なつめやし)やアラビアの甘い御菓子でおしゃべりを楽しむ。

 らくだや砂漠用の四輪車も貸切だったので、らくだにのったり、四輪車をまるでゴーカートのように乗り回して遊んだりもした。そしてひととおり楽しんだあとは、豪華なディナーが夜の星の下でふるまわれ、なかなか充実した夜だった。

 さて、話をもとに戻そう。せっかく若い女性達に会えたので、私には山ほど質問したいことがあった。まずは気になっていた質問。「ねえ、きのう、なぜあのカフェのテラス席に座っていたの?あそこって男性オンリーの場所じゃないの?」

 「あれは、特別待遇なのよ。店の人に私達ここに座ってもいいですかときいたら、午後4時過ぎは男性客でいっぱいになるから、それまでの間だったらいいって言ってくれたの」そういう特別待遇もありなのか。なるほど。

 「それじゃあ、なんであなた達は顔をかくしていなかったの?サウジアラビアの女性は、顔を隠さないとダメなんじゃないの?」

 「イスラムの教えでは頭を隠しなさいというのがあるのよ。でも顔を隠せとまでは書いていないわ」との答え。「でも宗教警察がきたら怒られんじゃない?」とさらに聞くと「そのときは、頭のベールの端を顔にかぶせて、そのときだけそうやって顔を隠して文句をいわせないわ」

 厳しいルールの中に生活しているわりには、なかなかお茶目である。どこの世界でも若者は少し羽目を外してみたいものなのだろうか。

 ところでこの顔を隠すという教えは、こちらでは色々な議論がある。もともとコーランには、男性も女性も髪の毛を隠しなさい、そして慎み深くありなさいというようなことが書かれている。つまり裸で歩いたり、身体の線をみせるような服装はつつしみなさいということだ。それが、なぜかここサウジアラビアでは顔を隠しなさいという教えにつながってしまった。

 顔を隠すという習慣は、イスラム教の出現する前からに地中海沿岸で広く見られた行為で、アルジェリアやフランスのある村あイタリア南部、スペインなどでもみられるという。娘を地縁血縁のない男性とは結婚させず、一族の富を守っていくという習慣から、娘の顔を隠すということにつながったらしい。

 このようにサウジアラビアで義務づけられていることは、純粋なイスラム教の教えというより、昔からの習慣とイスラムを結合させたものが多いといわれている。それゆえ、解釈もまちまちな事柄があるし、宗教警察に注意されてもそれらの理由をたてに言い返すといったような女性達もいるようだ。

 さて、次の質問はインターネットのチャットはやったことがあるかとの質問だ。ある女子大生は、「チャットは以前よくやったが、もうやり倒してしまったわ」という。「男の子とのチャットは?」とさらに聞くと、「本当のこと知りたい?実はやったことあるわ。むこうが色々自分の情報を送ってきたりしたこともあるし・・・」という。なるほど、やっぱり若者はどこの国でもあまりかわらないのかもしれない。しかし、デートはしないの?との質問に「それはないし、ダメなのよ」との返事が返ってきた。といっても、特に不満そうでもない。そこのところは、良い子はきちんと守らなければならないルールのようである。

 さて、そんな彼女達が敬虔なイスラム教徒かどうかという点であるが、みんなきちんと1日5回のお祈りを欠かさないという。「アラーはいつも私の心にいるの」とその場にいた女子大生の一人は真顔で熱心に話してくれた。非イスラム国に住むものからみれば、厳しい教えの中でくらしてさぞ大変だろうと思いがちだが、みんな屈託がなくすれていなくて、それでいて彼女達なりに生活を楽しんでいるようだ。

 女性が運転してはいけないという点については、「特にしたいと思わない。だって、運転手もいるし・・・」という。そう、この国はたいそうなお金持ちというわけでなくても、メイドがいたり運転手がいたりする。仮に運転手がいない家だとしても、少々不便ではあるが、お父さんやお兄さんが車で送ることが義務づけられているわけだから、わざわざ自分で運転しなくてもよいということになる。

 誰かが冗談で、実はこの国は女性差別ではなくて女性女王の国だといっていたが、まんざらウソでもなさそうである。女性達は大切な宝石だから、誰にも見せないで家に大切にしまっておく。だから移動するときは男性の護衛つきで。もちろん、この国では法的には、女性に不利な面が多々あることも確かである。しかし、イスラムの女性を欧米流の固定観念でみるのは、かならずしも正確ではないような気がするのである。

 夜もふけてきた。まだまだパーティは続いていたが、彼女達の生活の一部も垣間見ることができたので、私は満足しておいとますることにした。



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